「開発中の新製品ねえー。」
サトノグループで開発中の尻尾ケア用品の試供品を貰った。お風呂の後や就寝前にするような本格的なケアではなく、練習やレースの後に汚れで毛が傷まないようにサッとケアするのを目的とした製品らしい。
「練習の後…それならトレーナーに頼めるかしら。」事の発端は数日前…
『トレーナーさんとの仲が進展しない?』
『That's right。あれから一緒に昼食を取る機会は増えたしサ活にも行ったわ。だけど後一歩足りないのよね。』
『距離が近い故にトレーナーに異性として本気で意識させられてない…そんな気がするの。』
『う〜ん。トレーナーさんに異性として意識してもらう方法か〜。』
『やっぱりボディタッチじゃないかな!』
笑顔でなんてことを言うのダイヤは。
『いきなりボディタッチなんてはしたなくないかしら?』
『(ウィナーズサークルでみんなの前で手を組んでいたのに…?)』キタサンは訝しんだ。
『いきなり触るんじゃなくても、さりげなく距離を詰めたりしてみるとかは?それならトレーナーさんもちょっとずつ意識するんじゃないかな!』
『なるほど、ちょっとずつ距離感を縮めて行く…perfect!ありがとうキタサン!』
『う〜ん、ボディタッチも良いと思うんだけど〜。』
そんなやり取りをした矢先に、偶然サトノグループからこの試供品を貰った。これは間違いなく商機到来と確信した!
トレーニング後、トレーナー室に戻ってきた今がチャンスね!
「トレーナー。お願いがあるんだけどいいかしら?」
「全然構わないが、どうしたんだクラウン?」
「尻尾をといてもらってもいい?」
ほんの一瞬、トレーナーが固まる
「し、尻尾?俺がとくのか?」
「ええ。実はサトノグループからこんなのを貰ったのよ。」
「尻尾ケア用品の試供品よ。レースやトレーニング後にサッと使って毛が傷まないようにするみたい。」
「でも尻尾といえば、髪の毛と同じかそれ以上に大切なんじゃ…その、俺で良いのか?」
「もちろん。私のケアもパートナーの役目よ?」
「それに、ケアって言っても練習後に軽くケアするための物で本格的なケアじゃないわ。ふふふ!緊張しすぎよ。」
「ま、まあクラウンがそう言うなら…。」
そう言いつつも狼狽えるトレーナーにブラシとスプレーを渡す。トレーナーがドキドキしてくれてるのがよくわかって楽しいわね!
椅子を並べてトレーナーの前に座った。
「それじゃあクラウン。背を向けて尻尾を突き出して。」
「ええ。わかったわ。」
そうしてトレーナーに尻尾を突き出して思った…これすっごく恥ずかしいじゃない!顔が赤くなっているのが自分でもわかる。トレーナーに背を向けていてよかった…。
その時、トレーナーの手が尻尾に触れた。
「ひゃん!」
「クラウン!痛かったか?」
「い、いいえ。痛くないわ。ちょっとびっくりしただけだから大丈夫よ。」
「良かった…それじゃあとくよ。」
「ええ。お願い。」
トレーナーがブラシを手に取り、尻尾をといていく。とても丁寧な、緊張した手付きだった。
「ん…。」
「クラウン?痛くない?」
「無問題。上手よトレーナー。」
「良かった。」
お互いに無言だった。静かな部屋の中でブラシと尻尾の擦れる音だけが響いている。私の尻尾をといてくれる彼の手付きから既に緊張は感じなかった。
その時、ふと沸いた疑問を口に出す。
「…本当に上手ね。実は他の子にやったことがあるとか?」
「クラウンが初めてだよ。ウマ娘の尻尾を触ることはトレーナー養成学校でも教わら無かったな。」
「本当に?嘘じゃないのよね?」
「もちろん。それに…君以外の子の尻尾を触るつもりはないよ。」
「!!!」
尻尾が反応しないように必死に意識する。声が嬉しさや恥ずかしさで震えそうなのを抑えながら聞いた。
「そ、それはどういう意味かしら。」
「だって、担当でもない子の尻尾を触るなんてできないよ。」
はぁ…と内心ため息をついてしまう。彼らしい真面目な答えね。
「じゃあ、私以外の子の担当になった時はその子にもしてあげるのかしら?」
「今は君以外に担当を持つことは考えてないよ。」
「君が俺との契約を終了すると言うまで、パートナーは君だけさ。」
「あら!じゃあ貴方が尻尾をとけるのはこれからも私だけね。」
「「ぷっ…ふふふ…あははははは!!」」
お互い考えていることは同じだった…!私と彼の心が強く繋がっている、温かな信頼を感じられた!
仕上げのスプレーをしてもらっている時、トレーナーがふと呟いた。
「やっぱり家族とか友達で尻尾をとくことってあるのか?」
「子供の頃はよくお母様や姐姐にといて貰っていたわ。最近だとたまにダイヤやドゥラメンテさんとお互いにすることもあるわね。」
「だけど、後にも先にも尻尾を触らせる男性はパートナーの貴方だけなんだから。」
「…ははは。それは光栄だな。」
一瞬、ほんの少しだけどトレーナーの手付きから動揺したのが伝わってきた。彼が反応をしてくれたのが嬉しくなってしまう。
「あら?トレーナー今照れた?」
「いやいや、照れてないぞ。」
「したでしょう。一瞬手がピクってしたもの!」
「ふふふ!トレーナーったら照れちゃって可愛いわ。でも、これからも練習やレースの後にして貰う予定なんだから慣れてよね?」
「ああ。もっと上手くできるようこれからも頑張るよ。」
「そうね。それならとりあえず今週は毎日練習の後にといて貰おうかしら。」
そうして尻尾をケアして貰いながら2人で談笑し笑い合った。とても穏やかで幸せな時間だった…!
それから数週間が経ち、私達の間で尻尾をとくのが当たり前になったある日。
カフェテリアでダイヤ達とウマデュエルレーサーをしている時のことだった。
「う〜…また負けちゃいました〜。クラちゃん強すぎるよ…。」
「ダイヤの戦法がわかりやすすぎるのよ…。」
「次はあたしのテイオーさんデッキと勝負しよ!クラちゃん!」
「おーい、クラウン。」
「あら、トレーナー!」
「新しい尻尾ブラシが届いたから今日使おっか。古いブラシはこっちで処分しておこうか?」
「ありがとう!私の方も新しい試供品が届いたから、練習後にまたお願いね。」
「うん。それじゃあクラウンまた後で。」
…変ね?周囲がザワついている。
「ダイヤちゃん!今の聞いた?」
「聞いちゃったよキタちゃん!」
「2人ともどうかした?」
「クラちゃんってトレーナーさんに尻尾をといて貰ってるの?」
「ええ、そうだけど…あ。」
2人や周囲からキャーキャーと黄色い声が上がる。私ったらまたやってしまった…!
「あ…哎呀(あいやー)…」
今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いします。