シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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要は過去話(カコバナ)の前編です。




懐古の友、或いは絶望の前兆 : 前編

 

――アリウス分校。

 

嘗てのトリニティに存在した数ある分派の一つであり、諸派の統合に向けた『第一回公会議』において唯一反対の立場をとり続けた結果、連合を果たしたトリニティ総合学園から激しい弾圧を受けてトリニティ自治区より追放された分校。

 

ユスティナ聖徒会より苛烈な弾圧を受けていたと同時、逃走の手引きをされていた背景を持つ。

その実は当時の者か、ユスティナ聖徒会を前身として現在活動しているシスターフッドの限られた生徒しか知らないのだろう。

懐古するにはあまりにも後暗い歴史しかない。分校でありながら既に学園としては機能していないのだから、所属している者も生徒ではなく兵士の在り方に近しいのだろう。

 

今となっては静まり返った()()()()。然し数年前までは現在程までに不気味で静まり返った場所ではなかった。

 

きっと誰かの耳には残り、もう二度と戻らないと()()()()()()景色。生徒をあるべき姿に導くはずだった者の成れ果てをとある生徒は懐古する――

 

 

 

 

灰と硝煙の臭いがこびり付いた街道。

 

野ざらしで倒れている少女や、意味も活気もなく見回りを義務付けられた兵士が有り触れた景色のひとつとして在るアリウス自治区。

一人の少女が人間未満である者の手を引き、声を上げて走る姿があった。

 

「ほら!早く行くぜぃ、キミ!!」

 

「……スイ、ユウにおこられる…」

 

「へっ、怒られるって事は期待されてるんだよ。つまり怒られ続けるってことは期待され続けてるってコトだし、自尊心が満たされるんやよ。いやー、きっとユウさんはキミとスイちゃんを大好きなんだなぁー。あと『スイ』って呼ぶな、『スイちゃん』って呼べし」

 

「なぜ…?」

 

「空と海がスイちゃんに『スイちゃん』呼びを求めるから?や、知らんけど……とりま過大な美意識と尊敬を込めてスイちゃんと呼び親しみ敬え跪け慟哭しろ愚民が」

 

「……うん、『命令』なら――」

 

「ちょっ、やめて!?最強無敵で人当たりの良さに定評のあるスイちゃんが無垢な年下を土下座させたって噂が立つでしょうが!?」

 

「…イミフ」

 

濡羽色の長髪を乱雑に結んだ少女は金色の瞳で愉快そうに彼岸キミを見詰め、口元を緩ませる。

本日の訓練を終え、適度にサボっていた彼女は余裕のある体力を使うべく秘密裏に立てていた計画を実施しようとしていた。

 

建物の裏を駆け、壁を蹴って屋根に上がり。監視の目を潜り抜けるのはスイ――睡蓮(すいれん)スイにとって好奇心に直結する刺激的な遊びだ。

 

姉のような存在である佐山ユウは危険を犯すなと激怒するだろうが、要はバレなければ良いのだとスイは豪語する。

 

「………どこ、行くの…?」

 

「外だよ?」

 

「……スイ、ばか…?ここ…そとだよ…?」

 

「超絶天才最強エリートなスイちゃんを取っ捕まえて馬鹿とは失敬な!外っつったら『外』だよ、自治区の外!未知の世界にレッツラゴーするんよ」

 

「………?…マダムからきんしされてる、けど…」

 

「そりゃあアレだよ、外にはクッソうめぇオヤツを隠してるんだぞ」

 

「疾くいこう、ぜんいんボコしてでも行こう」

 

「……スイちゃんはさぁ、キミのそーゆーところが心配だぜ?スイちゃん以外のヤツに騙されんなよな……や、守るけどさ」

 

彼岸キミは意思が薄く他人の言動には疑わずに従うように()()されているが、然し食べ物に関しては敏感だ。

普段から必要最低限の食事しか用意されず、飢えているのだろう。食べ物に関しては彼岸キミに限らずとも皆が飢えているが、それ以上に苛烈な訓練により食べた物を吐く毎日な為に必要以上に食べないようにはしていた。

 

食事を求めているのは一重に、過酷な訓練の中でも余裕があり吐かない者だけなのだろう。

 

嬉々としてと表現するにはあまりにも表情が動かないが、彼岸キミの足取りはほんの少しだけ速くなった。

 

「よし、走りながら聞けよ?」

 

「ん」

 

「今は腹時計的に19時半だ。そして明日の…つーか毎日だけど、起床時間は朝5時。つまり、我々は一夜の夜遊びに出掛けるわけでしてな?」

 

「でしてな?」

 

「外に偵察に行ってる部隊のヤツ曰く、外には『店』ってのがあるんだとさ。なんとなんとの現物支給じゃねぇんだと、しかも『お金』ってのが必要ってコトも言ってたわ」

 

「…………つまり?」

 

「ま、要は物々交換だけどスイちゃん達は『お金』ってのを相手様をあげて、菓子やら飯やらを貰えるってハナシ。んで『お金』ってのは薄暗い場所を彷徨いてると不良なる存在が喧嘩を売ってきて、そいつらをボコボコにすると貰えるらしい」

 

「…へんなの。つまり、『ふりょー』をなぐればいいんだよね。かんたん、世の中ヨユーやね」

 

「うっへっへ〜、とりま外に出たら不良をボコって金稼ぎだぜ!こりゃあスイちゃん達も成功者の栄光ロードを駆け上がるチャンスだな!!」

 

「「ぬっへっへ」」

 

片方は無表情でスイの真似をしただけだが、妙に重なった笑い声は夜の帳で塗られた空に響いた。

 

 

 

 

――数分後、順調に進んでいた足が止まる。

 

屋根上でうつ伏せになり下を見下ろすと、銃を肩に担いだ生徒が二人。睡蓮スイと彼岸キミに気付く様子はないが、外に出るには彼女達を無視出来ない。

 

「……んー、やっぱカタコンベには見張りがいるかぁ…」

 

「ボコす?」

 

「いんや、下手に騒げばマダムにバレて殺されるでしょ。キミは殺されなくてもスイちゃんが殺される」

 

「うむむ…?」

 

「危機感持てよ〜?その包帯の下、まーた何か埋め込まれたんでしょーよ。人体実験なんて、道徳を学んでねぇのかよ……今のアリウスに道徳なんてねぇわな、拾った本を読まなきゃスイちゃんも道徳なんて概念を知らんかったし」

 

比較的小柄なスイだが、自分よりも年下で更に小柄な彼岸キミの服の下からはみ出ている包帯に眉を歪める。

本人は『いずれ■はマダムになるらしい』と言っていたが、その意味を測り切れるほどスイも高等な教育は受けていない。

 

分からないからこそ、少なくとも彼岸キミがこのままアリウスに居て良いとは思わない。例え自己満足だろうと、スイは準備段階である計画を進め、今回の()()()も様子見的な意味を含めての行動だった。

 

「さて!じゃあ小童共をどーやって欺くかなー」

 

「……■たちの……方が、年下だけど…」

 

「言葉に意味を求めるなっての、意思表示のついでに出てきてるだけの雑音なんだし。つーかアレ、どーしよっか………んー、まっ。スイちゃんは天才だしどーにでもなるか!よっし、キミ!スイちゃんのケツにピッタリ着いてこいよな!!」

 

「らじゃー」

 

相手は年上だが、実力は睡蓮スイと彼岸キミよりも格下。戦闘となれば数秒で鎮圧出来るだろうが、それではどうやっても姿を見られるので意味が無い。

 

カタコンベの出入り口を背にする陣形は実に単純でありながら、殆ど隙がない――

 

「ワケがないんだよなぁ、コレが」

 

「うえ?」

 

「そ。なーに、簡単なハナシさ。まずテキトーに拾ってきた瓦礫を用意します、次にちょいと離れた場所に豪速球どりゃぁぁぁ!!よし行くぞ、キミ!!」

 

「……めっちゃ、ざつな作戦やね」

 

「シンプル・イズ・ベストと言いたまえ」

 

気味が悪いくらい静かな場所。そこで瓦礫を地面に叩き付ければ轟音が鳴り響き、この辺の見張りを任されている生徒二人は一瞬だが視線がそちらへ向くだろう。

視線は向けられ、片方の生徒は音の生じた場所の確認へと向かうだろう。その隙があれば()()()()()

 

小柄なスイは音を殺してカタコンベに転がり込み、キミもまたスイの命令通り後に続く。

 

出た先にも同様の見張りがいるだろうが、外に向けての見張りなので内側で音を鳴らして壁上に潜めば先程と同じように上手くいくだろう。

上手くいった事に北叟笑みながらスイはキミの手を引いて駆け出した。

 

◆◆◆

 

「彼岸隊員、コレを着たまえ」

 

「たいいん……?」

 

「にへへ!」

 

無事にアリウス自治区から抜け出したスイは鞄に手を突っ込み、服を取り出した。深いフード付きのパーカーはアリウス自治区でも珍しい物だが、彼女ほど器用であれば手作りも可能だろう。

 

黒いパーカーを手渡し、スイ自身は白いパーカーを制服の上から着込む。共に同じ半ズボンを履いているため、俗に言うペアルックだった。

若干大きいが、顔を隠すのであれば十分だろう。着慣れない服だがキミもスイに倣ってフードを被った。

 

「さて、ですよ」

 

「さて…?」

 

「とりま不良狩りで金稼ぎする予定だけど、奴らは薄暗い廃墟に生息する生き物です。なので廃墟っぽい場所を探すますですわ〜!」

 

「ますですわー」

 

「早速行くけど………おいキミさんや、銃はどうした?」

 

「…………あ」

 

「…しゃーない。スイちゃんのサブアームを貸してやろうぞ、拳銃だけど。流石にショットガンは持ってこれねぇすわ」

 

「モーマンタイ。武器なら……ん、なんでもいける。べつにショットガンもユウに渡されたから、つかってるだけ……」

 

「じゃあ尚更拳銃に慣れとけば?キミなら片手で使えるし、空いた手で別の何かを持てるんじゃね?そもそもがサブアームとして嵩張らないモンだし、邪魔だったらしまって両手を空けれるし」

 

「…………じゃ、そーする」

 

「適当かよ……まー、使えるなら何でも良いと思うケド。はい、テキトーに使ってね。名前はグロック26(メメント・モリ)にしてるよ、洒落てるよな?てか洒落てるよね」

 

「うん……?」

 

投げるように渡された拳銃――グロック26。あまり使った痕跡がない為、本当に緊急時のサブアームでしかないのだろう。

スイとしては訓練以外では使わず、メイン武器もまたARなのだからもし返されなくても構わないとは考えている。

 

準備を整えた二人は人の気配の薄く、暗い場所を探して歩き始めた。スイにとって久しく与えられていなかった"自由"な為に謳歌したい気分ではあるが、これは彼女の企てる『作戦』の準備段階でもあるのだ。

少しでも情報を仕入れて帰らなければいけない、と気合いを入れ直す。

 

――と、気合いを入れていたのが半刻程前。

 

「イヤッフゥゥゥゥゥ!御用改めだゴラァァァ!!」

 

「金、おとせ……オヤツ、わたせ…!!」

 

「カハッ……!な、なん…だよ…コイツら…ッ!」

 

「あ?そりゃあスイちゃん達は……あー、アレだぞ!正義のパワー☆ゴリラぁズだぞ!!」

 

「ぱわーゴリラーずやぞー」

 

「あ、姉貴ィィィィ!?この…姉貴の仇ィ!蜂の巣にしてや――うぐぇ!?」

 

「おっ、コレが金かぁ?札と銭と……ふむふむ、へぇ。結構入ってるじゃん。あ、ついでに携帯端末も借りるでぇー。地図アプリ、地図アプリ……クッソ便利やん!なー、キミ。メシと菓子ならどっちが――」

 

「オヤツ」

 

「OK、キョーダイ。トリニティには菓子の店が多くてキミの理想郷やね。いっそトリニティに住む?」

 

「………要検討」

 

「……いつか、住めるといいなぁー。スイちゃんとキミと、ユウさんと…後はキミのお姉さんも」

 

「あねじゃない」

 

――不良狩りは欠伸が出るほど順調だった。

 

中途半端な説明のせいで、キミは不良に対して叩けば金か食料をドロップする(落とす)エネミー程度の認識しかない。

途中からスイも変にテンションが上がっていたが、当初の目的である『金』と『情報』はしっかりと抜き取っていた。

 

不良生徒もまた別の生徒を襲ったのか、五人ほどの不良の財布にはかなりの量が入っていた。

 

これならば他の学園自治区と比べて高級品が多いトリニティでも嗜好品を楽しむことが出来るだろう。無論、それほどまでに多い訳でもないが、たった一夜であれば十分だ。

不良全員を気絶させてから廃墟を出て街を目指す。ふと先程奪った携帯端末に視線を向けると、21時を過ぎていた。睡眠時間を3時間ほどと考えると、午前2時までには帰りたいところだ。

 

つまり、余程のことが無い限りは十二分に楽しめる。だがアリウス自治区から抜け出している手前、早めに戻って多少の余裕は持ちたい。

 

叶うならテイクアウトも視野に入れていたが、余計な証拠が残るのであればやるべきでもないだろう。結局のところ、アリウスから抜け出したとしてもアリウスに縛られている。

その事実に溜息が溢れるが、それでも今だけは"自由"を噛み締めたいとスイは深く息を吸った。

 

「さて!じゃあケーキを食いに行こうぜ!!」

 

「けーき……まぼろしの、ケーキ…!実在したんだ…」

 

「バカヤロウ!それを確かめに行くのさ!!いつ来れるか分からんし、食い溜めような!!」

 

「ん、たべまくろー。疾くたべまくろー」

 

表現は変わらないが、内心ではきっと喜んでいるとスイは察する。いつか、コレが日常になれば幸せだ――と夢を見た。

 

 

――()()()()()()()()

 

 

希望を謳う事がアリウスにおいて、どのような末路を辿るのかも想像せずに。睡蓮スイはアリウスの異分子となってしまった。

 





余談ですが、『誰』って『すい』とも読めるんですよね。余談ですけど。
ついでに睡蓮の花言葉って『滅亡』ですよね。本当についででしかありませんけど。

後半はいずれ。
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