恋愛でも道悪巧者のサトノクラウン   作:メトロん

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前回から間の空いた投稿となり申し訳ございません。チャンミお疲れ様でした。
今回もよろしくお願いします


二度目の宝塚記念、そして再起

宝塚記念当日、阪神競バ場は熱狂に包まれていた

秋シニア三冠に加えURA中距離部門を制覇したサトノクラウンが2連覇となるか、ここまで勢いを伸ばしているサトノダイヤモンドかヴィブロスが制するのか、それとも思わぬ伏兵が上がってくるのかと多くの予想が飛び交う中、サトノクラウンの控室では…

 

「今日の出走メンバーだとサトノダイヤモンドかヴィブロスが特に注意するべきだな。」

「ええ。今年に入って2人ともかなり伸びてきてるわ。間違いなく今日最も注意すべき相手ね。」

「サトノダイヤモンドは得意距離が長距離なのもあってスタミナ勝負だと分が悪い。ヴィブロスはマイルが得意なのもあって終盤の加速力がかなり高い…。」

「攻勢に出るのは2人の間がベストかしら?」

「いや、2人ともクラウンの出方を伺ってくるだろう。逆にここは2人より少し早くスパートを掛けるなんてのはどうかな?」

「そうね。そうすると2人とも私に釣られて焦る。追い抜こうと必死に速度を上げてくれればそれだけ体力を消耗してくれる。」

「ただこれだとクラウンの体力の消耗も早い。最後の150mあたりから少しキツいだろうが…いけるか?」

 

トレーナーが私を真っ直ぐに見つめている。その瞳には私への信頼が感じられる。私はこの信頼に応えたい!

「無問題!レース経験は私が上。スタミナの消費が最小で済むコース取りも抜き方もよくわかっているわ。」

ピークを過ぎていても関係ない。このレースに全力を注ぎ目の前の勝利を掴むだけ。

だが、そんな決意とは裏腹に一つの考えが私の頭の中にはあった。

このレースがどんな結果になろうと彼に専属契約の解約を伝えようと。

「…出番ね。」

「いってらっしゃいクラウン。」

 

『この上半期も様々なドラマがありました』

『その締めくくりとなるG1宝塚記念のファンファーレです』

『阪神競バ場凄まじい熱気です!』

『ヴィブロスがゲートに収まり、最後に8番が収まります。』

『さあ上半期を締め括るドリームレース宝塚記念…スタートォ!』

『各バ揃ったスタートを見せました!』

みんなが一斉に走りだす。私は当初のプラン通り中団を位置取り展開を伺う。まだよ。まだスタミナ消耗は抑えるべき。仕掛けるタイミングは後半に差し掛かる直前。それまではしっかりと脚を溜めておく必要がある。だが…

 

「ハァッ…ハァッ…」

やはり身体が重い!息は上がり脚が前に出ない。スタミナが想像の何倍も奪われていく感じが私を動揺させた。そして…

進むべき勝利への道が見えない。思考が纏まらない。私はいつもどうやってコース取りをしていたの⁉︎前を走るダイヤやヴィブロスの動きが予想できない!バ群の間を抜けて前に行く道が見つからない!

 

以前までできていたことができない焦りが私を追い詰める。バ群に阻まれて抜け出すことも出来ずに身体はどんどん重くなっていく。そのまま2人が抜け出して行き、更に後方の子達も私を追い抜いて行く。

どうして脚が進まないの!私はここで止まれないのに!私はまだ、世界に届いていないのに!

「ハァッ…ハァッ……ッ!!!」

 

 

その日私は初めて掲示板から外れた。結果は12着だった。

これまで最高の武器としてきた冷静な思考力と視野の広さに抜群の末脚。これまで培ってきた全てを発揮出来ず後方に沈んで行ったあの時、現実を突きつけられたような気がした。

私は、サトノクラウンはピークが過ぎたのだと。

 

「おかえりクラウン。」

「ごめんなさいトレーナー。私貴方の期待に、努力に応えられなかったわ。」

「いいんだクラウン。自分を責めないでくれ。」

トレーナーは優しく慰めの言葉を掛けてくれるけれどとっくに気づいている。しかし彼が優しさから告げなかったその事実を私は言わなくてはならない。私はゆっくりと口を開きそれを言う。

「トレーナー。私…ピークを過ぎたみたい。」

啊、ついに言ってしまった。私の言葉を聞いたトレーナーは重く目を閉じて考え込んだ。

「…大丈夫だクラウン。俺が」

その時私の中でなにかが崩れて

「ねえトレーナー」

私はついに

「専属契約を解約しましょう。」

その言葉を言ってしまった。

 

 

「クラウン。今なんて…」

動揺した彼の目が大きく見開かれる。でも言葉は止まらなかった。

「今年のプランは白紙に戻しましょう。」

「…もちろん諦めるつもりはないわ。でも、今のままじゃ私は世界を獲ることはできない。今年の残りの期間全てを調整に回す必要があると思うの。」

「でも、私が歩みを止めている間も貴方が付き合い続ける必要はないわ。」

「待ってくれないかクラウン。俺は…」

トレーナーも動揺しながらも言葉を発するが、それを遮って言葉を続ける。

「だから専属契約を終わりにしましょう。私1人に縛られないで貴方には先に進んでほしいの。」

 

あくまで専属契約を解約するだけ。それだけなのに私の心はひどく痛み、揺らぐ。

トレーナーも酷くショックを受けたような表情をして固まっている。けれど私は言わなくてはならない。

「学園からも受け持つ子を増やしてほしいって言われているのも知ってるわ。貴方のキャリアはこれからよ。」

声が震えるのを抑えて精一杯笑顔を作る。

「大丈夫!貴方と契約を結びたいと思っている子ならたくさんいるわ!私も先輩としてアドバイスするから、今後は後輩の子を優先してあげて!」

…世界もこの恋も諦めたくない。でも私にはプランがなにも浮かばなかった。そんな私に付き合わせ続けて彼のキャリアを、未来を奪うと思うと……耐えられなかった。

「だから…!」

言葉を続けようとする。しかし瞳は潤み言葉は詰まってしまう。ダメよ言わなきゃ。彼には私より輝かしい未来が…!

 

 

「聞いてくれ!サトノクラウン!」

彼の力強い叫びと真っ直ぐな熱い視線が私を射抜く。その瞳にさっきまでの動揺はなく強い決意が籠っていた。

「俺と君なら世界を取れる!凱旋門は間に合わなくても今年の年末!香港G1を取りに行こう!」

「でも私は…もうピークを…!」

「ピークを迎えた時の為のトレーニング方法はもう考えてある!その為のスケジュールも今後のレースプランも!世界を獲るためのプランを全部考えたんだ!」

「だから一緒に走ってくれ。俺を信じてほしい。」

「…私よりも後輩の子を、貴方のキャリアを優先して。私1人に構わないで!貴方には貴方の未来がある…掴むべき栄冠が…!」

「俺は君以外との未来は考えてない!!!」

「俺は君と!サトノクラウンと一緒に走りたいんだ!2人で栄冠を掴みたい!だから俺と世界を目指してくれ!!!」

 

「一緒に君の夢を叶えよう。」

彼がスカウトしてくれた時を思い出す。あの時と同じ熱く情熱的な瞳。あの時と同じ真っ直ぐな想いをぶつけられて私の心と身体は動かされていた。

「……トレーナーっ!!!」

彼の胸に抱き着き泣いた。敗北の悔しさと、それ以上に彼の想いへの喜び。色々な感情がないまぜになり涙が止まらなかった…!

「私以外考えてないなんて…!ウマ娘のトレーナー失格よ!もう!でも…嬉しいわ…!本当に!」

「貴方は本当に…!どうしてそんなに私のことを…!」

「それは俺が、クラウンのことが…!」

そこまで言ったところで彼はハッとしたように言葉を止めた。彼の言いかけた言葉に思わず身体の力が入る。トレーナーもやっぱり私のことが…!

「…俺は君のパートナーだ。」

「君と自分に約束したんだ。君の夢を叶えるって。それに…」

「どんな時でも支え合うのがパートナーだろ?」

本当にもう…もう!トレーナーったら!

さっきまでよりも強く抱き着く。目からは涙が、心からはトレーナーへの想いも溢れてくる。

「絶対に離さないんだから…!」

彼の胸の中で聞こえないように小声で呟いた。

 

そのまま私が泣き止むまで彼は優しく頭を撫でてくれていた…愛してるわトレーナー。

いつかこの言葉を直接伝える。必ずトレーナーと世界を掴みこの恋を叶えると、私の中の決意がより強まった。

 

私の中で理性のブレーキが壊れた気がした。

 

 

sideトレーナー

阪神競バ場を後にしてから数時間後、宿泊先の部屋の中でのこと

 

「…あの時俺はなにを言おうとした」

口から出そうになった言葉を思い出して自分を恥じる。俺は成人でトレーナーだ。なのにあの瞬間自分の中に抱いてはいけない想いがあった。

トレーナーとして、パートナーとしてではない好意が自分の中にあった。いや、ずっと以前、初めて会った時から胸の中にあったことを自覚してしまった。

「俺は…トレーナー失格だ」

明日からクラウンとどう接すればいいんだ俺は…サトノクラウンへの想いと自責の念が頭の中でグチャグチャに混ざり合う。明日クラウンと今後のプランを改めて話すまでにこの気持ちを落ち着けなければ……

 

 

好意と理性に揺れて自分を責めるトレーナー

そして夢も恋も絶対に止まらないと決意したサトノクラウン

2人のこれからにご期待ください




今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いします
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