――嘗てを思い出す。
脳天気な先輩と、生意気で性格の悪い
一度だって忘れた事はない。きっと、あの日々が私の"青春"だった。後輩のために紡ぐ青春じゃなくて、私たちのために先輩が紡いで、あの寂しい部外者と一緒に歩んだ…もう戻らない、でも何の変哲もなかった日々。
シロコちゃんには言っていないけど……シロコちゃんと出会った時、最初に連想したのはあの子だった。ボロボロな子を"拾った"って意味では、同じだったから。
こうして思い出すのは、一概に良い日々だったとは言えない。
日に日に悪化する状況。危機感の薄い先輩と、私が居なければすぐにでも死んじゃいそうな…まるで赤子みたいな他所の生徒。ストレスだって溜まるし、当たり散らかす事もあった。
でも、それでも……私たちは理想を追い掛ける
今、あの子は…キミは、何処で何をしているのかな。
先輩がいなくなってから、あの子は私の前から去った。いや…違う。私が酷いことを言って、あの子は私の暴言を素直に受け取って…姿を消した。『消えろ』だとか、『一人にして』って言ったら、その通りになって……あれは今でも後悔している。
あの後、ずっとキミを探したけど…見つからなかった。私の抱える後悔の中で、もしかしたらキミへの懺悔を出来ないことが一番悔やまれるのかもしれない。
キミは誰よりも有能で、でも自我が薄いから悪い人にすぐに利用されちゃうかもしれない。人の真似をする癖があったから、願わくば良い人に出逢って…その人の生き方を真似ていて欲しい。
もう、私には願うことしか出来ないから……
あの子は……きっと、今の私よりもボロボロだった。大人に利用されて、虐待までされて……感情と呼べるものが薄れていた。
だから助けたかったのに、私は選択を間違えた。これは、そんな私にはお似合いの末路だ。
………謝りたかった。
許されたいとは思わない。ただ、謝って……謝って、私はどうしたいんだろう?…あの日々はもう戻らない。でも…あの子との思い出は嘘じゃない。
キミに、逢いたい……それ以上は望まない。嘆いても現状は変わらないのに…願ってしまう。どうかもう一度だけ、逢いたいって。
◆◆◆
(………また、私は騙されたんだね……)
拘束されて、朦朧とする意識の中で後悔だけが思考を支配する。
やっぱり、"大人"は信用出来ない。先生を見て、"大人"に幻想を抱いたのかもしれない。本当に、笑えない話だ。
確かに先生は信用に値する大人だ。でも、だからって悪辣な奴らが先生みたいになるわけじゃない。視点が変わったとて、対象が変わるわけではないのに。完全に見誤ったとしか言い様がなかった。
あの日…ユメ先輩は言ったよね。私が、強くて頼れる後輩だって……ごめんなさい。また、先輩の期待を裏切っちゃいました。
私は、どこまでも愚かだ。今も、昔も。先輩には無謀な夢を追うなって言ったのに、現実を見れてなかったのは……逃げてしまったのは、私だった。
愚かで、救いようがなくて……なのに、『奇跡』を願ってしまう。具体性のない、只々救いを待つだけの『奇跡』的な何かを。そんな価値なんてないのに。
《――ホシノさん、簡単に死ねると思うなよな》
ダレカちゃんの言葉が頭に浮かぶ。そして同時に――
《――ほ、しの…さん……を、たすけ…たい……なに、する…?だれ、たおす……?たたいても、いいよ……?……な、にを…したら……》
あの子との最後の会話が重なった。拙くて、要領を得ない話し方。ハッキリとした物言いのダレカちゃんとは真逆なのに、妙に重なってしまう。
……もしかして、ダレカちゃんは……キミなのかな……なんて、そんなわけないか…
相当、頭もヤられてるらしい。酷く眠い……もう、疲れた。このまま何かに利用されるくらいなら、死んだ方がマシ……でも、動けない。意思が薄いからなのか、縛られているからなのか。
わからない……わからないのに、みんなの顔だけが浮かぶ。可愛い後輩。信用出来る
そして――
「……キミにもう一度、会いたかったなぁ……」
あの子に…昔の親友に、会って謝りたかった。
――ドガァァァァンッッ!!
「………?」
遠くで音が鳴った。
何かが壊れる音。別にキヴォトスでは珍しくもない音だけど、頑強なこの場所で聴こえる訳が無い破壊音だ。心做しか建物自体も揺れていて……カイザーPMCの私兵が動きを見せる様子もない。
「………あれ…拘束が……?」
気が付けば私を拘束していた機器が機能停止している。縺れる足でフラつきながらも、立ち上がれた。
何が起こっているのか……分からないのに、確信だけはあった。きっとダレカちゃんが何かやったんだ…私が黒服と契約を結ぶ前、ダレカちゃんは堂々と言った。私を助けるって……簡単には死なせてやらないって、言ってくれた。
――気が付けば、私は長い廊下を歩いて外に向かっていた。後輩に、先生に、ダレカちゃんに…会いたかったから。
◆◆◆
粉砕!玉砕!大喝采!!
よっしょぁ!ノノミさんを装備したダレカちゃんは最強だぜぇ!!だって激しく動けばノノミさんが強く抱き着いてくれるんだもの。えへ、えへへ……
「ダレカちゃん、目の前に戦車が!」
「任せタマえ!超パワー発揮、発勁!!」
宇宙服の超パワーモードを発動して、発勁的なナニカを打ち込みますと……あーら不思議、戦車がぶっ飛びます。原理は分からん。これが神秘ってやつなのさ!知らんけど。
雑魚はノノミさんで、戦車とかゴリアテはダレカちゃんがぶっ殺す。オイオイ、隙のない最強陣形じゃあねぇか。
「っ!ノノミさん、今すぐ紙袋を被ってくれる?」
「え?えっと、わかりました」
……これでやっと言える…!我らは天上天下唯我独尊!!其れ故に――
「――不審者二人。ただし最強」
「最強だお〜♢」
「クリスティーナさんって呼んだ方がいいっすか?」
「はいっ!」
この人、やっぱ素の変人なんだよなぁ。覆面水着団姿のときはファウスト様を除いて、一人だけ勝手に偽名を決めてるし、語尾が『だお』って…濃い。胃もたれするって。
ま、こーゆーノリで敵を殲滅しながら前進してまして。
途中でゲヘナ風紀委員会の手助けとか、トリニティの牽引式榴弾砲を扱う屋外授業に遭遇したり……後者は建前上やけどね?ホントはヒフミさんからのサポートだね。あとでペロロの腹筋ローラーをプレゼントしよう。ついでに頭も撫で散らかそう。
便利屋が『ここは任せて先に行け!』的なこともやってたね。アルさんからめっちゃ睨まれたけど……うーん、脅迫メールが効いてるようで何より!
あの動画、そんなに気に触ったかな?アルさんが駄菓子を落として、周りをキョロキョロしてから誰も居ないことを確認して、落としたのを拾って食べてるだけの映像なんだけどなぁ。
これがアウトローなの?(笑)ってメッセージと、助けてくれなければヒナさんに送るって感じの文章を付け加えただけなのに。
「っ!先生からの通信で、そろそろ目的地につくとの事です!だお〜!!」
「……もう覆面はとってもいいよ?クリスティーナさんや」
「えっ?そうですか…」
「なんで残念そうなの?」
「あ、そろそろ降りますね。もう敵も殆ど居ないので♤」
「…………はい」
「どうして悲しそうなんですか?」
悲しくなんかないやい!……背中が冷めちゃう…またいつか、この『不審者二人。ただし最強』形態になりたいネ。出来れば定期的に。
とりま落ちてる石を投げて遠くのオートマタをぶっ壊しまして。改めてぐるっと周りを見ると――殆ど撤退してるやん。
まー、流石にシャーレに加えてゲヘナとトリニティを相手にしたら逃げるわな。無駄に戦力を捨てるよりは、基地を捨てて少しでも撤退した方がマシだ。武器とか人件費もタダじゃねぇんだし。
いやー、そーなるとカイザーのお上さんは意外と冷静なタイプなのかもね。理事はさっき四肢をもいでぶっ飛ばしたから知らんけど、その上ってなればプレジデントとかジェネラル…だっけ?
「――ん、だいたい片付いた」
「……ねえ、シロコさん」
「なに?」
「どーしてセリカさんを背負ってるの?あー、いや…やっぱ言わなくてもいい。ダレカちゃんとノノミさんの『不審者二人。ただし最強』形態の真似でしょ。まったく…セリカさんを背負うだなんでズルいぞ!!セリカさんは共有資産でしょうが!?」
「……?よく分からないけど、あとで貸す?」
「…どうやらダレカちゃんとシロコさんは、"親友"のようだな……地元じゃあ負け知らずなマイベストフレンドだ」
「…うっぷ……つ、ツッコミたいのに…目が回って……」
とりま、フラッフラなセリカさんを優しくお姫様抱っこした。………えっ、可愛いんだけど?マジで目が回ってるから、全然暴れないし……アビドス登録遺産か?
うへへ、シロコさんも大好き〜♡二人でセリカさんを育てたいし、二人に養って欲しい……♡
「はぁ…はぁ…!み、みんな……怪我はない!?」
「あ、センセ居たんだ。……えっと、なんだっけ。ミカヅキモの増殖方法について聞きたいんだっけ?」
「違うけど!?……うん、その様子だとみんな無事みたいだね。……さて、そろそろアヤネも到着する頃だ」
あぁ〜!ヘリコプターの音〜〜!
アビドス高校で皆のサポートをしてたアヤネさんが現場に駆け付けたっぽいね。アヤネさん、地味にヘリも操縦出来るんだなぁ……自動車もいけるし、めっちゃ優秀やん。
――とりま全員揃いまして。
今はデッケェ鉄扉の前に居ます。この先にホシノさんが幽閉されてるんよね。宇宙服の指先にあった探知機を付けてるから、確実にいるよ。ま、制服だけを脱いで移動してたら話は別だけど?
「……これ、どうやって開けるの?」
「オイオイ、セリカさんや。愚問だぜ?こーゆーのは大抵、アヤネさんの隠されてた超絶筋肉で解決するってモンだ。ねっ、アヤネさん!」
「そんな隠し要素ないですよ……普通に、みんなで破壊するのはどうでしょう?ノノミ先輩のミニガンもありますし」
ちょっ、やめて!?跳弾でセンセが死んじゃうから!!(九敗)
こーゆーところなんだよね。戦闘が無事に終わってから、先生の死ぬ確率は跳ね上がるんよ。なんなん?この雑魚生物…イオリさんの足を舐めてる暇があるなら全身鎧でも買えよ。
てかシッテムの箱ちゃん、戦闘終了後も一時間くらいはセンセを守って。やくめでしょ。
「……しゃーない。全員、ちょっと下がっててくださいっす」
「………頼めるかい?」
「あたぼうよ」
やるべき事と言えば、至極単純だ。宇宙服の超パワーを解放して、斜め十字に手刀!……だけだと厚く裂けるだけだから、続いて殴り、変形させる!!
ほーら、二人くらいなら並んで通れる程度には穴が空いた。楽勝楽勝〜。だってダレカちゃん、最強だから。
結構な轟音が響いたし、ホシノさんにも聴こえてるっしょ。建物も揺れたし。システム面に関してはセンセがシッテムの箱でオールオフにしてくれたから余程原始的な縛り方でもしてない限りは自力で抜け出せるだろーし。てか、これまでのループではちゃんと自分の足で歩いて出てきてたし。
「………………」
「入らないの?」
「セリカさん、求めるだけが愛じゃないんよ。時には求められる事も必要なのさ」
「あっそ。つまり待ってろってハナシ?」
「……セリカ、よく分かるね。少しだけダレカちゃんに似てきた…かも?」
「シロコ先輩、それ最低最悪な誹謗中傷だから…ッ!」
「酷くね?……あの人は、助けを待つだけのお姫様じゃあないよ」
それに、前もって言っといたからね。必ず助けるって。助けに来たんだから、引き篭ってないで顔を出すべきだ。全部引き摺って行くって決めたヤツは、メンタルが弱くても体が勝手に動くモンだからな。
ダレカちゃんは、本当に折れて使い物にならなくなったヤツに手を差し伸べたりはしない。折れても、折れたまま立ち上がる奴には無条件で道を整えてやる。
支配に抗う少女達、往き先を自分で定める彼女達、ゲームみたいな王道を望む勇者達。絶望で育って、後悔に生きているからこそ――希望を謳う若い芽には手を差し伸べたい。彼女達は尊敬に値するから。
数分後には、まだ歩み続ける少女が破壊された鉄扉の隙間から姿を現すだろう。その時にかける言葉は、もう決まっていた。
いつも通り、軽薄に、道化のように戯けて言ってやるんだ。何事もない日常の中で、彼女の居場所を示すように。
――おかえり、と。
ちなみに、もう何度も『ダレカちゃん』の本名は作中に出てたりします。主に先生とかホシノさんに呼ばれる形で。