「さてと、リコ君達が戦いから戻ってきた時に備えて、救急箱を用意するから僕は奥に居るね」
四人がロボッターの元へと向かった後、マスターはゆっくりと席を立ち、店の奥へと姿を消した。
非戦闘員の上に弱いマスターではあるが、桃達が戦っている中、後方で指を咥えて眺めるなんてのは嫌である。しかし自分が戦いに行っても、足手まといになる以上はあすらで待つのが自分のすべき最善の行動である。
「シャミ子、桃達が戻るまで少し休んだらどうだ?」
「…………」
シャミ子はずっと下を向いて暗い顔をしている。リリスが心配そうに声を掛けるが、返事をせずに机に視線を向けたまま動かない。
「カズマさん」
「どうした?」
「もしかして桃は、死ぬつもりでしょうか」
「さぁな」
カズマは適当に言葉を濁しているが、既に桃が何をしているか察している。わざわざここにシャミ子を残したこと、街を任せたと言っている辺り、シャミ子の言ったことが的を得ているだろう。
「私はただの足手まといなんでしょうか」
「戦闘力として見ればな」
なんとかの杖を含めたら戦えはするだろうが、肉体的に見ればシャミ子はカズマより弱い。そのカズマでさえも桃が肉体のスペックでは付いていけないと判断したため、カズマより弱いシャミ子が戦うのは無謀である。
杖さえなければシャミ子の肉体は小学生レベルである。そんなシャミ子が戦えるだろうか? 否、ハッキリと無理と言えるだろう。
「……ご先祖! 私に能力を使わせてください!」
「待てシャミ子! 余がサポートするとは言えど、何が起こるか分からない以上それは無謀だ! 下手したらお主が」
「でも桃達を放ってはおけません!」
シャミ子は我慢ならず、リリスに能力を使う許可を貰おうとしたが、リリスはすぐに駄目だと釘を刺した。
リリスも夢魔の一族であるためシャミ子と同じように、無意識に侵入する能力は持っているが、封印されているため出来るのは、侵入したシャミ子のナビゲートと言ったサポートが限界である。
つまりはシャミ子が一人で無意識に侵入して、どうにかする必要がある。しかし何があるか分からない以上、もしかしたらシャミ子が侵入したまま、一生抜け出せなくなる可能性もあるかもしれない。
当然だが、何事もなく無意識に侵入して、意識を操って活動停止に出来る可能性も存在はする。尤も、リスクが高すぎるではあるが。
「ここは一度冷静になって小倉に相談するのはどうだ? あやつなら封印の一つや二つ、知っているかもしれないぞ!」
「もし無かったら? 無かったら桃達はどうなるんですか?」
「シャミ子……」
小倉しおんはよく御先像を盗聴しているため何か問題が起きた時の状況は大体知っており、ばんだ荘の屋根裏に住んでいるため居所も分かる。しかし今此方の状況を把握しているのか、どうにかする方法を持っているかは別の話だ。
あすらに顔を出さない辺り、あすらの場所が分からないか、どうにかする方法の準備が終わってない、または状況を未だ把握してないのだろうか。なんにせよ、ここに居ない人物を頼ろうとしても話は進まない。
「カズマさん。私の意識が戻らなかった時に備えて、先に元の異世界に帰しますね」
マナタイト擬きをシャミ子に使い、なんとかの杖を世界を渡れる杖に変形してもらって異世界に帰還する。そういうプランであり、シャミ子が帰らぬ魔族となればカズマの帰る道は無くなる。
なのでシャミ子が帰らぬ魔族となる前に、杖を使ってカズマを帰還させるのは良い判断と言えるだろう。シャミ子が自分が死ぬかもと覚悟を決めている点と、ロボッターの問題が解決していない点を除けば。
「おい待て優子」
「良いんです。あの機械はカズマさんの世界から来たものですが、カズマさんは関係無いですからね。この街で起きた問題は、この街の住民が解決すべき問題なんです」
恐怖で手が震え、ポロポロと涙が溢れるが必死に耐える。自分はこの街のボスだ、ボスが自分の住んでいる街を守ろうとしないでどうすると、震える身体に鞭を打って喋り続ける。
「ご先祖、もし私の意識が戻らなかったら、桃の事をお願いしても良いですか?」
「早まるでないシャミ子!」
「嫌です! 桃は私が桜さんのように消えてほしくないと思ってあんな態度を取ったんだと思いますが、私も桃が消えたら悲しいんです!」
桃は桜が居なくなって十年、桜の手がかりを探し続けていた。桃に血の繋がった親族は居ない、唯一の家族は義理の姉である桜だけであった。
そしてその桜を探す過程で、シャミ子と出会った。そこから知り合いが増えていき、いつしかシャミ子のご飯を食べるのが当たり前の日常となっていた。
クールに見えてネコ科に目が無く、大抵の問題事は筋肉で解決しようとする、ちょっと不器用な桃。彼女はきっと不器用ながらも、シャミ子を戦いから遠ざけて守ろうとしたのだろう。そんな不器用な行動をシャミ子は分かっていた。分かっていて見逃せなかったのだ。
友達が頑張っているのに、観戦なんか出来ない。自分も出来ることをしたいと、胸の内を全てを話すシャミ子。そうして全て話し終わり、カズマの方を向いた。
「カズマさん。異世界に帰っても、すぐ私の元に来たりしないでくださいね
「ですから……カズマさん、さようなら」
誰がどう見ても無理をしているのが分かる。魔族と言えども、シャミ子は命をやり取りをしたことが無い、ただの高校一年生である。それでもカズマに心配は掛けさせまいと、今にも泣きそうな顔で精一杯の笑顔をしていた。
「はぁ……」
カズマはどうして自身の周りには桃やシャミ子、ダクネスなど自分で全て抱え込んで、周りを巻き込まないようにする自己犠牲の精神を持っている人物が多いのだろうと、イラついて大きくため息を付く。
「しょうがねぇなあああああ!」
「え、カズマさん?」
「俺があのロボッターとか言う奴を倒してきてやるよ!」
カズマは椅子から立ち上がり、やれやれと言った雰囲気で大声を出した。そしてロボッターを倒すと宣言するのであった。
「待ってくださいカズマさん! カズマさんはさっきの戦いで魔力を使って消耗してますから、今行っても」
「消耗してる魔力は優子やマスターに『ドレインタッチ』をすれば回復出来るぞ」
この街の問題に巻き込まれただけのカズマにこれ以上迷惑を掛けられないと、カズマを止めようとするシャミ子だが、のらりくらりとかわされる。
「でも、カズマさんの攻撃ですと正直」
「まさかお主、そういうことか!?」
攻撃も通じないと言おうとした時、リリスはカズマが何をしようとするか分かったようで、目を大きく見開いて驚く。
「そのまさかだよ」
「どういうことですか?」
「だがそれをすればお主は」
「待ってください! カズマさん、ご先祖。いったい何の話をしてるんですか?」
「まさか」や「それ」と言った何を指しているか分からない言葉ばかりで、話の全容が見えないシャミ子は、二人の会話を止める。
何か作戦があるのなら是非やってほしいものだが、リリスが驚くほどのモノとはなんだろうかと、首を捻る。
「あのふざけた野郎が造った機械に爆裂魔法を撃ち込む話」
「爆裂魔法ですか……ってえええ! で、でもそれは魔力が足りないからって」
カズマから魔法の話をされた際、ぽろっと「爆裂魔法を使える」と話しており、怖くなって距離を取ったのを覚えている。その時は魔力が足りないから使えないと言っていたが、何か魔力を補うような方法はあっただろうか。
ドレインタッチは魔法少女組には使用すると消滅する可能性があるため使用出来ず、リコやウガルルは戦闘中のため爆裂魔法が使えるまで魔力を吸収出来るかは不明だ。かといって、自身やマスターの魔力程度では補えないだろう。
他に魔力を補えたり、回復出来るような何かはあっただろうかと思考を巡らせる。
「俺が魔力を補うアイテムを持っているのを忘れたのか?」
「あっ」
その言葉と共に、シャミ子はあるモノが頭に浮かぶ。そう、カズマが異世界に帰還するために小倉しおんに作ってもらった、魔力の塊であるマナタイト擬きである。
それさえあれば爆裂魔法一発分にはなるだろう。しかし使った後に問題がある。
「でもそれを使ったらカズマさんが帰れなくなりますよね!」
「そうだな」
「何もそこまでする必要は」
そう、カズマが帰れなくなるのだ。今判明してる帰還方法は、マナタイト擬きを使ってシャミ子の杖を使うことのみである。
それ以外で帰る方法はシャミ子が杖を自由に変形出来るようになるまで魔力量をあげることだけだ。だがそれは10年か、20年か……もしかしたらそこまで成長せず、カズマはこの世界に骨を埋めることになるかもしれないのだ。
「元はと言えば、俺の所の駄目神が原因なんだ。仲間の失敗の尻拭いなんて、異世界でしょっちゅうやってたからな。それに、アイツが異世界に戻ってきたら考えると、帰ってものんびり出来ないから」
そこまでしてもらうのはとシャミ子は止めたが、カズマは自分の仲間が原因だから言い訳に近いような説得をして、無理矢理シャミ子を納得させる。
仮にカズマがここで手を貸さずとも、怒るような人物はこの街には居ないだろう。それでもカズマは見捨てられなかった。最弱な冒険者であり、外道だ鬼畜だと言われる行動をしようとも、彼は仲間を見捨てられないお人好しの善人なのだから。
「カズマ君ならそう言うと思っていたよ」
「マスター!?」
カズマが自室にマナタイト擬きを取りに行こうとした時、店の奥からマスターが出てきた。その手には先ほど取りに行くと言った救急箱は無く、代わりに数本のロープとちゅんちゅん丸、そしてマナタイト擬きがあった。
「ほら、忘れ物だよ」
「やっぱマスターにはバレてたか」
「ハハハ、これでも長く生きてるからね。年の功ってやつさ。それと、微量だけど僕の魔力も持っていきなさい」
「ありがとうマスター」
考えを見透かされていたマスターに恥ずかしさ紛れに苦笑をし、ちゅんちゅん丸を腰に装備する。マナタイト擬きを落とさないよう丁寧に持つ。
「その代わり、リコ君を……桃殿達を頼んだよ」
「俺を誰だと思ってる? 数々の強敵と渡り合ってきたカズマさんだぞ」
マスターと力強く握手をすると共に、ドレインタッチを発動してマスターから魔力を貰う。マスターが動けるギリギリまで魔力を貰うと手を離した。
「カズマさん、私の魔力もじゃんじゃん持ってってください! そして、桃達の事頼みましたよ!」
「異世界で魔王を倒した勇者様に任せておきな」
シャミ子からも魔力を貰い回復をする。これで今出来る限りの準備は整った。深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「カズマよ、ここにはお主を生き返らせられる者は居ない。気を付けろよ!」
「分かってるさ」
ここは異世界とは違うのだ。どんな攻撃も耐える防御力しか取り柄の無いクルセイダーも、一日に一発しか魔法が使えないアークウィザードも、何度死んでも生き返らせてくれるアークプリーストも居ないのだ。
それでもカズマの脚が止まることはない。頼れる仲間が居なくとも、異世界に帰れなくなろうとも、文句を言いつつも人を助けてしまうような性格なのだから。
「それじゃ、ロボット退治……行ってみよう!」
未知なる土地へ脚を踏み入れるようなお気楽な調子で、カズマはロボッターの居る河川敷へと向かうのであった。
最後の台詞は、このすば17巻の「それじゃ、魔王退治……行ってみよう!」を意識してます。
前回と今回のタイトルは、桃が「友が笑う街」を守るのに対して、シャミ子が「友と笑う街」を守るため。と言う対比をイメージしてます。桃は害を為すなら倒す系ですが、シャミ子は敵すらも救う系ですし。
現在の状況はこうなります。
【ロボッター討伐組】
桃、ミカン、ウガルル、リコ
【討伐組に合流中】
カズマ(魔力回復済み)
ちゅんちゅん丸、バインド用のロープ、マナタイト擬き所持
【あすら居残り組】
マスター(魔力切れかけ)、シャミ子(魔力切れかけ)、リリス
次回は討伐組のシーンからですね。巻きにするなら最悪カットしても問題は無いですが、残り4話程度なので丁寧に進めたいですからね。
【第二回】この作品で好きなキャラ投票!
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佐藤カズマ
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吉田優子(シャミ子)
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千代田桃
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日夏樹ミカン
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マスター
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リコ
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リリス
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吉田良
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吉田清子
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佐田杏里
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小倉しおん
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犬のお姉さん
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犬