地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
「キラ・ヤマトは確実に殺せ、という話だった筈だが……詳しく聞かせてくれないか、アイシュ?」
アルテミス要塞、その司令室の空気は少し張り詰めていた。その原因はアイシュ・ガローテに問いかけたオルフェ──ではなくその背後。
大きく立派なデスク。それに似つかわしくない、小柄な身体を預けているアウラであった。その幼い相貌は、不機嫌であることがハッキリと見てとれる。
「申し訳ございません。キラ・ヤマトを含めたコンパスのMS及びアークエンジェル、その撃破または大破に想定外の事態によって時間を取られた結果これ以上の攻撃を続けると核からの退避に支障が出る。そう私が判断し指示を出しました」
「それでもダメ押しの一撃を食らわせる程度の余裕はあった筈じゃ。まさかその程度のことも分からずに、妾の命を反故にした訳ではあるまい?」
深々と頭を下げながら告げられるアイシュの弁明に、幼なげな姿から発せられた子どもそのものの声と相反する、大人の知性を感じさせる言葉でアウラが問い詰める。
「もし生存していた場合。彼らの存在が、オーブを撃つ口実をもたらす……こうも判断したからでございます」
アイシュの言葉に、アウラの顔に浮かぶ不機嫌が薄れ興味が色濃くなる。
それを知ってか知らずか、そのままアイシュは自身の考えを述べていく。
「二つの想定外の事態──ゼフォー・ローワンによるキラ・ヤマトの国境侵犯の阻止、そしてアスラン・ザラと推定される乱入者」
「…………」
その言葉にオルフェがシュラへと視線を向ければ、首肯が返された。
「一つ目は度外視して構わないでしょう。我らの想定を崩したとはいえ、歯車に噛み込んだ小さなゴミ屑のようなものです……致命的とは程遠い」
そう告げるアイシュだが、頭を下げていることで目につかないその顔には苦いものが浮かぶ。
自身達アコード──新人類と一部の能力に同様の素質を持ちながら、後天的な措置を受けてなおマトモに能力を行使できぬ出来損ない。
その存在によって、キラに国境侵犯を犯させユーラシア部隊へと攻撃させること、それによるユーラシアとの緊張状態の演出。核攻撃の理由付けや、終わった後のコンパスへの国際社会からの非難の集中による活動凍結。これらの計画が阻止されてしまったからだ。
だが、アイシュのユーラシア兵への精神干渉によって修正は成されている。結果的にコンパスそのものへの非難は少ないものの、ユーラシアへの非難は増大。それをフォローする為に、一時的とはいえコンパス凍結が大西洋連邦によって提案・実施されたことで計画への支障は最小限に抑えられた。
顔に浮かべたものを欠片も滲ませぬ調子で、アイシュは言葉を続ける。
「対して二つ目。キラ・ヤマト含めたコンパスの人員は殆どのMSや戦艦を失った以上、本来なら逃げ延びる事は叶わずに核の炎で消え去ったと見てもよろしいでしょうが……アスラン・ザラの手によって救い出された。そう仮定した場合、彼らがその身を寄せる事の叶う場所は限られるでしょう」
「オーブが、そうであると?」
オルフェの言葉に、アイシュは頷く。だが、アウラが疑問を投じる。
「じゃが奴らが生き延びておったのなら、我らの行動を国際社会に訴えられるのは致命的じゃぞ。それはどう考えておる?」
「彼らが我らに先んじて行動することは、恐らく無いでしょう。コンパスへの攻撃や核ミサイル発射への関与、これらは証明できるかもしれませんが、ユーラシア連邦側からの先制攻撃。この点については、彼らにはどうあっても否定などできませんから」
アイシュは顔を上げ、キッパリと言い放つ。アコードの持ち合わせる精神干渉能力。この存在の公表と証明が為されなければユーラシア連邦の立場はどこまでも加害者でしかなく、ファウンデーション王国はどこまでも被害者であるからだ。
それを補強するために、複数の工作員達へとSNS等でのユーラシア連邦へのバッシングを含めた情報工作の指示は既に出している。
そして、他者を容易く洗脳することのできる存在がいると証明されたならば、もはや世界中の人々にとって他者を──あるいは、自分自身でさえも信頼することは不可能になる。流石にそれは、彼らの望むところではないだろう。
彼らが出来るのは、少しでも多くこちらの不利になるようなデータを探すこと。さらにアイシュがリューとダニエルに聞いたところによれば、アークエンジェルに核ミサイル発射地点から飛び立つ所を見られたとのことだ。
ならば、せめて核ミサイルの発射に関与したことを証明しようと彼らは尚のことデータの分析に時間をかける筈だという考えもある。
そもそも彼らはこちらの行動に対抗できない状態である今、口封じを恐れ息を潜めているのだろう。虎視眈々と、ファウンデーションに対する反撃の機会をうかがって。
それを捩じ伏せることのできる力が、コチラの手中にあることも知らずに。
「なるほど、つまり連中が動くとするならば……」
「我々が、世界へと力を示した後になるでしょう」
シュラの言葉に、我が意を得たりとアイシュが頷きながら更に言葉を続ける。
「彼らのことです。我らの行動に黙っている事など出来ぬでしょう。必ずや国際社会に訴えかけるなどの行動を起こす筈です……それこそ、オーブの力を借りてでも。そこで我々はこう言えばいいのです──『自身達の権益を守る為に、死者の名を騙る不埒なオーブへと鉄槌を下す』、と。その上で、レクイエムでオーブを撃つのです」
もちろん、彼らの言葉を信じる者はいるだろう。だが、動く筈などない。秀でるを妬み、劣るを蔑み、自身の利のためにしか動かぬ旧人類達。そんな彼らが、死と破壊をもたらすレクイエムを向けられる事を承知で他者を助けようと動く筈などないと、そうアイシュは考えていた。
いや、それはこの場にいる者にとって共通する思いであった。そしてそんな風に世界から見捨てられるコンパスとオーブ──キラとカガリ、その絶望する顔を想像してアウラの顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。
「なるほどの、そこまで考えてのことであったならば問題なかろう!」
つい先程とは打って変わって、その顔に喜色を浮かべながらアウラは断じた。
その言葉に、アイシュは恭しく頭を下げた。
《弁明に付き合わせてしまい申し訳ありません、オルフェ》
《気にするな、ああなった母上のことは私も知っているからな》
あの後、今後の行動──オルフェはレクイエムの発射、アイシュはその後に行われる全世界への声明の内容を修正するために別れたのち、互いの心を繋ぎ合わせていた。
アイシュにとっては先程の弁明に付き合わせたことの礼を伝える為であったが、オルフェにもある意図があった。
《ところで、だ。何故あの時、母上に伝えなかった?ゼフォー・ローワンの存在による、大西洋連邦の介入の可能性を》
おそらくは、意図的に伏せられたであろう懸念。大西洋連邦所属の軍人、ゼフォーを理由にした大西洋連邦の行動の可能性。
その真意を、密かに問う為であった。
《アレは、アウラ様を苛む忌まわしき過去を想起させるのです。必要以上に話題にすべきではない……というのは理由としては不足ですか?》
伝わる思念に嘘はない。そして、それはオルフェにも覚えはある。
ブルーコスモスによるコロニー・メンデル襲撃。その際に未完成のアンチエイジング用の薬液を浴びたアウラを助け起こすか、アコードに関する研究資料を手に取っていた襲撃者から資料を守るか。
当時、アウラの研究テーマの証明のため
結果、資料が流出しブルーコスモスによる研究によってゼフォー・ローワン──先天的に精神干渉能力を司る遺伝的要素を持ち合わせたナチュラルに、後天的な措置を施した擬似的なアコード。その製造を許してしまった。
《いや、私の配慮が足りなかった。すまない》
《構いませんよ。それに──》
そして、アイシュからの思念がオルフェへと伝わる。
《アレは、異物として爪弾きにされるでしょうから。悲しい事ですけれど》
アスラン・ザラを救う為に尋常ならざる行動をとったゼフォー。その帰結に思いを馳せたアイシュからの、哀れみと愉悦の思念にオルフェも似たような感情を乗せた思念を返す。
《フッ。蒙昧たる旧人類達の世界。その中にいるせいで、という訳だからか》
《えぇ、ですから世界は変わるべきなのですよ……我々の手によって、ね》
そうして、二人の間の精神の繋がりは途切れる。だが、それでもこの二人の──いや、アコード達の望みは一つ。
デスティニー・プランによって、世界を変える。その時は、もう直ぐそこまで近づいていた。
申し訳ありませんが、長くなりそうなのでキリの良いところで分割します。