地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
オーブがミラージュコロイドステルスを使用している最中のハーデスの画像を手に入れることが出来たのはその実、偶然の産物であった。
〈ファウンデーション事変〉でレクイエムへと殴り込みをかけたクサナギ、その戦闘記録の解析を手が空いているからと手伝ったメイリンが発見したのだ。
そんな事情をおくびにも出さず、努めて厳めしくフォスターへと視線を向けるカガリ。
そんな視線を受けても動揺した様子を気取らせないフォスターが口を開いた。
『なるほど、どうやら情報の行き違いがあったようですね。申し訳ありません』
「ほう、情報の行き違い……と」
『えぇ、カガリ代表。ただ、その上でお尋ねしますが…………
つい先程のカガリの言葉をなぞるような物言いに、思わず眉を顰める。
『確かに、ユニウス条約をプラントと結んでいた我々がミラージュコロイドステルスの使用するというのは非難を受けて然るべき行いであるかもしれません。ですが、ユニウス条約は第一次大戦での停戦条約です。前大戦が勃発してしまった時点で、その効力は無効になっているはずです』
「だが、それがミラージュコロイドステルスの展開能力を持った戦艦を保有・運用した事に対して非難を受ける謂れがないという理由にはならないだろう?」
『ですが〈ファウンデーション事変〉でのレクイエムという戦略兵器を用いた全世界への恫喝という、国家存亡の危機と評して過言でない緊急事態ゆえの使用です。その上で、その危機を回避した以上この画像に写るミラージュコロイドステルスの展開能力を有する戦艦は解体する事になっています。オーブに対してキチンと通達出来ていなかった点は、確かにこちらの落ち度ではありますが…………』
フォスターへと非難を口にしながらも、カガリは内心この会談の落とし所を見つけられたと考えていた。
互いに相手の弱みとして握っていた情報。だがその実、それらは相手を追い詰めることが出来るような致命的なものではないと、双方がこの会談で認識を得たのだ。
言葉を選ばなければ、これでお互いに弱みを握り合ったとなあなあにして話を終わらせることが出来るだろう。そうカガリはどこか高を括っていたのだ。
だがフォスターが続けて口にした言葉で、この会談の風向きは大きく変わった。
『ですが……そうですね。恥ずかしながらこれまで我々がオーブへと行った所業を省みれば、言葉だけでは納得していただけないというのも道理です…………どうでしょう?ここは一つ、我々とオーブ。双方の技術者が立ち合いの元で、この戦艦の解体作業を行うのは?』
「……なに?」
フォスターが口にした、あまりにも思い切りの良い言葉。不意を突かれたカガリは、思わず唖然としてしまった。
そんなカガリの様子を他所に、あるいは狙いすまして、フォスターは言葉を続ける。
『もしこれでもまだ納得いただけないというのであれば、そうですね……解体を行う場所と時期をオーブが指定していただいても構いません。それで我が国への疑念が晴れるというのであれば、安いものです』
「あ、いや……」
続け様にフォスターが口にするこちらへの譲歩と取れる言葉に、それでもカガリは思わず言葉を濁した。
条件だけを考えれば、悪いものでは無い。むしろ即頷いたとしても構わないくらいの好条件とも言えるだろう。
それでもカガリが言葉を濁す理由は、ただ一つ。
この件でフォスター側──大西洋連邦に対して生じるメリットが、ミラージュコロイドステルス展開能力を有する戦艦を手放すことと釣り合いが取れるとは思えないからだ。
フォスターの言う、オーブが大西洋連邦に抱く疑念を晴らすというメリットも両国間の純粋な国力差を考えれば怪しく思えてしまう。
そんな風にカガリが胸中で考えを巡らしている最中でも、フォスターの言葉は止まらずに続いていた。
『いえ、むしろ…………今後活動を再開するコンパスで運用する為に、解体するのではなく近代化改修を行うのはどうでしょうか?』
パンと、良いアイディアを思いついたとばかりに手を打ったフォスター。そのまま、立板に水とばかりに捲し立てる。
『アークエンジェルをエルドアの惨劇で喪失してしまった以上、現状コンパスが活動再開した際に運用できるのはミレニアム一隻。今の情勢を鑑みれば、ザフト所属のコーディネイター中心の部隊だけ……というのは少しばかり都合が悪いのでは?もちろん、改修した戦艦はあくまでコンパスだけでの運用という事で構いません──』
『ちょ、ちょっと待ってくれフォスター大統領!』
話の流れが戦艦の解体からいつの間にやら改修を施した戦艦をコンパスで運用するというものに様変わりした事に気付いたカガリがようやっと我に帰り、ハッキリと声を上げた。
『おっと、失礼。このような踏み込んだ内容は、私的な会談で行うようなものではありませんね』
そう言ってフォスターはチラリと視線を脇に向け時刻を確認した後、改めて口を開いた。
『気付けば随分と時間が経ってしまいました。細かい資料は後ほどお送りいたします。この件はまた後日に別の機会で、という事で構いませんか?』
「あ、ああ。それで構わない……」
そうカガリが言葉を返せば、フォスターはこの会談を締め括る為に口を開く。
『では、貴重な時間を割いていただきありがとうございました。今後とも世界平和監視機構コンパスの参加国として、共に平和のために手と手を取り合っていきましょう?カガリ代表』
この会談で最初に疑念をぶつけてきたのは誰なのかを忘れたかのような、晴れ渡るような笑顔を浮かべたフォスターの顔がモニターから消える。
それを見たカガリは、今度こそ気を緩めて机に突っ伏した。
そんなカガリの耳に、メールの着信音が聞こえた。モニターへと視線を向け差出人を確認すれば、そこにあったのはついさっきまで顔を合わせていた人物であるフォスターの名前だった。
大西洋連邦では後ほどというのは随分と早いのだな、なんて下らない事を思い浮かべながらも中身を確認するために届いたメールを開いた。
その中身を精査し終わったカガリは、大きく息を吐きながら天井を仰ぎ見る。
フォスターの今後のスケジュールに、分かりやすくまとめられたミラージュコロイドステルス展開能力を有する戦艦の性能諸元。改修するのであればどのポイントであるのか、という恐らくは技術者による解説。そして最後に添付されていたとある資料。
──この会談の目的は、最初からこの戦艦の改修を共同で行う事をオーブに提案する事だった。そういう訳か。
最後の資料を鑑みれば、カガリが推測するこの会談でのフォスターの目的──経済的・安全保障的に大打撃を受けた大西洋連邦では困難な、ナチュラルによって構成されるコンパス実働部隊の為の母艦の調達を迅速に行う事。それを達成するのは必要なことなのだろうと、納得は出来る。
実際、コンパス参加国であるオーブとしては先ほどのフォスターの提案を受け入れるべきなのだろう。
だがまるでフォスターの手の上で転がされたかのような感覚に、カガリはやりきれない思いで口を開いた。
「まったく、あの狸め……ッ!」
そして、モニターに表示されるメール──その最後に添付されていた資料。
大西洋連邦の情報部が掴んだユーラシア連邦軍の一部が政府が大西洋連邦の支援を受けている事に不満を覚えて離反しようとしているという、かつて行われた大西洋連邦軍内部のブルーコスモス過激派の離反を彷彿とさせるような情報を伝える文面を恨めしげに睨みつけるのだった。