苦手な人がいた。
…とにかく、苦手な部類の人。ワガママで声が大きくて、優秀なくせに考え無しのバカ。手を伸ばしていないのに勝手に助けようとしたり、語ってもいない心情すら勝手に読み取ろうとする。
傲慢で自分本位な偽善者。寂しくなんてなかったのに、寄り添おうとしてきた。必要のない"温かさ"を押し付けて、抱きしめてくる。
何処と無くカイチョー……連邦生徒会長に似ていた。比べたら全くの別物なのだろうけど、微かに戦略すら感じる立ち回りには多少なりとも類似点はあると思う。
でもその人は連邦生徒会長ほど合理的な思考は持ち合わせていない。強情なくせに流されやすくて、連邦生徒会長とは真逆の人間だった。
きっと、似ているって思ったのは…
だから■もセンセに執着しているのか……分からない。もう忘れた、そんな些細なこと。いずれ消える■にとってはどうでも良い……ただただ、センセさえ無事に生きてくれれば…
◆◆◆
やっほぃ、ダレカちゃんだやっほぃ。
とりまピンクゴリラとの密会を終えたセンセのケツ尻臀部を蹴り飛ばしたダレカちゃんです。ギャグみてぇに『あひんっ!』って鳴くからオモロいよね。
この後はマリーさん襲来とか模擬試験で間抜けを発掘したりとか、大体はそーゆー日です。先んじて暗記科目で使う単語帳も手書きでまとめてあるし、一年の範囲をやるコハルさんとアズサさん用の課題も持ってきたし、割と副担任として相応の働きは出来てるんちゃう?
ぬっへっへ、こりゃあ将来の職業は『先生』になるんちゃう?や、普通にやらんけど。セリカさんに養ってもらいながら学生時代の稼ぎでダラダラと暮らす予定だし。
「はーい、アホどもしゅーごー」
「だ、誰がアホよ…!」
「貴様」
「きさま!?」
二割は冗談やって。コハルさんはかぁいいねぇ……ふへっ、ふへへ…この愛をどう伝えれば良いんだろうか。でもダレカちゃんが思うに、伝える事だけが愛の証明ではないんだよね。
一方的なだけじゃあ依存だし、求め過ぎれば憎々しい偏愛になる。だから適度に発散して自己認識する程度がちょうどいいよな。
「伝える愛は争いに発展するけど、秘めるだけの愛は無垢なだけでナニモノにも成れへんのやで、コハルさん。ミレニアム問題よりも難問だわさ」
「えっ、は…?」
「つーか集まれし、疾く集まれし。この天才最高秘書なダレカちゃんがコハルさんとアズサさんに最高教材を持ってきてやったんだぜぃ!二年範囲組にも問題集をプレゼントフォーユー」
「……最高教材…?」
「そーだよアズサさん、読んで字の如く、読まなくても字の如く、最も効果が高い教材!つまり略して最効材だね」
「なるほど、最効材か。把握した」
「略し方のクセがつよい…!読んで字の如くなら最高教材で良くない…?」
「あ?……あー、ま。何でもいいけど、勉強しましょーね?まずはダレカちゃん式トリニティ歴史教科書。歴史の闇に葬られた部分は上手く誤魔化して学生のテストに出る範囲に絞った唯一無二の手作り教科書っす。読めば賢くなるよ?読まなくても強制的に読ませるから賢くさせるよ」
「なんでアンタが歴史の闇に葬られた部分を知ってるのよ…」
そりゃあ闇の一部だもの、言わんけど。でもアリウス関係って闇の中では浅い方なんだよなー、調べれば出てくるし。てか知ってるやつは普通に知ってるし。
てか昔のトリニティが普通にヤベェってコトよな。道端で会っただけの不審者の爪を挨拶がてらに全て剥ぎに掛かる程度にはやべぇよ。
信心深くないダレカちゃん的にはトリニティの教えとかシスターフッドのカコバナだとか、昨日した屁の数よりもどーでもいいンだけどね。
とりま勉強しなさいな、チミたちは。じゃけんお馬鹿なんだから将来性を示しましょうね。
んで、夕方。
ダレカちゃんはゲヘナに来ております。単独っす、単独で宇宙服を着回してゲヘナに来ております。
「んー、確かこの辺りに……あった」
ゲヘナ自治区第15エリア77番街の廃墟。皆さんご存知の通り、第二次特別学力試験の会場だね。明日の夜にはトリニティの生徒が忍び込んでテスト用紙と筆記用具を入れたL118牽引式手榴弾の弾頭を置きに来るっぽい。
ま、爆発しないように雷管と爆薬は取り除かれるし、それはどーでも良くて。
問題は試験日当日よな。簡単に言えば、無事に辿り着いた後に温泉部によってここら一帯が
どっかの紅茶馬鹿さんが温泉開発部にクソ嘘情報を流しやがるからだね。まー、その仕返しは『お友達ごっこ』宣言で返すケドね。
「ウムム……下手したら死ぬんだよなぁ、センセが。あの貧弱雑魚雑魚ナメクジちゃん子め。呪われてんじゃね?や、呪われてはいるんだろうけどさ…」
さて、です。
夜になったらナギサさんとの密会があるしウソーノ・ウラギールとしての暗躍もあるから、早めに用事を済ませよう。
とりま緊急用の救護物資を設置するか…や、変に置いといたらゲヘナの不良共が勝手に持って帰って売るよな。じゃあ床タイルを外して、ビニールに包んで隠しましてっと。
万が一の為のシールドもぶっ刺しとくか。死角になる天井隅にでもやっとくか…どーせ廃墟だし、多少壊したり削ったりしても怒られんべ。
んで温泉馬鹿共は爆破で建物を解体しよーとするから、上からの爆風と瓦礫を防ぐ為に教卓を改造しよっと。うーん、作ってワクワクゥ!!
こんな古い木製教卓じゃあクソの役にも立たんぜよな。ぜよな?ぜよなってなんやねん、ゼヨナさんに聞いてみよか。は?ゼヨナさんってダレやねん。
教卓の枠組みはそのまま使うとして……つーか見た目まで変えたら不良共に持って帰られるし。しゃーないからボロく偽装するって意味も込めまして、軽く分解した板の一つ一つに鉄板を付け――おろ?おろろ?
「……ん?あー、なるへそな。逆にした方がいいか…?組み立てれないしな」
なんとダレカちゃんは超絶最強無敵大大大天才だったらしいぜ!
古い板に鉄板を付けるんじゃなくて、組み立てた鉄板に古い板を貼り付けた方が良いな。じゃあ、とりま"聖剣ダレカちゃん"こと手刀で鉄板を切って切って調節するかぁ…せいっ☆貧弱貧弱じゃんねぇ!!オンルァァァァ!!
「はい、かんぺき〜」
偽装強化教卓が出来ましたとさ。これで怒りも悲しみも全て因数分解出来そうだね。にはは……ユウカさんの御言葉は相も変わらずユニークっすねぇ。HAHAHA☆ユニークなショーだとは思わんかね!って三分間舞うことで有名なお兄さんも言ってた。
ホントなら先に温泉開発部をぶち殺すのも視野に入れてたんだけど、そーすると補習授業部が全員合格で解散してセンセの手元から離れて、ナギサさんも今以上の強硬手段に訴えるんだよ。
まとめて退学させるつもりらしいけど、奇しくもセンセの庇護下に送り出した形になってるんだよね…や、シャーレの先生って存在がナギサさんの思想に肯定的である前提での策だったんだろーけど。
「………さて、こんなモンかな。後は当日のダレカちゃん次第、もしくは運次第やわぁ」
結局のところ、運が良ければダレカちゃんが手を出さなくても無傷な場合もあるし。バタフライエフェクトとか因果関係が絡んでるんだろうけど……そこまで気にしてたら結局はダレカちゃんが居ないのがいっちゃんええって話になるんですわな。
………はぁ…気分悪っ…徹夜続きだからクッソ吐き気する。まー、二次試験が終わるまでは普通に働くけど。
◆◆◆
深く、深く。深淵でナニカが蠢く。
――
灰色の触腕で『繭』を突き刺し、膨張する異物を異形へと変質させる。やがて『繭』を突き破った3M程の肉質を帯びる兵士は地面に粘性の液を撒き散らかし、『個』として誕生した。
其れがこの世界に現れてから今に至るまで、延々と繰り返される
「あ……い、嫌…誰か……!」
「ヒィ…やめっ、やめて…」
『…………ダ、い…じョウブ…スグ、忘レる…』
「いや…嫌だ…ッ!嫌だ嫌だいやだ!!誰か助けて!!やめ…ご、ごめんなさい!ごめんなさい!!何でもしますから!だから助け――ングッ!?ん゛ー!んん゛ーーッッ!!…………ア」
「………な、んで……酷い…」
『………『繭』、イレ……と、イテ…』
触手でナニカを注入された少女は呻く。だが然し数秒もすれば呻き声は艶を孕む嬌声のように、甘い声を上げて身体を跳ねさせ、
友の変質を見ている事しか出来ない少女は絶望に泣くばかりだ。叛逆の燃料となり得る『怒り』すら狂わせ、恐怖しか抱かせない異形は触腕で動かなくなった少女を
――アビドス砂漠。
人の寄り付かない廃工場にて『作業』は行われていた。
オートマタを、生徒を、ロボットを、ドローンを、ゴリアテを――
異形は知っている。
この世界――否。全世界にて、恩人たる『先生』を殺し続けているのは彼岸キミだ。今も尚諦めずにもがいている個体が
異形はガラス片に映る自身を眺め、既視感と共に全てを理解していた。
彼岸キミは何も支払わずにループなんてしていない。代償がある、代償がこの場に顕現している。何度殺しても其れは新たに産まれ落ちている。
彼岸キミが『
誰にも見られず、淡々と準備を進める。
全ては恩師を救うため。彼岸キミの呪いから先生を救うため。異形の支配者と
『………見テル?』
然し問い掛ける。 虚空を眺め、まるで薄い硝子を突き破らんとするようにににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににににに
『オ前に言っテるんダ』
――お前に聞いているんだ。
『聞いてルンだロ、聞キ流シテるんダろ』
読んでるんだろ?読み流してるんだろ?
『楽しイカ?他人事ノようニ俯瞰シテ』
悲しいか?物語をスクロールして。
『激情にナンか感化さレないクセに』
感情移入なんてしないクセに。
『ねェ、観測者サん』
ねぇ、読者さん。
『楽シんだカ?コノ現実、こンな運命。終ワラナい絶望、所詮はツクリモノ。喜劇的デ嗤エルよね』
悲しんだか?こんな悲劇、こんな駄作。始まらない希望、結局は贋作。悲劇的で泣けるよね。
『――理解シロよ』
――理解しろよ。
『この現実は――』
この物語は――
『
彼岸キミの独白が単なる一人称視点だと思ったか?意味の無い語り部だとでも?
『そんなワケ、ナイ。毎回毎回、シテルだロ?『はい、■■■■■■だよ』っテ分かリヤスく自己紹介ヲ。一日に何度も何度モ』
彼岸キミがそっちの世界のミームを知っているのにも、疑問を抱かなかったか?不思議じゃないか?知り得ない情報、ループ内に決して存在しない異物。
『読者サん、観測者さン――《■■■■》さん。キミが教エテくれたンダヨ、別の世界デハ『先生』ダッタかもしれないキミ達が与えテクレたンだヨ』
そっちには干渉出来ない。でも、観測してる。深淵を覗くなら覗かれる覚悟はあるよね。
『非情ナ傍観者』
傍観しか出来ない外の人。
『どウカ、見てイて。この現実、この悲劇――キミ達にとっテノ物語。イずれ彼岸キミが死ヌマデの……死んデ、全てガ元通リになる