地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
その後、戦闘は終結した。幸いにも、危惧していた他の別働隊は出現しなかった。
ただ、コンパスという組織は救難・復興支援も行うのだ。ある意味これからの活動こそ本番と言っても良く、その闘いは時間も手間も掛かるだろう。けれども一先ず、俺を含めたヤマト隊の仕事はひと段落といったところか。
「キラ・ヤマト……准将以下五名、乗艦許可願います」
アークエンジェル、その格納庫にてヤマト隊長がマリュー・ラミアス艦長に形式的な報告と敬礼を行う。どこか辿々しいが、まぁそんなものだろう。正式な軍人としての教育を受けていたような描写はあまり覚えがないし。
その姿に倣って俺含めヤマト隊メンバーで敬礼を行った。
「許可します。お疲れさま。それと、ゼフォー特務少尉、話はきいているわ。メディカルチェック、準備はできてるから医務室に向かってちょうだい」
「お迎えもあっちに来てるから、さっさと行ってやんな」
「……了解であります。失礼いたします」
ラミアス艦長とムウ・ラ・フラガ大佐のお言葉に、言葉を返して敬礼をする。その上で指し示された場所にいた、連合から出向して来ている医務官──マイカ・ラギィ中尉の元へと急ぐ。
今回は、初めてヤマト隊と共に大気圏突破してのミレニアムへの帰投まで同行する形になる。
これまでは作戦行動後にはすぐに、禁断症状の緩和を含めたメディカルチェック、なにかイレギュラーな事がなかったかのヒアリングを行っていた。その後はそのままミレニアム、あるいはアークエンジェルでの経過観察を行っていたが、大気圏突入と突破を連続して行うのは初めてだ。
すでに脱ぎさっていたヘルメットを抱えていたが、マイカ中尉がヘルメットを持ってくれた。ただ、少し顔を顰めながら口を開いた。
「ゼフォー、汗がひどいですが大丈夫ですか?」
「……
「普段よりも。……少し失礼」
ルナマリア中尉にも言われたが、相当具合が悪く見えるらしい。普段は、もう少し経ってから禁断症状が出始めるからだろうか。
しばらくタブレット端末を弄っていたマイカ中尉が、こちらへ向き直った。
「補給完了まで時間があるようなので、経過観察も兼ねて予定より長く医務室にて休息を。場合によっては、ミレニアム帰投への同行を中止。そのままこちらでの作戦行動後処置を行います。よろしいですね?」
「……うっス」
切れ長な瞳からの鋭いという形容詞がピッタリな眼差しを、メガネのレンズ越しにこちらに向けられながら事務的な口調で説明される。どことなく冷たい印象を受けがちだが、視線からは心配の感情が
こっちは慣れているからどうってことはないが、なんだか損をしてそうな人である。
道中でパイロットスーツから、艦内着へ着替えた上でアークエンジェルの医務室、その奥の一角へと辿り着く。服を替えただけでかなりサッパリとしたのだから、自覚してなかっただけでかなりの汗だったんだろう。
俺は備え付けのベッドに、マイカ中尉は椅子へと腰掛け簡易メディカルチェックを始める。とはいえ、簡易というだけあって体温計測に外観検査程度で終わる。後は禁断症状の緩和剤、その点滴用の針を右手に挿せば終わりだ。
緩和剤なんて存在があるあたり、本編での生体CPUよりかはかなりいい扱いだろう。ミリカ少佐以下、連合出向研究者の方々はかなり優秀なのでは?
「特に異常な変化は無し。ただし、接種からの経過時間を踏まえなければ……ですが。なにか心当たりは?……どうやらあるようで。ヒアリングは予定に変更が無ければミレニアムにて行うので、今は休息を。なんなら仮眠でもどうぞ、予定時間は把握しているのでこちらで起こしますよ」
「そうっスね……お願いするっス」
「では、おやすみなさい。右手には気をつけて」
お言葉に甘えて、ベッドの上に身を投げ出せば一体どこから湧いて出たのやら、睡魔が襲いかかり意識が遠くなる。
思っていたよりも疲労があったのだろうか、なんて思考も散り散りに。微睡に落ちていった。
目が覚めた。と、同時に思い至る。これは、夢だと。過去の経験、この世界──C.E.世界に放り出された時のことだと。
連続する振動、爆音。重い瞼を開けば眼前には手に注射器のようなものを持った男の姿、身体は誰かに羽交締めにされる形になっているのか足が浮いている。
何故こんな状況なのかと、過去を思い出そうとすれば。
「ガッ?!アアアアアアァァァァァァッ?!」
首筋、頸椎を中心に神経そのものに針が突き刺さっている様な感覚を筆頭に身体中を痛みが走る。いや、実際には痛みはなかったのかもしれない。今この瞬間に至るまで名も分からぬ生体CPUだった彼の中にあった心を砕く苦痛の経験を、人間性を削り取る厳しい訓練の経験を追体験したのかもしれない。分かることは、人格を壊すほどの経験の追体験によって、俺の中にある記憶にさえ影響が及んだということだ。
「クソッ、こいつ急にっ!?」
「なんでだ、クスリは打ってもこんなになることはなかったぞ?!」
男達の声が聞こえるが、意識には残っていない。ただ苦痛から逃れようと身体を暴れさせていた。
しばらくして受け入れることができたのか、余裕ができた俺は戸惑いの中にいた。見も知らぬ場所にいること、誰かも分からぬ男に羽交締めにされていること、自身の身体が小さくなっていること、髪が肩口近くまで伸びていること。
そんな中、視界にあるモノが入った。黒い巨軀、それは
短絡的かもしれないが、瞬間に頭の中で繋がった。このままでは乗せられるのでは?目の前のデストロイガンダム、
自身の踵を思い切り後方へと振り抜いた。ガツッ、と固い感触。
「ぐぅッ?!」
「こいつ、急に何を!」
スネを踵で蹴り飛ばした、羽交締めにしていた男の腕から身を捩って抜け出る。そのまま、男の腰にあるホルスターに収められていた拳銃を抜き取る。
まるで
炸裂音、同時に目の前の男の足から血が弾ける。
「ぐあぁッ?!」
悲鳴と共に崩れる男に意識すら向けず、銃口を動かした。狙うは背後の男、その足の甲。再び、炸裂音。
そのまま走り出す。目指すは、ウィンダム。デストロイガンダムの奥に並び立っていた発進直前の機体。
「クソッ、暴れ出した!そいつを止めろぉ!!」
背後からの声に周りから視線が向くが、無視。走りながら、自身の手の中の拳銃を乗り込もうとしているパイロットへと向け、何度も発砲した。
「うわぁっ!!」
流石に当たらないが、床や壁に当たる弾に怯んでコクピットから離れたパイロットを尻目に身体を滑り込ませる。ハッチを閉め、ジェットストライカーのスラスターを吹かす。
勢いよく、まるでゴミの様にスラスターの噴射に煽られ人が吹き飛ぶ。機体の周りの足場を力任せにどかしながら、手に持っていたライフルを
そのまま背を向け、飛び立つ。自身の荒い息だけが耳に届く。どこに向かうかなんて頭には無かった。ただ、離れることだけを考えていた。
ゾクリ
背中に氷を入れられたような悪寒。直感的に機体を翻せば、緑の光芒が通り抜ける。チラと背後を確認すればウィンダム。追撃を受けるのは当然だった。突然にこの世界に放り出された俺には、そんなことさえ思い至らなかっただけだった。
連続でビームが迫る。どうにか機体を動かして避けていたが、頭の中は恐怖で一杯だった。
「死にたくないっ」
フツと、どうしてこんな目に遭っているのかと疑問が浮かぶ。
「死にたくないっ」
フツと、どうしてこんな目に遭わなければならないのかと怒りが湧いた。
「死にたくないッ」
フツと、どうしてこんな目に遭っているのに逃げないといけないのかと浮かんだ。
「お前らがッ、死ねェッ!!」
逃げるための判断をかなぐり捨てて、相手を殺す為の行動に身体が動いた。
スラスターを切り、急降下。頭上をビームが追い抜き、いつの間にか近くまで迫っていたウィンダムも飛び越えていく。スラスターを強く吹かす。強いGに歯を食い縛りながら、目の前のウィンダムにビームライフルを撃ち放つ。
直撃、爆散。
「ザマァミッ?!」
悪態を吐き捨てる途中で、攻撃を受けた。咄嗟に機体を捩るが、ジェットストライカーに当たり地面へと墜落した。
コクピットハッチが爆裂ボルトで強制排除される。ヘルメットを被っていなかったせいで頭を打ちつけ、血を流しながら這い出る。
強い風が逆巻く。ほぼ同時に、強い振動。思わず崩れ落ちる。
顔を上げれば、ウィンダムがバイザーを光らせ仁王立ちしていた。無駄だと分かっていても、咄嗟に両腕で身を庇った。
強い衝撃、爆音。けれども痛みはなく。目を開けば、目の前には壁が出来ていた。
壁に手をかけ、反対側を覗き込めばウィンダムは頭部と腕部を吹き飛ばされ崩れ落ちていた。
そして、空から赤い影が降り立った。
「……ジャス、ティス?」
僅かに残る記憶の中、そこにあった姿に近い面影に思わずそう口にして。その場で地面に膝から崩れ落ち、意識が遠く消えていった。
「知ってる天井……」
目を開けば、アークエンジェルの医務室。その天井だった。夢で見た過去、あの後にも見たのはここだった気がする。
まぁ、禁断症状で暴れた挙句失神したから、助けてもらったお礼を言えたのはかなり後になったのだが。
「何を言ってるんですか、ゼフォー」
「あっ、イヤ。なんでもないっス」