――ダレカちゃんは知っています。
センセが、遂にキヴォトスに…シャーレに来ました。ええ、ええ……遂に、遂に来やがりました。あんの野郎ゥ…凝りもせずにまたまたまたまたこの世界でもキヴォトスに来やがりました。
暇なんですか?いえ、まあ…そーゆー
とはいえ、あんの野郎ゥ…毎回毎回、ダレカちゃんの前で死にやがるんです。
ご察しの通り、ダレカちゃんはループ系のダレカちゃんです。ループ系じゃないダレカちゃんのいる世界のダレカちゃんに憑依転生することが将来の夢です。
――始まりはいつだったでしょう?
なーんにも知らなかった頃のダレカちゃんは連邦生徒会長からシャーレの秘書を任命されまして、給料につられて安請け合いしまして。いえ、マジで金がやべぇんだって。こーんなによ、こーーんなに。たーんまりっすわ。へへっ、これが権威かぁって感動しましたもん。
そんで、連邦生徒会長と契約を結んだのがダレカちゃんの最初の間違いでした。あー、バニバニ。
毎回、ループの始まりはセンセがキヴォトスに来た瞬間でした。
そこから、センセが死んだらまた初期ポイントに戻る。それを繰り返し続けたのが今のダレカちゃんです。
先に言っておきますが、ダレカちゃんはセンセのアンチ勢です。あんまり死にすぎるから、もういっそ寿命まで満足に生かしてやりたいくらいのセンセアンチ勢なんです。
これまで、ダレカちゃんは何度もセンセを看取りました。戦場で、病院で、シャーレで、トリニティで、ゲヘナで、アビドスで――数えだしたらキリがありません。
なんです?あの大人…くっっっそ死にやがるんです。趣味なん?死にたがりなん?足掻くワリには簡単に死にますし、下手したら弾丸一発で致命傷ですし…そろそろ防弾ベストでも着ることを覚えて欲しいモノです。
しょうがないからダレカちゃんがね?センセの右腕として寄り添って身の回りの世話くらいはしょーがなくしてますけどね?ホント、しょーーがなくね?
てか、です。
あんの野郎ゥさぁ…別に放っておいたら死ぬほどの貧弱生物
これまでのループで、人気多忙()なダレカちゃんはセンセに付きっきりではなかったんです。学生ですので。その上でまーた死ぬのかなぁって過ごしていましたが、センセは
毎回毎回、何度も何度も何度も――あんの野郎ゥは
え、何故なん?人の心の傷にでもなりたい性癖なん?ぶっころしますよ?は?てかぶっ生かしますが?
――
そもそも、単純なループでしたらダレカちゃんだって100回や200回でキヴォトスを平和に導けていた自信があります。
はい、なので単純なループではないんです。なのでつまりは、単純なループではないんですね。
最初の世界線ではセンセと連邦生徒会長の二人がキヴォトスに存在しましたが、いつからかセンセは普遍的なのに、『連邦生徒会長が失踪した』って前提条件からループが始まりました。
その後のループでは連邦生徒会長はずっと行方不明です。腹が減っても帰って来ません。知らんけど。
言ってしまえば、世界はループしているのに
あくまでもダレカちゃんはシャーレのセンセをサポートしろってコトでしょう。メンディークセェですね。
はーい、そこの賢いアナタ。
こう思ったでしょう?ダレカちゃんがセンセに関わるとセンセが死んで、関わらないと絶対に死なない。でしたら放っておいてやれ、と…思ったハズです。
やれ、世界はそこまで単純ではありません。たった一手で世界が平和になって宝くじも当たって友達も増えて恋人も出来てテストも満点、なんてコトは不可能です。
端的に言いまして、センセから数日離れると
そしてその後、多分センセも死んでます。こればっかりは観測出来ませんが、本能的に『あー、センセが死んだんだなー』って次のループ開始時に感じるのです。
なので、当分のダレカちゃんの目的は両者が生存、もしくはセンセが死んでもダレカちゃんがループしなくなる方法の模索です。
◆◆◆
「こんちゃっす、センセ。連邦捜査部シャーレの秘書、ダレカちゃんだよ」
「…………こ、こんにちは…?」
――淡々と自己紹介を告げながら私の前に現れたのは、一目で変人だって判る生徒だった。
動く度にギシギシと軋む音がして、大きな足は構造上、あまり上がらないようで常に引き摺っている。
簡単に言って、
声も
「…なんで宇宙服なの?」
「ん?あー、そりゃあ…アレだよ。ダレカちゃんがセンセに触れたら、センセがじゅわぁって溶けて消滅しちゃうからね」
「肌から硫酸でも流してるの!?」
「おっ、勘が良いですねー」
「えっ………た、体質…なのかな?肌から硫酸が分泌されるだなんて事例、聞いた事もないし…君自身は大丈夫なの?」
「は?何言ってんの…?人の肌から硫酸なんて出るわけないですよね。少なくともダレカちゃんの生きている世界ではそーゆーのないと思うっすわ」
「キミが言ったんだよ!?」
「ははっ、ナイスジョーク!」
「ジョークを言い続けてるのはダレカだよね…」
「へいキョーダイ、呼び捨てはやめておくれ。軽蔑と嘆き、諦観を込めてダレカちゃんって呼んでください」
「いやいやいや、負の感情を込めて生徒の名前は呼ばないよ!?」
「………へへっ、優しいんすね」
「敢えて明言する意味もない程度の一般常識だと思うよ……普通に」
「ま、そーだね。ってことで、自惚れるなよ偽善者め」
「なんて悪辣な罠なんだ…」
高低のない淡々とした声質からは想像出来なかったが、ダレカちゃんは私を揶揄っているらしい。声に抑揚がないから冗談には聞こえないけれども…
掴みどころはないけれども、敵視されているわけでもないし。初対面でここまで会話が続くのであれば私とダレカちゃんの相性も悪くはないのだろう。
って言うか結局、宇宙服についてははぐらかされたのかな。
体型が分からないし、声も変声機で不明瞭。名前すら本名か怪しいから、性別も不明だし…いよいよ正体がわからない。リンちゃんも秘書の存在については軽く触れていたから、嘘ではないと思うけど。
この生徒は、どんな存在なのだろうか。私がキヴォトスに来てから早々に出会い、指揮をした生徒達とは何かが異なる。
勿論、まだ私が『先生』として就任して初日であり、全ての生徒を見て回った訳でもない。だから異質なのがダレカちゃんだけとは断言出来ないけれども…果たして、初対面でありながら何十年と時を共にした親友のように感じる生徒は、他に居るのだろうか。
「えっと…改めまして。初めましてだね、ダレカちゃん。これからよろしく」
「んー、どーぞヨロシクです」
「それで、キミは確か…秘書なんだよね?」
「それはつまり、ダレカちゃんが秘書かって話か?」
「今そう言ったよね?…で、今更というべきか…今だからと言うべきか。私って具体的には何をしたらいいんだい?生徒からの依頼がない間とか」
「知りゃあせんっての。リンさんに聞いたら?」
「君が秘書なんだよね!?」
「二割は冗談ですって。取り敢えず、仕事は
「そっか。じゃあダレカちゃんの仕事は?」
「普段はシャーレで
「一々一言多いなぁ……まあ、別にいいけど。シャーレに居てくれるのは有難いけど…キミ、学校は?」
見た感じ………うん、宇宙服しか分からない。かなり大きなサイズだから、中身には何が詰まっててもおかしくない。かなり小さい可能性もあるし、私と同じくらいの身長はある可能性だって。
羽とか角が生えてても、獣耳があっても。例え男の子でも女の子でも、不自然ではない。いや、寧ろ何も自然ではないね。
「所属はトリニティっすけど、授業は免除されてますね。ま、テストは受けないといけないけどね。いやぁ、シャーレで寝てるだけで金がウハウハと貰えて、しかも授業免除だとか天国かよ!」
「なるほどね。リンちゃんが『シャーレに住み着く疫病神』って言ってたのはそーゆー事かぁ」
「うへへ…ダレカちゃんが神だなんて、恐れ多くも敬え慟哭しろ跪け愚民が」
「うん、トリニティに連絡して教材を送って貰うね。ダレカちゃんは生徒の見本となるべき立場なわけだし、私も先生として上手く矯正してあげるよ」
「鬼か?悪魔かよ。PTAは機能してんのかよ」
「PTAも私を全力で援護してくれるよ、多分」
「くっ…!こんの野郎ォ…もう対応に慣れていやがる!!………ま、いっか。んでセンセ、第二休眠室はダレカちゃんの部屋にしたんで。勝手に開いたらシャーレのビルが半壊する程度の罠とかもあるから気を付けてくださいっす」
「ははっ、また冗談ばっかり!…………………えっ、冗談だよね?ちょっ、ダレカちゃん!?嘘だって言って!?」
「んじゃ、今日は帰りますね〜。お疲れ様でしたー」
「ちょっ、えぇっ!?……ほ、本当に帰っちゃった…」
それだけを言い残して、宇宙服を着たダレカちゃんは意外にも俊敏な動作で目の前から消えた。
…うん、これは確かに疫病神だってリンちゃんも言うね。色々と接し易いし、悪友みたいな印象の生徒だけど…せめて爆弾の真偽だけはハッキリとさせないといけない。
もしかして、これって秘書って託けただけの押し付けなのでは?問題児を監視しろって言う連邦生徒会長からのメッセージだとしたら、私は少しばかり恨めしく思ってしまうかもしれない。
――でも何となく、ダレカちゃんとはこれから先…ずっとずっと長い付き合いになるような気がした。
◆◆◆
「オエッ…!ゲボっ、ゲボっ……!!」
トイレで嘔吐しました。
あー、やっぱキツいっすね。色々と取り繕って、ひょうきんな悪友気質な生徒を演じてはみましたが……ま、センセを目の前にすると色々とフラッシュバックしてしまうワケでして。
センセの死に際はぜーんぶ覚えてますとも。どっかの完全記憶能力みたいな脳はしてませんが、これでも連邦生徒会長から目を付けられる程度には秀才なんです。なので憎くも高性能な脳は忘れたいコトすらしっかりと記憶しやがる。
「……大丈夫、大丈夫…ダレカちゃんはまだ笑えてる。笑えてるなら、笑ってふざけ倒せ……じゃないと無価値だ。ダレカちゃんは、死神なんかじゃない…」
こーんな巫山戯た格好をしていても、ダレカちゃんはシリアス寄りの人間です。いやマジでね?数え切れないほど恩人を目の前で死なせて、それでも心の底から巫山戯倒せるほど厚顔無恥な馬鹿ではない。
結局の所、ダレカちゃんにはなーんにも分からないんです。
何がトリガーになってセンセが死ぬんでしょうね。直接的な原因になった事はないけれども、ダレカちゃんの目の前でだけ死にやがる存在。
爆発に巻き込まれたり、死角からの銃弾で頭がパーン。ファミレスで飯食ってたら毒物が混入していたコトもあるし、海ではしゃいでいたら溺れたコトも……はぁぁぁ、クッソメンディー。
ま…とりま、センセが死ぬ条件を探ってるワケです。
視界にダレカちゃんが映ったら?センセがダレカちゃんの声を聞いたら?目を合わせたら?ダレカちゃんの本名を知ったら?
さてさて、さーてさてさて。分からないから、その結果が不審者状態になった次第。別に普段着で宇宙服を着てなんかいないし、ダレカちゃんのふつくしいご尊顔を見せ付けてやりたいのですが…そーしたら死んじゃう可能性もあるし、易々とは見せれません。美人でごめんね?美しいって罪なんだなぁ。
「………帰ろ」
鏡に映る素顔は、酷いモノだった。
そりゃあ肉体的にはリセットされてるから、まだまだ走り回れますがね?精神的には絶望に絶望を重ねて吐きに吐きまくった後でして。顔がやべえ色してますし。
多分、飯を食っても吐きますね。吐いたらまた詰め込みますけど。死にたくないですし。センセをぶっ生かす為ですし、多少の苦労はしゃーないです。
だから……頼むから、声だけでも…笑っててくれよ?
◆◆◆
《ダレカちゃん》
・ループ系の生徒。所属は自称トリニティだが、本当にトリニティだとは限らない。名前もダレカちゃんと名乗っているが、ダレカちゃんが本名だとは限らない。ちゃん付けで呼んでもらっているが、女の子であるとは限らない。でも男の子であるとも限らない。
バカ高い給料に釣られてシャーレの秘書として連邦生徒会長と契約を交わしたが、いつの間にかループする事になっていた。そして何かしらを知っていそうな会長も失踪した。
何百、何千と目の前で先生を死なせてきた。然し直接的な原因にはなった試しがなく、先生はダレカちゃんの目の前でのみ放っておいたら勝手に死ぬ貧弱生物となる。理由は不明。
色々とはっちゃけている様に振舞っているが、ちゃんと内面だけはシリアス。外見はバカ丸出し。某行政官からはシャーレに住み着く疫病神と言われている。