ウマ娘の寿命が現実の馬と同じ世界線の恋愛事情 作:daidains
活動報告で募集しているリクエストにお応えして書きました。
あまりにも解像度が高い想像だったので、ご本人の書いたバージョンも読みたいな、などと正直思いつつ、私なりの作品化をしてみました。
ウマ娘やトレーナーの一人称でもなく、また彼らを観察した三人称でもなく……珍しい形式に挑戦しました。
リクエストなさったご本人が、通常の形式で作品化できる余地を残しておきたかったからです。
独自設定が過ぎるかもしれませんがお許しください。
【追記】
非常に嬉しいことに、ある方がこの話の別視点バージョンを書き始めてくれました!
本人の希望で宣伝はしませんが、良く似た話を見つけてもそれは公認済みですのでパクりではないということにご注意ください。
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想像してみるがいい。
口に出すことはもちろん、どこにも投函されず、送信もされず、受け手を失って、どこかをさまよい続けている言葉の数々を。
それは嫉妬であったり、羨望であったり、怒りや悲しみであったり、およそ人間の持つ負の感情と呼ばれるもの――つまり、人に伝えるべきではなかった言葉かもしれない。
もしくは逆に、
不思議ではなかろうか?
言葉の本質というのは、人々の間を取り持つことであって、それには送り手だけでなく受け手が必要とされるはずだ。
では受け手を失い、宙をふわふわ漂い続けている言葉の数々は、一体どこの誰が受け取っているのだろう?
少なくとも、そういう言葉たちを保管してくれる、例えるならばアーカイブの役割を果たす「何か」が絶対に存在しなければならない。
最近はSNSがはきだめのいくらかを健気に処理し続けているが、それだけでは到底全世界の人々の言葉を抱え込むには足りるはずもなかった。
さて、答えを言ってしまえば、そうした受け手を求める言葉の行きつく先というのは、他ならぬ三女神たち――電子機器内の疑似的再現の存在などではなく――どこかからウマ娘たちを見守り続ける、ほんとうの神様たちなのだ。
三女神たちは、漂流の末、とうとう自分たちのいる天界にまで流れ着いてきた、ありとあらゆる言葉を今日もせわしなく読んでいた。
特に4月は忙しい。
宛先を失った言葉だけでなく、直接自分たちに宛てられた言葉が、大量に差し向けられるからだ。
この時期は自分たち宛てのメッセージを読むのに忙しすぎて、受け取り切れない宛先不明の言葉たちが、すっかり彼女たちのわきに積みあがってしまう。
彼女たちは、下界の人間たちに対して、祈るのをやめてほしい、とずっと願っていた。
なぜなら彼女たちにできるのは、その祈りを受け取ることだけだから。
彼らがどれだけ真摯な祈りを捧げようとも、願いを叶えることも、許しを与えることも、何もできない。
自分たちを称賛して彼らが死んでいくのをただ見ることしかできない、彼女たちはそんな無力な存在だった。
とはいえ人類は彼女たちに感謝しなければならない。
もし仮に、彼女たちに力があったらならば、彼女たちはこのうんざりした状況を消し去るため、すぐにでも下界を大洪水できれいさっぱり洗い流してしまうに違いなかった。
人類が今日まで生存してこれたのは、ひとえに彼女たちの無力のおかげだったのである。
「正直言って、もう読みたくないわ」
「私もよ、休む時期くらいほしいもの」
「ボクもそうさ。でもやらないと、ボクたちの住むスペースがなくなっちゃう」
閑散期となった今、彼女たちはようやく一息ついて、積みあがったメッセージの束に目を向ける時間的な余裕が生まれていた。
彼女たちはしかたなく、束を上から一つずつ手に取っていった。
《私は、彼の自由意志を無視して、彼を自分たちの元へとどめおくための画策をしている。利己的で、身勝手で、狂人めいた私たちのそばへ》
《ああ、なぜ君はこんなにも早く死んでしまったのか。その覚悟を固める時間さえもないなんて。君がいなくなっても、私の思いは消えない。どうすればいいというのだろう?》
《私は理想を追いかけるあまり、大切な娘の幸せを叶えることができなかった。悔やんでも悔やみきれない。あの子に謝りたい。もう一度やり直したい》
《ボクは人を誘拐したことがある。その罪を犯した手で、何食わぬ顔をして、たいせつなものへ触れている。神様が知ったら、きっと許しはしないだろうな》
とにかく終始このようなありさまで、届く言葉というのは、たいていどれもこれもが、後悔や懺悔、そして誰かを思う気持ちに溢れていた。
三女神たちはその宛先不明のメッセージたちを、雑に読み解いては分類していった。
「どこかで見たような言葉しかないわね」
「仕方ない。だってみんな、こんなにも思い詰めて生きているんだもの」
「でもたまには美しい言葉も読みたいね」
三女神は諦めて、次の束に手を出した。が、ルーズリーフ状の紙に書かれた次の言葉が、彼女たちの目を引いた。
《あなたが自分より先に逝くなんて。アタシは愛するあなたを、あなたの死にゆく運命を、どうして見過ごしてしまったのか。あなたと結ばれたかった》
三女神は顔を見合わせた。メッセージの送り手は、あるウマ娘だった。
差出人の名前を確認してみると、「ナイスネイチャ」と書かれてある。
「めずらしいわ、ヒトじゃなくてウマ娘のほうが遺されるなんて」
「たしかに。逆のパターンならいっぱい見るけど」
「あれ、ボクこの名前に見覚えあるかも。お相手の男のヒトのメッセージだった気がする。ちょっとまってて」
三女神の一人はそう言うと、処理済みの言葉の海に飛び込んで、ガサゴソと音を立てはじめた。残りの二人も、この差出人が気になっていたので、じっと待機するだけではじれったくなり、三者三様のやり方で捜索を開始した。
「これ?」
しばらくの後、処理済みの言葉の海から、一通の紙片が引き揚げられた。続いて、残りの二人も、それぞれ一通ずつ、それらしいメッセージの束を見つけてきた。三女神たちはそれぞれの束をテーブルに広げて、差し出された日付を確認すると、それを時系列順に並べていった。
整理が終わると、三女神たちはその紙片を囲んで覗き込んだ。一番最初の束には、次のような言葉が書かれていた。
《僕は誰よりもネイチャが強いのだと信じている。君は自分のことをブロンズコレクターと揶揄するが、僕はそんな君を、決してブロンズになんかしてやるものか。もう君は既に僕の一着なのだから。学生と指導者という、決して交わってはいけない関係だが、この気持ちを抑えられない。君が好きだ。この言葉を、口にしてよい時が、いつかやってくるのだろうか》
「あら、結ばれないっていうから片思いかと思ったら」
「昔から両想いだったんじゃない。ロマンチックだわ」
「じゃあなんで結ばれなかったんだろう?」
三女神たちは首を傾げながら、次の束に手を伸ばす。日付は最初の束の何年か後になっていた。
《トゥインクルシリーズとドリームトロフィーリーグを共に駆け抜けた君と過ごした日々は、僕の人生の中でもっとも輝いていた。今日、すっかり立派な一人の女性となった君は、トレセンを去る。僕はせめてこの言葉を伝えたかった。が、僕はどうしようもないヘタレで、結局言葉にすることはできないまま、君を見送ることになってしまった。いつかまた、会える日が来るのだろうか。もし、会えたなら今度こそ》
「お互い告白できなかったのね」
「しっかり伝えてほしいわ。誰にも言わないと結局ここに来ることになって、私達の仕事が増えるから」
「まったくもって同感だね。じゃあ、次」
三女神たちは最後の束に手を伸ばした。すると、これまた日付は二つ目の束から数年後となっていて、ナイスネイチャからのメッセージの日付の直前であることがわかった。
《僕はもうすぐ死ぬ。交通事故だ。こんな不慮の事故で、結局言いたいことも言えないまま、ネイチャを遺して逝ってしまうなんて。僕は本当にダメな男だ。でもこれだけは信じてほしい。僕はネイチャが誰よりも強いと知っている。僕が死んでも、君はきっと強く生きていけるはずだ。……でも、届かないとわかっているけど、できることなら最後に、僕の気持ちを伝えたい。今なら言えるんだ。君が誰よりも好きだって》
「死んじゃった」
「ヘタレ男。さっさと伝えなさいよ」
「ボクたちにこれが届いてもねえ」
三女神たちは、すっかり呆れ返ってしまい、ナイスネイチャとこの男のことなどすっかり忘れてしまおうとした。せっせと自分たちの仕事を増やすだけの、下らぬ存在として。
しかしその時、新たに天界まで届けられたメッセージが、彼女たちの興味を惹くことになった。その表面には、見覚えのある筆跡で、差出人のところに「ナイスネイチャ」と記されていたからだ。しかもその装いは正式な手紙のそれで、最初のルーズリーフとはまるで見た目が異なっている。最初のメッセージが、誰に伝えるでもない思考の断片として記されていたのに対して、こちらは明確な送り先が定められているようだ。しかしここに届いたということは、メッセージの受け手がいないことを意味している。
三女神たちは不思議に思い、最後にもう一度だけ、彼らの言葉を読んでみることに決めた。
そこには、にじんだ文字で、しかし力強くこう書かれていた。
《トレーナー、今まで本当にありがとう。アタシをここまで強くしてくれて、ありがとう。トレーナーのおかげで、本当に幸せだった。そして、できることなら、これからもずっと一緒にいたかった。でもあなたは先に逝ってしまった。決めたよ、アタシはあなたの分まで強く生きていくって。だから、さようなら。もし、天国でまた会えたら、今度こそ絶対好きって言うよ》
「だ、か、ら!ここに届いても仕方ないでしょ。さっさと言いなさいよ、もう!こいつら基本全部遅いのよ」
「まあ、相手がいないからこそ言えることもあるのよ。きっと」
「伝えられなかった言葉にこそ、意味があるのかもね」
三女神たちはしばらくの間、そのメッセージを眺めて、やいやいと思い思いのことを口に出していたが、やがて飽きてしまったのだろう。ほかのメッセージたちと同じように分類し始めた。
やがて時は巡り、また季節も変わる。
三女神たちは、今年もまた送られてくる言葉たちをせっせと分類し、仕分けする作業に没頭していた。そして、またある一通が、三女神たちの目に留まる。
「ねえ、みて、この手紙。珍しいわ、こんなにしっかりしてる」
「ほんとうだ。だけど見覚えある気がするわ。何十年か前、どこかで見たような」
「名前は……『ナイスネイチャ』か。ああ、あの両想いなのに結ばれなかった人たちだよ。思い出した」
手紙の装いは数十年前のナイスネイチャのそれだったが、差出人の筆跡はだいぶ弱弱しくなっていて、字を読むのに多少の労力が要る。しかし、最後の力を振り絞るようにして書かれた文字は、むしろ彼女たちの興味を引いた。
「読んでみて」
三女神たちは、ナイスネイチャの手紙を、小さな折り目すらつけることを許さないといった手つきで、丁寧に開封した。いつもは雑に取り扱っているが、その特別な装いをぞんざいに扱うのも気が引けたからだ。
そこには、こんな言葉が綴られていた。
《トレーナー、アタシ、頑張ったよ。トレーナーみたいにレース界に貢献するために、いっぱい、いっぱい頑張った。全部やり切れたわけじゃないけど、ひとまず目標達成かな。ねえ、びっくりすると思うけど、アタシ、35歳になったよ。すごいでしょ?人間換算なら100歳越え。もう立派なおばあさんだよ。だから、そろそろ会いに行ってもいいよね?会えるのが本当に楽しみ。トレーナー、ずっと大好き》
「あら、こっちも寿命か」
「天国で結ばれるといいわね。あるかどうか知らないけど」
「まあ、この人たちからのメッセージはこれでもう終わり。さあ、残りを片付けよう。今日も仕事だ」
三女神たちは再び宛先不明のメッセージを読む作業へと戻り、やがて、その手紙のことは忘れてしまった。
そして三女神たちは、今日も言葉を受け取り続ける。
愛、悲嘆、怒り、せつなさ、劣等感、軽蔑、感謝、希望、絶望、後悔。
ありとあらゆる言葉が彼女たちのもとに届けられる。
そのすべては宛先不明で、しかし三女神たちは、それをただ受け取り続けるのだ。
いつの日か、それらの言葉がしかるべき相手と巡り合う世界になりますように――
そう祈りながら。
これまでの作品と比べて、この作風、アリ?(各話で結構作風変わるので、皆様の好みを確かめてみたい)
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