シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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ダレカちゃんは合宿所に着きます

 

「ようやく着きましたね、ここで合宿するんですか…」

 

部屋を見渡しながらハナコさんがしみじみと呟いた。

 

あ、ダレカちゃんです。みんなを裏切る極悪非道なバッドダレカちゃんです。白い宇宙服も黒く染めようかな?悪者感が増すし。

 

ってな事で、今日から補習授業部の勉強合宿だよ。

 

目的は特別試験合格に向けての勉強。ついでにナギサさんの目的はセンセに裏切り者を見つけてもらうことやね。

ま、トリニティを裏切るわるーい生徒さんなんて居ないんだけどね?敢えて言うならダレカちゃんだよ、ダレカちゃんの中の人が元所属的にいっちゃん危険人物だよ。

 

「しばらく使われていない別館の建物と聞いていましたが……意外と広いですね。きちんとしてますし、可愛いベッドもあってなによりです」

 

「おん?ハナコさん、インテリアに拘るタイプなん?」

 

「ふふっ、どうでしょうね?」

 

意外と実用性重視のクセに。や、女子高生らしく"可愛い"とか、そーゆーのが好きなのは知ってっけど…ヒフミさんとかは実用性よりもペロロ重視だよね。

てかペロログッズが実用性アリアリのアリーヴェデルチなんだわ。コラボ商品を抜きにしても、デコイに爆弾…銃に絵を描いたデコ銃も見たことあるよ。クッソ高いけど。

 

「これならみんなで寝られそうですね、()()♡」

 

「さっきから何でちょいちょい『裸』を強調するの!?それにベッドの数もちゃんとあるんだから、みんなで寝る必要無いでしょ!!」

 

「せっかくの合宿なのですし、そういう()()()も必要なのではないでしょうか?」

 

「ダメ!えっちなのは禁止!!死刑!!」

 

「コハルさんは元気いいなぁ。何かいい事でもあったのかい?」

 

「……ダレカちゃん、恐らくコハルは怒っているのだろう。憤慨しているから、良い事はなかったと推測出来る」

 

「えっ、あっはい」

 

「あ、アズサちゃん……その…ダレカちゃんはコハルちゃんに良い事があったって勘違いしてるわけじゃなくて、一つのネタというか…茶化しているみたいなものでして…」

 

やめて?人のボケを一つ一つ丁寧に解説してアズサさんの勘違いを解こうとしないで?終いにゃあ羞恥心で死ぬぞ?

 

で、今ちょうどアズサさんが戻ってきましたが。この人、別館の偵察と罠の設置をしてきたんだよなぁ。や、別にいいけど。

意外にもセンセがアズサさんの罠で死んだことはないし、あるとしても足止めとかに特化した煙幕や閃光、もしくは縄を使ったタイプだからね。

 

寧ろ罠に引っかかったセンセを嘲笑いたい。ゲラゲラ、ゲラゲラポーと笑って写真を撮って、それを見せるって口実でセリカさんに会いに行ってバイトの手伝いをしたり一緒にご飯を食べたりしたい。ま、食べるのはセリカさんだけだし、ダレカちゃんは見てるだけやけど。

 

あー、なんかセリカさんに会いたくなってきた。もういっそ、カタコンベの出入り口を全て爆弾でぶっ潰して終わらせようかな……やらないけど。サッちゃん達を見殺しには出来ないし、恩があるから。

 

あー、バニバニ。

 

「アズサさん、どーだった?気に入った?」

 

「…うん、外への入口が二つだけな所が気に入った。いざという時は片方の入口を塞いで、襲撃者たちを一階の体育館に誘導した上での殲滅戦が有効になるかな」

 

「相手方の装備にもよりけりやけどね。早々ないけど、バリケードごと突破する強力な『個』がいれば誘導も叶わんぜ?」

 

「私とダレカちゃん、ついでに有名なシャーレの先生がいればどうとでもなる。まぁ、幾つかセキュリティ上の脆弱性も確認出来たけど、修繕すれば問題のない範囲だ」

 

「なんだか危ない発言してませんか!?」

 

「いや、安全性の確保は最優先だろう」

 

「あの、アズサちゃん…?私たちはここへ戦いに来たのではなくて、勉強をしに来たんですよ…?」

 

「うん、分かってる。一週間の集中訓練だろう?外出禁止、自由時間は皆無、24時間一挙手一投足まで油断することは許されないハードなトレーニング。本番よりも本番らしく、準備は万全に」

 

「そこまででは無いと思いますが……」

 

「…それに、もう失うのは嫌だから…」

 

「あ、アズサちゃん…?」

 

あ〜、罪悪感の音〜!どーする?ダレカちゃん、反省して血反吐を吐き散らかす?にはは、もう別物を吐き散らかしてるじゃんね☆

どーしよっかなー、どーしよっかなー。とりあえずアズサさんをモモフレ沼にハメてお馬鹿さんにするのは最優先事項として、ずっとお節介自称お姉ちゃんをやられても暗躍しづらいからなぁ…

 

「――だから、きちんと準備をしてきた。体操着に細かい着替え、衛生面の歯ブラシや歯磨き粉、石鹸、非常食に毛布、水筒……」

 

「ふふっ、さすがはアズサちゃん。用意周到ですね」

 

「当然だ。徹底した準備こそが成功への糸口」

 

「みんなで一緒に食欲を満たし、睡眠欲を満たし、そしてみんなが欲する目標へと向かって脇目も振らず手を動かす……良いですね、合宿」

 

「おや?言い方に悪意を感じるぞ?まるで三大欲求だね、コハルさん!ところで三大欲求の最後の一つってなんだっけ、コハルさんっ!!」

 

「え、あっ……ご、強欲…?」

 

「七つの大罪かな?」

 

ダメだ、セクハラしようとしたのにコハルさんが馬鹿すぎた。なんだよ、食欲・睡眠欲・強欲って。人々の営みを破壊せんとする魔王かよ。

きっと…この合宿が終わる頃にはコハルさんも、ミレニアム問題をケツをぐわしくわしと掻きながら解けるくらいには賢くなってるハズ。ダレカちゃんは無理だけど。

 

ってなワケで、合宿が始まりましたとさ。

 

「――さて、じゃあダレカちゃんは一旦失礼するよー?」

 

「えっ?ど、何処に行くの…?」

 

「そんな不安そうな顔するなって、コハルさん。ちょいと自分の部屋を見繕うだけだよ。一応は副担任的な立場だから情報統制の一環として自室を設けるのと、単純に悪巧みする自室が欲しい!とても切実に!!」

 

コハルさんはアレだよね、この中で唯一の知り合いだったダレカちゃんが居なくなるってことに心細さを感じてるんだよね。

 

え、可愛すぎない?抱きしめてプロポーズして幸せな家庭を築いても良き?まずはトリニティ固有文化遺産に認定しよう。

やー、ピンク髪のチビっていいよね。昔のホシノさんもだけど、親しくなると印象が変わるタイプのツンデレってしゅきしゅきだいしゅき。ダレカちゃんの人生のフルコースに入る程度には好き。

 

「悪巧みって…ダレカちゃん、部屋のベッドが足りないだけでしょ。いいよ、昔みたいに私と一緒に寝よう?」

 

「え、やだ」

 

「っ!?!?」

 

アズサさんは何を言ってるの?普通に別室が欲しいだけなんだけど…や、昔ならそーだったね。昔は譲ったり分け与えたりする事が唯一の感情表現でコミュニケーションのとり方だったから、アズサさんには超絶遠慮がちなガキンチョに見えてたんだろうね。

 

とりまショックを受けてるアズサさんをハナコさんに手渡して、ダレカちゃんは自室改造をしよ〜!ぐへへ、シャーレ第二休眠室よりも強固なセキュリティを築き上げるぞ〜!!

 

◆◆◆

 

「……行っちゃいましたね」

 

宇宙服の生徒が部屋を去った後、ヒフミは呟いた。

 

心做しか部屋が静かになったのは、その生徒が良くも悪くも四人の橋渡しになっていたからだろう。

無論、気まずいといった雰囲気ではないのだが、然し冗談を言って皆を揶揄い、時には自爆するような発言で戯けていた生徒はとっくに補習授業部のコミュニティにおける一員にはなっていた。

 

一瞬だけ静まった部屋の中でヒフミはふと疑問が浮かぶ。『ダレカちゃん』と名乗る生徒が皆の橋渡しになっていたのは前述した通りなのだろうが、然し何故そうなったのかは誰も言及していなかった。

 

「そういえば、皆さんはダレカちゃんとお知り合いだったんですか?」

 

「……ふふっ、どう思います?」

 

「え?えっと…その、あまり聞かない方がいいですか…?」

 

「いえ、隠すことでもありませんが……ええ、友人と言っても差し支えないかと。アレは二ヶ月程前でしょうか…私が夜中に水着で徘徊していたところで――」

 

「な、なんで水着で徘徊してるの!?しかも二ヶ月前って…まだ少し肌寒いでしょ!?」

 

明らかに常識的な語り初めではなく、思わずコハルが口を挟むが、だがハナコはその反応に微笑みながら語りを続ける。

 

「徘徊していたところで、暖かい紅茶をストローで飲んでいる宇宙服の不審者に出会ったんです。そして友達になりました♡」

 

「……私は今、なにか重要な部分を聞き飛ばしたのか…?」

 

「それから、定期的に夜中にダレカちゃんと会って紅茶を嗜む仲になりまして。ふふっ、有り触れたお話です。偶々出会って、友達になる。ええ、普通の青春ですよ?」

 

「普通……夜中に宇宙服の生徒と出会って、紅茶を嗜むのが普通…?うぅ…もう普通がわかりません…」

 

無論、宇宙服の不審者と浦和ハナコの出会いから友人関係を構築するまでは語られた程までに単調ではなかった。

 

そも、疑い深い性格の彼女が偶然出会った不審者と仲良くなるのは、彼女の性格を知る者にとっては信じ難い事柄だ。

語られない会話があり、知られない心情が交差し、現状に至る。浦和ハナコと『ダレカちゃん』の関係は単調な積み重ねが絡み合い、互いを観察し合って初めて成り立つような矛盾を孕む歪なモノなのだ。

 

そして――その関係性を、浦和ハナコは尊く思う。故に、ハナコは『ダレカちゃん』と名乗る謎の生徒をかけがえのない友人であると断ずる。

 

「まあ、私のことはそこそこに。コハルちゃんはどうなのですか?随分と、ダレカちゃんから()()()()()()ように見えましたよ?」

 

「は、はぁ!?愛なんてないから!!と、友達…普通の友達!!……あまり会ってないし、あいつがどう思っているのは分からないけど……」

 

「ダレカちゃんはコハルの事、大好きだと思う。うん、見ればわかる」

 

「だ…大好き!?え…あっ、えっと……し、知らない!知らない知らない!私とあの不審者のことは内緒!!」

 

「ええ!?……いえ、強要は出来ませんけど…」

 

特段、語れるような特別な物語はない。対照がハナコとの異常で複雑奇怪な関係性である以上、コハルと宇宙服の不審者との初対面は特別性を帯びないのだ。

 

何度もトリニティの自治区で見かけ、気付いたら稀に話すようになっていて、いつの間にか所属しているクラスや部活動とは別の友人となっていた。

人見知りが激しい故か、コハルは一対一の関係性に疎い。この補習授業部においても、全員が他人だったからこそ徐々に馴染めているだけであり、何の要因も無い――それこそ所属組織が関係しない人との友人関係など、あの宇宙服の生徒しかいない。

 

話し掛けてきたのは某不審者であり、きっと当時の彼女は過度に警戒して過剰な言葉をぶつけた。コハルにも自覚はあり、だからこそ自分の言葉を気にせずに()()に話しかけて来る不審者が奇妙であり、そして――いつの間にか日常に組み込まれていた。

 

あの不審者は茶化すように親友やらマイベストフレンドと言うが、コハルは内心では否定も肯定もしない。コハルの枠組みから外れた位置からの交友関係だった為か、コハル自身も測りかねていた。

 

「えっと、アズサちゃんは…?とても親しげというか、ダレカちゃんと話す時だけは心做しか優しいですよね。表情が柔らかいです」

 

「………まあ、コハルに習って()()とさせてもらう。ダレカちゃんも色々と隠しているようだし、私もダレカちゃんについてどこまで語って良いものかわからないから」

 

「あらあら、うふふ…♡関係性は想像に任せると」

 

「うん、それで構わない」

 

これから、アズサは危険に身を投じる。自身のみで終わらせるつもりだが、万が一があれば何処まで被害が及ぶのかは計り知れない。

 

きっと、全てが明らかになったら。

 

最初に巻き込まれるのは誰なのか、想像に難くない。だからこそアズサは口を閉ざした。嘘をつく事も考えたが、幸い、先の二人は殆どを秘密にした。

ならば今更アズサが秘密にしたところで、不和が生じることもないだろう。

 

「それで、ヒフミはどうなんだ?ダレカちゃんだけでなく先生とも知り合いだったらしいけど、あまり共通項は見受けられない」

 

「あ、あはは…前にトリニティ外部でお買い物をしていた時に、不良に追い掛けられまして……その時に助けて頂いたんです。それから、一応は連邦捜査部の所属生徒となりまして…はい、それだけです…」

 

「……?トリニティの外部に一人で行ったの?」

 

「…あっ、えっと…ペロロ様の限定ぬいぐるみがありまして、仕方なく…」

 

キヴォトスにおいて、学園とは国に等しい。部活動や生徒会組織の仕事で他の学園へ出向く機会はあるが、単体で遠出する生徒は珍しい。

 

誰も学園自地区外には出ない、とは一概にも言えないが、少なくともコハルには阿慈谷ヒフミという生徒が活動的には見えなかった。

故に疑問を呈したのだが、やはり『限定商品』と付く物には特別視すらする者も多い。きっとヒフミもその一人なのだろうと、結論付けた。

 

「………ダレカちゃんって、何者なんでしょうね」

 

「ふふっ、やはり中身が気になっちゃいますね♪異常なまでに強いとは聞きますが、何せ噂でしかありませんし」

 

「…ただの変人でしょ、もしくは不審者!」

 

「……………」

 

唯一()()()()()アズサは口を閉じる。きっと、知らない方が幸せだ。知らないまま、只々友人で在って欲しい。

 

自称でも姉を名乗る生徒は、後ろで結ばれた拳を握り締めながら切実に願った。

 





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