ウマ娘の寿命が現実の馬と同じ世界線の恋愛事情   作:daidains

4 / 21
自分の抜け毛見てこの話思いついて我慢できなくなりました。
イイハナシダナー
【追記】
私としたことが一番重要なことを書くのを忘れてました。
今日3/12はアヤベさんの誕生日です。
アヤベさん、誕生日おめでとうございます!


アドマイヤベガの場合

 三女神さまはちょっとやりすぎたのではないか――

 目の前に広がる平原が相応の美しさを持っていたのは事実だが、それでもそう思わずにはいられなかった。

 

 便宜上平原と呼ばれてはいるが、完全に平らというわけではない。なだらかな傾斜がうねりを作り、草花がさざ波を起こしている。()()()()()()()()()()()()()この場所では、風はまるで地球が呼吸をしているかのように、ささやかな強弱をつけながら悠々と草原を行き来していた。そして時折強めの風が「シーッ」と私たちに語りかけながら地表を撫で、周囲を黙らせてしまうような静寂を生み出す。静寂の中では、草原を横切る細流のブクブクした音、鳥の羽ばたきやさえずり、そして草が足元でザクザクとした音を立てるのが、やけに大きく聞こえた。

 

 私はその静寂を破らないように、ゆっくりと歩を進めた。空を流れる雲が、ところどころに影を落としながら通り過ぎていく。雲が流れていく先に目線を向けると、地球の丸みを感じられるほどに広がった草原のかなたに、なだらかな山岳がうっすらと姿を見せていた。降り注ぐ金色の太陽の光線が山の端を輝かせている。

 

 大草原を前にした私の胸には、穏やかな感慨、一方では胸をかきむしるような懐かしさが湧き上がっていた。

 もちろんこの場所に来たのは初めてだ。しかし、昔々私がここで走り回っていたことがあるような、そんな懐かしくも不思議な感覚が、全身を浸していた。

 ここで私は何をしていたのか。何を感じ、何に泣いていたのか。何も覚えていないにもかかわらず、私の魂が叫ぶように訴えてくる。

そして私はこの場所に、どこか切ないような、しかし温かいような思いを感じていた。この景色は私に何かを訴えかけている。それだけはわかるのだが、それが何なのかがどうしても思い出せない。

 私がぼんやりとそんなことを考えていると、背後から声をかけられた。

 

「どうだい、アヤベ。君たちにとっては原風景とでも言える風景だろう?」

「……ええ、少し圧倒されてしまったわ。こんな場所でキャンプできるなんて最高じゃない」

「俺も。何でもこの光景をみたウマ娘の中には、『前世』の記憶を思い出した、みたいな例もあると聞いてるよ。君は?」

「ニアミスね。私も何か思い出せそうな、そんな気がしていたの」

 

 話しかけてきたのは私の夫だった。

 彼は私が現役だった頃はトレーナーと担当バという関係だった。偶然が重なって出会った私たちは、私の家庭環境、「妹」の存在、人よりちょっとだけ多くねじれた私の運命など、さまざまなことが積み重なって、共に学生時代を駆け抜けることとなった。そして卒業と同時に私は引退。その後彼と結ばれて、双子を授かった。今は家族四人で共に暮らしている。

 他ならぬ私の娘たちもまた双子であるという事実には、運命的な何かを感じずにはいられない。その娘たちは、遠くの方で一緒に走り回ったり、交代でそりを引いて遊んでいる。私は娘たちの笑顔に目を細めた。娘たちは圧倒的な速度で日々大きくなっているが、この雄大な景色を前にすると、彼女たちの未来が無限に広がっていることを信じられた。

 

 彼は私の隣に立ち、私と同じように娘たちを見つめる。私達はそうして二人で大草原の前にしばらく佇んでいた。

 私と夫の間に会話はなかった。でもそれは気まずい沈黙ではなかった。むしろ居心地のいい、穏やかな沈黙だ。私はこの沈黙が嫌いではないし、おそらく夫も同じだろうと思う。私たちは黙って目の前に広がる光景を眺めていたが、やがてどちらともなく手をつなぐと、ゆっくりとした足取りで娘たちの方へ歩き始めた。

 

 大草原を歩く私と夫に、娘たちが気付いたようだ。二人はパッと顔を上げると、笑顔でこちらに駆け寄ってくる。

 

「ママ! パパ!」

「おとーさん! おかーさん!」

 

 娘たちが私の脚に抱き着いてくる。私は二人の頭をなでながら、しゃがみこんで視線を合わせた。

 

「そろそろ戻りましょう。二人とも楽しかった?」

「うん! たのしかった!」

「おねーちゃんと、かけっこしたの」

 

 二人は満面の笑みで答える。

 

「よかったわね。でももう夕方だから、テントに戻りましょう」

「「はーい!」」

「あと走って抱き着くのはダメよ。お母さんはいいけどお父さんは怪我しちゃうから」

「「はーい……」」

 

 娘たちは少し残念そうな顔をしながら返事をした。素直に言うことを聞いてくれたが、この様子を見るにまだエネルギーが有り余っているのだろう。きっとまだ遊び足りないはずだ。それなら……

 

「帰りはばんえいごっこをしましょうか。お父さんがそりに乗るから、二人で引っ張るの。どう?」

「さんせい!」

「やりたい!」

 

 娘二人はすぐに元気を取り戻してくれた。現金なところもあるけれど、子供はこれくらいの方が可愛らしいものだ。一方で夫は苦笑いをして

 

 「いや~……、お父さんは自分で歩くよ。みんなほどじゃないけど体力あるんだよ?」

 

と言った。

 

「あら、そう?」

 

 自分の子供に運んでもらうというのは彼のプライドが許さなかったようだ。外で娘たちの相手をしては、疲れ果ててしょっちゅう私におぶわれて帰宅するくせに、この期に及んでまだ父親としての威厳を保とうとしているらしい。

 

「うそだー。おとーさん、よわーい」

「よわーい」

 

 娘たちが容赦なく夫を煽った。彼はバツの悪そうな顔をしている。私は思わず噴き出した。

 

「言われてるわよ?」

「いや、その……、はい、言い返す言葉もゴザイマセン……」

「ふふっ、ごめんなさい。でも二人ともやりたがってるから付き合ってもらえないかしら?」

「……よし、俺は今からプライドを捨てる!」

 

 夫は苦渋に満ちた表情で宣言すると、子供たちに向かって手を伸ばした。

 彼は娘たちに軽々と持ち上げられて、そりに乗せられる。そして娘たちが全力で走り出すと、彼を載せたそりはものすごい速度で地面を滑って行った。

子供用のそりにちんまりと座った夫は、想像以上に間抜けな光景だった。彼は娘たちのスピードに悲鳴を上げ、そりから振り落とされまいと必死にしがみついているが、その姿はもはや威厳もへったくれもない。でも私はそんな彼の姿がおかしくて仕方がなかった。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。私はこの幸せな時間に感謝しながら、三人を追いかけたのだった。

 

 

******

 

 

 夜もすっかり更け、私は寝袋の中で子供たちの寝息を聞いていた。娘たちは遊び疲れたのか、今はぐっすり眠っている。

 私はテントの外に出て、夜空を見上げた。雲一つなく晴れ渡った空には満天の星が広がっている。昼間の暖かさとは打って変わって、冷たい風が私の体を撫でるが、その寒さも心地よかった。

 

 私は昼間の焚火の残骸をわきによけ、空いたスペースに薪何本か置いた。そして着火剤に火をつけて、火を大きくしていく。しばらくすると薪がパチパチと燃え始め、温かな火が安定した。娘たちを起こさないようにするため、ささやかな炎だが、暗い原野ではこれで十分だろう。

 私は折りたたみいすに座って、炎をぼうっと眺めていた。

 

「寝ないのか?」

 

 テントの方から声がして、中からのそのそと夫が出てきた。彼は目をこすりながら、こちらに近づいてくる。

 

「ええ、いい星空なの」

「そうか」

 

 彼はそう言うと私の隣に腰かけた。

 夫はしばらく黙って空を見上げていた。空は、無数の星がちりばめられた黒いベルベットのように見える。星々は遠い昔から変わらぬ輝きを保ちながら、我々の上に静かに広がっている。遥か遠くの星から放たれた光が、時を超えて私たちの目に届く。それは何とも言えない感慨深いものがある。

 

「なんだかこういう空を見ていると、自分って宇宙の一部なんだな、って思うよ」

 

 不意に夫が言った。

 

「ロマンチストなのね」

「まあな」

「でもわかるわ。自分がちっぽけな存在だと思えるけど、『この程度の存在でしかない』みたいな卑下する感情ではないのよね」

「そうそう」

 

 彼は少し恥ずかしそうに笑った。そして再び空を見上げる。私はそんな彼の横顔をそっと見つめた。

 彼の顔は焚火の光でゆらゆらと柔らかく照らされており、その表情には穏やかな安堵が浮かんでいた。夜の静けさがその安らぎを一層深めているように感じられた。私たちはそこに座っているだけで、時間がゆっくりと流れていくのを感じていた。星々が織りなす絶景に囲まれながら、世界がほんの少し停止したような錯覚に陥る。

 

「……仕事で大変なのにこんなに家族サービスさせてしまって、申し訳ないわ」

「いいんだ。俺も娘たちと遊ぶのは楽しいから。それに目を離すとあっという間に大きくなっちゃうからな。かわいい盛りを見逃すわけにはいかないよ」

 

 夫はそう言って笑った。

 

「それはそうね」

 

 私もつられて笑う。

 

「でも仕事が大変なのは本当でしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私はそう言って夫の頭に視線を送り、頭をポンポンと軽くたたいた。その手触りは依然と少し変わっていて、やはり少し薄くなっている気がする。

 彼はバツの悪そうな顔をして頭に手をやる。

 

「……いつから気づいて?」

「結構前からよ。お風呂場の排水溝に、痩せた短い髪が絡まっていたもの。大変なら休んでいいのよ」

 

 彼は観念したかのように、大きく息を吐いた。そして苦笑いを浮かべながら私の方を向いた。

 

「いや……その。言いにくいんだけど、たぶん仕事のせいじゃないんだ。たぶん単なる遺伝で……」

「あっ……」

 

 私は言葉を失った。そういえば、彼の父親も若い頃から髪が薄くなっていたことを思い出す。それを今まで全く考えていなかった自分に、少し後悔の念が湧き上がった。

 

「ごめんなさい、気にしていたのね。でも、私はそんなこと気にしないわ。あなたがあなたであることが大切だから」

 

 彼は私の言葉を聞いて、ホッとしたような表情を見せた。そして、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「ありがとう。本当に、その……うれしいよ。でも、ハゲを君に見られるのは正直嫌だな……」

 

 自分の失言を少しだけカバーできたと、私は内心でホッとしていた。でももう少しカバーしてあげよう。私はそう思って、彼にかける言葉を導き出すために、頭を高速で回転させた。回転させたのだが……今考えると、当時の私はどう考えてもテンパっていた。

 

「その、実際私に見られずに済むかもしれないわよ?よほど進行が早くない限り、あなたの髪の毛の寿命のほうが私の寿命より長いんじゃない?」

 

 夫は一瞬で固まって、言葉を失ってしまった。

 私はしまったと思ったが、後の祭りだ。彼がショックを受けていることが手に取るようにわかる。無理して失言を取り戻そうとしたばっかりに、さらに失言を重ねるという、最悪の結果を招いてしまった。

 私は何とかフォローしようと言葉を探すが、何も思い浮かばない。

 そしてしばらくの沈黙の後

 

「……確かに、そうなんだよな。わかっていた、わかっていたはずなんだ、君の寿命のことくらい。でも、老後まで君が一緒にいると思ってしまったんだよな……。アヤベのいない世界を考えたくなかったのかもしれない」

 

 彼の声は震えていた。夜風が焚火の炎を揺らし、その光が私たちの顔を暗がりの中で照らし出している。言葉にすることで、彼の中でずっと押し込めていた恐れが、やっと表面に現れたのだろう。

 

「ごめんなさい、そんな……思い出させてしまって。私……」

 

 私は言葉に詰まりながら謝った。心地よかったはずの夜の寒さが、私の心まで凍らせるようだった。

 

「いや、謝ることないよ。俺たちには時間が限られている。それを忘れないでいることが大切だから。だから、こんな時間が俺は本当に貴重だし、君との会話一つ一つが、宝物なんだ」

 

 夫はそう言って私の手を握りしめた。その手は冷たく、そして少し震えていたが、握り返すと彼の手は少し温かくなった気がした。

 私たちは、互いの手を握りしめながら、しばらく言葉を交わさずにいた。夜空の下、星々が輝き続ける中で、私たちの時間だけがゆっくりと、しかし確実に流れていく。そんな静かな時間が、私たちにとってどれだけの意味を持っているのか、改めて感じることができた。

 

「あのな、」彼が静かに言った。「いつか俺たちが一緒にいられなくなっても、お互いの心の中ではずっと一緒だから。それを忘れないでほしい」

 

「わかってる。私もずっと同じことを思っているわ」

 

 私たちは、お互いの目をじっと見つめ合った。その瞬間、互いの魂が深く結びついていることを、改めて実感できた。言葉にはできない、深い絆が私たちを繋いでいる。そして、その絆は、たとえどんな困難が待ち受けていようとも、決して解けることはない――根拠はなくても、彼の眼は私にその確信を与えてくれた。

 

「ありがとう、本当に」

「私もよ。あなたと出会えて、こんな家族を持てて、本当に幸せよ」

 

 焚火の炎が、私たちの周りを温かく照らし続ける。その温もりが、この冷えた夜空の下で、私たちの心を温かく包み込んでくれた。時々風が吹き抜けるたびに、星々がきらきらと揺れ動く。それはまるで、宇宙全体が私たちの小さな幸せを見守ってくれているようだった。

 

 やがて、私たちは互いに寄り添いながら、ゆっくりとテントへと戻っていった。寝息を立てる子供たちの横で、私たちはお互いを強く抱きしめ合い、深い眠りについた。

 

 夜が更けていく中、星空は静かに輝き続ける。

 

 

 

 

 その輝きは、私たち家族の小さな幸せを見守り続ける永遠の光だった。

 

 

 

 




アヤベさん(よし、最後はなんとかなった)


身近なところにアヤベさんみたいな人がいて、個人的にアヤベさんは思い入れが深いキャラなので、実はアヤベさんとトレーナーの過去編を書こうと思っています。

過去編に関しては寿命ネタはあんまり関係なくなってしまいますが……

活動報告でほんのちょっとだけうちのアヤベさんのヒミツを明かしておきます。
人によってはネタバレと思うかもしれないので見たい人だけ見てください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。