地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
これは、夢なのだろう。キラはぼんやりとそう思いながらも、足を進めていた。
崩れた建物からごうごうと上がる炎が空を赤く染めている。誰かの泣き叫ぶ声が聞こえる。どこか遠くから、銃声や爆発音が響いている。
僕が生み出してしまったものだ。その風景の中を歩みながら、キラは思う。
デスティニープラン、全人類の遺伝子を解析することで得られた情報をもとに人生全てを決定するシステム。それは究極の能力主義、ある意味では公平な社会なのだろう。
だが、その社会には人が自分の人生を選択する自由はなく、社会の為の一ピースとなる。
キラはそんな世界を受け入れられなかった。自身の手で明日を選びたかった。
──覚悟はある、僕は戦う。その言葉とともにデュランダルを討ち、デスティニープランを否定した。
その先にあったのは、いま周囲に広がる景色だ。人々が憎しみあいながら、傷つけあいながら、その先にすべてを破壊してしまう狂気と恐怖に満ちた世界。
ちらりと、視界の隅をこの場に似つかわしくないピンク色がかすめ建物の陰へと消えた。
────ラクス…………ッ?!
キラは、思わず駆け出した。ただ無性に抱きしめたかった、ただ話したかった、ただ声を聞きたかった、ただ顔を見たかった。
永遠のような一瞬、一瞬のような永遠。駆け抜けたキラは、ピンク色の消えた建物の陰へと身を躍らせて。
息を呑み、足がすくむ。
はたしてそこに、キラの思い描いた姿はあった。金の髪色の誰か──オルフェ・ラム・タオの隣に。
互いに笑顔を交わしながら、眩い光の方へと足を進めていた。
思わず手を伸ばし、駆け出そうとして────。
「あなたに、その資格はあるっスか?」
不明瞭な声とともに、足を誰かに掴まれ止められる。その間にも、ラクスとオルフェは歩みを進めている。
「お願いだっ、離してくれっ!」
「世界をこんな風にしたクセに?」
鮮明になった声、聞き覚えのある声にキラは思わず視線を向けた。まず目に入ったのは、地面に倒れ伏しながらもガッチリと自身の足首を掴んでいる小柄な誰か。
そして次に赤色が目についた。正確には横たわる誰かの体から溢れ出す、地面さえも染め上げるほどの血だろうか。
「俺に銃を向けて、あの人を泣かせたクセに。そんなあなたに、あの人の隣にいる資格があると思うんスか?」
言葉とともに上げられた顔、こちらに視線を向けるのは────。
キラは、暗い部屋の中で目覚めた。寝起き特有の、うっすらモヤがかかったような視界。
同じようにモヤがかかったような頭で、ふと思う。
────まえのときは明るかったな…………。
明るくて、あたたかくて、緑に囲まれていた、温室。そして、ラクスのやさしい笑顔が見えた。
キラはまとまらない思考のまま、あちこちに鈍い痛みを感じながらもノロノロと身体を起こした。
「あっ、隊長。起こしちゃいました?すみません」
声がした方へと視線を向ければ、恐縮した様子のシンの姿。どうやら身支度の途中らしい。
徐々にキラの意識がハッキリとしてくる。それと同時に、芋づる式に記憶が蘇ってくる。
ファウンデーションでのミケール捕縛作戦、ミケールを発見し追跡したこと、妨害してきたブルーコスモスの…………?
いや、違う──ふと気づく。キラの中の認識の齟齬、ゼフォーの乗る機体を何故ブルーコスモスのものと混同していたのかと。
────キャハハハッ!さっきまで味方と戦ってたヤツの言うセリフじゃないよねぇ!そんなんだから、ラクス姫を泣かせちゃうんだよぉ!?
戸惑いながらも記憶を辿るキラの脳裏に、ブラックナイツの一員である少女の嘲りの声が蘇る。
そのまま、半ばなし崩し的にブラックナイツの団長、シュラの駆るMSと戦って──。
ゼフォーの駆るMSが、ブラックナイツの一機に落とされたことを思い出した。
「シンッ!ゼフォーはッ?!」
「えっ、あっ、ゼフォーなら……」
思わず声を荒げたキラに、シンが答えようとした時。部屋の一角、そこを区切っていたカーテンが開いた。
「出来れば、声のボリュームを落として欲しいのですが?ヤマト准将」
そこから姿を現したのは、栗色の髪をポニーテールに纏めた冷たい印象を与える女性。
彼女はメガネのブリッジを指で押し上げながら、キラに対して声を掛ける。
「すみません……えぇと。貴女は確か、マイカ中尉……でしたよね」
「はい。大西洋連邦から、医官として出向しているマイカ・ラギィ中尉です」
そう言葉を続けるマイカの背後、カーテンで区切られた空間。そこのベッドに横たわる姿に、キラは思わず立ち上がり駆け寄ろうとした。
「ッ!ゼフォーッ!」
「ヤマト准将、ゼフォー特務少尉はいま現在絶対安静を要する容態です。先程も言ったように、静かにしていただけませんか?」
その様子にマイカはスッと立ち塞がりながら、平坦でありながらも強い口調でピシャリとキラを制止した。
「ッ!アンタ、そんな言い方はないだろッ!隊長はゼフォーを心配して──」
「よすんだ、シン」
その様子に思わずといった様子でシンがマイカへと食ってかかるが、キラの制止に不満げな表情ながらも引き下がる。
それを見たキラは一つ息をついて気持ちを落ち着かせた上で、マイカへと頭を下げた。
「取り乱してしまいすみません、マイカ中尉」
「ご理解いただけたなら、幸いです。こちらこそ、差し出がましい物言いになってしまい申し訳ありませんでした」
マイカもキラに対して頭を下げて、仕切り直すような形となった。そして、キラは改めてゼフォーの容体を声を潜めながらマイカに問い掛けた。
「ゼフォーは、そんなにひどい様子ですか……?」
「極度の疲労に、全身打撲。極めつけには高純度のグリフェプタン系薬品──単純にいうならば、火事場の馬鹿力を強制的に発揮させる薬品といいますか。それの短時間での過剰摂取。これらが起因の昏睡状態です」
マイカが脇に避け、カーテンを大きく開きながら答える。軽く頭を下げながら、キラは中へと進んだ。その後ろをシンも心配を顔に出しながらついてきた。
「幸い、直ちに命に関わるというわけではありませんがしばらくは安静にすべきでしょう」
ベッドに横たわるゼフォーは、一目見た限りでは何の身じろぎもしていないようにも思えるほどに静かな様子だった。
普段のやたらと元気な様子を知るシンにいたっては、普段とのギャップも相まってまるで精巧なマネキンのようにも思えてしまった。
もちろん、耳をすませばスウスウと小さな寝息が聞こえる。その胸部も呼吸に合わせて微かに上下している。その身体に命の火が灯されていることは、間違いない。
だが、口元に当てられた酸素吸入用のマスクが。身体に掛けられたシーツから出された右腕、そこに繋がれた点滴と思しきチューブが。
その他、身体の状態を知るためであろう機器から伸びるコードが身体中に繋がれたその弱々しい様子は、160cmにも届かない小柄な体格と相まってキラの胸に小さくない痛みを与える。
────僕が、彼をこうしてしまったんだ。
錯乱して軍事境界線へと接近したこと。ゼフォーがそれを必死に制止しようとしたこと。
結果的に境界侵犯は起こさなかったものの、ユーラシア側が暴発してしまいファウンデーション側が応戦したこと。
コンパスとファウンデーション側と交戦することとなり、ゼフォーが落とされたこと。
先程見た夢も相まって、思わず強く拳を握る。
「…………隊長」
「……ごめん、シン。ちょっと記憶が曖昧なんだ。ここは、一体どこ?」
シンの気遣うような声に、キラは表情を取り繕いながら振り返り、質問を投げかけた。
あからさまな話題転換。それでも、立ち入らせないようなキラの様子にシンは一歩踏み出すことができなかった。
「オーブです。オーブのアカツキ島…………」
「そっか、ありがとう。マイカ中尉も、ありがとうございました」
「かまいません。…………それと、詳しい話をお聞きになりたいのならレクリエーションルームに向かってみてはいかがでしょうか。今は皆様、そちらにおいでのようですので」
手元のタブレット端末に視線を落としながら、マイカは素っ気ないともとれる返事を返した。
おそらく、ゼフォーのバイタルデータを確認しているのだろう。
ただ、間を開けて伝えられた内容に第一印象よりは冷たい人ではないのかもしれない、とキラは思いながらシンとともにレクリエーションルームへと足を向けた。