地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
軽いブリーフィングも終了し、ファウンデーション艦隊との会敵予想時刻まで十分を切ったミレニアム格納庫内。その一角、ライトグレーとダークブルーを基調にしてホワイトの差し色で彩られた巨体──エールカラミティのコクピット内で、俺は時間を持て余していた。
ふと思い立ってウィンダム系列とはレイアウトの少し変わったコクピットの小物入れを漁り、目当ての物を引っ張り出す。
視線の先、手の中に収まっているのは無痛注射器だ。ただし、常用している『P.G-3.5』のような中身を示すラベルは貼られていない。そもそも、これは本来なら特定の場所から持ち出すことも想定されてすらいないのだ。
『γ-グリフェプタン』。なんの調整も為されていない、原液その物が充填されたソレを手の中で弄びながらミレニアムの出航前のことを思い返した。
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「…………ふむ、聞いてはいたが思った以上に元気そうじゃないか」
「病み上がりの相手に何してるんですか、ミリカ中佐……」
いつかのようにこちらの頭を押さえてグイと顔を近づけての見聞を終えたミリカ中佐が、相変わらず隈の目立つ整った顔を遠ざけながらそう呟く。その行動に注意……というよりはツッコミを入れているのはライ大尉だ。
なんだか何ヶ月かぶりに顔を合わせて声を聞いたような気分だ。実際のところは一週間経っているかどうかぐらいの筈だけれど。
まぁ、時間の感覚が狂うほどの怒涛の展開に巻き込まれていたのだからしょうがないか。
コノエ艦長……いや、今は副長か。とにかく頼み事を了承して移動している最中に、ばったりとミリカ中佐とライ大尉に出くわしたところである。
「まあまあライ大尉、この人はいつもこんな感じだからしょうがないっスよ。……ところで、どうしてこんなところに?何か用事でもあるんスか?」
ライ大尉を宥めながら、ふと浮かんだ疑問を投げかける。ラミアス艦長とかに何か話でもあるのかな?
「それが、ミリカ中佐がズンズンと歩いていくもんだから僕も分かってなくってね」
「なに、退艦する前にゼフォー……君に渡す物があるというだけの話だよ。ホラ、手を出したまえ」
ライ大尉のジト目と言葉を気にもかけずに、ミリカ中佐は相変わらず飄々とした様子でマイペースに理由を口にする。
ただ、ちょっと気になることが一つ。
「アレ?艦から降りるんスか、なんかその辺の柱にでも齧り付いてでも残りそうな気がしてたんスけど。生のデータ欲しさに」
「人に対してデリカシーがどうこうと度々説く割には、君がかける言葉にデリカシーが足りないような気がするのは私の思い違いかね?」
「日頃の行いィ、っスかね?」
思わず漏れ出た言葉に、後ろで少し吹き出しているライ大尉を他所に珍しくゴホンと咳払いを一つして切り替えたミリカ中佐が口を開いた。
「流石にハイジャックされたザフトの艦艇に、形だけとはいえ連合軍人が居座り続けるだけの屁理屈を捻り出すのは厳しいからね。そもそも、私とライ大尉はどう言い繕っても戦闘行為には貢献できない。無用の長物どころか、文字通りのお荷物さ。君の調せ……治療に関してはマイカ君がいるから問題も無いだろう」
そう言いながら、ミリカ中佐はゴソゴソと鞄を漁っていた。そして目当ての物を取り出したらしい彼女に視線で促され右手を差し出した。
「とはいえだ、何もなしにサヨウナラ……と言うほど薄情なつもりはなくてね。受け取りたまえ、ゼフォー。これからのことを考えれば間違いなく、君にはこれが必要になるだろう」
ポン、と手渡されたのはなんの表記もされていない無痛注射器だった。なぁに、コレ?
「ちょっ、ミリカ中佐!流石にそれは……ッ!」
「ハイジャック犯に締め出されて持ち出せなかった、とでも言えばどうとでもなるだろう」
「そういうことじゃ……どうして『γ-グリフェプタン』の原液なんか!」
ライ大尉の言葉に、思わず右の掌の上に視線を向ける。確かに、俺がこれからすることを考えれば必要かも知らないが……しかし。
こんな依存性の高い劇物を、軽々しく公式的には死人扱いだろう相手に託していいものなんだろうか?
「マイカ君から話は聞いてる。あの時何があったのか、君は何をしたのか、そしてこれから君がやろうとしていることも。なに、心配は無用だよ……これは自慢なんだがね、お偉いさん方に簡単にポイ捨てしようとは思われない程度には成果を出しているんだよ……後ろ暗いことも含めて」
開きかけた口は、ミリカ中佐のこれまでにない真面目な語り口に閉ざされた。
そのまま言葉は続いていく。
「こう言うとマイカ君には怒られそうだが、とりあえず手足の1・2本千切れても帰ってきたまえ」
「アンタ、またそういう……ッ!」
「……」
「……戦闘については素人だが、今回に関しては傷一つなく帰ることどころじゃない程度は分かるさ。だからせめて、生きて帰ることを諦めないでくれよ?マイカ君は泣くし怒るしで大変だろうが、君が死ぬよりかはマシだろうから」
いつかみたいな物言いに声を荒げるライ大尉を手で制止して、ミリカ中佐と向き合う。
「君、イマイチ分かってないかもしれないがね?マイカ君やライ大尉、他にも結構な人数が気に掛けているんだよ?」
「……っス」
「おっと、その様子じゃもう伝えられてたのかね。マイカ君あたりかな?……ハハっ、なんだからしくないことを言ったせいか恥ずかしくなってきてしまったよ」
「確かに、らしくないっスね」
「……流石にそれはデリカシーに欠けてるのは分かるぞ?」
「ふふふっ」
「ライ大尉も、私は上官なんだぞ?!……フフッ」
あんまりにもらしくないやりとりの後の、馴染みのあるやりとりに思わず三人ともひとしきり笑ってから気を取り直して口を開く。
「それじゃあ、ありがたく拝領させて頂くっス!」
「……あぁ、健闘を祈るよ」
「あまり、無理はしないようにね」
無痛注射器をポケットへ納め畏まって敬礼してみせれば、激励の言葉を残してミリカ中佐とライ大尉は去って行った。
それを見送って、ふと思い立って俺はレクリエーションルームへと足を向けたのだった。
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託されたモノを噛み締めていた俺の耳にスピーカーからの声が届き、思考が現在へと引き戻される。
『シン、ミレニアムを頼むよ』
アルテミスへと向かうヤマト隊長からの通信だ。思っていたより、時間が経っていたらしい。
『はいッ!』
『よかったな、坊主』
『ホント、単純なんだから』
呼び掛けられたアスカ大尉の嬉しそうな返事に、ハーケン少佐が声を掛けホーク中尉が呆れたようにつぶやいている。まあ、もっとも。
『言葉の割には嬉しそうっスね。ホーク中尉』
『野暮なこと言うんじゃないよ、ゼフォー』
『ちょっとゼフォー、ハーケン少佐も!からかわないでくださいよ!』
正直な所感を口にすればハーケン少佐がノってきて、ホーク中尉が顔を少し赤らめながら抗議してくる。心なしかアスカ大尉も赤くなっている気がする。
……ウヘヘ、ゴチソー様です。
『そ、そういえばゼフォー!出航前はありがとうな!』
『あぁ、イヤ……どういたしましてっス。ただ正直、俺もあそこまで激しいとは思わなかったっスね……』
空気を変えるためだろうか、こちらに話を振ってきたアスカ大尉に言葉を返せばその時のことを思い出したのかホーク中尉やハーケン少佐も何か思うことがありそうな顔になる。
……嫌な事件だったね。イヤ、アレがあったから迅速に大気圏突破ができたのだから悪いことでは全然ないのだけれど。
ちょっとばかり、心臓への抜き打ち耐久試験かと思う程度に心拍数が跳ね上がっただけで。
ふと気になって、モニターに現在の状況を映し出す。
…………ミレニアムの進路上、ファウンデーション艦隊が待ち受けている。嫌らしいことに進路上には空隙があり、こちらからの先制は厳しいだろう。
むしろ、それどころか……敵艦隊からの集中砲火に晒されるのでは?一体どう対処を…………………………。
たらりと、冷や汗が顔を伝うような気がした。
アンケートのご協力ありがとうございます。これまで通り基本主人公の一人称、番外編で三人称の形式でやっていきます。
これからも拙作をよろしくお願いします。