シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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七夕なので嘗ての世界線を投下しやす。今回は18話、22話でチョロっ触れられた『ミドリやアリスに襲われかけて修羅場になる世界線』でございやす。

行事があればたまーに投下しやす。



七夕~蠱惑の修羅~

 

――薄暗いゲーム開発部の部室。

 

小柄な生徒二人はパッケージのないゲームディスクを机に置き、眺めていた。先程まで熱中していたゲームは既に諦め、別のゲームに興味が移っている現状。Game overの文字がテレビ画面に映り、それだけが部屋の光源となっていた。

他の所属部員が席を外している為か、敢えて電気を付ける者もいない。只々暇潰しにでもなるか、との思考の元に才羽ミドリと彼岸キミはそれを見つめるばかりだ。

 

「………ふしぎ。うん、これ…なんだろ…?」

 

「ディスクだね…ゲームかな。何もプリントされてないけど」

 

「…センセのへやに、おちてた。で、好奇心。なにか、いきのこるヒントとか、あれば嬉しい…から」

 

「生き残るヒント?なんのゲームの話?」

 

幾重にも身体に包帯を巻いている生徒は何かに執着するように、もしくは縋るように――目の前の小さな未知に視線を落とす。

 

――彼岸キミはループに囚われている。

 

これが何十回目の世界なのか、もう数えてはいない。いつの間にか連邦生徒会長が消え、残されたのはループの鍵となっているであろう大人の女性と幼い自分のみ。

手探り状態ではあるが、逆に言えば手探りをするだけの"可能性"は残されている。

 

だから、彼岸キミはできる限り普通の一生徒としてキヴォトスに溶け込もうとしているのだ。

 

彼岸キミの身体は異常だ。様々な身体的特徴が混ざりあった醜悪なモノと自覚している。鬼の角や天使と悪魔の羽根、龍の尻尾に二種の獣耳。それとは別に左右に生えた耳も片方は尖っており、尚も左右非対称(アシンメトリー)な在り方は歪み切っている。

 

無論、それだけの特徴があればキヴォトスに容易く馴染めない。故に一つ一つの"異常"を折り、切断し、力尽くで引き千切り――四肢を欠損するに等しい痛みに耐えながら全てを切除した。

服の下から頭部に至るまで身体中に巻かれた痛々しい包帯は、その()()を定期的に行っている痕だ。切除しても尚、定期的に再生するのだから感情の薄い彼岸キミとて辟易とするばかりだった。

 

「……それで、これ…やる…?」

 

「先生の私物だよね…?お、怒られなければいいけど…」

 

「ん、だいじょーぶ。センセは■にあまい、ゆえ。おこられない、きっと……たぶん、恐らくは…」

 

「そりゃあキミには甘いだろうね…あ、お菓子食べる?いっぱいあるから遠慮しないでね。アリスちゃんもキミに食べさせるんだーって沢山貰ってくるんだし」

 

「……うん、たべる。ミドリさんも一緒にたべよ?」

 

「…あっ、末っ子がいたらこんな気持ちなんだ……えへへ、ミドリお姉ちゃんがあーんしてあげる?」

 

「え、やだ……人間きょーどが下がるから、姉はいらない」

 

「人間強度」

 

「むしろ……ん、せーしん的には■の方が年上。うやまって?うやまい褒めたたえて?うむうむ、クルシューない」

 

「そういう所が幼いんだよ…?」

 

「………ぴえんこえてぱおん」

 

「何処で覚えてきたのかな、そういうの…」

 

年下である事は承知の上で、然し彼岸キミは幼い。幼いのだが、その精神性に似つかわしくない知識と力がある。

奇妙な生徒ではあるのだが、共にゲーム開発部の廃部を阻止したりC&Cと戦ったのは記憶に新しい。故にどれだけ謎の出生だろうと信頼はしている。

 

 

――閑話休題。

 

「まあ、ゲーム開発部としては謎のゲームがあればやっておきたい所存でして…」

 

「…とりま、やろ…?」

 

「そうだね……うん、やるしかないよね」

 

ミドリはクリエイターだ。ならばイマジネーションを発展させる為に未知に挑むのもまた一興だろう。無論、仮にも猫の耳と尻尾の飾りを付けているのだから、殺されるような好奇心には寄り付かないつもりではあるが。

 

自身の行いを正当化したミドリは嬉々としてディスクをセットした。

 

◆◆◆

 

――半刻後。

 

「………あ………う、えぇ…?こ、これ……」

 

「…………?ミドリさん、ミドリさん。これ……なに、やってるの?裸の人が、どろどろになって…変顔して……へんなの」

 

「うぇ!?あ、えっと……その、ね……えっちなこと………じゃなくて!!な、なんで選りに選ってアダルトゲームなの!?キミに見つかるような場所に置いちゃダメでしょ!先生!!」

 

「えっちなの…?あ、コハルさんが好きなやつ……だっけ…」

 

まだ出会ってはいないが、前の世界線では世話になった人物の趣味くらいは彼岸キミとて覚えてる。

ひたすらに先生やハナコから秘匿されたので彼岸キミにとっては未知の領域なのだが、真相を知った今となっても理解と言うには程遠かった。

 

精々問題があるとすれば、それは年齢制限がある故に彼岸キミや才羽ミドリがプレイしても良い物ではないという事くらいだろう。

 

未だに焦り赤面しながらも止まる様子もなくテキストを進めるミドリと、他人事のようにボーッと見つめる幼い生徒。

やがて画面上での()()が済むと、その生徒は行動を起こした。

 

「……………ん」

 

「………な、なに…?私の顔になにか付いてる…?」

 

「……えいっ」

 

「きゃっ!?え、な…なに!?わたし…なんで押し倒されたの!?」

 

相も変わらずの無表情だが、力だけならば彼岸キミの方が上だ。クッションの上にポフンと押し倒し、ミドリの胴へ馬乗りになる。

俗に言う『床ドン』なのだろうか。真っ赤な瞳はミドリとの距離を徐々に縮め、目を逸らすことを許さない。

 

「…よく分からないけど……ミドリさん、こーゆーの……好き、でしょ?おせわ、に…なってるから……お礼?」

 

「何言ってるの!?」

 

「めしあがれ」

 

「え、なっ…そんなの何処で覚えてきたの!?」

 

「鬼畜ギャルソン、ハーフボーイをハフハフ」

 

「今なんて?」

 

「……ミドリさん、■のこと嫌い…?」

 

「き、嫌いじゃないけど……!それとこれとは話が違うというか、私がヴァルキューレに捕まるというか…」

 

「…………()()?」

 

「あ、あ……あっ――〜〜〜〜〜ッッ!!」

 

――何かが千切れる。

 

理性とでも言うべきか。真っ赤な瞳に見詰められ、怖いほどまでに蠱惑的な無垢は()()()()()と本能に訴えかける。相手は十二歳、包帯の巻かれた身体は傷だらけなのだろう。

それでも――魅了された。この無垢で汚れを知らない存在を自分で上書きしてしまいたいと()が胸の中で暴れて理性を揺るがす。

 

止めるべき――だが、相手が()()()。言葉の裏側に隠れた意味を、ミドリは免罪符なのだと受け取ってしまったのだ。

 

「うん?みど――わぷっ……マウントポジション返し…よそうがい、プロレス…?」

 

「そういうのはズルい……ズルいよ…!そんなの……もう、()()()()()()()()()()――」

 

「あ……」

 

若葉色の視線は薄暗い部屋でも爛々と、妖しく絡み付く。

 

幼い生徒を押し倒し返したミドリは鈍く笑う。いっそゲーム画面の少女と同様に、目の前の存在を貪るのも良い――それが()()であると錯覚すらしてしまった。

肉欲の籠る瞳に射抜かれた彼岸キミは真っ直ぐと視線を逸らさない。()()()()()()、受け入れることも拒絶する事も出来ない。

 

彼岸キミは画面の展開と同様にミドリを押し倒した。然し彼岸キミは快楽を知らない。性別すら定まっていない故に、"そういう行為"の必要性を本能的に理解できないのだ。

 

きっと誰が相手でも、『彼岸キミ』は迎合的に為すが儘になるのだろう。

 

「………キミ…目、つぶって」

 

「ん」

 

「…先生とかお姉ちゃん達には内緒だよ…?」

 

「…………ミドリさん、ミドリさん」

 

「……どうしたの?」

 

「ないしょ、なら……見られちゃだめ?」

 

「う、うん。ダメだよ、二人だけの秘密なの」

 

「ん、りょ………じゃあ()()()()()、あんまり…見ちゃダメだって」

 

「…………………え?」

 

「…?疑問、ミドリとキミは何をやってるんですか?」

 

「え…あ、アリスちゃん!?」

 

いつの間にかソファの上でじっと二人を見下ろしていた少女は首を傾げ、観察を続ける。彼岸キミと同様に()()()()()の意味を読み取ろうとしているのだろう。

 

天童アリスの傍らには空の段ボールが置いてある。某ゲームの様に潜入任務ごっこをしていたのだと、彼岸キミは察した。

無論彼岸キミはドアの鍵をピッキングされた時点で気付いてはいたが、そも、これが見られてはいけない事柄であると今し方言われたばかりだ。

 

「新しい遊びですか?アリスも混ざりたいです!」

 

「うん、いーよ」

 

「良くないよ!?色々と…倫理的にマズイから!!」

 

「むぅ…仲間外れはダメだって、モモイが言ってましたよ?あっ、そうです!モモイとユズ、先生も呼んでみんなでやりましょう!!楽しいことは皆でやるべきですよね!」

 

「大問題になるよ!?なんだか修羅場になりそうだし、また廃部の危機が…!き、キミもアリスちゃんを説得して…ッ!!」

 

「ん、まかせて」

 

未だにミドリにマウントポジションを取られたままだが、彼岸キミは構わず返事をした。何がマズイのかは分からなくとも、ミドリの焦りようは見て理解した。

ならばこの状況を俯瞰して、彼女が何に焦っているのかも推測出来る。

 

「アリスさん、アリスさん」

 

「はい、アリスです」

 

「この遊び……は、二人でしかできない。ミドリさん、曰く…"えっちなこと"はキヴォトスでは……はずか、しい…こと。だから…あとでね、二人で……()()?」

 

「はいっ、わかりました!」

 

「ダメだよ!?」

 

「ないしょ、ね」

 

「内緒ですね!」

 

「だからダメだってば!」

 

一応は叫んで止めているが、ミドリとてアリスとキミの二人が何かに発展する事はないと確信している。

 

色々と謎の多い二人ではあるが、なにぶん心が幼い。アリスも育っていると言うよりは元のスペックに従って物事を学んでいるのだろう。

有り体に言えば性に疎い子供が二人居たとしても変に発展はしないだろう、と高を括っているのだ。

 

――それが一種の油断だとは、決して思わなかった。

 

◆◆◆

 

翌日。

 

先生がトリニティへ赴き暇になった彼岸キミは再びミレニアムに来ていた。何十回と恩人の死を見届けた経験からして先生の傍を離れるのは嫌だったが、然し会いたくないトリニティ生徒がいるとの旨を伝えたら、先生からミレニアムを任された次第だ。

 

ゲーム開発部の依頼は達成したが、先生がキヴォトスに来てから最初の依頼だった為に終えた後も不安が残っているのだろう。

所謂アフターケアとは言われたが、然し本当にケアが必要なのはどちらで、先生は何を考えていたのか。真意は分からないが、彼岸キミとて想像程度は出来た。

 

 

来る前にアリスにはモモトークで連絡したので、ゲーム開発部の面々にも伝わっているだろう。彼岸キミは人がプレイしているゲームを見るのが好きだ。

ゲーム開発部の皆は楽しそうに試行錯誤のプレイをするので、やはり見ていて飽きない。自分は彼女たちほど無邪気にははしゃげないので、純粋に羨ましくもあった。

 

窓側全面がガラス張りの廊下をゆっくり歩くと、見慣れた人影が正面から手を振っていた。

 

「あ、キミだ!遊びに来たの〜?」

 

「………モモイさん、こんちゃ……あれ、れんらく…したよね?」

 

「えっ、そーだっけ?んー、んーー、うむむ…?やっぱ私は聞いてないよ?てか今日はみんな忙しいハズだけど。一応アリスは暇だと思うけど…あ、もしかしてアリスに連絡した?それだったら部室に行けばいるよ!」

 

「あ、はい………うん、ありがと…」

 

「モーマンタイ!部室にあるお菓子たくさん食べてね〜。キミの為だって言ったら、部費で買い込んでもユウカが許してくれるからね」

 

「ん…いっぱい、たべる」

 

それだけを告げると、モモイは携帯端末で時刻を確認しながら走り去った。

 

 

モモイと別れてから数分、部室に到着したキミはドアを開けて中に入る。日中ではあるが部室内は薄暗い。カーテンを閉めているのだろう。

殆ど光源は無い筈なのだが、テレビ画面のみが部屋を微かに照らす。その画面前には前のめりとなったアリスがコントローラーを握り締めてゲームをしていた。

 

「……アリスさん…?」

 

「……………」

 

「?……アリスさん、聞こえ――むぐっ…!」

 

「キミ……アリスは、アリスは……理解しました。ズルいです、()()()()()をキミとミドリだけで楽しんでいたなんて!」

 

「………なんのこっちゃ」

 

押し倒され、既視感のある体勢となって押さえられる。

 

昨日のミドリと同様に所謂『床ドン』をされているのだが、それに使われた筋力は貧弱なミドリとは桁違いであり、力という一点に限って彼女はそれなりに強いと自負している彼岸キミよりも上だった。

心做しか乱れた服装に、濡れて爛々と光る瞳。薄暗い部屋でも紅潮した頬は彼女らしからぬ艶を醸し出していた。

 

様子がおかしい。先日のミドリと似ているが、今のアリスの方が刹那的な妖艶に支配されている。何処で何を学んだのか、見当が付かない――とは言えない。

 

「……なにごと?」

 

「私、やりました」

 

「………む?」

 

「昨日、キミが部室に忘れていったゲームをユズとやりました」

 

「………うん?」

 

「そして、理解しました!えっちなことは()()()()()って…とても背徳的で、蠱惑的で……興味深いです。これはあの時の…初めてゲームをやった時と同じ感覚です!未知…!アリスの知らない世界観!!一緒にプレイしたユズが言うに……新ジャンルの開拓、と言うモノらしいです!!」

 

「……なるへそ、わからん…」

 

「大丈夫です、ちゃんと()()したので!」

 

「…………目、こわい……なんで、服脱ぐの…?どーして…舌なめずり?ひぇ……た、たべられる…」

 

「えーっと、こういう時は……アレですね!天井のシミを数えていてください!!」

 

「くらくて、みえへん…」

 

「心の目で見るのが"通"らしいですよ?」

 

「わかりみが浅い、ていき」

 

会話として成りたっているかも怪しい言葉が交わされる度、徐々に衣服を脱ぎ捨てるアリス。ここまでされて、異常を感知出来ないほど無能ではない。

だが抵抗はしない。嘗て、大人に利用されて身体を弄ばれていた。未だに痕の残る痛み――その頃も抵抗せず、流れに身を任せていた。

考えるという行為は苦しい。それならば全てを投げ出して、為されるがままになった方が楽だ。

 

今回も同じだ。

 

せめて早く終わるように。目を閉じて少女へ身を任せる――

 

 

――刹那、ガラリッと音を立ててドアが開かれた。

 

仰向けになっているキミは体を捩り、音の方向へと視線を向けると才羽ミドリが二人を見下ろしていた。不思議と『助けが来た』という感想よりも先に怖気が胸を占める。

心做しか視線が冷たい。何十と在った世界線で彼女と仲良くなった回数は片手で数える程だが、然し今のような視線を向けられた覚えはない。

 

「…………へぇー、ダメだって言ったのに()()()()()()するんだね。浮気性はどうかと思うな、私は」

 

「…ミドリさん…?」

 

「ふーん、へぇ〜。私のことを誘惑してきたクセに、誰とでもそーゆー事をするんだね…キミは」

 

「…………み、ミドリさん…目…こわい…」

 

「アリス、知ってます!これが修羅の国というやつですね!!」

 

「それを言うなら修羅場ね?」

 

「しゅらば……?わけ、わかめ…」

 

心底冷えきった視線は彼岸キミの根幹に『恐怖』を刻む。得体の知れない寒気は初めて感じる居心地の悪さだ。

何が悪かったのかは理解出来ないが、それでも言外に責められ自身の行動を酷く咎められている様な圧を感じる。

 

「あ、アリスさん……へるぷみー」

 

「安心してください、キミ。アリスはちゃんと勉強しました!こういう時のセリフはモモイから聞いています。えっと、確か――誰よその女、このドロボー猫!…でしたよね」

 

「……わからない、けど……た、たぶん…違う……ミドリさんが、また怖くなった…」

 

「ミドリさん?あはは、違うよ?私は泥棒猫だよ?あはっ、あはは!」

 

「ひぇ……■は悪くないのに……」

 

この後も数時間に渡って『修羅場』の渦中で正座し続け、無事に彼岸キミのトラウマとなった。

 





ロッカー内「はわわわわわっ…///」
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