ウマ娘の寿命が現実の馬と同じ世界線の恋愛事情 作:daidains
もしかしたらご本人の希望と違うのではないか……?と思い、認識が間違っていないか連絡を取ったのですが、返事が返ってきていないので、これでいいのか恐る恐る投稿する次第です。
ゴルシってクレイジーでいるようでいて、天然のクレイジーには結構タジタジになっているじゃないですか。だからあの性格は後天的に身に着けたものなんだろうな~という想像から書きました。
ある時「この世にアタシって存在していないのと同じことだよな」と気づいてしまった。
これがちょっといけなかった。
何やったって意味がないってことなんだから。
どんなに立派な絵画作品を見ても、美しい音楽を聴いても、アタシの空っぽの心には何も沁み込んでこない。
まるで、深い海に沈没するかのように、生きている実感が湧いてこない。
気晴らしに走ってみたって、ボールを蹴ってみたって、カラオケで歌ったって、FPSでハイスコアを狙ってみたって、どれもこれもアタシを満たしてはくれなかった。
唯一、内側からふつふつと湧き上がるものと言えば、なんだかいたたまれないような、中身のない焦燥感とでも呼べばいいのか、そんな物だけ。
何かをしていると、次に何をするのか決めてすらいないのに、急に立ち上がってしまいたくなる、そんな感じ。
そんなわけでアタシは休みの日は街から街を漂流し続けていた。
「ゴールドシップ」なんてたいそうな名前が付けられたアタシだが、こんなんじゃむしろ
この頃のアタシは、見捨てられたものだとか、みすぼらしいものだとか、そういったものを愛でるようになっていた。
腐ってツタが絡まりまくった木造の一軒家だとか、排気ガスで煤けて赤茶けたガードレールだとか、たばこの吸い殻が散らばるアスファルトとか。
いかにも「居場所が無くて帰れません」みたいな面をしたオッサンを公園で発見できた日なんかは申し分ない。そんなおっさんを上から下までジロジロと遠目に眺めながら、「わかる。わかっちまうぜ」って気分に浸っていたものだ。
なんてことはない。アタシの現状と二重写しにできる対象が、慰めのためには必要だったってだけのことだ。日が暮れるまで徘徊して、多少の慰みを得た後、やっぱり何も満たされないままの帰路につく。
でも今日は結構いい収穫があった。公園をうろついていたら、薄汚れて傷が入ったルービックキューブが落ちているのを見つけることができたからだ。ルービックキューブ自体は何日か前からここに転がっていたが、結局持ち主が回収することはなかったので、そろそろ拾ってやろうかと思い回収させてもらった。
表面を軽く袖で拭った後、適当に回してみる。少しだけ引っ掛かりはあったが、ほとんど問題なく動作した。
アタシはベンチに座って、適当にルービックキューブをガチャガチャやってみながら自分の現状を思い浮かべていた。
現状、アタシはすっかり人生の迷子ってやつだ。でも家庭に恵まれなかったわけではない。むしろ平均からはだいぶ恵まれている方だと自覚している。
アタシのご先祖は(といっても大昔とかじゃなく2代くらい前までは)、それはそれは立派な名家の出だったらしい。「メジロ家」と名付けられたその一家は、まごうことなきレースのエリートたちで、天皇賞を中心にGⅠを取りまくっていたんだとか。ばあちゃんが生きていたころはまだ権勢を保っていたらしいが、年々スピード化していく競バ界の変化についていくことができず、家は解散し「メジロ」の名は失われた――ってのが伝え聞いた話。
アタシが生まれる前にメジロ家はなくなってしまったから、これに限らずアタシのメジロ家に関する知識はすべて伝聞によるものだ。特に「メジロブライト」だかなんだかとその夫の、胸焼けするような甘ったるい愛の話はいろんなところで話題に上がって、何度も何度も聞かせられた。アタシとしては、どうぞお好きに幸せになってください、といった感じでオシマイ。
メジロ家の名前は失われたが、人々の記憶の中にメジロ家はしっかりと根付いている。アタシたちより寿命の長いヒト属の中には、メジロ家の全盛期を見たことがあるやつも未だ沢山いるからだ。たぶんアタシが死んでもまだいるだろうな。だから何かにつけて、もうなくなったはずの「メジロ家」のバックストーリーが、ゾンビみたいにアタシにもついて回る。
体がでっかくて、スタミナがあって、そしてものすごく強いけど怪我がちだったばあちゃんと、体が小さいけどやたらめったら頑丈で、レースに出まくった結果人々の記憶に残った母さん。
その二人の血を引くのがアタシってわけで、もう産まれた時点で「メジロ家の末裔」として生きることを宿命づけられていた。実際アタシは二人のいいところを面白いように受け継いで生まれてきたらしく、体はでっかくて、スタミナもパワーもあって、強いうえに体も頑丈ときた。だから周囲もありったけの期待をアタシに注いだ。
――いや、いまの言い方は正確じゃないな。
周囲は「アタシ」に期待はしていない。あいつらにとって用があるのは、アタシ自身じゃなくて、アタシの才能と、アタシがメジロの血を引いているって事実の2点だけだ。
どうやら世間は、メジロ家がなくなった今になってもなお、もう一度「メジロ」が走る姿を見ていたいらしく、デビュー前から「メジロ家が没落した後にゴールドシップが如何なる想いを秘め、トゥインクルシリーズを疾走るか」みたいなストーリーを周到に組み上げてやがった。
常識的に考えて産まれる前のことなんて思い入れの持ちようがないだろ、としか思わないのだが。家が続いていたのならまあそれに誇りを感じるようなこともあったのかもしれないが、知らぬ間に滅亡していて知識の上でしか知りようがない家のことまで、自分のことみたいに威張れるような厚かましさはあいにく持ち合わせていない。それなのに世間も、トレセンのトレーナーたちも、メジロ家の残党たちも、皆メジロ風味のストーリー仕立てでしかアタシを理解しようとしない。
もはや「アタシ」に用があるやつはこの世に存在しない。「有望なメジロ家の末裔」としての機能が求められているだけ。ただのキャラクター。誰にも求められていないアタシなんて、この世に存在しないのと一緒なのだ。
だからこのルービックキューブみたいな、居場所が無かったり、見捨てられていたり、そんなものたちを見ていると、少しだけ孤独が癒されたような気がするのだ。求められていないのはアタシだけじゃないと思えるから。
「――おい、君」
手の中で小さく収まっているアタシをいじくりまわしていると、男の声が聞こえた。
顔を上げると、そこには一人の男が立っていた。
「うげ」
男の胸元には、ピカピカのトレーナーバッジがついていた。
トレーナーか、こいつ。
男は、背が低かった。女のアタシよりも背が低い。トレーナーバッジを付けていなければ学生と言っても通用するくらいだろう。そのくせ背に見合わないほどやたらデカい縦長のバッグを後ろに背負っている。体も細っこいし顔も童顔なので、当然成人はしているんだろうが年齢の推測が難しい。
「君、トレセン生だろう。最近この辺で遅くまでふらついているみたいだが」
「指導か」
「まあそうしてもいい」
「暇なんだな」
「……反省の色が無いようで。じゃあ、お望みどおり指導だ――とはいってもただの指導じゃ君には効果がなさそうだから、『特別』指導をさせてもらおう」
「特別?尻でも出させる気か?」
「いや、尻たたき程度じゃ生ぬるい。俺も早く家に帰りたいから手っ取り早くいこうか」
トレーナーはそう言うと、背負っていたバッグを地面に下ろし、ジッパーを開け始めた。中にはプラスチック製の灰色の部品がゴロゴロと入っている。男は中身を一つずつ取り出しながら、慣れた手つきでそれらを組み立てていった。
「よし、できた」
目の前に立っている背の低い男はそう言い、完成したらしき何やら奇妙な灰色の筒を持っていた。その筒はマットなプラスチック製で、光をほとんど反射しない。男はそれを両手で慎重に支えており、アタシにはその全容が見えず、ただ不気味な存在感だけが際立っていた。
筒の一端がわずかに開いており、そこから暗く深い空間が覗いている。その穴が何を意味しているのか、アタシにはさっぱり分からなかった。それが何のための物なのか、その目的は完全に謎に包まれている。
「何だよ、それ?」
とアタシが尋ねると、男は静かに筒を軽く振った。その動作によって何かが筒の内部で微かに動く音がした。それは、まるで何かが待ち構えているかのような、ぞっとする感触をアタシに与えた。
「中身は何だと思う?」
「わかんね」
「なら教えてやろう――発射!!!!」
「は?」
男は筒の空いた方をこちらに向け、威勢よく叫んだ。それと同時にぼしゅっとした音が筒の内部から聞こえてきたと思うと、次の瞬間にはアタシの視界は白で覆われ、べちゃりとした何かが顔一面に張り付いてきた。
「お」
一瞬、何が起こったのか分からなかった。あまりにも突然のことで、思考が追いつかなかったのだ。だが遅れてやってくる刺激的な匂いと、顔を覆う不愉快な感触によって、アタシはようやく状況を理解した。
「わぶっ!ぺっぺっ!」
顔に張り付いたそれを剥がして投げ捨てながら、アタシは叫んだ。
「どーだ、特製クリームパイバズーカだ。しかも悪臭付き」
「なにしやがんだテメー!!」
アタシがそう叫ぶと、男は得意げな表情を浮かべて笑いやがった。背は小さいくせに、態度はやたらデカいやつだ。
「元気出たか?」
「ああん!?」
「悔しかったら捕まえてみろ」
「あっ、おい!!」
男はそう言い残すと、アタシを残して脱兎のごとく逃げ出した。アタシは顔にへばりついているクリームパイの残骸を払いのけると、男の後を追いかけた。
クリーニング代だってかかるし、そもそもいきなり顔面にパイを発射するってどういう了見だ。絶対にとっ捕まえてやる。
アタシは一心不乱に男を追いかけた。足の速さでウマ娘に勝てるヒトなど存在するわけもなく、あっという間に男の背中に追いついた。
普通に捕まえて問い詰めてもいいが、それではアタシの気が済まない。だからアタシは男の背中に向かって加速して――ドロップキックをヤツの背中にかましてやった。男はその勢いで吹っ飛んで行って、近くにあった公園の池に頭から突っ込んでいった。
アタシは池に沈んでいった男の元へ向かった。そして水面に浮かんでくるのを待っていると、男が手で水を搔きながら顔を出し、大きく息を吸い込んだのが見えた。
そしてこんなことを言ったのだ――
「うぶっ、良い脚力だ!!君、俺の担当になってくれ!!ごぼっ、べふっ」
なんだこいつ!?
それがトレーナーに対する第一印象だった。
ずぶ濡れスーツのチビ男と顔面にクリームをはりつけた女が、池の岸を境に向き合っている光景は、はたから見ればさぞかし滑稽に映ったことだろうな。
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あの後、「担当になってくれ!」、「いやだ!(わけわかんなくて怖いから)それよりクリーニング代出せ!」みたいな問答を小一時間は繰り返したと思う。
逃げるという手もないわけではなかったが、この場で相手をきちんと謝らせて、せめてクリーニング代を出させるまではアタシの気が済まなかった。
「すみませーん、実はちょっと通報があってですね。お話を伺いたくて……」
そういう訳で周りの目を気にすることも忘れて喧嘩していたわけだが、通行人にでも見られたのだろう、そのうち警察がやってきてしまった。
これはまずい。冷静になって考えてみれば、ウマ娘の脚力でドロップキックをした挙句池に突き落とすなんて立派な傷害だ。チビ男にそのことを話されたらアタシの競争人生はそこで終わり。
警察官たちは手帳をアタシたちに見せた後、無線を取り出してどこかと連絡を取りだした。
焦ったアタシは、このタイミングしかないと男の耳元でこう取引を持ち掛けた。
「おい、担当になってくれって話だったよな?」
「ずっとそう言ってる」
「まだ気が変わってないようで何より。なら担当になってやるからキックしたのは黙っててくれ。トレーナーと担当の悪ふざけってことで頼む」
この取引があっさり成立し、警察にはお出かけでふざけすぎてしまった、という風に話を合わせて、アタシたちは事なきを得た。
ともかく助かったということでアタシは胸をなでおろし、男と連絡先を交換してから帰宅した。
アタシはトレセン生の中では珍しいタイプで、寮に入っていない。だから帰宅と言っても、トレセンの外にある賃貸マンションに帰って、そこからトレセンに通っている。
アタシは足の踏み場を辛うじてのみ発見できるくらい散らかっているマンションの自室で一息ついた後、今日拾ったルービックキューブをがしゃがしゃ回しながら、改めてあのチビ男について考えを巡らせた。
「なーんか、変わったやつだったな」
そう、間違いなく変な奴だった。普通なら絶対関わりたくないタイプなのは間違いない。ただ――
「退屈はしなかったな」
同類探しに熱心だったアタシも、あの公園の中にいた間だけは、そんなことを考える余裕もなく、あれこれ警察の前で言い繕っていた。
もちろん警察のお世話になる状況が好ましいわけなどないのだが、それでも久しぶりに自分のみじめさを一時でも忘れることができたのは事実だ。
そんなことを考えていたその時――ふと視線を落とすと、手の中のルービックキューブが1面だけ揃っていた。
「あ?」
そろえる気もなく、ただ空回りさせ続けていただけの手慰みが、この時初めて秩序だったカラーを構成しアタシの目の前に浮上してきた。
――そろった
ふとそんな当たり前のことを思った。
何かがそろった。絵具で塗りつぶしたみたいなその単純なプラスチック製の表面は、天井の光を反射して冴えわたったみたいに、散らかり放題だった部屋の混沌をその身に吸収している。
パズルのピースが嵌ったように、アタシとこの小さな立方体の中で世界が収まった気がした。
それが何なのかははっきりとはわからない。あるいは本当に大事なものなのかどうかは、もっとずっと後にならないとわからないのかもしれない。ただその時、アタシは自分がどんなに惨めでも、世界とつながることがなくても、この小さなプラスチックの立方体の中で確かに何かが完結したような気がしていた。
ちぎられ、見捨てられ、そしてバラバラだったものが組み合わさって、初めて自分の輪郭を知ることができたような気がしたのだ。
「あははっ、何だよこれ」
アタシは笑い出した。何だかわからなかった。でも、とりあえず、アタシは嬉しかったのだと思う。
――この重さと、色と、手触りと、規則正しさ、その他この単純な立体を構成するあらゆる要素が、コスモスってやつを象徴しているんだ――
そんなバカげたことを考えてひとしきり笑うと、何だか気分が少しすっきりとした。そしてそのまま、アタシはまたルービックキューブを机に置き、そのまま眠りに落ちた。
その日は、居場所を見つけられたような、そんないい眠りをとることができた。
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後日、例の男とトレーナ―契約を済ませたアタシは、初のトレーナーつき練習に挑むべく、ジャージ姿でターフへ向かった。
既にトレーナーはターフにいて、何やら準備をしていた。
「おうトレーナー」
と声をかけると、トレーナーはゆっくりと顔を上げてこっちを見た。
「来たか、ゴルシ!じゃあ早速始めよう!」
トレーナーはそう言ってあるものをこちらに放り投げてきた。アタシはとっさにそれを受け取った。
「懐中電灯と……ヘルメット?」
「そう、今日のトレーニングは『トレセン天井裏のお宝さがし』だ。フクキタルってウマ娘がかつていたんだがな、そいつによると『エデン』なるものがこの世のどこかに存在するらしい。『灯台下暗し』ってことにならないよう、まずはトレセンから探索するぞ、一緒にな」
そう言ったトレーナーを見てみると、いつの間にやらトレーナーも黄色の工事用ヘルメットをかぶっていた。
「……???いや、わけわかんねえんだけど……」
「いいから行くぞ、来なかったらドロップキックのことばらすからな」
「ちょっ、待てって!」
そんなこんなで、なし崩し的にアタシたちは天井裏に潜入することになった。
トレセンの天井裏は、アタシが想像していたよりも汚らしくじめっとしていた。埃っぽいし、ところどころに蜘蛛の巣が張っている。まだ新しいトレーニング用のシューズを履いたまま来てしまったことを後悔したが、時すでに遅しだった。
「こんなとこ探してどーすんだよ、帰ろ-ぜ」
「まだ1時間もたってないじゃないか、そんなんじゃ菊花賞とかで最後まで走り切れないぞ」
「関係ねーだろ!」
トレーナーは懐中電灯を照らしながら、ずんずんと奥に進んでいく。アタシはそれに文句を言いながらついていった。
しかしあれやこれやと言い争っていて足元がおろそかになっていたのだろう、突如「バリッ」とした音が響き、片足が宙に投げ出される感覚があった。
天井を踏み抜いてしまったのだ。下の方から「キャー」だの「何!?」だのという悲鳴が聞こえる。まずい、と思っても後の祭りだった。
幸い踏み抜いてしまったのは片脚だけだったので、急いで脚を引き抜いて天井裏へとよじ登る。
「まずい!逃げるぞ、ゴルシ!」
アタシが天井裏によじ登ったのを確認するや否や、トレーナーは全速力でハイハイしながら元来た道を戻り始めた。
慌ててアタシもそれを追い、その日は何とか二人で逃げ切ることができた。
しかし天井を踏み抜いた足に履いていた、靴のかかとに書いてあったアタシの名前を見た人物がいたらしく、後日結局ばれてしまい、学園からトレーナーと一緒にしこたま叱られる羽目になった。怒られている最中はトレーナーはおとなしくしていたのだが、次の日にもなると
「こんなんで俺らは止まんねえからよ……だよな?」
「止まれ」
「俺はいいけどお前は止まるなよ!ゴルシ、お前はハジケリストになれ!」
みたいな具合で全く反省していないのが明らかになったのだった。
それからというもの、渋々付き合わされる形ではあるが本当にいろんなことをやった。
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・ケース1
「ゴルシ!餌付けてないのに何故か池の鯉が釣れちゃったんだ!お前の長靴に隠させてくれ!」
「返してこい!」
・ケース2
「今日はプレゼントをあげよう……ほら、化粧水」
「おお、ありがと。どういう風の吹き回しで?」
「たまにはいいだろ。自家製だ」
「自家製?……一応聞くけど、どうやって作ったんだ」
「トレセンの畑で育てられてるヘチマの汁をちょっと拝借して、その中にワセリンを入れた」
後日全てのヘチマにストローサイズの穴が開き、枯れているのが確認され、学園内でちょっとした騒ぎになった。
・ケース3
「菊花賞勝利おめでとう」
「ああ、ありがとう……わーい、わーい……そりゃあ!」
「ぶげっ」
「日頃の仕返し。思い知ったか」
「本当に久しぶりだな、ドロップキックは……。出会った時以来か」
「何哀愁に浸ってるんだよ!気持ちわりい!」
「菊花賞のアレといい、やっぱりタブーはヒトが作るものに過ぎないんだなって」
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本当に、本当に、本当にバカげた日々だった。そしてアタシは、こんな日々がずっと続けばいいのになんて考えるようにまでなっていた。
トレセンに行けばトレーナーがいて、トレーナーはアタシに色々なことをやらせようとする。まるでアタシがそこにいるのを確認するかのように。
アタシはそのたびに、またかよなんて悪態をつきながらも、何だかんだでそれに付き合ってしまうのだった。
その日々が続く限り、どんなにひどいことがあっても、たとえ行き場がなくなってもなんとかなると思えていた。
けれど、そんなわけには行かないから――終わりというものはやって来る。
トレーナーとの契約を続けて数年後、とうとう卒業の時がやってきた。
卒業式当日の朝早く、アタシとトレーナーは二人でトレーナー室にいた。荷物は全て昨日のうちに送ってしまったので、部屋の中にあるのは備え付けの家具だけだ。閑散とした部屋の中で、アタシはトレーナーの隣に座った。
しばらく無言で座っていたが、その沈黙に耐えられなかったのだろう。トレーナーの方から話しかけてきた。
「……卒業か」
その声には、少し寂しさが混じっているように感じた。
トレーナーは窓から外を眺めており、どんな表情をしているかはわからない。
アタシも外の景色を見てみた。いつもはうるさいくらいなのに、今日は風が強く吹いていてとても静かだ。
その静けさの中、アタシは口を開いた。
「なんだよ、シケた面して。らしくねえじゃん」
「……ゴルシも、もうわかってるだろ。あれは本当の俺じゃない」
「何のことだ?」
と、アタシは白を切ってみせた。トレーナーは少し間を置いてから言った。
「最初さ、ゴルシを見た時……寂しそうだった。この世に自分なんかいないんだ、ってくらい思いつめてるようだった。だから普通に接するだけじゃだめだと思ったんだ」
「……」
「だから、『道化』のふりをした。そうでもしないと、こっちと話してすらもらえないと思ったんだ」
「そうか」
「でも……そうやっていく中で、お前は本当の自分をさらけ出してくれたのにさ、俺は自分のことを隠して付き合うばっかりで、それが申し訳ないというか……卑怯だったような気がして……」
トレーナーの声は、どんどん小さくなっていく。最後の方はよく聞き取れなかったくらいだ。
アタシは、そんなトレーナーに向き直って言った。
「『本当の自分をさらけ出した』?……おいおい、お前、ゴルシちゃんのことを分かった気になってないか?」
「え?」
「あたしもなー!実は演技してたんだよ!」
「ええ!?いや、初めて会った時のあの顔とか演技じゃありえな……」
「うるせえ!じゃあ改めて本当のゴルシちゃんとして自己紹介するぞ!……ピスピース、ウマ娘の宣伝担当のゴルシちゃんだゾ☆」
アタシはそう言うと、トレーナーの目の前に立ちふさがって、ビシッとポーズを決めた。
そしてそのまま話を続けた。
「第一よお、『これで終わり』みたいな顔してるけどよー!まだ終わりじゃねえだろ!『エデン』がまだ見つかってねえじゃねえか!」
「いや、あれは方便というか、フクキタルが存在を主張していたのは事実だけど、彼女ちょっと狂ってるところがあって、本当にそんなものがあるわけじゃ……」
「うるせえ!アタシはまだ満足してねえから最後まで付き合え!」
アタシがそう言ってトレーナーを睨み付けると、トレーナーはまた小さくなった。ただでさえ小さい体がどんどん小さくなって、最後には消えちゃうんじゃないかとすら思った。しかしさっきのような悲壮感は無くなっているように感じた。
「『エデン』見つけたらさ、そこでアダムとイヴになろうぜ!アタシがイヴで、お前はアダムだ!」
「は?いや、えっと……。アダムとイヴの意味わかってる?」
「つがいだろ」
「いや、まあ……うん」
アタシはトレーナーの首に腕を回した。そして耳元でそっと囁いた。
「……嫌か?」
アタシはトレーナーの顔をチラリと見た。トレーナーの顔は真っ赤だった。
「アタシをこんなハジケリストに仕立て上げておいて、今更もらわないなんて言ったらぶっ飛ばすぞ」
アタシがそう言ってトレーナーの顔を覗き込むと、トレーナーは観念したようにひとつため息をついた。そして言った。
「わかったよ、俺はアダムだ!イヴのために最後まで付き合ってやる!」
「よし、それでこそアタシのトレーナーだ!」
アタシはトレーナーに回した腕にさらに力を込めた。そして、その腕をほどくと今度はトレーナーの頬に手をやった。
トレーナーがこっちを見た。
アタシはそっと目を閉じた――
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――少しの間をおいて、アタシたちは元居た位置に戻った。
そしてどちらからともなく笑い出す。それはどんどん大きくなり、しまいにはトレーナー室の中にアタシたちの笑い声が反響するくらいにまでなった。
ひとしきり笑って少し落ち着いた後、アタシたちは互いに向き合って言った。
「――よし、じゃあ早速『エデン』を探しに行こうぜ!」
「了解!」
「……っと、その前に。ほら」
アタシはそう言って、ポケットから取り出した例の物をトレーナーに向かって放り投げた。
トレーナーは見事にそれをキャッチする。
「これは……ルービックキューブ?」
「ああ、全部そろってるだろ――
拾い上げた当初はめちゃくちゃに混ざり合っていたルービックキューブは、今や規則正しく列が揃っていた。
このルービックキューブは、きっとアタシの象徴だ。
滅茶苦茶にちぎれ飛んでいたアタシの自我を、トレーナーはこうしてつなぎとめてくれた。
そして、アタシの象徴ってだけでなく、きっと
色も配置も何もかも違う、アタシたちみたいなバラバラな2つのもの。でもそれが少しずつ近づいていって……それでこうなったんだと思う。
だからきっと――アタシたちのピースも、きっと今ならぴったりとはまるはずだ。
トレーナーはそれを見つめてから、驚いたような顔をして言った。
それは久しぶりに見る表情だった
そうしてアタシたちは、二人並んで昼下がりの遊歩道を歩いていった。
この道のりは以前と違って漂流などではなく、目的地へと続く航路だった。
アタシたちはその航路を、しっかりした足取りで進んでいったのだった――
書くことないので、就活で体験した滅多にできない経験を共有します。
~最終面接にて~
私(最終なのにグループ面接か。まあ対策はしたし、相手より目立ってやる!)
面接官「では、一人ずつお伺いしますね。○○さんが学生時代力を入れたことは……」
私「(よしきた!)勉学に力を入れました!(以下ガクチカの羅列)」
私(相手は東大生だが、この質と量のガクチカなら、東大生とはいえ学業方面でそう簡単に負けることはないだろ!)
面接官「ありがとうございます。では、そちらの△△さん、同じように学生時代に力を入れたことを伺ってもよろしいでしょうか」
東大生「はい。私も学業に力を入れていまして……」
私(同じ方面か。しかしそう簡単に負けない量と質を持っているからな。お手並み拝見といこう(上から目線))
東大生「実は私、首席でして……」
私(一瞬にして自分がかませとなったことを理解する)
このあとはめっちゃすごい研究成果とか言ってました。
びっくりし過ぎて、この後自分が何を話したかとか、面接の内容をもはや覚えていません……