地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
黒騎士の異形の右腕──肘辺りから伸びて上腕部へと接続されていたケーブルワイヤーの切断と引き換えに、刃先から三分の一程の位置を溶断されて斬り飛ばされたシュベルトゲベールを左背部へとマウントする。
構造上最早ビーム刃は発振出来ないが、グリップエンドのビーム砲はまだ生きている事を確認しながら片腕を喪失した黒騎士を見据える。
《自分の周りのごく狭い範囲で、目先の快不快しか考えない下賤な連中によって醜い争いの絶えない世界を変革しようという我々の邪魔を!そしてもし存在しなければ、或いは何も為さなければ苦しい思いをする必要すらなかった存在であるということにすら思考を巡らせずに助けられたとただそれだけで悪戯に尻尾を振るような真似をするお前のような愚か者は、駄犬とでも評するのが相応しい!》
《駄犬に散々に噛みつかれて痛い目見てるお人が、なんか長ったらしいこと言ってるワンねェ》
《ッ……!いい加減に、そのふざけた戯言しか吐き出さない口を閉じろぉ!!》
《クゥーン……》
真っ赤に染まった顔で早口に捲し立てているのが容易く想像できる、苛立ちが多分に含まれたアイシュの思念を感じてリラックスしてもらおうとおどけた物言いをしてみたがどうやらお気に召さなかったようだ。
……まぁ、尤も。そんな事は当然承知の上であるのだが。
叩きつけるようにコチラへと向けられる思念の如く、さっきまでと比べれば荒っぽい──単調な動きの黒騎士へと生き残っているショルダーキャノンとガトリングを撃ち放ちながら牽制。
回避運動後の機体の予測位置へと背部のシュベルトゲベールのビーム砲で偏差射撃をしながら、カラミティの右手に持ったシュベルトゲベールの柄へ左手を伸ばし両手でしっかりと握り込む。
いわゆる下段脇構えの状態でスラスターを吹かして加速。黒騎士へと一太刀浴びせんと猛進する。
だがそれでも世界を導く者と自称するのは伊達ではないのか、瞬時にショルダーキャノンのビームとガトリングの弾幕を危なげもなく回避してみせたアイシュは、その位置へと滑り込むように伸びる光条に対してこれまでの慎重な──いっそ臆病と評してもいいような動きとは正反対。
胸部をその軌跡へと晒しながらコチラに向かって加速。果たして、着弾したビームを四方へと散らしながら無傷の黒騎士がその左手に構えたライフルで複数の返礼をコチラへと寄越す。
もちろん、そのヴィジョンを知覚していた俺はそれらを速度を緩める事なく回避しながら距離を縮める。
そしてアイシュもそれは承知の上だったのだろう。一欠片の狼狽も感じさせずに、構えたライフルの短い銃身の下からビーム刃を伸ばしてコチラを迎え撃とうと漆黒の宙に溶け込むような黒い機体を滑らせる。
……銃剣を装着した大型ハンドガン、といった趣のソレにアドラーll(仮)のような変形するデカブツとはまた別の浪漫を感じる。
というか、そっちの方が取り回し良さそうで良いなァ……ッ!
《もう無駄ですよ、ふざけた思念を漏らしてこちらの冷静さを削ごうなどという小賢しい真似は……ッ!》
《チッ……!》
互いに速度を乗せたビームの刃がぶつかり合い、僅かに拮抗。次の瞬間、互いに弾けるように距離を取る。
速度を乗せた上で大質量かつ長大な刀身を両手で振るってさえ、片手で振るわれた銃剣の短いビーム刃で弾かれる程度か……ッ。
つい先程黒騎士の見せたフェムテク装甲の高いビーム耐性に加え、どうしても互いに持ち合わせている読心という能力の関係で射撃に決定力が足りない以上、コチラとしては近接戦闘に持ち込むのが数少ない勝ち筋とはいえ……こうも基礎性能の差をわからせされるとツライものがある。
おまけに煽りに煽ってアイシュの冷静さを奪うのは上手くいっていたが、荒々しい言葉をある程度吐き出すことで頭が冷えたらしいのはすれ違いざまの思念で明白だ。
そんな苦々しい内面を知ったか知らずか……いや、当然知った上でなのだろう。
表面上の丁寧な物腰を取り戻したアイシュの、慇懃無礼とでも言うべき思念が頭に響く。
《訂正しますよ、ゼフォー・ローワン。貴方を駄犬と評したことを》
《ヘェ、そいつは嬉しいワンねェ》
《…………感謝は無用ですよ。何せ、貴方以上に駄犬と言うべき存在に思い至ったというだけですので》
おちょくるようなコチラの返事に対する苛立ちを呑み込んで、アイシュの思念は続いていく。
その間も黒騎士とカラミティは互いに一定の距離を保ち、相手の隙を伺いながら動き続ける。
《自身の類稀な素質を見出され、世界に安定と平和を齎す為の大いなる力と役割を託されながらもその責任を全う出来なかっただけに飽き足らず。平和を齎そうとしたデュランダル議長を討ち世界を混乱と闘争へと導いた失敗作──キラ・ヤマトへと、浅ましく恥知らずに嬉々として尻尾を振る……ッ!!そんな役割を果たせなかった愚かな役立たずである、シン・アスカこそ……ッ!?》
頭に響いた不愉快極まりない雑音。ショルダーキャノンとガトリング、シュベルトゲベールのビーム砲と胸部のスキュラ。主要な射撃兵装の一斉射をソレの発生源に向けて掻き消す。
ほとんど思考を挟まない行動だったからか、これまでよりも余裕のない動きでその弾幕を回避した黒騎士へとスラスターのリミッターを解除した正真正銘の全速力で駆けていき、シュベルトゲベールを大きく振りかぶる。
頭に浮かんだヴィジョン、叩きつけられるような光条を潜り抜けて肉薄し強引に繰り出した蹴りが斬撃を受け止めようとした黒騎士の左手を弾き飛ばす。
生じた過負荷によってけたたましく鳴り響くアラート音を無視して振り下ろされたシュベルトゲベールを、黒騎士はビーム刃が掠め胸部の装甲が焦げそうなぐらいにギリギリのスウェーで躱して俺から見て左方向へと距離を空けるべくその体躯を流すように動かした。
頭に、再び雑音が響く。
《まさかほとんど考えなしにここまで動くのは想定外でしたが、敢えて貴方の言葉を借りて言いましょう……ッ!
瞬間、強い衝撃がコクピットを揺さぶり強いGで視界が明滅する。左腕に過負荷が生じたことを告げるけたたましいアラート音で、何が起きたかを知る。
黒騎士の右肘から伸びるケーブルワイヤーが、カラミティの左前腕部へと絡みついていた。
ウッソだろお前……ッ?!挙動を制御するような機構なんて何も無い筈のそれを、腕の動きだけで……!?
イヤ、それ以前に、ヴィジョンが頭を過ぎらなかった。つまりはケーブルワイヤーの操作だけを俺に読ませないように!?
「んぐゥッ……!」
そんな思考は、再び生じたGによって中断される。アイシュがワイヤーを巻き上げて引き寄せたからだ。
必死に右手のシュベルトゲベールでワイヤーを切断しようとするが、ヴィジョンが頭を駆け巡る。
コチラへと放たれたビームをどうにか切り払うが、それによってガラ空きになったカラミティの胴体へと黒騎士の膝が突き刺さる。一際大きな衝撃がコクピットを襲い意識と視界をグチャグチャにシェイクする。
「く、グゥ……ッ、グェッ!」
どうにかシュベルトゲベールで下から切り上げるが、破れかぶれのヌルい太刀筋のソレは軽く振るわれた銃剣で弾かれて剰え右手からシュベルトゲベールそのものが弾き飛ばされる。
続け様に頭を過ぎるヴィジョン、胴体へと突き立てられたビームの刃。それを防ぐ手立てを、かき乱された思考で組み立てようとして──。
《有りはしませんよ、そんなものはっ!》
飛び込んできたアイシュの思念の通り、一つも浮かばない。ほとんど密着するようなこの距離ではショルダーキャノンもガトリングも射角を取れず、シュベルトゲベールのビーム砲やスキュラはフェムテク装甲の特性を考えれば黒騎士を墜とすよりも先に弾かれたビームの余波でコチラに致命的なダメージを及ぼすだろう。
《愛がどうのと感情論を喚いたところで、結局コレが我等の道を阻もうとした貴方の結末だ!運命は、変わらない!》
《……散々に振り回されたクセに最後まで運命がどうのとしか言わねェーのな、どんだけ運命の操り人形になりたいんだか》
《随分と生意気な、品のない遺言だ……貴方には似合いですがね》
妙にゆっくりと過ぎる時間の中で、益体の無い思考が頭を過ぎる。
ビームの刃がコクピットに迫る。あーあ、せめてもう少し近接で取り回しの良い武器があればな……。
そう、例えば、ビームサーベルとか………………。
あるじゃねェーか。
《……は?》
左腕に備えられたビームガントレットから絡みついたワイヤーを溶断しながらビームサーベルが発振される。
自由を取り戻したカラミティは、アイシュが思わぬ事態に呆気に取られた隙を逃さず迫るビームの刃を上半身を捻るようにスウェーさせながらその勢いに任せて黒騎士のガラ空きの脇腹へと殴りつけるように左腕のビーム刃で斬りつけた。
《貴様……ッ!?ふざけるのも大概にしろ、なぜ自身のMSの武装をド忘れしている!》
《しょーがねーだろ、赤ちゃんなんだからァ!!》
カラミティのパイロットとしては一日も乗ってないから、実質赤ちゃんみたいなもんだろォん!?
フェムテク装甲に大きく焼け焦げた傷痕を残しながらも辛うじてコクピットへの致命傷を避けたアイシュの怒号に、右のブレードアンテナを斬り飛ばされながら回避に成功した俺は距離を空けた上で怒鳴り返す。
互いに僅かな動揺で容易く有利不利がめまぐるしく入れ替わるが、それでも後一歩相手の命に届かない。
あるいはそれこそ、生きるか死ぬかの一か八かの賭けにでも出なければ勝負は決しないか。
《…………ッ、何が!何がそこまで貴様を駆り立てるというのだ!なんの使命も与えられていない、ただ能力を引き出す手段を得る為の実験台でしかなかった……それこそ、踏み台としての価値しか与えられなかった貴様がぁ!!》
頭に響くアイシュの疑問。やたらとコチラを扱き下ろそうとするようなそれに、思いあたる言葉は一つだけ。
少しばかり気恥ずかしくもあるが、問われたならば返すとしよう。
──それでも、俺は好きなんで。だから、その……我儘でしかないんですけど。戦わせてくれませんか、お願いします。
《この気持ち、まさしく愛だ!》
《またそれかぁぁぁ!!》