シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

19 / 83

エイプリルフールなので嘗ての世界線を投下しやす。今回は5話、8話でチョロっ触れられた『先生を監禁した世界線』でございやす。

今後もたまーに投下しやす。


エイプリルフール~監禁ルート~

 

砂に覆われた学園都市、アビドス。

 

形骸化した街並みは儚く物悲しい光景であると同時、夜は月光が淡く砂を照らし、幻想的な光景を創り出す。無論、虚しいほどに意味を持たない風景だ。

結局、ノスタルジックな砂都市も住まう者にとっては滅ぶ数歩前の光景でしかない。この地に利便性を見出す住民は()()()()()存在しないだろう。

 

「…………」

 

然し――人目のない都市。表立って口に出せない企みを実行するには十分すぎる条件が揃っている。

 

砂を踏み締め、酷い顔色で彷徨う――否、フラつく足取りではあるが、その生徒は明確な場所を目指して歩いている。少なくない荷物を背負い、その生徒は一つの民家に土足で足を踏み入れた。

玄関に仕掛けたトラップを一旦は解除し、自分が通ってからは再度設置する。家内に侵入した砂に隠れた、トラバサミ。それを躱した先に仕掛けられた輪縄の罠。

 

多少は傷付けるが、対象者を殺すと言うよりは特定の人物を()()()()()といった意志が滲み出る罠だ。

侵入者への警戒と同時に、人が通っていないことの確認も含んでいるのだろう。

 

靴を履いたまま短い廊下を進み、奥の階段の横にある不自然な床――四角に縁取られた足元の板を壊れない程度に踏み締めて仕組みを()()させる。

 

僅かな揺れと共に上階へ続く階段は上に登り、代わりに姿を見せるのは()()()()への階段だ。

決して長い地下階段ではない。ギシギシと鳴り響く足音からは建物が古く、過去に栄えていた時期に建てられたものの、管理されていなかった事を物語る。

 

やがて階段を降りた先には一つの部屋があり、生徒は罪悪感に表情を歪め――だが次の瞬間には陰鬱とした真顔に戻る。

 

鍵を解いて部屋に入ると、薄く灯った蛍光灯に照らされた簡素な室内が視界に入る。前の住民が使っていたであろう机に、砂災害時に避難場所として利用していたのか、そこそこに充実したキッチン。

ドアを一つ挟んだ風呂とトイレもあり、レッドウィンターの狭い寮を連想させる。然し悪目立ちするのは、端に置かれたベッドの上――長くない鎖に繋がれた一人の女性だろう。

 

丁寧に厚手の布を巻かれた手錠と足錠は、薄着の女性が少しでも傷つかないと様に、と気遣ってのものだろう。

女性――先生と目が合った生徒は買ってきた荷物を冷蔵庫に仕舞い、淡々と口を開く。

 

「………センセ、良い子にしてた…?」

 

「…動けないから、悪いことは出来ないかな。この鎖、解いてくれてもいいんだよ?」

 

「だめ。センセ……逃げる」

 

「……キミに囚われてから、どれくらいが経ったんだろうね」

 

「…………」

 

「大丈夫?ちゃんとご飯は食べてるかい?……出会った時からだけど、キミはあまりに顔色が良くないからね…」

 

「だいじょうぶ……うん、だいじょうぶだから…」

 

生徒は自分に言い聞かせる様に、先生の言葉に返す。あまりにも信用のない言葉に先生は不安を滲ませるばかりだ。

囚われているのに、一切責めようとはしない。余裕がないのは彼女も同様である筈なのに、彼女は何処までも"先生"なのだ。

 

先生に背を向けてキッチンに向かう生徒の表情はやはり罪悪感に歪み、だがそれ以上の使命感で思考を埋める。何百回と悩み、何百回と後悔を重ね。その答えが――残された選択肢が、これだけだった。死なせない為に、守り抜く為に。望まれなくても、悪党になる事を選んだ。

 

「……センセ、なに食べたい?」

 

「キミの得意料理が良いな。一緒に食べよう?」

 

「………ごめん。食べても…吐いちゃう、から……見苦しいし…ごめん、なさい…」

 

「謝らないで。見苦しくなんかないよ……私こそ、ごめんね。もっと早くキミの悩みに寄り添えていたら…」

 

「ちがう。センセは悪くない……おねがいだから、あやまらないで。これくらい、背負わせて」

 

「………………それでも、私は…」

 

慣れた手付きで作られた料理は、簡単なオムライスだ。遠い記憶の果て――初めて先生に教えてもらった料理だ。

確実に上達した筈なのに、あの頃よりも冷たく、温かみを感じない。嘗ての自分がどうやって作ったのか、覚えて再現している筈なのに、決定的に何かが違った。

 

完成したオムライスをベッド近くの机に置き、沸かしたお湯で粉末スープも作る。料理の完成を察した先生は鎖をジャラジャラと鳴らしながら椅子に座るが――

 

「…………たべ、ないの?」

 

「えっ…ケチャップは?」

 

「……?そこに置いてる、けど…」

 

「そっか、キミは知らないんだね。オムライスはね、作った子がケチャップでハートとかメッセージ、絵を描く義務があるんだよ。そうだね…私は、ハートを描いて欲しいな。おっきいのをお願いします」

 

「…義務なら、しょうがない……下手だけど、ゆるして」

 

「それが良いんじゃないか!私はね?完成されたモノよりも、不完全ながらも頑張って作ったモノを愛でたいんだ。一種の矜持といっても過言では………あ、すごく上手ですね」

 

「…?えっと……また、なにかやっちゃった…?その…作りなおす…?」

 

「ううん、大丈夫。生徒の手料理を残すくらいなら、私は舌を噛み切るよ」

 

「……だめ。ぜったい」

 

歪である筈なのに、日常的な会話が繰り広げられる。きっと、先生が生徒へ罪悪感を抱かせないようにしているのだろう。それを知りながら、生徒は彼女の行為に甘えるしかない。

 

会話をしながら、稀に先生の視線がとある場所へ向けられている事に気が付く。

 

ベッドの置かれた角とは対になる角、そこにある机だ。机上には一つのタブレット型情報端末――シッテムの箱が乱雑に置かれている。

先生の動きを制限する鎖がある故に届かず、もう数ヶ月は電源を入れていない。シッテムの箱さえなければ彼女は無力だ。逃げることも、生徒に助けを求める事も叶わない。

 

「…………あ」

 

「どうしたの?」

 

「……トイレ、行ってくる」

 

「あ、うん。あれ…部屋のは使わないの?」

 

「…うえの階にも用事があるし、そっちにいく……みたいの?」

 

「いやいやいや!私を変態みたいに言わないで!?」

 

「え?」

 

「え?」

 

「………だいじょうぶ。どんなセンセでも、受け入れるから…」

 

「キミが私にどんなイメージを抱いているのか、後でしっかりと話し合わないといけないね…!」

 

気の抜ける会話を区切り、その生徒は部屋を出て鍵を閉めた。

 

◆◆◆

 

ギシギシと軋む階段を上がり、地下から出ると――

 

「動かないで」

 

「……銃、下ろせ。万が一…有り得る、から」

 

真っ直ぐと銃口と共に向けられた紫根の瞳。低い背丈とは不釣り合いな敵愾心が正面から向けられ、然し怯むことなく足を進める。

 

「ヒナさん、外にでよ?……室内であばれたら、センセが危ない」

 

「……そう、やっぱり居るのね」

 

「………外にも、いるんでしょ?あまりに多くないけど…四人?……アビドスのみんな、かな…」

 

「あなたにも恩はあるし、傷付けたくない。だから投降して、先生を解放してちょうだい。最低限の安全は保証するわ」

 

キヴォトスにおいて最強格の生徒――空崎ヒナ。彼女は悲しそうに眉間へ皺を寄せ、ブレない銃口を向けるばかりだ。

どうやって此処を見つけたのか、そんな愚問は口に出さない。追跡方法なら幾らでもあっただろう。無論、追跡が限りなく困難な場所だからこそアビドスを選んだのだが、アビドス高校の皆に見られたのであれば納得も出来る。

 

「……外に、出ろ。センセを傷つけたくない」

 

「…………そう…投降の意思はないのね」

 

「ごめん……これしか、ないから」

 

生徒は臆することなくヒナの横を通り、外へ向かう。初めから意志を曲げるつもりは微塵もないのだ。ヒナも、その隙に奥へ向かうことはせずに、続けて玄関に向かう。

彼女とて先生を傷付けたくはないのだろう。ヒナには、先生がどんな状態で監禁されているのかは分からない。故に無理な突破での、予想出来ないことへ発展する可能性を恐れていた。

 

ゆったりとした足取りで外に出ると、予想していた通り、アビドスの生徒が銃を向けて待機していた。アヤネの姿が見えないのは、別の場所からのオペレーターを担っているからだろう。

 

「……………」

 

「…一応、聞くよ。何かの間違いだったりする?」

 

「……ううん。まちがってないよ、ホシノさん」

 

「ッ……!なんで…何でよ!何が気に入らなかったのよ!?」

 

「セリカさん……ごめん、なさい…」

 

「謝って欲しいんじゃない…!」

 

ホシノ、セリカ、シロコ、ノノミ、ヒナ。誰もが悲痛に表情を歪める。何故、こうなってしまったのか。何が間違っていたのか。

何もかもが順調だった筈だ。連邦生徒会長の不在で荒れたキヴォトスは先生のおかげで落ち着き、各学園の危機も乗り越え、着実に良い未来へ向かっていた。

 

それなのに、唐突に起こったシャーレの先生と秘書の失踪。当然、キヴォトスは荒れた。以前よりもトリニティとゲヘナの争いは増え、またアビドスは不良生徒に狙われるようになり。

 

先生のおかげで水面下で保たれていた平穏が、一気に崩れてしまった。

 

「どうして、こんなことを?」

 

――砂狼シロコは言葉を飾らず、真っ直ぐと聞く。言葉を濁すことも、逸らすことも許さないと双眸が告げていた。

 

「……いまの…ううん、これまでもだけど……キヴォトスは、危険。不安定で…」

 

「それは…アンタが先生を誘拐したからでしょ!!」

 

「ちがう、セリカさん……なんで?なんで、キヴォトスは…()()()()()()()()の?…センセが傷ついて、やっと成り立つ"平穏"……それが、ゆがんでる。きもちわるい……もう、じゅうぶん助けたでしょ。どこまで、あの人を傷つけたら…気が済むの?」

 

「そ、そんな……誰も、先生を傷付けたりなんか…」

 

「おかしいよ、ノノミさん。アビドスは…殆ど無償で、センセに助けられた。でも…まだ、たよろうとしてる。傲慢、強欲…助けられて当然――そんな気がなくても、()()()()()

 

「……っ!」

 

「センセは、キヴォトスの人とはちがう。撃たれれば、しぬ。爆発にまきこまれたら、生命に関わる怪我を負う。なのに……みんな、自覚がうすい…!死んでからじゃ…遅い…ッ!!」

 

――誰かが唾を飲む音がした。

 

これまで、その生徒が知人に敵愾心を剥き出しにすることはなかった。穏やかというよりは、無機質な生徒だったのだ。

その性質はホシノの知る過去の性格とは異なるが、然し取り繕ったモノでもない。淡々と全てを俯瞰して、焦り、絶望しながらも進む姿は希望を謳い突き進む先生の横にいつも在った。

 

そんな生徒が、今は自分達に明確な敵意を込めているのだ。誰だってたじろぎ、銃口を震わせる。

 

「………話しても無駄ね」

 

「ごめん、ヒナさん。もう止まれないから……場所、変えよう。あっちの空き地、なら…広い」

 

先頭を歩き始めた背中を、誰も撃つ気はなかった。たった一度や二度の被弾で結果が変わる生徒でもない。この場で逆上されるよりは、彼女達も十分に陣形を組んで立ち回った方が()()()()()()()()

 

無言で歩き、十数分。到着した空き地の奥でその生徒は愛銃――グロック26(メメント・モリ)を右手に、バールのようなものを左手に持つ。

 

「………いいよ、きても。…勝てるなら、センセを任せれる」

 

「…みんな、好きに暴れてね。攻撃は全部、私が受け止め――ッ!?」

 

「むり、だよ…」

 

ホシノが盾を展開し、構えた刹那――眼前に現れた生徒は低い体勢からバールのようなものでホシノの足を前に引き、盾に叩き付けるようにメメント・モリを放つ。

しっかりと構えていたなら、大砲の一撃にも勝るメメント・モリの銃撃も受け止めきれていただろう。然しバールのようなもので足を取られていた故に、ホシノの軽い身体を支えるものは何もない。

 

「――カッ…ハ…ッ!?」

 

「ホシノ先輩!ぐっ…このっ!!」

 

「……効かないよ、セリカさん」

 

「なら――これでどう?」

 

「…っ!……ヒナさんのは、当たりたくない……かな」

 

「ケホッ……ノノミちゃん!風紀委員長ちゃんに合わせて!!」

 

「は、はいっ!」

 

銃弾の嵐が放たれると同時、走り出す。胴体ならば幾ら着弾しても()()()()()が、頭部や足は本人の意志を関せずに致命的な結果になる可能性がある。

 

避けきれない局所はバールのようなもので弾き、メメント・モリで地面を撃ちながら砂で擬似的な煙幕を張る。身体の丈夫さには多少の自信はあれど、無敵ではない。

それでも最初の世界線よりは強く、神秘も篭っている体だ。例え空崎ヒナが相手であろうとも、容易く倒れたりはしない。

 

牽制を込めて何発か撃ち、物陰に隠れる。

 

相手の生死を問わないのであれば、やりようは幾らでもある。その生徒は、ヘイローの壊し方や人をいたぶる効率的な方法を学んで育った。

だが、殺人を犯せば先生が泣くだろう。それだけは、避けたい。先生が生き残って、その先にも人生は続くのだ。彼女の心に無駄な傷は刻みたくなかった。

 

「………しかた、ない」

 

銃弾の嵐が塀を削っている。だが構わず飛び出して、向かいにある塀を足場にして()()()()。飛行こそ出来ないが、二つの片翼で体勢を整える程度は可能だ。

ヒナとノノミの銃弾を浴びながら空中で懐に手を突っ込み、閃光弾を取り出す。そして、大きな翼で身体を覆い隠しながら投擲――

 

「なっ――」

 

「閃光弾!?」

 

「――手荒く、する…!」

 

一瞬の閃光の後、落下しながらメメント・モリで数人の頭を撃ち抜く。死にはしないが、意識は飛ぶだろう。

 

倒れたのはノノミ、シロコ、セリカだ。ヒナは自分の翼で防御しており、ホシノは盾とアヤネが飛ばしたドローンで守ったようだ。

普段は先生を巻き込むので決して使わない切り札だが、それ故に彼女達にとっては十二分な不意打ちになった。

 

「ぐっ…みんな!!」

 

「……気絶してる、だけ。……すぐに、意識も戻る…」

 

「この――ッ」

 

「待って、小鳥遊ホシノ…!……突出するのは危険よ。一人でどうにかなる相手じゃない」

 

「……ざんねん。ホシノさんを倒す、チャンスだったのに……」

 

先にホシノを除くアビドスの皆を気絶させたのは、一種の作戦でもあったのだろう。小鳥遊ホシノの明確な弱点は()()だ。過去のトラウマからか、盾持ちとしての矜持か。

先に味方が傷付けば、逆上する。そんな明確な弱点を無視するほど相対する生徒には余裕はない。倫理には則るが、殺さない、無駄に傷付けない、といった条件の上ではなんだってするつもりだ。

 

 

――だが、"終わり(綻び)"は唐突に現れる。

 

 

「……覚悟してよね。少し、痛い目に…」

 

「――まって、ホシノさん。……みょうな気配が……」

 

「っ!……なっ…空が…!?」

 

肌を撫でる嫌な空気に背を冷やした刹那――()()()()()()()

 

何か、良くないモノがキヴォトスに侵入した。理由も根拠もないが、何故か身体が過剰なまでに反応していた。

赤子でも分かる事だ。先程まで何事もなかった夜空が、急に赤く染ったのだ。異常事態であるのは目に見えていた。故に、()()()()()

 

――嫌な予感、というのはいつも的中する。

 

胸騒ぎは冷や汗と吐き気を扇ぐ。砂に足を取られながら、ヒナとホシノの制止する声を振り切り、先生の居る隠れ家へと走る。

 

「なん、だよ……クソッ…!クソッ!!」

 

塀を、家を――全てを足場にして最短ルートで向かう。何度も通った場所だ。道を無視しても辿り着ける。

 

そうして着いた時には、()()()()()()()()

 

「…………いや、まだ地下室に――っ!?」

 

構わず瓦礫を退けようとした瞬間――背後に濃密な混沌とした気配を察知して振り返る。

 

()()は這い寄るように、後ろに居た。

 

灰色の触手に、見慣れた二つの片翼。能面の如く顔と呼べる部分はなく、尖った片耳も形ばかりで穴は塞がっている。身体も先生の数倍はあるだろう。

ひび割れたヘイローを掲げる化け物はまさに、貌がない故に千の貌を持つ異形だ。

 

矛盾を内包する『無貌の神』は血の滴る触手で何かを此方へ投げる。咄嗟に受け止め――瞬間、その生徒は現実を受け止めきれなかった。

 

 

「せ、センセ……?」

 

 

返事はない。

 

微かに瞼が持ち上がり、先生の右手が唖然とする生徒の頬を撫で――それを最後に、力尽きた。

 

「………ご…めん、ね……」

「あ、あぁ……ああああぁぁぁッッ!!」

 

 

――世界が廻り、次のループが始まる。

 






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。