地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
『そういえばマクシム。お前さん、半分は連中の言う兄弟なワケなんだが……そこんとこどう思ってる?』
『おいケン!こんな時に何言ってるんだ?!』
『そうだぜ、わざわざそんなこと……』
『こんな時だからこそ、だろ。ダフ、レイン』
ぬかるんだ泥濘の中を匍匐前進しているような、息の詰まる
ハーフコーディネイターであるマクシム・プラズ・ダグラス中尉の居るMSコクピット内、そこに備えられたスピーカーからそんな通信が聞こえてきたのはその最中だった。
『これから背中を預け合うってんだ、そーゆーことはキッチリしといた方がいいだろ?……で、どうなんだよ』
『フン、愚問だな。奴等の肩を持つ道理など、半分どころか一欠片もありはしないさ』
ケン・リーフ中尉の問いに冷ややかな声色で返すマクシム。その様子ををダフ・オレガノ少尉は心配げに、レイン・ネオマン少尉はオロオロとモニター越しに伺っていた。
『……逆に聞くが、ファウンデーションがレクイエムを撃ち込んだモスクワにコーディネイターが居なかった保証はあるか?』
『それは……そうだけどよ』
『そもそも連中が兄弟と言ったのは、プラントに住むコーディネイターだ。……自分たちに味方しそうな相手に聞こえのよい言葉を選んだのだろう、反吐が出る』
一目見ただけでソレが心の底からの言葉だと分かるほどに顔を顰めたマクシムに、話を振ったはずのケンが思わず肩をすくめる。そして、それとなく視線を動かして他のモニターに映る他の分隊員たちの様子を伺い、小さく息をついた。
それなりに付き合いのある第一班のメンバーはともかく、他の班員との間にどうしても生じている隔絶がこの非道な相手への義憤に満ちた言葉で少しは狭まっただろうと感じたからだ。
ハーフコーディネイターは文字通りナチュラルとコーディネイターの間に生まれた人類のことであり、それ故に強い迫害を受けることが多い。
マクシムとその妹は良識ある連合軍人の元に引き取られた孤児であり、ハーフコーディネイターとしては極めて恵まれた環境であるとケンは聞き及んでいた。
尤も、ケンにとっては彼等の親であり自身の上官である分隊隊長が良識ある軍人と言われても、納得はしていなかったが。
まるでゴリラのように厳つい顔に、荒っぽい喋り方。どこに良識と言うものがあるのだろうか。
『ほぅ、わざわざ通信を開いて私語とは……随分と退屈しているようだな?』
スピーカーから聞こえる思い描いたばかりの人物の声に、ケンの背筋が思わず伸びる。
そしてモニターに映るマクシムの妹にして自身の恋人であるリズ・プラズ・ダグラス少尉の、またやったのかと言わんばかりの冷ややかな視線に気まずそうにモニターから顔を背けた。
『朗報だ、退屈と今すぐおサラバできるぞ……戦況に大きな変化があった。これより緊急ブリーフィングを始める!全員、耳の穴をかっぽじって一字一句聞き漏らすな!!』
そんなケンの様子を尻目に、分隊隊長であるヒューロン・ダグラス少佐は言葉を続けた。
『まずは悪い報せだ。オペレーション・ディエスイレの1stフェーズ及び2ndフェーズ──即ちファウンデーションの擁する高性能MS部隊であるブラックナイトスコード。コレをレクイエムから可能な限り引き離す為の陽動戦闘を行っていたオーディン艦隊がつい先程、旗艦含め大多数の戦力を喪失。司令部の想定よりもかなり早く、ブラックナイツがフリーになった!』
その言葉に、分隊員全員の間に空気がピリつくような緊迫感が漂う。事前のブリーフィングが確かであるのなら、かの伝説のMSである
それ故に艦隊の半数を陽動に用いるという、戦力の分散は極力避けるものとする戦争における定石を考えれば愚策とも言える作戦計画が提案され承認されたのだ。
そして、悪い知らせはそれだけでは終わらなかった。
『そしてもう一つ。オーディン艦隊全滅の少し前に月面裏側、ダイダロス基地の座標にて高エネルギー反応が確認された!コレの意味は分かるな?』
『なっ……?!』
その言葉にケンは思わずモニターの片隅にある前大戦でのデータを元にして算出されたレクイエム次弾発射予想時刻のタイマーを確認し、それがまだ0を示していないことを認識した。
つまり、それは──。
『どうやら連中は図画工作が得意なようだ!レクイエムの修復だけに飽き足らず、改良も加えていたらしい。モニターのタイマーは最早役立たずだ!早急に消しておけ!』
沈鬱な空気の中、ヒューロンの冗談めかした言葉が虚しく響く。そんな中でも、不敵を通り越して太々しいとも言える表情を顔に浮かべるヒューロンにケンが思わず文句をつけようとした時、計ったように口が開かれた。
『喜べ、ここからは良い報せだ!レクイエム発射直前にオーブ所属の特殊MS、識別名アカツキが砲口直上に出現。そのまま第一中継点の偏光リングを攻撃し破壊、その直後放たれたビームをその機体特性でもって反射。レクイエム周辺施設、及びファウンデーションの防衛船団に対し大きな損害を与えた!』
モニターに眩い金色の装甲を身に纏ったMS──アカツキの画像と詳細な情報が提示される。
レクイエム発射の阻止、つまり被害が未然に防がれたことに弛緩しそうになる雰囲気をヒューロンの厳格な声が引き締める。
『そして、それに呼応するようにオーブの艦隊がレクイエム近傍に展開。泣きっ面を浮かべているだろうファウンデーションの連中にもう一発ぶちかます為に戦闘を開始した!…………ここまで言えば、言いたいことはもう分かるな?』
その言葉とともに、ヒューロンの厳つい顔に堅気とは思えない獰猛な笑みが浮かんだ。
尤も、それはモニターに映るどの顔にも浮かんでいるモノだった。
『オーディン艦隊の挺身によって、予定より短いといえどお強いお強い
それに加えて、オーブのとびっきりの命知らずの行動によってレクイエムの再度発射まで最短数十分、長ければ数時間は引き伸ばされた上に防衛戦力はズタズタだ!尤も、防衛船団との合流・再編成の為にザフトのクーデター艦隊が戦線を後退させている。防御が手薄なのはごく僅かな時間だけだろう!』
モニターに今度はブラックナイツとザフトのクーデター艦隊の現在位置、レクイエムとの距離によって算出されたそれぞれの到達予想時刻が映し出される。
『以上の戦況の変化を以って、事前に策定された作戦行動プランAは不適切であると判断しプランBへの移行を決定した!ただし、状況の変化が著しいため細かな点を変更する。今からそれを伝えていくぞ』
そう言ってヒューロンはモニターに映る顔を見渡した。正直なところ、彼らに不安を抱かせない為に強気な言葉と態度で状況を肯定的に伝えはしたが決して状況は楽観視出来るものではないと考えていた。
出した被害は甚大とはいえ、国家としての規模は比べようがないほど小さな相手に艦隊の半数を陽動に用いると知った時はなんとも悲観的な作戦だと感じていたのに、いざ蓋を開けてみれば想定以上の早さでの全滅……寧ろ楽観的だったとも言える結果だったのだ。
だが、部隊の指揮官としてこの感傷を悟らせるわけにはいかないとヒューロンは努めて強気に声を上げた。
『第三班は変更点は無い、事前のプランB通り第二次攻撃艦隊の残り半数──グリオン艦隊と合流。第二班はレクイエム付近で戦闘中のオーブ艦隊と合流しろ……』
ヒューロンと言葉に合わせモニターに映し出される概略図に部隊の行動が表示されていく。
そして、最後に自身が指揮を取る第一班の指示を前に思わず口籠る。その不自然な間に不審を抱かれる前に、逡巡を振り切って口を開いた。
『第一班はレクイエムへの最短コースへと針路をとり強襲突撃を行う。連中の戦力を釣り出すぞ!』
それは戦力を分散させてぶつける、賭けに近い極めて危険な作戦であった。本来であるならば、数に勝る連合軍にとって戦力を集中させることによる防衛戦力の突破が定石にして安牌であるだろう。
だが、ファウンデーションの保有する特異な戦力──レクイエムとブラックナイツがその前提を突き崩す。
艦隊戦により艦艇を密集させることで第一次攻撃艦隊を容易く壊滅に追いやったレクイエム。全五機のうち四機で艦隊の半数を全滅させ、残り一機の所在の分からないブラックナイツ。
この二つの要素が、戦力の集中運用を悪手へと様変わりさせる。そして、そもそもブラックナイツが全五機であると言うのもあくまでユーラシアからの独立紛争時点での情報である。楽観視は到底出来るものではなかった。
なにより、第二次攻撃艦隊は大西洋連邦の用意できる戦力の限界であった。もはやこれ以上の戦力は用意出来ない。
だからこその戦力の分散、それによるファウンデーション側の戦力の集中運用を妨げる為の作戦であった。
そう理屈で納得してはいても、ヒューロンの胸の内に感傷が積もる。
ザフト艦隊の合流・再編成より前にいち早く戦力を釣り出す為に、艦隊と合流せず強襲突撃を行う第一班。もし、ブラックナイツ最後の一機がレクイエム防衛に就いているとしたならば、恐らく対処に動くだろう。
それは、ほとんど死ぬのと同義である。ヒューロン自身はそれでも構わなかった。なんの通告もなく一般人を含めた虐殺を為した連中の保有する、大量破壊兵器の破壊という任務。
軍人どころか政府関係者でもない思想にかぶれた金持ちによって下された、軍事拠点ですらないコロニーへの核攻撃とは比べるまでもなく兵士として命を賭してでも為すべきモノだ。
だが、それに二十代半ばにすら届かないヒヨッコたちを付き合わさなければならない事は思うところがあった。
けれども、訓練で最も優秀な成績を上げた彼らでなければブラックナイツ相手に多少持ち堪えることも叶わないだろう。
モニターに映る彼等──お調子者のケン、優しくも頑固なダフ、気弱だが機転がきくレイン、自身の手で引き取り育てた優秀だが不器用な面もあるマクシム、その妹であるリズ。
喉元まで込み上げた人間的な感傷を飲み下して、地球連合軍の一部隊の指揮官としてヒューロンは口を開いた。
『作戦内容は頭に叩き込んだな!?さぁ、楽しい楽しい
自分達がしでかしたことを地べたに頭擦り付けて泣いて詫びたくなるくらいとびきり痛いのをぶっ食らわせてやるぞ!!!
『了解!!』
ヒューロンの切った啖呵に、まるで一人の声と思うほどに揃った十七人の返事が響いた。
レクイエム近傍。レーダーや熱探知、光学探査でも何の存在も検知されない無である筈の宇宙空間から滲み出るようにナニカがその姿を現す。
それは
その姿は極めて特徴的であった。両舷のビーム砲を含めた武装のほとんどは取り外されており、自衛すらままならないだろう。
だがそれ以上に目を引くのは、艦首上部と両舷の側面に無理矢理に固定されている大きな機体。その無理矢理な固定が、分離ボルトの起爆によって排除される。
自由を取り戻したのは、三機のユークリッドE。そしてそのユークリッドEたちにも一際目を引く特徴があった。
まるで巨大な角のようにも見える、ユークリッドEの機体上部に備え付けられた長大なリニア砲である。
その大きさは、ハーデスのカタパルトから発進し側面へと取り付いていくMSたちが子どもに見えるほど。ユークリッドE本体の全長にも匹敵するだろう。
『総員、準備はいいな?突撃するぞ、命知らずども!!』
ヒューロンの声がドラグナー隊の総員の耳に入ると同時。それを合図にして、三機のユークリッドEの後部──増設スラスターを含めた全ての推進機構が火を吹いて猛烈な勢いでその巨体を加速させ宇宙の闇を裂く流星へと様変わりさせる。
オペレーション・ディエスイレ、その最終フェーズ──グリオン艦隊、オーブ・連合合同艦隊、ミレニアム、そしてミラージュコロイド・ステルス搭載艦ハーデスによってレクイエム近傍へと輸送された、対光波防御帯特殊兵装を装備した機動分隊によるレクイエムへの多方面攻撃が開始された。