ウマ娘の寿命が現実の馬と同じ世界線の恋愛事情   作:daidains

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「アドマイヤベガの場合」をどうしてもアヤベさんの誕生日に間に合わせたくて、徹夜までして書いたのに「誕生日おめでとう」を書き忘れていました。ショック!

それはそれとして、セイウンスカイの妄想を活動報告のコメント欄で提供してくれた方、ありがとうございます!今回の話は妄想そのままの内容ではありませんが、かなり想像力を刺激してもらえました!


セイウンスカイの場合

 胸の中に、黒曜石が一つ。

 

 

 

 外からは見えないけれどもそこに存在し、鉱物(好物)だから掘り出せば出てくる。

 そして弄りすぎると鋭く割れてしまって、時には自分を切ってしまう。

 

 トレーナーに対する私の気持ちとはそういうものだ。

 

 自分が素直じゃないことは重々承知するところだが、トレーナーの前だとそれがさらに顕著になる。

 だからこの胸の黒曜石を割らないように、慎重に、丁寧に扱わなくてはいけない。最近は脳のリソースがそれにばっかり割かれてしまって、ほとほと疲れ果てている。だからついお昼寝してしまう。

 

「……イ!スカイ!トレーニングの時間だって!起きて!」

 

 聞きなれた声と共に、私の意識が現実へと引き戻される。

 

「ふああ……ありゃりゃ、寝ちゃってた?」

 

 目の前にはトレーナーがいた。どうやらトレーニングの時間になったので私を呼びに来たらしい。まだ重い瞼を擦りながら、私は声がする方向に目をやる。

 季節は春。桜が散り、新学期の始まりを迎える今日この頃。私が寝ていたベンチや制服の上にも桜の花びらが数枚落ちていて、地面は薄桃色で彩られていた。

 

「おはよう。……最近寝てばっかりじゃない?」

 

 トレーナーがしょうがないなあ、といった具合に話す。

 

「絶好のお昼寝日和って感じだからねえ~。『春眠暁を覚えず』って言うでしょ?」

 

 私はそう言いながらベンチから立ち上がり、制服についた花びらを手で払う。花びらはハラハラと落ちて行って、地面につくともはや元からあった花びらと区別がつかなくなった。

 

「それは昼寝のことじゃなくて、朝起きられないって話でしょ?」

 

 トレーナーが笑いながら訂正する。彼は私の言い訳を聞くと、いつもこんなふうに反応してくれる。彼の笑顔は太陽のように明るく、私の心の闇を照らし出す。その光が強すぎて、時には目を逸らしたくなるほどだ。

 

「朝起きるのも一苦労だけど、昼寝から起きるのも一苦労だよ~」

 

 私は笑い返すが、心の中では彼に対する気持ちをどう扱っていいのかわからずにいた。

 彼は私の返答を聞いて、さらに笑う。その笑い声が風に乗って、春の暖かさと共に遠くへと運ばれていくようだった。

 これまでに何度も挫折を経験してきたが、トレーナーはその笑顔でそのたびに私の心を救ってくれた。彼がいるだけで、日常が少し明るくなる。だが、その温かさが時に私の心の奥深くにある不安を呼び覚ます。彼に対する感情が強すぎて、自分でも制御できなくなるのが怖い。

 

「さーてと、今日はトレーニング頑張りますか」

 

 私は気持ちをごまかすように明るく振る舞う。ベンチの近くに置いていたリュックを背負い、トレーナーとともにターフへと歩いていく。

 

「おー!珍しい!」

 

 トレーナーが嬉しそうに笑う。私のこの明るさは表面上だけのものだということを彼は知らない。この気持ちに蓋をして、いつか開けることがなくなってしまえばいいのに。そう願いながら私はトレーニングへと向かった。

 

******

 

 トレーニングが終わろうとしていた夕方。私はトレーナーと別れ、更衣室へと向かっていた。辺りは物悲し気な夕日のオレンジに染められ、空や学園の壁が濃い陰影を描いている。この時刻、学園は静かで、人の気配が少なくなる。トレーニングの疲れと共に、心に溜まったものが、この静寂の中でより鉄のように一層重く感じられる。

 異常なまでの重さは、もはや圧縮されすぎて、本来の体心立方構造から六方最密構造に変化してしまった鉄のそれだ。足元に落ちた桜の花びらは、もはや春の終わりを告げ、次の季節への移行――出会いの季節の終焉――を否応なしに予感させてくる。

 

 実際私の出会いは終わったと言っていい。トレーナーと出会ったこと、そして彼が担当してくれたことは、これまでの私の人生にとって大きな転機となった。

 

 それこそ、私の人生に春が到来したかのように。

 

 しかし、その春ももう終わりを迎えようとしている。彼は何年も前から、私の知らないところでヒトの彼女と付き合っていた。ある日、ふと彼の左手の薬指にきらりと光るものを見つけてしまった。その意味を理解できない私ではなかったが、それでも信じたくなくて、一縷の望みをかけ、私はそれは何かと彼に問いかけた。

 

 彼は「ああ、実はね……。へへ、婚約したんだ」と言いいながらにへりと笑い、私にそれを見せてくれた。銀色のリングが今日みたいな夕日に照らされて輝きを放っていた。その時、私の春は終わった。

 

 ずっと一途に私のことを専属で担当してくれるものだから、勘違いしてしまっていた。私にも将来チャンスはやってくるのだと。釣り針を垂らして待っていれば、きっと、何時かは――そう思っていた。しかし、トレーナーはもうヒトのものだ。彼は私ではない誰かと結ばれる運命にあるのだ。

 

 私には今目の前で落ちている桜の花のように、風にさらされていつかは散っていく運命しか残されていないのだろうか。

 そう思うと、心の黒曜石がピキリと音を立てるのを感じ取った。

 

 実際、彼が人生の伴侶として同じ種族を選ぶことに何の不思議があろうか。仮に私がトレーナーと一緒になれたとして、私の方がずっと早く死んでしまう。人生の半分も一緒にいられないような奴が、生涯の伴侶足りえる資格などない。

 さんざん泣いたものだったが、そう言い聞かせて自分の気持ちに蓋をするしかない。そうでなければ、醜い私がドロドロと隙間から漏れてきてしまう。

 

 ゆらゆらと風に流される雲のような足取りで、歩を進める。走ることが存在意義の私たちが、よもや普通に歩くだけで苦労してしまうことがあるなんて。異常な疲労感を乗り越え更衣室にたどり着くと、他の利用者がいないことを確認してから、一人でシャワーを浴びる。落ち込んだ様子を他人に見られたくないからだ。

 

「ふう……」

 

 蛇口を開いている間、水の音だけがこの空間を満たす。トレーナーへの想いを、この水に流してしまえたらどんなに楽か。しかし、水は体の汗と疲れしか流してくれない。身を清めてもなお心の濁りは取ることはできず、私は諦めて着替えを持って更衣室を出た。

 

「あら、スカイさん」

「げ」

「『げ』とは何よ、『げ』とは」

 

 更衣室を出たところで、私はキングヘイローと鉢合わせした。彼女は私と同じ学年のクラスメイトで、同世代のライバルでもある。

 

「いや~、キングは今日もお美しいな~って」

「あら、そう?ありがとう」

 

 おだてれば大抵の事はうまくいくので、適当にあしらう。しかし、彼女はそれで機嫌を良くするタイプなので扱いが楽でいい。

 

「ところで、スカイさん。あなた最近ちょっとたるんでるんじゃなくて?」

「え?何が?」

「今みたいに私との会話も適当だし、授業も居眠りばかりじゃない」

 

 全然あしらえていなかった。私は粘り強くキングに対しておどけてみせる。

 

「にゃはは~、バレちゃった?キングにはお見通しか~」

「ちょっと!あなたね……!菊花賞でワールドレコードを出して、燃え尽きたんじゃないでしょうね」

「いやいや、そんなことないよ~」

「じゃあ、何なのよ。最近のあなたちょっとおかしいわよ」

 

 キングが訝し気に私を見つめる。私はその視線から逃げるように目を泳がせた。しかし、その行為は逆効果で、彼女の疑いの眼差しはより強くなっていく。

 

「ねえ、スカイさん」

「な~に?」

「……あなた何か隠してるでしょ?」

 

 そしてそのまなざしはいよいよ私をとらえた。しかし心の奥底にある黒曜石は、今触れられることを望んでいない。

 

「隠してることなんてないよ。ただの春バテ。季節の変わり目は体調を崩しやすいじゃん?」

 

 私の言葉は明らかに弱々しく、説得力に欠ける。しかし、キングはそれ以上突っ込むことなく、彼女はため息をついた。

 

「スカイさん……あなたが何か悩んでるなら、私には話せないの?私たち、友達じゃない」

 

 キングの言葉には、いつだって強さと温かさが含まれていた。その温かさは私にとって毒になる。心の黒曜石は、またピキリと音を立てる。

 ダメなんだよ、キング。ちょっとポンコツかもしれないけど、その頼りがいのある背中に甘えてしまったら、私はもう後戻りできなくなっちゃう。

 

 だから……。

 だから……。

 だから……。

 

「ありがとう、キング。でも、大丈夫。自分で何とかするから」

 

 私の返答にキングは少し悲しそうに見えたが、それ以上何も言わずに去っていった。私は一人残され、更衣室のドアをじっと見つめる。

 このドアは、きっと私の秘密の象徴。さっきまでこの向こう側に他人に見せられない私がいたように、心の鍵付き扉の向こうには、キングすら話せない秘密が詰まっている。トレーナーへの淡い恋心、そしてその恋心が報われないという現実。

 

 だからせめて私はこのドアに鍵をかけようと思う。それがどんな結末に至るとしても、私自身が壊れないために。

 

 

*******

 

 

 ドアの前でしばらく固まっているうちに、もうすっかり日は落ちていた。夕焼けは深い藍色に変わり、星が一つ、また一つと現れ始める。トレーニング後のこの時間はいつも、一日の終わりと共に何かを失ったような寂しさを感じさせる。

 

 寮への帰路につきながら、ふと空を見上げる。星々が静かに輝いている。これらの星の光は、遥か昔からのもので、時を超えて私たちに届いている。トレーナーへの私の感情も、この星の光のように、時が経っても変わらずに輝き続けるのだろうか。その最期が超新星爆発やらブラックホールやらでないことを祈るばかりだ。

 しかし、その光は彼には届かない。ただの一方的な輝きに過ぎない。夜の闇の中で、星々は静かに私の孤独を映し出している。私の感情は、遠い宇宙の星のように、美しく輝きながらも、永遠に手の届かないところにある。

 

 家に着くと、私は自室のベッドに横たわり、天井をぼんやりと見つめた。部屋の中は静かで、外の世界から切り離されたような感覚に包まれる。私の心の中では、トレーナーへの思いが渦巻いている。でも、それを誰かに話すことはできない。この感情は、私だけのもの。私だけが知る、更衣室に封印してきた秘密。

 

 トレーナーへの恋心は、時間が経つにつれて、より深く、より複雑なものになっていく。彼の笑顔、彼の声、彼の優しさ、それらすべてが私の心を締め付ける。これが恋愛なのだろうか。少なくとも、少女漫画で見るような恋愛とはかけ離れていることは間違いない。

 

「……イト!ブライト!門限に遅れちゃうって!」

「トレーナーさま~。でも後3分はありますわ。もう少しご一緒に……」

「俺も一緒に居たいけど、明日の楽しみってことにしとこう、な?だから今日はもう……」

 

 ふと窓の外から、ウマ娘の声とトレーナーの声と思しきものが聞こえてきた。重い体をのそりと起き上げ、何事かと窓の外を見てみると、そこにはメジロブライトとそのトレーナーの姿があった。

 メジロブライト――一学年上の先輩で、メジロ家ののんびりお嬢様――が、トレーナーの腕に抱き着いている。トレーナーは困ったように笑いながら、彼女に帰宅を促しているように見える。まさに少女漫画の光景だった。

 その光景を目の当たりにした瞬間、私の中で黒い感情が一気に膨れ上がるのを感じた。心がざわつき、どす黒い感情が自分の中を支配していくのがわかる。

 

「……ずるい」

 

 私はその感情に抗うことができずに、ただ窓の外の二人を見つめるしかなかった。

 

 見たくないのに目が離せない。その瞬間、窓ガラスは冷たく、私の心の寒さを映し出しているかのようだった。トレーナーとメジロブライトの間に流れる、見えない何かに私は届かない。私の心はその場にいながら、遠く離れた場所に置き去りにされた感覚に襲われる。

 その感情はまるで、深い霧の中に一人で立たされているような寂寥感。彼らの笑顔や声が遠く霞む中、私の中の黒曜石は更に深く、鋭く私自身を切り裂く。彼らが交わす笑い声や軽い冗談が、遠い世界の話のように感じられる。

 

 私には、その世界に参加する資格も、方法もないのだ。

 

 

******

 

 

 結局私が一番欲している方法論が欠けたまま、それでも時は流れる。季節は変わり、桜の花びらが散り、新たな花が咲く。季節は夏になった。

 私たちの関係は変わらない。彼は私のトレーナーとして、私は彼の教え子として、それぞれの役割を果たすだけ。彼の人生において、私はほんの小さな一部でしかない。そして、彼がいつか誰かと幸せになる姿を、遠くから見守ることしかできない。

 その遠くから見守るという決意は、私にとっては苦痛でありながらも、同時に一種の慰めでもあった。彼の幸せが私の幸せだと自分に言い聞かせる日々。それはまるで、遥か彼方の星に願いをかけるようなもの。手の届かない場所から、ただただ彼の光を眺める。

 

「……で、どうかしら?」

「あえ?」

 

 私はキングの呼びかけに、思わず間抜けな声で答えてしまった。その反応に彼女は不満そうに答える。

 

「もう!またぼんやりとして……!」

「ごめんって~。何の話だったっけ?」

「この応援服の話よ。どうかしら、キングにふさわしいと思わない?」

 

 そう言うと彼女は、手に持っていた白を基調とした応援服を広げ、自信満々な表情で私を見つめる。伝統的な学生服スタイルを大胆にアレンジしたそのデザイン――直立した上着の襟と、太陽光を反射して金色に輝くボタンは、「キング」らしい威厳と気高さを感じさせる。

 

「いいじゃん。それにしても大胆にイメチェンするね~」

「そうね。スカイさんもたまにはどうかしら?」

「遠慮しとくよ。現状維持でのんびりと~って感じがいいかな」

「『現状維持』、ね……そう言って、どれだけの時間が経ったの。スカイさん、まだ悩んでるわよね」

 

 キングの言葉は鋭く、私の心の奥深くをえぐるようだった。彼女の目は、私の心の中を見透かしているかのように感じられる。

 

「悩んでなんかないよ。ただ、考え事が多いだけ」

 

 私は強がってみせるが、キングは納得しない表情を浮かべる。

 

「スカイさん、いつまで自分をごまかしてるの?私は友達として心配してるのよ。あなたのことを大切に思っているからこそ、はっきりと言わせてもらうわ。そのままではあなたは幸せになれない」

 

 彼女の言葉は心に刺さり、一瞬で私の防御壁を崩す。キングはいつも私のことを思ってくれている。そんな彼女の前でさえ、私は自分の本心を隠し続けてきた。

 

「でも、どうすればいいの?私にできることなんて、もう……」

 

 私の声は震え、言葉は途切れがちになる。キングはそんな私をじっと見つめ、やがて優しく話し始める。

 

「自分自身を大切にしなさい。あなたが持っている想い、それがどれだけ辛くても、その想いを大切にしながらも前に進む勇気を持つこと。トレーナーさんへの想いが叶わなくても、あなたにはあなたの人生がある。その人生を自分のために生きる勇気を持って」

「……トレーナーのこと、気づいていたの?」

 

 私が驚いて問いかけると、キングは優しく微笑む。

 

「見てればわかるわよ。私達、親友じゃない」

 

 その微笑みは、太陽が雲を突き抜けて地上に光を降り注ぐように、私の心に温かな光をもたらした。長い間、自分の中に閉じ込めてきた想いが、キングの言葉によって少しずつ溶け出していくのを感じた。彼女の存在――友達以上、仲間でライバル――が、私にとってどれほど大切なものかを、この瞬間になってようやく理解した。

 

「ありがとう、キング。本当に……ありがとう」

 

 私は涙がこぼれ落ちるのを感じながら、心から感謝の言葉を伝えた。キングは優しい目で私を見つめたまま、静かに頷いた。

 

「いつでもここにいるわ。何があっても、あなたのそばで支えるから。私はスカイさんの応援団でもあるのよ」

 

 その言葉を受けて、私は初めて心の重荷が軽くなったように感じた。長い間自分の中に抱えていた黒曜石が、キングの言葉によって少しでも温かみを帯び始めている。それは、私の心の中で何かが変わり始めている証拠だった。

 

 

******

 

 

 季節は夏から秋へと移り変わり、学園の周りは豊かな紅葉に彩られていた。私たちのトレーニングも、季節の変化と共に新たなステージへと進んでいった。トレーナーは相変わらず私に厳しく、時には優しく指導をしてくれた。彼の存在は私にとって変わらず大切なものであり、彼への想いも変わらずに存在していた。しかし、キングとの会話から得た感覚は、その想いを少し違う角度から見ることを可能にしてくれていた。

 

 私は自分の感情と正直に向き合い、少しずつそれを受け入れていった。トレーナーへの未練があることを否定せず、それでも自分の人生を歩んでいく――そういう勇気を持とうとしていたのだ。

 

 トレーニングが一段落したある日の放課後、私はキングと一緒に学園の敷地を散歩していた。紅葉の木々は、まるで私たちの未来に対する希望のように輝いて見えた。

 

「スカイさん、最近変わったわね」

 

 キングの言葉に心から同意する自分がいた。紅葉の葉が一枚一枚、変化の美しさを教えてくれるようだ。それは、自分自身の内面でも起こっている変化と重なり合って見えた。

 

「うん、本当に。驚くぐらいにね。変わり始めている気がするよ」

 

 私たちはゆっくりと歩きながら、周囲の景色に目をやる。この瞬間、心が平和でいられることに感謝した。キングとの友情が、その変化の一部であることを深く感じていた。

 

「それって良い変化だと思う?」

 

 キングがそう尋ねると、私はしばらく考えた後、確信を持って答えた。

 

「もちろん」

 

 紅葉が庭を彩る中、私たちは言葉を交わしながらゆっくり歩いた。私の中で何かが変わりつつある――それは痛みを伴う変化ではあるけれど、成長の証でもあった。

 キングは納得したようにうなずき、ふっと柔らかい表情を浮かべた。

 

「私からもそう見えるわ」

「キング、これからもよろしくね」

「なによ、改まっちゃって、らしくないわね」

 

 私たちの笑い声が秋の空気に溶け込んでいった。

 

 学園の門を出るとき、私は深呼吸をした。新しい自分に向かって一歩踏み出す勇気を感じながら、空を見上げる。空は広く、限りない可能性を秘めている。私の未来もまた、そんな雲の浮かぶ青空(セイウンスカイ)のように無限の可能性を秘めている。

 

「……本当にありがとう、キング」

 

 私はそうつぶやかずにいられなかった。

 

「当っ然よ。応援服は脱いでも、まだ応援団を引退したつもりはないわ」

 

 そう言ってキングは、力強く肩を叩いてくれた。

 その一瞬、心の中の黒曜石が、最後の一片を輝かせるような気がした。

 

 それは決してもう私を傷つけるだけものではない。

 

 

 

 ただ深い愛と記憶を秘めた宝石となって、私の心の中で静かに輝き続ける。

 

 

 




セイウンスカイって本当に報われない恋をしている姿が似合いますね……。
うじうじしている姿を書いていると、ついつい筆が滑りすぎてしまいます。

ところで鉄のたとえの描写についてなんですが、鉄が体心立方構造と面心立方構造だけでなく、六方最密構造をとることもあるというのは、ジェンティルドンナの「アレ」がきっかけで知りました。
なんでも地球内部の核とかではそういう状態になるらしいですよ。ジェンティルドンナなら、にぎにぎするだけで実現してしまえそうですね。
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