「大事なのは経験ではなく選択」
「んー、アリスさん。そこの場面が切り替わる瞬間にステックを下に押しながらBとLを交互に連打してみ?イベント会話が終わった後に未実装だった数値カンスト最強武器がいつの間にか装備されてるから。あ、装備ステータス画面は開いちゃダメだよ。変なバグでプレイヤーネームが『ソ縺溘>縺ェ譁?ュ』になるからね」
「なるほど…………あ、できました。おぉ、そなたが賢者であったか!」
「まだ口調が安定しないっすねぇ」
「……ミドリ、この仕様私知らない…」
「私だって知らないよ……製作者なのに」
ん、ダレカちゃんだよ。今はアリスさんが泣きながらクリアしたTSCの裏技を教えてあげてます。へへっ、RTA世界最速走者のダレカちゃんですし、バグの大半は把握してるよ。
嘗てはダレカちゃんも泣きながらやり込んだモノだ。産まれて初めてのプレゼントだったし。
センセは明日の朝まで来ないし、そもそも明日の朝にならないとアリスさんの学生証が完成しないから下手に行動できない。
セミナーの人に見つかったらやべぇ。特に可愛い子を全て把握してると豪語するユウカさんはもっとやべぇ。じゃけん黙って部室に缶詰してようね。
「ホント、オモロいゲームやろ?」
「そうですね……これは、未知?新しい世界…を、旅しているような……言葉にするのは難しいです…けど、もう一度やってみたいです」
…ま、そーゆーもんだよ。知識ってのは必ずしも賢さに繋がるワケでもねぇし、アリスさんに足りないのは感性だ。感性を養うならゲームが向いてるのは確かだよ。しかも激情を掻き立てるならクソゲーがサイコーってね。
うーん、こうしてアリスさんが生意気に育っていくんだね。感慨深いなぁ……格闘ゲームをやって覇王になったりしないかな。
オートマタ以上にラーニング能力は優秀だからね。まるで戦闘中に急成長するような仕組みだね。いやー、なんでだろーねー。
ほんで、チラリとロッカーに目を向けますと――
「あ、あの……!」
「あん!?なんじゃ我ェ!!」
「ピィッ!?」
「えっ……ユズちゃん、いつから居たの…!?」
ずっと居たんだよなぁ…
ユズさんじゃんね☆可愛いね。ダレカちゃん、気弱な子とツンデレな子、生意気な子とか闇深い子、真面目な子とかが好きです。てかセンセとゲマッさん以外はみーんなしゅき♡
でも一番はセリカさんやよ?ぬへへ、愛おしいね。この愛を伝えるにはどーするべきなのか…とりまアビドスに金を寄付しよ。金が欲しくて連邦生徒会長に身売りしたのも三割はその為だし。あとは昔のオナカマに物資を送ったり、必要経費として使い込んだり、その他諸々。
「コラ!ダレカちゃん、ユズを怖がらせないの!!」
「そうだぞミドリさん!!」
「責任転嫁が手慣れてる……」
「ま、それはどーでも良くて。こんちゃっす、ハジメマーシテー、ダレカちゃんだよ。極度の軽蔑と侮蔑を込めてダレカちゃんって呼んでね」
「えっ……あ、あ……は、花岡ユズ…です…」
「そういう君は完璧で究極のゲッターだね」
「え?」
「え?」
「アリス、知ってます。ダレカちゃんの言ってる事の四割は戯言だって先生が言っていました」
「こころこわれそう……」
純粋無垢な瞳でそーゆーこと言わんといて?既に砕けてる心をすり鉢で粉状にせんといて。終いにゃあ泣くぞ?とりま後でセンセの黒歴史を広めよう。
ともあれ、やっとロッカーから出てきたね。あんま引き篭ってれば汗臭くなるぜ。知らんけど。
「その……あ、ありがとう…!」
「………?」
「ゲーム…面白いって、言ってくれて……もう一度やりたいって言ってくれて…本当に、ありがとう…二人とも」
「……………え、これダレカちゃんにも言われてる系?」
「そりゃあそーでしょ。ごりらワッフルさん」
「モモイさん、その名前で呼ばんといて?次に呼んだらモモイさんをモッさん、ユズさんをズッさん、アリスさんをアリンスさん、ミドリさんを寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子セリカサンしゅきパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助さんって呼ぶよ」
「モッさんは嫌だなぁ…」
「わ、私も……ズッさんはちょっと…」
「……?私、アリンスじゃなくてアリスですよ?」
「なんか私だけおかしくない!?」
――閑話休題。ミドリさんのせいでお話が逸れ逸れになっちゃったね。反省してもろうて。
「改めまして。ゲーム開発部の部長、ユズです。この部に来てくれてありがとう…アリスちゃん。ダレカちゃんも、色々と協力してくれてありがとう。……えっと、これからよろしくね」
「よろしゅうな、ユズはん」
「よろ、しく……?……理解。ユズが仲間になりました、パンパカパーン!…で、あっていますか?」
これがTSC教育とエボンの賜物だね。これが明日にはちょいと変わった電波系だけど好奇心旺盛な女の子になるんだから、よく出来たモノだね。ダレカちゃんもそのくらい優秀だったらセンセを救えたのかもね、無理だけど。
大切なのは経験じゃなくて選択、つまりランダム性の高過ぎるゲームはRTAに向いてないってコトだね。
「ふふっ…その様子だと、本当に私たちのゲームを楽しんでくれたんだね……うん、仲間が増えるのは、RPGの醍醐味のひとつだもんね。…あ、もしRPGを面白いって思ってくれたなら……わたしが、他におすすめなゲームを教えてあげる」
「ちょっと待ったぁ!アリスにオススメするのは私が先!良質なゲームをやればやるほど話し方も自然になって、私たちの計画の成功率も上がるんだし!まずは『英雄神話』と『ファイナル・ファンタジア』、『アイズ・エターナル』と……」
「お姉ちゃん何言ってるの、アリスちゃんはゲーム初心者だよ!?『ゼルナ伝説・夢見るアイランド』か、始めるのが一番だって!!」
「……ちょい、御三方?少し落ち着いて――」
「これだけは譲れない、次にやるべきは『ロマンシング物語』だよ。あ、でも第三段だけはちょっと…個人的には、ならなくても良いかなって…」
ンアーーッ!三人の勢いが止まりません!!このゲーマー共め…!てか会話メインのRPGなら『へるそな』シリーズだろ。
こーゆー濃い会話が繰り広げられると、ダレカちゃんの変人度が下がるからやめて欲しい。ダレカちゃんはね、マトモな事なんて言わないし戯言しか言わないし、めちゃくちゃなクソ道化じゃないといけないの。
「………期待。アリスは、全部のゲームをやります…!」
あ、じゃあ『へるそな』もよろ。てか『男神転生』もやるべき。そしてダレカちゃんともあっち向いてホイをやるべき。
◆◆◆
はい、夜中です。
夜中なので校舎内を彷徨いております。クソゲー部の皆は寝てるし、アリスさんは無言でピコピコとヤッていらっしゃるし。大切な時期だからアリスさんの邪魔はしたくないからね。
そんで基本的に寝たら最悪の夢見で吐くタイプのダレカちゃんは寝る訳にもいかないんですわ。なので布石でも撒きに来てます。
ま、普通にエンジニア部に行くんやけどね。『ダレカちゃん』が着てる宇宙服を作った所だし、明日はセンセも伴ってエンジニア部に行くから変な誤解とかで正体バレはしたくないんだよね。
このくらいの時間帯になるとウタハさんしかいないし。ちょーど良いってこと。
テクテクテクテクと工房前に来まして。べっつに、そこまで身構えるわけでもないし、普通に行こう。
「どーも。こんばんは、ウタハさん。邪魔してもいいっすか?」
「………不審者かい?」
「失敬な。侵入者だよ」
「自分で言うのか……で、私になにか用かな。
「あ、ごめん。普通に人違いです」
「……………………」
「普通に人違いです」
「二回も言わなくても聞こえてるよ…ッ!!」
ほら、こーゆー勘違いが起こるんだよ。だってこの宇宙服を買ったのって連邦生徒会長だし、めっっちゃ高いから他の技術者が再現するメリットもねぇし。
そりゃあ、そんなのを着て現れたらキメ顔で勘違いするよね。キリッってしてたよ、可愛いね。
「…で、じゃあ君は誰なんだい?」
「ダレカちゃんだよ、よろしくね」
「なるほど、偽名か…」
「おいコラ、ダレカちゃんのネーミングセンスに文句があるなら聞こうじゃあないか」
ダレカちゃんのこの格好も多少は話題になってきてる時期だとは思うんだけど、この人は良くも悪くも興味無いタイプやからね。
つっても、自分の創作物には愛情と責任を持っている人だ。もしダレカちゃんが連邦生徒会長を殺したり監禁したりして、この宇宙服を奪ったって話になれば色々と大変だ。
「じゃあ次の質問だ。その宇宙服、何処で手に入れたんだい?売ったから元金以上は戻ってきているけど、予算の殆どとロマンを費やした物なんだ。この世に一つしかない、彼女の所有物だよ」
「その彼女からプレゼントしてもらったんだよね。そーゆー契約だし」
「…なるほどね。疑うわけでは……いや、正直に言おう。私は君を疑ってる。君と連邦生徒会長との関係性がわからない。何か証拠は――」
「あるぜ?」
別にダレカちゃんはセンセに正体を隠してるだけで、他の全員に向けて正体不明なダレカちゃんで在る必要性はない。
ホシノさんの場合は久し振りに戻ってきた親友が死んだ目で大人の隣に居るって状況だけでバットエンドになり得るから全てが解決するまでは隠し通すつもりだけど、ウタハさんなら協力してくれるだろ。
一瞬だけ頭部のロックを解除して外す。ま、それでも素の背の問題で目の部分しか見えないだろうけど、それでじゅーぶん。頭部の特徴は多少ゴテゴテと増えてるけど、変わらない部分もあるし。ウタハさんなら気付くよ。
疑惑的な目が驚きに変わるのを見届けて、再度装着!うーん…この守られてる感、安心するね。
「っ!?」
「ね、問題ないでしょ」
「まさか……キミ、なのか…!?」
「今は『ダレカちゃん』って名乗ってるからね。そう呼んでくれないと返事しないぞ」
「随分と、変わったね……性格も、姿も……その目も。……前以上に歳不相応だよ」
「ま、色々とあったんだよ。言わんけど」
「彼女の失踪とも関係あるのかい?」
「さあ、どーだろうね」
「そうか。ところでジュースを飲まないかい?好きだったよね」
「自白剤入のジュースは嫌いかな」
「まだ入れてないよ」
「これから入れるのかぁ…」
そーゆーところやぞ。ウタハさん、秘密を周りに言いふらしたりはしないけど、自分では探りまくるからね。別にいいけど。ループしてること自体、どうやっても証拠なんて見つからないし。
ま、ウタハさんとはそこまで親しい仲でもなかったし、必死になって探ったりとしないでしょ。ネルさんはやべぇけど。あの人には絶対にバレたらアカン。死ぬ、センセが。いや死なんけど、後々に響く結果になる。
「――今日顔を出したのは、ちゃんと用事があったからっす」
「用事?」
「明日も顔を出すんだけど、そんときに宇宙服の件で誤解されたくなかったんだよ。堂々と『連邦生徒会長さん(キリッ)』って言われたら堪らないからね。『連邦生徒会長さん(キリッ)』って言われたら」
「なんで二回も言った!?」
「そんでもう一つ。定期的に宇宙服の整備をお願いしたくて。常に酷使してるし、どっかの部分は壊れててもおかしくないからね。あ、ちゃんと整備費とか修繕費は出すよ」
多少は撃たれても問題ないくらいには丈夫だけど、問題は
ホシノさん救出時に使ってた超パワーモード。あれを短期間に多用すると人工筋肉がズタズタになるし、普段は使ってない状態で動き回ってるから足裏の基盤とか見るのも怖い。
壊れたら『戸久銘ムメイ』とかの別衣装でも動けるけど、『ダレカちゃん』としては致命的だ。なんで壊れる前にどーにかしたい。
んー、これまでのループでここまで宇宙服を着て暴れることはなかったから、色々と心配だ。
「……いや、無料で請け負うよ。キミがそこまでボロボロになってるんだ。年上として、ほんの少しだけでも背負わせてくれ。なに、私のワガママだ。ついでにマイスターとしての矜持とでも思ってくれ」
「あらま、サンキュっす。……あとで寿司奢るね。回らない寿司」
「回る寿司の方が良いかな、気が楽だからね。その分、私の後輩たちにも一緒に奢ってもらうよ」
「えぇ…ウタハさんとデートするつもりだったのに」
「ははっ、デートだなんて私の柄じゃないよ」
遠回しにフラれましたわ。悲しいですわ。グスンですわ。でもダレカちゃんの中身を知ってるウタハさんですし、相当無理してるのもバレてそう。
べ、別にいいもん。泣いてなんかないもん。涙なんて枯れ果ててるもん。
「じゃあ早速始めるから、宇宙服は置いて行ってね」
「え?」
「明日の朝には終わるよ。なーに、どうせ徹夜するつもりだったんだ。任せてくれ」
「……マジ?」
「暫く手入れしてないんだろう?パッと見た感じでも特に脚部分の損傷が激しい。下手に先延ばしにしたら致命的な故障につながるだろうね」
…仕方ない。別衣装にでも着替えよう。あ、ウタハさん?恥ずかしいからちょっとあっち向いててね。鎧は置いて来たから、別衣装に着替えましょっとね。
◆◆◆
「きゃああぁぁぁぁっ!?」
次の朝。ミドリさんの悲鳴が部室に届きましたとさ。めでたしめでたし。
ダレカちゃんのヘイローは大小様々な先端の鋭いバツ印が縦の円柱を象るように無数に並んでいる感じです。ボロボロになった灰色の王冠みたいなモノだと思っていただければ。