疑世界暗鬼 作:ソリティア
半ば閉じようとする視界の中で踊る無数のサーチライト。あまりにもあっけなく襲来したXデイに愕然としつつ必死に足を動かすが夢の中にいるかのようにその動きは重い。あと何より頭痛と吐き気。これが耐えがたい。未知の毒でも受けたかよもや敵は重力すら操るのかと恐怖に震えた脳みそは勝手にこれまでの短い人生を後悔しだした。これが実在をほぼ疑われない人体の神秘こと走馬灯だろうか?
「異星人のぉ空襲らぁ…もうらめだぁ~」
「急に走り出すと危ないですよ。異世界転生でもする気でした?」
突然柔らかくも芯の通ったナニカに身体を引き止められる。何かを話しかけられるがよく解らない。そりゃそうか。異星人の言語なんて逆立ちしても習えない。短期彗星の接近とか月や火星に謎の陰がとかの知らせがあればもっと宇宙に目を向けていたのだけど。思い返せば創作だと理不尽な敵は大体宇宙から来る。発見対処できたかはともかくもっと外に目を向けるべきだった。
「こ、降伏します。地球圏の大体の言語は話せるので生かしておきませんか?」
英中露と言葉を変えて降伏を伝えるも肩をすくめられる。
「はいはい。先輩のお家はあっちですよ」
僕には分かる。やや左後ろから見事に腕を拘束してくる人物?から呆れの感情が発せられたのが。ファーストコンタクトに失敗し気づけば目の前には
「数字数字…どうせこれでしょ。何でボクこんな形で…はあ、」
何故正解を1度で引き当てられる。どうせ宇宙の理不尽ならドアごと焼き斬るとか宙を歩いて窓を割るとかにしろ。いや心を読む系なら今のいけるのか。どうしようもない。もういいや。全部話して楽になってしまおう。
「参りました。全部吐きます」
「せ、先輩…?あと少しですから!!風呂場、風呂場まで待って!?」
喧騒はハロウィンのお祭り騒ぎ。夜空から降る光は走る車のヘッドライト。あらゆる不調はひどく酔ったが故。つまり酒の席での大失敗というやつだ。
入学から2年住み少し見慣れてきた六畳の自室。折畳みベッド(折畳まれるのは掃除の時くらい)と棚を埋め尽くす大量のファイル、パソコンとプリンターが載ったデスクに壁を覆うウェビングマップ。取り留めもない思考を少しでもまとめようとしてできた厨二心をくすぐる痛々しい部屋。そんな面白味のない部屋に異物が1人。むくれた顔でジャージの上着に三角座りをして収まった思考盗聴星人こと
そして今。僕は何故かベッドに座る彼女の前で正座して詰問を受けている。ごうごうと鳴る洗濯機の音が頭に響いて辛い。
「ずばり先輩には別次元の地球を生きた記憶があると」
そう。自分には今と多少人や物、地名、企業、事件などの名称、歴史が微妙に異なる世界を19年生きた記憶と
「先輩を介抱してる時に延々聞かされました」
「えっと。そんな酔っ払いの荒唐無稽な与太話信じてるの?」
「別に面白いからいいかなって」
一体僕はどこまで話したのか。
「別に狂言でもボクの
「なにそのキャラロストありそうなゲーム」
これはまじで全部このボクっ娘に話している。
「転生する時案内人がいなかったから右も左も分からず貯め込んじゃったんですよ。昨日も急に走りだしてボクが止めなかったらトラックに轢かれてましたし」
本人はこっちの気も知らずに転生物の神様とか天使とかちゃんと役割あったんですねとか言ってるが命の恩人ときた。
「それは…ありがとう」
「はい。どういたしまして」
こうして僕と如月の奇妙な関係は始まった。20年張りつめていた僕の緊張の糸が切れた日にして人生の転換点。親にも明かせぬ秘密の共有者が僕にできた。ちなみにこ奴が僕を先輩と呼ぶせいで周囲に僕は留年か浪人をしたと思われているがバイトに数日差入っただけで歳も学年も同じだ。
やっぱり素直にありがとうと言ったのもやもやするなあ。
どんなに衝撃的な事態が起こっても世界は回り腹は減る。弱みから部屋を物色する如月を追い返すこともできず頼んだ出前をローテーブルに広げ彼女の質問にぽつぽつと答えていくことにした。
「これは?」
「マイルールブック。僕の行動指針をまとめたもの」
「禁酒も加えておきましょう」
「はい」
なになにとポテトをつまみつつ僕の進行形黒歴史ノートを読み上げる如月。何か声に出して読まれると恥ずかしさが湧いてくる。
「自身の正気を疑った時は外を見ろ?いきなり作詞的ですね?」
「そのままの意味だよ」
僕の記憶上人は緑や青の色素を持たずその髪色は染めないとなれない。けど近所の保育園に行けば大半の黒髪に雑じり少数赤、青、黄緑と記憶の中の生活指導の先生が卒倒しかねない子がいる。お泊り会の時友達の下を確認した時から僕は世界が変わったと確信に至り有り得ないは有り得ないと覚悟を決めた。
「能力者暗躍物、外敵襲来物、任侠不良物を軸に対策する。最後だけなんか身近」
「僕1人が考え得る異常事態なんてたかが知れてるんだ。記憶の中の偉大な創作者達の生み出したファンタジーを想定していれば大抵のことはなんとかなる、と思いたい。3つ目は遠くばかり見て内が食い荒らされないようにって戒め」
20年に渡る構想の結果出力した資料はもう1部屋を埋めるほどになり親にはその道を行くと勘違いされていたりする。
「ふーん。すごっ!先輩。作家になれますよ!」
「その通りの事件が起きて預言者有識者に祀り上げられるのもパターンだよ」
「うわぁ…」
例えば迷宮が世界中に出現するとか
「資金確保。少額スクラッチくじ。キャッシュで持つ気ですね。…公営競技じゃだめなんですか?」
面倒なことをしていると思ったのだろうがそこは僕にも考えがある。
「それは任侠物とニアミスする可能性から避けてる」
「そっち系のコミックはぶっ飛んでますもんねぇ。見る分にはいいですけど。じゃあ株式はどうですか。お手伝いしますよ?」
「そっちは下手すると市場に混乱とか起こしかねない。あとなんか大量に持ったら報告がいるし後ろ暗い何かを釣りかねない。僕は平穏を崩さない程度に少し贅沢がしたいんだ」
「確かにリノベーション2Kセキュリティ完備に男子学生1人暮らしは贅沢ですね!ここ先輩の他女の子しか住んでませんよ!!」
「1つ上に住んでいる奴に言われたくない。あとその追加情報いらない」
僕の
「珍しい苗字に注意?何ですかこれ。地名とかが先輩の記憶と異なる時点で意味なくないですか。古い家は土地に根差した名も多いのに偏見です。差別です」
「ちょっと。僕のナゲットを取らないで」
妙に嚙みついてくると思ったら如月も唯著ある家だからか。あくまで不知火とか綾波がいたら親戚とかに注意くらいの感覚だった。僕だって実在しない苗字なんてそう憶えていない。
「悪かったって。如月のことは疑っちゃいない」
「ならいいんですけどー」
それなら追加でポテトを取るな。
「変人、珍しい部活、特徴的な口調は分かります。でも北海道九州沖縄は注意。何ですかこれ?」
「よく戦争物で真っ先に最前線になったり滅んだりする。正直その世界だったらまともな生を望むべくもないけど」
「ふんふん。でもパニック系だと大抵田舎が強くないですか?」
「そこまでいくと結局事態に即応できる住み慣れた地がいい。他所行きは気をつけろって話」
「なるほど」
続いてウェビングの紐が交差する壁の巨大世界地図を眺めていた如月は遠慮がちに聞いてきた。まあ某国連合離脱だとか未発表の五輪開催地とか書いてあったらそうなる。
「答え辛かったらいいんですけど先輩未来のこと大分わかってたりします?」
「それね。正直わからない」
「わからない?」
「僕だって大きな出来事の時期は幾つか憶えがある。でもその中から悲劇的な事件事故が起こっていない。それでいて世界経済はある程度記憶をなぞってくる」
ぜひ利用してくださいとばかりに。だから僕はこの世界が上位者の誰かが描いた”
「いいんじゃないですか?先輩が変に気をもまなくて済むんですし。よく僕なら止められたのにーとか逆行物主人公はなるじゃないですか」
「ぶり返しが恐い。未曽有の大災害のための溜めかもしれない」
今の平穏が仮初の物であるという不安を拭えない。本当にどうして誰かしら何かしら何か一言言いに来てくれなかったのか。
「色々考えてるんですねー。でもでも、どこかの私立学校が舞台のラブコメ世界の可能性もありますよ」
「まあ正直それが大当たりだと思ってる」
「でも先輩の能力がある限り呑気にそう思わせてくれないと」
「そういうこと」
いっそ人畜無害な恋愛物だと断定できたなら多少枕を高くして眠れるんだけど。そうじゃないから世界中の情報を集める毎日だ。まあこれはこれでもう生活の一部になりつつあるし見分が深まるからいいんだけど。
「この際だから聞くけどあの人主人公だなぁとか思うような人如月の知り合いにいる?」
「プリンセス大戦みたいなのです?」
「あーうん、そうそう」
あれ少しプレイさせてもらったがアイドル物だと思ってやったら敵相手にガチ末期戦してるし突っ込みずらかった。刺激とインパクトを求めたら創作の世界なんて簡単に荒廃するんだよ。
「法学部のイケメン天の川君。幼馴染の星空さんと妹さんがいつも一緒にいますね。あとは小さい頃別れて最近再開した女優の紅月さんと近所のお姉さん的立場な陽佐木先輩」
「いるの!?何故僕は同じ大学でそんな団体を見逃していたんだ?というかこんなことで20年越しの心労は解決するのか?」
冗談で出したアイディアがトントン拍子で採用された気分。自分の交友関係の狭さを嘆くべきか。いや関東一の学生数を誇るマンモス大学が悪い。別キャンパスの他学部のことまで把握している如月がおかしいのだ。
「えっ。…言われてみれば確かにこんなの下手な恋愛物のマンガですね。きっとダークホースで学部に眼鏡をかけた目立たない美人がいますよ」
「やめてくれ…いや?これはいいこと、なのかな?」
仮にこれが恋愛物だとして例えば魔法少女要素が付与された瞬間世界が滅亡する可能性を含む。創作とはそういうものだ。何にせよ興味津々の如月が陽佐木先輩に話を聞きに行くと言って聞かず押し切られた僕は仮称”天空ハーレム”の調査にのりだすことになる。
「早速陽佐木先輩に連絡しますね!」
「えっ。ちょ、ちょっと待って色々詰めてからに…本当に掛けたよ」
僕の名前は
続く?