地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
ベッドの上で上半身を起こし両手を上げて、軽く身体を伸ばした。夢見は良くなかったのだが、寝る前までの不調はスッカリ取れているようだった。
ボサついている頭を軽く手櫛で整える。切るのも良いけど、ゴムか何かでまとめても良さそうか。
寝ている間に投与は終わっていたのだろう。右手の、点滴の針の刺さっていたところには小さな絆創膏。
「これ、もう剥がしてもいいっス?」
「えぇ、剥がしたならこちらへ。捨てておきます」
ぴっ、と絆創膏を剥がす。ベッドを降りてそのまま、タブレット端末へネコのチャームをつけたタッチペンでデータ入力していたマイカ中尉へ。
ついでだ、なにか髪を纏められそうなものでもあるか聞いてみよう。
「そう言えば、マイカさん。なんか輪ゴムかなんか持ってるっスか?」
「輪ゴム、ですか?何故そんなものを?」
「ちょっと髪伸びてきたから、襟足を纏めたくて」
「……ハ?」
マイカ中尉、目ぇ怖っ。切れ長な目が見開かれてて、困惑を
「……フゥ、そんなもので髪を纏めようとしないでください。いくら男性とはいえ、無頓着がすぎるでしょう」
「ッス、すいません……」
「少し待ってください、確かこの辺に……」
溜息ひとつ、元の澄ました顔に戻ったマイカ中尉に注意される。神妙な顔(当社比)で謝れば、机の引き出しをガサと探ってから取り出される、ネコの肉球の形の飾りがついたヘアゴム、二つ。
やっぱりネコ好きなんですね、マイカ中尉。……ではなくて。
「……なんで、二つなんス?」
「髪型、お下げにしてみませんか?似合いますよきっと」
「遠慮するっス」
「そうですか、残念です。……ふふ、冗談ですよ」
その澄ました顔だと分かりづらいんですよ……。こういうお茶目なところ、もっと見せればいいのに。
端正と言っていいくらいな綺麗な顔。切れ長な目と飾りっ気の無いメガネ、事務的な口調で冷たい印象になりがちだけど、シュッとスレンダーな身体と相まってシャープな美人といったところな彼女。
マイカ・ラギィ中尉、御歳にじゅっ……。
「何か、失礼なことを考えていませんか?」
「ないです」
こっわ、なんで分かるんだよ。ジト目でこちらを見るマイカ中尉の手には、黒いヘアゴム。
「では、あちらを向いていただいて。私が纏めますよ」
「っス。三つ編みとかにはしなくていいっスよ。……マイカさん?明らかに複雑な動きしてる感触なんスけどっ?!」
少々じゃれつきながらも、すぐに終わる。なんだかんだで、知り合いの中では長い付き合いなのだ。それこそ、
ちゃんと軽く纏めてもらった後、体温測定を行い異常が無いことを確認。ちょうど良い時間なので移動を始め、今は着替えているところだ。
先程の夢を思い出し、首元に下がる『04-Lo1』のシリアルナンバーの刻印が目立つドッグタグ──連合パイロットとの絡みはあまり無いから分からないが、恐らく全員似たようなモノを持っているだろう──に視線が向く。なんだかモノ扱いされているような気がして、微妙な感情が湧く。
そういえば、自身の身の上の厄介なところにも関係していたか。このドッグタグ、コンパスに保護され連合へと移された後でなく
人伝に聞いた話なので、あまりハッキリと分かっているわけではない。俺の意識が覚醒したあの場所は、
そのことを連邦上層部は把握出来ておらず、よりによって鎮圧救援の要請を受けて出撃してきた外部組織のコンパスからの報告で把握し、一悶着。結果として名義と資金だけではなく、人員も出すことになったとか。
厳密には、生体CPUである俺の治療に関する研究を行う人員と資料や設備に、体裁を整える為のMS、整備チーム。そして、俺。
ハイハイ、人の業人の業。これ以上はやさぐれて仮面被って暴れたくなるから、思い返すのやめまーす。
特筆することもなく、ミレニアムへの帰投は順調に完了した。強いて言うならば、戦闘は想定されていないから『薬液』は接種していないこと。アークエンジェルのローエングリンによってなされたポジトロニック・インターフェアランスによる加速で大気圏を突破後、切り離されるブースターに心の中の男の子が刺激されたぐらいだろうか。
ブースターや増加装甲の強制排除とか切り離しって、いいよね……。……いい。
ミレニアムにおける俺の居室、そこから程近い位置に連合から出向している研究者や軍医の仕事場はある。
作戦行動後のメディカルチェックだ。アークエンジェルで仮眠をした手前、体調は自覚しているうえでは万全といっていいせいか面倒な気持ちが優っているけれども、行うのはそういう意味でのチェックだけではない。
シュッ、と扉が開く。ほとんどの人はまた別の場所にいるのか、中に居たのは俺の目当ての人達だけだった。
「やぁやぁ、よく来た。あっちじゃ何やらイレギュラーがあったそうじゃないか、手早く話を聞かせたまえ。なんでも禁断症状の発生時間が普段より一時間は早かったとか……」
「少しは落ち着いてください、ミリカ少佐。ゼフォー君、お疲れ様だ。とりあえず、そこにかけてくれ」
連合出向組では一番階級が上であるミリカ・セーディ少佐。その補佐、というか保護者に近いライ・メイディ大尉。この二人が、主に俺の身体についての調整なんかを担当している。
「うっス。失礼します」
「ほらキリキリ話したまえ、普段との違いは?症状に対する当事者としての感じ方は?」
「だぁから、落ち着いてくださいってば!メディカルチェックが先でしょう?!」
「そんなの、ぶっちゃけ向こうで八割終わってるようなもんじゃ無いかね!そんなことより私の手掛けた『プロト・グリフェプタンver3.5』略して『プグバミゴ』の仕様の確認が先だろう!!」
目の前でやんややんやと騒いでいる大の大人二人に、げっそりとした気分になる。ご覧の通り、軍人と言い難いミリカ少佐は研究者としての職務を主にした出向である。同じくライ大尉もだ。軍人としての実務に関しては、アークエンジェルのマイカ中尉の方に殆どの連絡がいくという話も頷かざるを得ない。
研究者としては、『γ-グリフェプタン』の禁断症状を軽い風邪の症状程度まで抑えて、その症状に対しても緩和剤を作り出せるなんてとんでもない技術・知識の持ち主なのだが。
「マイカ君の報告だと、心理面の影響が強い可能性有り。だそうだが、ホントかね!戦闘で殺しでもしたからか?今更だから違うだろう?!ほら詳しく話したまえ!」
「アンタデリカシー無いのか?!やめろつかみかかろうとするんじゃない!!」
「激しく同意っスね。話すっスから、一旦静かに椅子に座って欲しいっス」
その代わりに、何か大事なモノを引き換えにしていそうだ。モラルとか、共感性とか。
頑張ってくれ、ライ大尉。階級が上の相手にタメ口とか、羽交締めとか、多分誰が見ても見逃してくれるだろう。
……実際に殺人どうこうでは、あまり動揺していないのは、まぁ。我が身の上とこれまでを振り返れば、的確な分析ではあるだろうけど。
「ハァ、全く。考えてもみたまえ、プグバミゴの完成度が高くなれば。そうでなくとも研究が進めば、ブルーコスモスが今回も持ち出した、デストロイのパイロットの治療も出来るようになるのだよ。いわば人の業が夢のような治療技術へ転じるわけだ」
「ミリカ少佐……」
「ゆくゆくは、グリフェプタンを単なる強壮剤程度の存在にできるかもしれないぞ。割と売れるかもな!」
「……ミリカ少佐?」
「商品名は、そうだな……使えばたちまち、疲労がポンと飛ぶ。すなわちヒロ……」
「ダッセーから却下っスね。忌憚のない意見ってヤツっス」
なんかいい話かと思ったのかライ大尉が途中感じ入ってたようだけど、すぐこれだ。何を口走ろうとしてんだこの人。
「ダサいだと……。ゼフォー、ならば君は名前をつけてくれたその人にネーミングセンスが無いと?!」
「パッと見で思い付いたドッグタグのシリアルナンバーの語呂合わせを、ナイスネーミングだと?」
ドッグタグの『04-Lo1』から、
「…………さぁ、建前でしか無い綺麗事なんてどうでもいいから、仕事をするとしようじゃないか!」
「……ミリカ少佐」
形勢不利と見て、話題ぶん投げたか……。そろそろ慣れましょうよ、ライ大尉。ミリカ少佐はこういうノンデリなんだって。
まぁ、そんなノンデリでも無ければここでこんな風に、生体CPUの延命やら症状低減の研究なんてしないだろう。恐らく元ロゴス配下の研究者の身の上で。
そうでも無ければ、ここまで効果的な成果は出ないだろうという類推でしか無いんだけれども。