カズマの喫茶店あすらでの初めての仕事が終わった。バイトの面接に来た魔族をマスターが雇い、新しく後輩も出来た。後輩と言っても、たかが数時間の差ではあるが。
その後輩の名前は吉田優子。魔族名はシャドウミストレス優子、略してシャミ子。羊のような角と細長い黒い尻尾が特徴の女の子である。
「私、ウエイトレスとしての才能がありそうです!」
「そっか。それは良かったな」
カズマはバイトを終えたシャミ子と話をしていた。喫茶店を閉めただけで、まだ店内の掃除や明日の仕込みなどやることはあるが、マスターが気を効かせて少し早めに終わったのである。
マスター曰く「カズマ君や優子君はまだ初日だし、疲れが溜まっているだろうから。それに、急に採用してしまったけど、優子君はバイトを受かったことを家族に説明していないだろうから、帰りが遅くなると心配させてしまう」との事である。
マスターの優しさに胸を打たれながら、シャミ子とカズマは喫茶店あすらのテーブルと椅子を借りて軽く雑談をしていた。雑談と言っても、少しテンションがハイになっているシャミ子が一方的に喋っているが。
「明日もバイト頑張りますよー!」
「おう。また明日な」
カズマは喫茶店の前までシャミ子を見送った。バイトで身体を動かしたばかりにしては、少しテンションが高く感じたが、この程度でカズマが引くことはない。
テンションが高い程度で距離を取っていては異世界で生きていけない。こんなのをあの理不尽な異世界と比べたら月とすっぽんなのだから。
それから数日。シャミ子は毎日喫茶店あすらでバイトをしていた。何やら「何か」をしようとしてた気がするが、シャミ子はそれよりもバイトを優先していた。
「カズマさん、カズマさん!」
「はいカズマです」
「お会計で手が離せませんので、すみませんが料理をお願いします!」
「氷が切れてしもうたから、カズマはん頼むわ~」
「分かった『クリエイト・ウォーター』そして『フリーズ』」
たった数日、けれど数日。ウエイトレスの経験が無かったシャミ子ではあるが、今ではどんどんと経験値を伸ばしていた。
自分が今出来ない事は無理をせず人に頼る。そして自分の出来ることは率先して動く。言えば簡単だが実際には難しい事を彼女はこなしていた。周りに支えられて生き、そして心の優しい彼女だからこそ、恥じること無く周りを頼り、支え支えられるのだろう。
一方のカズマはスキルを使って仕事をしていた。冒険者として様々なクエストをこなしてきた彼は、多様なスキルを使いこなす。今回の場合は、クリエイト・ウォーターで水を生成して、フリーズでその水を凍られて氷を作った。
「カズマさん、カズマさん!」
「はいはいカズマだよ」
「料理を上手く作るコツを教えてほしいのですが」
またある時シャミ子は客が少なくなり、余裕が出来てきた頃、空いた時間を使ってアドバイスを貰っていた。
本来ならまだ数日しか働いてないカズマに聞くよりも、リコに聞いた方が分かりやすく、より具体的に説明してくれるのかもしれないが、リコは今休憩中である。休憩中に質問して時間を削るのは流石に忍びなかった。
「俺もスキルに頼ってるあるけど、こうやってだな……」
カズマの持つスキルの内の一つに『料理スキル』がある。そのスキルを使って料理をしているカズマは、あくまでなんとなく程度ではあるが、シャミ子にコツを教えていた。
事あるごとに話しかけてくるシャミ子に悪い気はしなかった。異世界では誰かに話しかけれる度に厄介事に巻き込まれてきたカズマ。
しかしシャミ子から厄介事の気配がしない。それどころか慕っているように感じる。異世界ではカスマだのクズマだのゲスマだの言われてきたため、人に慕われるなんて殆ど無かった。
最も、魔王軍幹部相手に人質をとって敵味方からひかれたり、女性の下着をスキルで奪ったりと、擁護出来ない部分が多いため、本人にも非はあるのだが。
いつしかカズマはシャミ子を見て異世界の妹を思い出していた。妹と言っても、モンスターや猫を食料として見る将来大物になりそうな妹ではなく、自身の影響でギャル語を覚えた妹のような存在の王女の方であるが。
世界を渡る方法は未だ見付からないが、面倒事に巻き込まれないならしばらくこの世界に居ようかと考え始めていたある日、窓が割れる音が聞こえた。
「な、なんだ!?」
シャミ子と一緒に賄いを食べていたカズマは、急いでカウンターへと向かう。するとそこには、外側から割れた窓と、窓を割った原因であろう矢。そして何かの紙を見ているマスターとリコが居た。
「カズマ君大変だ! 何故だかあすらの結界が破られている!」
「結界?」
「結界があれば巫女はん……もとい、魔法少女はんに会わないようになるんやけど」
喫茶店あすらに貼ってあった結界は、魔族が魔法少女に狩られないように。そして争いを避けるため運命レベルで出会うのを阻止するものである。だがそれが破られたとなると、魔法少女に場所を特定される事になる。
現代的に例えると、常に位置情報を付けて「魔族はここだよ~」とアピールしている図になる。
「まずいよリコ君、カズマ君。魔法少女がすぐにでも来るかもしれない!」
「…………」
カズマは考えていた、この場から逃げるかを。カズマの持ちスキルには『逃走』と呼ばれる逃げる専用のスキルがある。これがあれば
だがこのスキル欠点がある。それは効果は自身だけである。つまり逃げればマスター、リコ、シャミ子の三人を見捨てる事になる。
「相手側は穏便に済ますみたいだし、ひとまずカズマ君とリコ君は奥に……」
「しょうがねぇなああああ!!!」
マスターの声を遮るようにカズマは大声をあげる。鬼畜や外道と呼ばれるカズマでも、仲間を見捨てるような非道な事には走れない。なんやかんやこの男はお人好しなのだから。
それこそ見ず知らずの人を助けようとして動いた結果、命を落として異世界に転生することになったほどである。
「マスターは下がっていてくれ。リコ、行けるか?」
「ウチに任せとき~」
カズマのスキル『敵感知』には反応が一つ。あくまで敵意のある相手にしか反応無いが、こういう場合には有効である。すぐそこに反応があるため、奥にまで行って刀を取ってくる余裕は無いだろう。
異世界で冒険していた時は刀を腰に差し、弓矢を背負い、バインドと呼ばれるスキルで相手を縛るための紐を持っていた。他にも小細工用の小道具を持っていた事もあるが、今は丸腰である。
「『クリエイト・アース』」
けれども彼は仲間を、喫茶店あすらのメンバーを見捨てるような事はしない。
カズマはクリエイト・アースで品質の良さそうな土を手のひらに出した。扉の正面に立ち、魔法少女が扉を開けてくるのを待つ。
「いや、あのだから……」
「お邪魔しま━━━」
カズマとリコに声を掛けようとしたマスターの声が、扉が勢いよく開く音でかき消される。扉を開けたのは少女向けアニメに出てきそうな格好をした魔法少女であった。
目の前の人物と敵感知で反応している人物と同一とあると、瞬時に判断したカズマは既に次の手を打ってきた。
「『ウィンドブレス』」
手のひらにあった土をウィンドブレストで風を起こし、魔法少女の目へと土が飛ばされた。思わぬ不意打ちで魔法少女は目潰しを喰らってしまった。
「くっ!」
カズマが魔王軍と渡り合えてきたのは、どんな敵も倒せる武器があったからでも、高い身体能力があったからでもない。広く浅く覚えているスキルと悪知恵を使った搦め手を得意としていたからである。
真っ向と正々堂々と戦うのは強者がするものである。彼をどちらに当てはめるか言うと弱者の部類に入る。それこそ真っ向から戦えば、ゴブリンの集団に囲まれたら簡単に負けるほどに。けれど彼が本領発揮さえすれば弱者から強者に、それこそ魔王軍と渡り合えるようになる。
「さぁ、戦闘開始だ!」
【速報】平和終了
次回は戦闘……の前に、時間を巻き戻って魔法少女視点にする予定です。
このまま話を進めることも可能ですけど、それすると後で情報がゴチャゴチャになるんですよね。街の現状、千代田桜について、シャミ子達の事情……これを一気に説明することになるので、話が進まないことに。
なので小休憩ついでに軽くまちカド世界の事情を説明しながら、喫茶店あすらに来るまでを書く予定です。
【第二回】この作品で好きなキャラ投票!
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佐藤カズマ
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吉田優子(シャミ子)
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千代田桃
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日夏樹ミカン
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マスター
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リコ
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リリス
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吉田良
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吉田清子
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佐田杏里
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小倉しおん
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犬のお姉さん
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犬