地球連合所属属性多め憑依転生者 in 世界平和監視機構コンパス 作:ガンダムおじさん(にわか)
カガリとの私的な会談を終えたフォスターは一人、執務室に備えられた豪奢な椅子へと背を預け一つ息を吐いた。
そして、手慣れた動きで机の引き出しから取り出した胃腸薬を服用した。
カガリは先の会談においてフォスターが思い描く通りにその流れをコントロールされた、そう思っていたが実はそうでは無い。
会談を申し入れたフォスターが事前に部下たちとともに、幾つも想定していたパターンの一つに当て嵌まった。ただそれだけであったという話だ。
ただし、その幾つものパターンの中でもフォスターにとって。ひいては大西洋連邦にとっては手放しで喜ぶことが出来るパターンではなかったのだろうことはフォスターの行動から読み取れる。
フォスターの想定では、カガリに切り出した二つの疑惑──核動力MSの運用と、ザフト所属のMSの運用。どちらが本命であったのかと言えば後者であったのだ。
カガリの口にした、ユニウス条約はオーブを対象としない事はもちろんフォスターの側でも理解していた。
あくまで、ザフト所属の筈のMSであるインパルスとデスティニーをオーブに寄港していたミレニアムが〈ファウンデーション事変〉で運用出来たのはオーブがザフトと極めて深い関係にあるのでは無いか。
すなわち、オーブの掲げる中立という立場に反しているのでは?という主張の前のワンクッションに過ぎなかったのだ。
コンパスで運用するライジングフリーダムとイモータルジャスティス、この二機のMSの開発もオーブとザフトによる共同で行われた点についても言及する事でオーブの中立性が損なわれているのではと大西洋連邦が認識している事を強調。
もちろん、カガリはそんな事はないと反論するだろう。その上で、こう告げるつもりであったのだ。
我々は〈ファウンデーション事変〉という緊急事態に際して、ミラージュコロイド・ステルス展開能力を有する戦艦──ハーデスを運用した。もちろん、それがどのような懸念を生むのかを理解している。だから、オーブと合同でコンパスで運用していく為の改修を行いたい、と。
言外に、今後も中立を謳うならばザフトだけでなく大西洋連邦ともコンパスの為なら兵器関連で共同作業が出来る筈だと、匂わせながら。
そうしてオーブに対して優位を取りながら、かつてロゴスの手先として運用されていた戦艦と同型艦という外交的に不利な要素をオーブとの合同改修という手段によって出費を抑えながら無かった事にする。
コレがフォスターの描いた会談での流れであったのだ。残念ながらその絵に描いた餅は、カガリの一手によって破り捨てられてしまったのだが。
実質的にフリーダム、ジャスティス、インパルス、デスティニーはアスハ家の所有物であるというカミングアウトによって。
ソレを聞かされた際のフォスターの動揺は、正真正銘彼女の素の反応であったのだ。
なぜならばそれは、国家の為に自分自身──個人が責を負うという事に等しいのだから。
国に対する滅私の奉仕とも言うべきその言葉に、思わずフリーズしてしまったフォスターへと畳み掛けるようにカガリが提示した画像──ハーデスがミラージュコロイド・ステルスを使用している最中のモノを手にしている事も少なくない衝撃を与えた。
もちろん戦場にて運用した以上、それを察知される事は織り込み済みであった。だが、ハーデスがその姿を晒したのは五分にも満たない僅かな時間だ。
まさかほんの数日でここまで鮮明な画像を用意出来るほどの情報収集・解析能力を持ち合わせているとは予想外であった。
不都合な情報を自身の手で開示するのと、相手に探り当てられて突きつけられるのとではまるで意味が異なる。
国家同士のやり取りとしては、致命的と言っても過言ではないだろう。
それでも動揺を咄嗟に取り繕って会談の軌道を修正出来たのは、必要はないだろうが念の為にと想定自体はしていたからであった。
結果的に会談の着地点は、当初の目標と近しいモノにする事が出来た。だがそれでも、オーブは侮れない相手であるとフォスターは改めて認識を深めたのだ。
自身の腹部に走る、キリキリとした痛みとともに。
「獅子の娘も、また獅子だった……という訳ですか」
かつて第一次連合・プラント間大戦におけるオーブ解放作戦。その際に自身を含めたオーブ首脳陣とともにマスドライバーやモルゲンレーテ社諸共に自爆し、それによって地球連合の侵攻目的を喪失させる事でオーブへの戦火を可能な限り押し留めたカガリの父。"オーブの獅子"、ウズミ・ナラ・アスハ。
オーブという国の為にその身を挺するカガリの姿勢に、その面影を見たフォスターはそう呟いて溜息を吐いた。
本当に面倒な相手だ、と。だが同時に、今現在の世界情勢を考えればこの上なく頼もしいだろうとも考えていた。
姿勢を正し、視線を向けた先。カガリへと送ったメールに添付した最後の資料、ユーラシア連邦軍の一部の離反の目論見の存在を掴んだ情報部からの報告にはオーブへは意図的に伝えなかった続きがあった。
彼等は恐らくはブルーコスモスの残党と合流するであろう事、反コーディネイター・反プラントを飛び越えて反コンパス参加国を標榜している事…………そして、彼等の今後の行動はユーラシア西部──レクイエムによって更なる弱体化を果たしたユーラシアからの独立の機運が高まる旧EU領への大規模な襲撃である、という推察。
あくまでも推察、決して確度の高いわけでない情報であるからオーブへはまだ伝えるつもりはないが、先の会談で垣間見せた情報収集・解析能力であれば充分に辿り着ける結論だろう。
そしてその襲撃をザフト主体──コーディネイター中心のMS部隊が対処すれば、彼等は声高に世界へと訴えかけるだろう。
──コンパスはコーディネイターたちの手先であり、ユーラシア領へと影響力を強めようとしている。〈ファウンデーション事変〉の後に、コンパスがユーラシア連邦政府へと介入し始めたように!
かつてエルドアの惨劇直後の緊急会談でフォスターが口にしかけたものをなぞるような言葉を、反コーディネイター・反プラントの機運が高まる世界へと。
「賢明な判断を願いますよ?カガリ代表」
口にした言葉とは裏腹に、オーブはその情報収集・解析能力でナチュラル主体のコンパス実働部隊を早急に整備する必要性がある事も理解して、こちらの提案を受けるだろうとフォスターは考えていた。
それほどにはカガリを評価しているつもりである。そして──。
今後とも世界平和監視機構コンパスの参加国として、共に平和のために手と手を取り合っていきましょう──会談を締め括る為に口にしたこの言葉に、嘘は無いのだから。
カチカチ、とフォスターはコンソールを操作して卓上のモニターに映る画像を切り替えた。
そして、そこに映し出されているリストの最終チェックを始めた。
オーブの返答を待たずして、既に軍部にはコンパスへの人員の出向を指示していた。最悪、フォスターのオーブへの評価が過大であって提案を呑むことが無くてもコンパスへの人員の出向は急務であると認識していたからだ。
その選出は当然軍部の管轄になる訳だが、フォスターは政治的な都合を加味した候補を選び出し出向させるよう
今モニターに映し出されているのは、そのリストである。
レクイエム攻略の為、捨て石同然の任務を受領した上でそれを遂行。自身の乗艦した旗艦を含めたオーディン艦隊の大多数を失い、ドレイク級ゼレンスキーに救助された後に残存戦力を再編。
ミレニアムのファウンデーション旗艦への突撃、それの援護を指示し自身もゼレンスキーにて最前線に立ち続け生還した艦隊司令。
アラン・ベルマン少将。
アラン・ベルマン少将指揮の下、ブラックナイトスコードと交戦したMS部隊。その多くが力及ばず撃墜された中での数少ない生還者。
その中でも精鋭である機動分隊の一つであるワルキューレ隊の一員であり、唯一人ブラックナイトスコードとサーベルで切り結ぶ近接戦を行なって生き延びた猛者。
更には乗機の左肩とエールストライカーの左翼部を損傷しながらも、ミレニアムの直掩としてシュベルトゲベールを手に戦い抜いた事からプロパガンダを兼ねたものであるとはいえ、"片翼のスルーズ*1"の二つ名を贈られたワルキューレ隊第一班所属のコールサイン・ワルキューレ1。
ソフィア・アーネル大尉。
ミレニアムのMS部隊とともにレクイエム攻略の最前線を駆け抜けて、誰もが予期し得なかったレクイエムの二つ目の陽電子リフレクターを試作兵装であるクレイヴ・ソリッシュを用いて無力化。
レクイエム破壊の立役者であり、その構成員のうち二名がハーフコーディネイターである事から〈ファウンデーション事変〉後に湧き上がる反コーディネイターの機運に対するプロパガンダとして積極的にその活躍を周知させる事で大西洋連邦国内の世論を抑える事に一役を買った部隊。
ヒューロン・ダグラス少佐以下六名で構成される機動分隊、ドラグナー隊の第一班のメンバー。
そこまで目を通したところで、フォスターの耳に執務室の扉を叩く音が届いた。
時刻を確認すれば、ユーラシア連邦の代表との会談が迫っている。下手をすればプラントよりもよっぽど大西洋連邦に損害を与えてくる相手との会談に、またぞろ腹部が痛みを訴え始める。
とはいえ、無視することなど出来るはずもない。
胃腸薬を再び飲み下しながら、フォスターはモニターをスリープモードへと移行させて席を立ったのだった。