シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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ダレカちゃんはかなCです

 

「――ダレカちゃんはね、先生の敵だよ。先生がどう思おうとも、補習授業部をまとめて退学させる為に差し向けられてるのは事実なんだよ?」

 

平然と、そして白々しく。

 

少女は大人の心を折る。その為の発言を包み隠さず、悪意すら純粋に偽って、試す様に言葉を投げる。

肩を震わせる大人は何を思うのか。罪を重ねて罪悪感すら曖昧になっている自覚はミカにもある。だが破滅するにしろ平和の礎になるにしろ、『先生』である大人の女性は必ず重要な役割を担うこととなるだろう。

 

ならば自分は魔女でも良い。魔女として、先生の覚悟を問おう。

 

「……………」

 

「……先生?」

 

「…………ぷっ、くくっ……いや、ごめんね。ちょっと笑っちゃってね。あっ、その…ミカを馬鹿にしてる訳じゃないよ?」

 

「……………へぇ〜」

 

――目の前の大人の怪訝な反応にミカは首を傾げる。

 

何を考えているのか、読めない。セイアのように言葉で惑わしている訳でもないのに、簡単なやり取りの真意が掴めなかったのだ。

揶揄う様子は無い。だが決壊したように綻んだ口元はミカを惑わす意図よりも、つい思わずして、と言外に告げているに等しかった。

 

「分かんないなぁ……先生、何を考えるの?」

 

「最初はね、私も思ったんだ。あの子が裏切るわけが無い、何かの間違いだ…ってね。でもよくよく考えたら、つい笑ってしまったんだ。私はそもそも…裏切られるとか以前に()()()()()()()んだよね、ダレカちゃんから。信頼されてないし、何を成しても()()()()だって一蹴されるんだ。褒めてくれた事なんて一回もないんだよ?」

 

「……は?信用されてない…?」

 

「あはは、私の片想いみたいなモノかもね。いっそ清々しいよ、ダレカちゃんは」

 

「…なんで笑ってるの?正直さ、それって酷い事だと思うよ。信用していないダレカちゃんも、それを良しとして笑ってる先生も。歪だし、見ていて()()()()()

 

「うぐっ……て、手厳しい…!」

 

ミカの背に怖気が走る。

 

埒外の思考。目の前の大人が言ってる言葉の真意が分からない。こんなにも歪であるのに、先生の瞳は一切曇っていない。

一方的な信頼で成り立つ関係性――その繋がりはあまりにも脆弱で、然し彼女はそれを決して崩れない堅牢な物であると言外に物語っていた。

 

「先生は生徒に盲目的にはならないって言ったよね?」

 

「うん、言ったね」

 

「じゃあ聞くよ。もしもダレカちゃんが先生の敵として、立ち塞がって銃を向けてきたらどうする?これまでの噂が誇張されたデマじゃないなら、あの子はキヴォトスにおいて誰よりも強いよ。先生の戦術指揮がどれだけ凄くても、突破されるだろうね」

 

「えっ、()()()()()()?多少の大人のカード(反則)を使ったとしても、倒してお話するよ」

 

「……出来るの?いや、そもそも戦えるの?」

 

「私もダレカちゃんも、互いに変な遠慮はしないからね。間違ってたら止めるし、意見が食い違ったら幾らでもぶつかるよ。と言うか……そんな機会があったら、普段の恨みを晴らすさ…!」

 

「えぇ…」

 

普段からの()()()を思い描き、こめかみに青筋を浮かべる。キヴォトスに来てから量産している黒歴史を広められた、自宅の机上へ隠してあったえっちな本を並べられた、普段から蹴られたり叫んで起こされたりと雑な扱いを受けている、昨日だって椅子にブーブークッションを仕込まれた。

 

別に先生とて仕返しをするつもりはない。だが――機会が降って湧いたのであれば()()()()()。仕方なく、先生は渋々と満面の笑みで宇宙服の不審者と戦うだろう。

 

「変なの…」

 

「それがあの子と私の『形』さ」

 

「人間関係は一概には言えないけどさ、それにしても異常だよ?一本の柱でしか支えられてない関係性なんて、簡単に崩れちゃうよ」

 

「崩れたっていいじゃないか。その度に補修して、強い絆を築けばいい。寧ろそれが必要なのさ、私たちには」

 

「詭弁だなぁ…それこそ、片()()じゃないと良いね」

 

――『ダレカちゃん』はナギサの腹心で、先生や補習授業部を裏切っている。

 

ミカからの情報を鵜呑みにする訳ではないが、然し忘れたりはしない。生徒に盲目的にはならないと決め、言葉にもしたのだ。

だからこそ、もっと()()()()()()()()()()。正体や目的ではなく、名前も知らない一生徒についてもっと理解するべきだ。

 

 

「あっ、そういえば……ミカ、ダレカちゃんからお手紙を預かってるよ」

 

「え?」

 

「いやー、怖いね。ミカに会うって()()()()()()()把握してるんだよ?まあ、いつもの事だけどね」

 

「……いや、えっ……おかしくない…?さっき連絡したばかりだよね、私…」

 

「そうだね。今にして思えば、昨日の夜に朝食作りを当番制にしようって言ったのもこの為だったのかもね。経験則から語るに、あんまり気にしない方がいいよ?はい、これ手紙ね」

 

「……あ、うん……はい」

 

――また、背に寒気が走った。

 

思わず辺りを探るが、あの()()()()()()()()()はない。この場は確実に()()として成り立っている筈なのに、視線を感じる。

 

全てを見透かされて泳がされている。それが過剰な妄想であれば良いとミカは内心で願うが、さりとて目の前の手紙はミカへと宛てられている。

その手紙を用意するだけならば簡単なのだろう。然し前提として先生がミカと会うのは誰も知らない。故に不可解で、気味が悪いのだ。

 

喉元に詰まる息を飲み込み、意を決して手渡された手紙に視線を落とすと――

 

☆ダレカちゃんの十戒

 

1 . 強いダレカちゃんと気長につきあってください。

 

2 . ダレカちゃんの方が強いと信じてください。それだけでダレカちゃんは幸せです。

 

3 . ダレカちゃんにも心があることとダレカちゃんの方が強いことを忘れないでください。

 

4 . 言うことを聞かないときは、ダレカちゃんの方が強いという理由があります。

 

5 . ダレカちゃんにたくさん話しかけてください。ピンクゴリラの言葉は話せないけど、ダレカちゃんの方が強いことはわかってます。

 

6 . ダレカちゃんをたたかないで。本気にならなくてもダレカちゃんの方が強いことを忘れないでください。

 

7 . ダレカちゃんが歳をとっても、ダレカちゃんのほうが強い。

 

8 . あなたには学校があるし友達もいます。でも、ダレカちゃんのほうが強い。

 

9 . ダレカちゃんは90年くらいしか生きられません。だけど、ダレカちゃんのほうが強い。

 

10 . ダレカちゃんが死ぬとき、お願いです。そして、どうか覚えていてください。ダレカちゃんのほうが、トリニティピンクゴリラよりもずっとずっと強かったってことを。

 

 

 

 

追記 : ミカさんのざ〜こ♡ざ〜こ♡

 

 

 

「…………………は?」

 

「み、ミカ…?その手紙、何が書いてたの?」

 

「うーん…あはっ、喧嘩だね☆」

 

「なんで!?」

 

「出会い頭にドロップキックをされた気分だよ……私、もしかしてダレカちゃんに嫌われてる?」

 

「あ……八割くらいは察した。多分だけど書いていることの十割は戯言だよ、意味の無い言葉の羅列でしかないよ」

 

「えぇ……」

 

その後もミカはシリアスを演出し続けたが、何処か弛緩した雰囲気は戻らなかった。

 

◆◆◆

 

はいさーい、ダレカちゃんさぁね。

 

今頃は何かやってる事に定評のあるミカァ!さんと変態的変態なセンセが密会してる頃かな?えっちなのはダメだぞぃ。

徹夜続きで死にそうだけど、テキトーに朝ご飯を作ってからミキサーで自分の分を飲み飲みして、愛くるしいアホどもに超絶うんまい飯を提供しましてっと。

 

「さて!授業の開始までは時間あるし、何をしようかな」

 

昨日の夜はナギサさんと逢い引きしてテキトーな情報を話して来たけど、別に今日明日の具体的な命令はなかったしなぁ。

とりまゴリラゴリラゴリラに『ダレカちゃん』として牽制お手紙を書くくらいしかやることなかったね。そのお手紙もセンセが部屋を出る前に渡したら、くっそ渋い顔されてウケるウケるのウケの助だわさ。くふふ♡

 

夜になればまたアリウス狩りをしたり『ウソーノ・ウラギール』としてトリニティ側に伏線を撒いたりもするけど、昼間っからそーゆー事はしませんわ。

 

「3日目だしなぁ……マリーさんが訪ねてくるのはもうちょい後か。あーあ、暇だからティーパーティー宛てにピザ50枚頼もうかな、嫌がらせで」

 

つーかお嬢様ってデリバリーピザ食べんの?ボブは訝しんだ。や、ボブって誰やねん。あ、いま思い付いた。ネットの掲示板に先生の本名が『ボブ・ぼーぼっぷる』だって誤情報を流そう。今すぐ流す、流しに流され流し返すわ。

 

そーやって携帯端末をポチポチと弄ってますと……おっ、ヒナさんから野良猫の動画が送られてきた。ならばこっちは野良サイが不良生徒をド突いてる写真を送るかな。先月、シャーレの依頼で遠出した時に見れたんだよなー。

 

後は毎日のようにセリカさんに送ってるおはようメッセージを送ってテキトーなスタンプのやり取りをして、イズナさんのなんちゃって忍術の案を却下しまくって……

あー、気付いたらスマホばっか弄ってるわ。依存性なのかねぇ…いや、人間関係の構築…てか維持をするにはこれが手っ取り早いんだけどね。

 

結局は彼女たちに頼りまくるんだし、良い関係へと発展させたいんですよ。特にセリカさんとは親密になりたいな…♡

 

「あの、ダレカちゃん…?」

 

「おん?どしたっすか、ヒフミさん。結婚する?」

 

「し、しませんよ!?そうじゃなくて、えっと…ダレカちゃんが携帯端末を触ってるところを初めてみたので、気になりまして…」

 

「人前だといじんないからね。でもダレカちゃんレベルになると、フレンドが多いから暇なときにまとめてメッセ返ししてるってワケ」

 

ちな『ダレカちゃん』としてのアカウントはそーだよ?基本的に『彼岸キミ』のアカウントはセンセがキヴォトスに来た時期からナギサさん以外は全無視してるし、他のアカも大体同じやね。

 

「お友達が多いんですね」

 

「不思議とね。ま、物好きが多いんよな」

 

「………その、私とも連絡先を交換しませんか?」

 

「む?……ありゃ、してなかったか?」

 

「あはは、出会った頃から色々とありましたからね。主に巻き込まれたり巻き込んでしまったり…」

 

……やべ、気が抜けてた。

 

他の世界線では普通に交換してたから忘れてた。はぁ……最悪、忘れるなよな…こーゆー取り逃しが重なってセンセが死んでるんだろーがよ…

あー、気分最悪。つーか元から徹夜と吐き気と具合とか諸々が最悪だから実質ノーダメじゃんね☆

 

「じゃ、モモトークの交換でもしましょ!Quick Response code見せて?てか魅せて?」

 

「え、はい…?クイック…?」

 

「QRコードね、これテストに出ないから覚えなくてヨロシだよ。とりま画面に表示してくれたらこっちから読み取るよ。ちなセンセの趣味はSNSでえっちなハッシュタグがトレンドになってないかを探すことだよ」

 

「息をするように先生の秘密をばらさないでくださいよ!?」

 

センセ曰く、自分から調べたんじゃなくて飽くまでもトレンドの単語を見ただけだから、罪悪感もなくそーゆー画像をSNSで見れるんだってさ。

よく分からん感覚だね。わからんけどキモい。緑の変なモンスターも『キモッ!』って鳴いてます。みんなも笑ってます、お日様もわらってます。お魚を咥えたドラcatも嘲笑ってますとも。

 

「あの、他のみんなとは交換してますか?」

 

「モモトーク?ん、キュート・コハルさんとセクシー・ハナコさんは知り合った時にしてるね。アズサさんはまだ。あ、ついでだからヒフミさんが送ってよ。連絡先の送り方、わかる?」

 

「あはは…さすがに分かりますよ」

 

「だよねー。ま、世の中には人とメッセージのやり取りをしないからモモトークの使い方もろくに分からん子もおるけどな!」

 

「あ、えっと……コメントを控えます…」

 

………かなC。陰キャ時代のダレカちゃんもそーだったからね、かなCね。陰キャっつーか、情緒の育っていない素の部分か?

悲しみの向こうにfly awayする前にキャメラでQuick Response codeを読み読みしました。そんで授業の準備もしましょ、副担任なんでね。

 

◆◆◆

 

「…ま、とにかく忘れないでね?ダレカちゃんはナギちゃんの腹心で、白州アズサはトリニティの裏切り者。そして…本当にお願い、出来るなら彼女を助けてあげて」

 

「うん、任せて」

 

「………色々と話したけどさ、最終的には先生が決めてね。白州アズサを守るのか、他の部員を疑うのか。そもそも『裏切り者』ってのが何を指すのか次第で、解答は変わるんだろうけど……私が知ってる事だけが全てじゃないんだよ?意味を確立させるなら、裏切り者は私でもあってナギちゃんでもある。だから、()()()()()()()。『生徒』だなんて曖昧な答えじゃなくて、先生は決めなくちゃいけないよ。生徒を盲目視しないでよ?」

 

「…ありがとうね、ミカ。ナギサの計画も、アリウス分校についても…ちゃんと考えるよ。考えて、大人として決断させてもらうさ」

 

大人としての選択――否、先生としての決断。ミカとの対話で新たに得た情報は多い。その上で今の情報もまた、発展していた。

 

内側に隠された感情の読めない少女は飾ったように笑い、先生に挨拶をして去ろうとする刹那。振り向いたりはしないものの、少しだけ低い声質で先生へ問い掛けた。

 

「――あ、これは個人的な質問なんだけど」

 

「……ミカ?」

 

「彼岸キミって生徒、知ってる?」

 

「彼岸キミ…?…ごめんね、聞いた事ないかな。探してるの?」

 

「うん…まぁ、ちょっとね。えへへ」

 

背を向けるミカ、故に先生には見えない。朗らかな口調とは反して無機質な口元、それ以上に異質な――爛々と()()に濡れた瞳は誰の目にも映らなかった。

 





原典 犬の十戒(犬の裏十戒)
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