「うっ……グッ、ゲボッ…!オエッ……あー、最悪だ」
今日も今日とてダレカちゃん、無事五体満足で目を覚まします。なんとなんと、今回は睡眠導入剤を使っておりません!徹夜しすぎての気絶でございます!!
夢見は最悪、胃酸で口の中の気分も最悪だけど、慣れてるんでちゃっちゃとうがいしましょーね。
最悪の目覚めと同時に部屋を見渡せば、これまた悲惨な光景が広がっている。シャーレビルの第二休眠室、ダレカちゃんが無理やり私物化した自室。
ひっでぇ有様やねぇ……腕力で割られた机に、八つ当たりで殴ったせいで穴の空いた壁。ホコリも酷いし、床に散乱した薬品とか銃弾とか手榴弾とか諸々…散らかってるなぁ。あ、未開封のエナドリ発見。ラッキー♪
「……片付け……いいや、別に」
どーせ、全てが無駄になるかもしれないんだ。
片付けなんかよりも優先して時間を使うべきことがあるハズ。センセの黒歴史を集めたり、ゲームのレベル上げをしたり、テキトーな不良集団を潰したり。
ご多忙なダレカちゃんなので、残念ながら部屋の片付けなんて出来ません。あーあ、暇だったら片付けをするのも吝かではないんやけどなぁ!忙しいんだからしゃーないなぁ!!
――とは言ったものの、何をしましょか。
センセは今日もアビドスで交友を深めてるし、ダレカちゃんは暇。アビドスに行ってもいいんだけど……また夜になったら拉致される予定のセリカさんの救助で行くし、どーせ今行ったとて、セリカさんのバイト先でセンセ達がラーメンを食ってるくらいだよ。
ダレカちゃんとしてはラーメン食ってる暇があるなら防犯グッズでも買いに行けって言いたいところやけど、センセの方針として『生徒を警戒しない』的なのが根幹にありまして。
敵味方関係なく、最初から撃たれるってコトを疑わないンですわ、あのバカ。頭にお花でも咲いてるんじゃないかな?ヤる奴はヤるんだけどなぁ…あーバニバニ。
まー、あーゆー能天気に腹が立って監禁した世界線も在ったんだけど……うん、まぁ?キヴォトスってセンセが居ないと直ぐに崩壊するクソ世界でして。
無事に滅んだよね、ハハッ!世界が滅んでるのにセンセが生き残れるワケもなく、でもつよーいダレカちゃんは生き残ったから世界崩壊とセンセ死亡を見届けたワケでして。トラウマだよクソッタレィ!!
「…………センセが居ないうちにシャワー浴びるか…」
とりま、シャーレ中に設置した監視カメラの映像を確認しまして。
おん…うむ、へぇー。ユウカさん居るやんけぇ!?アイエエエエ!ユウカさん!?ユウカサンナンデ!?
……ま、シャーレ当番かな。何だかんだで現状のシャーレに加入している数少ない生徒だし、当番で来ててもおかしくはないね。
でも仕事はダレカちゃんがさっさと終わらせたハズですがねぇ……あっ、もしかしてリンさんが仕事を引っ張ってきやがったか?早めに終わったなら追加コンテンツありまっせとサービスしてくれたんか?禿げさせたろか?
それなら納得……はしてないけど、無理やりしよう。だってダレカちゃんは心の広い最高の秘書だからね。
そうと分かれば話は早い。お湯でテキトーに顔を洗って、なんなら髪もテキトーに洗って。テキトーにタオルで拭いたら宇宙服を装着しやすわ。
髪が濡れてて気持ち悪いけど…ま、高性能宇宙服ですしぃ?勝手に中で乾かしてくれますって。ループを知る前に連邦生徒会長からめっちゃ高いのに買ってもらったかいがあるってモンだね。さっすがエンジニア部、コストが馬鹿高いし重すぎてダレカちゃん以外が着られないという問題点に目をつむれば、最高の出来ですね。
そんでもってトラップを解除しながら部屋の外に出ましてーノ、忍び足でユウカさんの居るオフィス前ドアまで行きーノ――オラァ!ぜんりょくドアノックやぁ!!
「ヴァルろ!開けキューレ警察学校だ!!」
「っ!?…えっ、はぁ…!?」
「
「なっ、なに急に!?誰よ…!」
ほう…誰よ誰よと聞かれたら、答えてあげるは世の情け!世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため、愛と正義の悪を貫くラブリーチャーミーな仇役ゥ!
「――ダレカちゃんだよ!」
「………………え、誰…?」
「えぇ…知らんのかよ……」
ダレカちゃん、一応は君の上司的なアレよ?ま、実際?秘書ってどんくらいの立ち位置なんだろーね。センセの右腕だからそこそこ上の立場だってのはあるけど、ダレカちゃんの中身が関与しない場合の立場ってホント、自分でも解らんのよね。
バンっとドアを蹴飛ばして入室したら、ヌッとした太腿が目に入る。良いよね、太腿。アレに挟まれたいし、抱き枕にしたい。ダレカちゃんは膝枕よりも抱き枕派です。
んー、ノノミさんとかだったら膝枕が良いんだけどね?耳掻きのオプション付きだし、上が絶景だし。
「ドーモ、ユウカ=サン。センセスレイヤーことシャーレの超絶優秀な美人、可憐で儚い高嶺に咲く一輪の華…つまりは秘書のダレカちゃんだよ」
「……中身、
「は?いまダレカちゃんが天才清楚系な秘書だって言ったか?……あ、因みにヒマリさんじゃないよー?彼女とダレカちゃんでは優秀さのベクトルが違うやけんねぇ」
「そ、そう……それで、秘書なのよね?」
「そ。連邦生徒会長がいた頃に直々に仰せつかりましたぜ?そんでお給金ウハウハだから受けた」
「…別に理由とかは何でもいいんだけど、どうして宇宙服?」
「センセの趣味」
「え゛」
「シャーレでの活動中は絶対に脱ぐな、脱いだら他の衣服も脱げと命令されておりまして。ダレカちゃん、露出癖はないものでしてね?渋々と宇宙服を着続けているンですわ」
はい、嘘ですけどね?
そもそもダレカちゃんがセンセの指示になんか従うとでも?だってダレカちゃん、センセのアンチ勢なんですもの。言うこと成すこと全てに反骨精神を掲げて噛みつき、寿命まで元気にぶっ生かす予定だし。
「そんな…!先生にそんな趣味があったなんて……私も、着るべきかしら…」
「おう待てやい。そこは涙ながらに取り乱して、狼狽しながらも揺蕩う意識を掻き集めて先生に抗議する流れやろがい!!」
「…いや、だって…先に先生から聞いてたから。自分から宇宙服を着て歩いて、適当な事ばかりを吐き散らかすアホ生徒がシャーレには生息しているって」
………………一線越えたな、あの野郎ゥ…!もう決めた、センセのPCのデスクトップの壁紙、象のケツにしてやる。
「まさか、その変人が秘書だったなんてね。……いや、まさかそれも嘘なの…?」
「マジだって!見てよ、この純粋な瞳!!」
「見えないでしょ、宇宙服を着てるんだし」
「正論ばっかり言ってると太腿が縮んじゃうぜ、ユウカさん」
「私が好んで太腿を育成してるみたいな言い方しないで!……細くできるなら、もうしてる――」
「馬鹿かテメェ!勿体ねぇだろ!?」
「あなたは私の太腿のなんなのよ!?」
「いずれは太腿の所有権を取る予定なんだよ!もし勝手に減らしてみろ……代わりに胸を揉みしだくからな!!絶対に、腕の一本や二本が吹き飛んだとしても!必ずだ!覚悟の準備をしておいてください!!あなたの太腿は既に金銀財宝にも勝るモノなんだからな!!」
「怖い…この人普通に怖い」
おや、怯えられてしまった。しゃーなし、天才の熱いパトスは、時に狂気として受け取られてしまうモノだ。そーゆーのは時間が解決して、いずれは一般常識として浸透するんだろうね。
だから、今は困惑していたとしても…一年後や二年後にはどーなっているのかねぇ?ふへへ、ダレカちゃんの未来は明るいゾ!後はセン公が死ななければかんぺき〜。
「んで、ユウカさんはシャーレで何してんの?センセの秘蔵フォルダだったら一番右の上から三番目だけど」
「…普通にシャーレ当番だけど、聞いてないの?」
「うん、なーんにもね」
よもやセンセめ、悪戯心でも芽生えたか?
少々弄りすぎたかな。ダレカちゃんに対しての悪戯だったら倍にして返す程度で済ますけど、ユウカさんを巻き込むのはなぁ…ま、ダレカちゃんがシャーレ所属の生徒を傷つけないってのは前々から説明してるし、だからこそなんだろーけど。
ん〜、しょうがない。日が暮れるまでの間はユウカさんで時間を潰すこととしよう。せっかくセンセが用意してくれたオモチャ…もといお友達なので、有効活用しよう。
おや、ユウカさんやどうしてゲンナリとしていらっしゃる?人生経験の濃いダレカちゃんと話せば知見が深まるぞ?まあ、その人生経験を言って伝える事は絶対にないんやけどね。ハハッ!
その後、ユウカさんが帰るまで付き纏った。
◆◆◆
そんでもって夜、ダレカちゃんは砂漠を走ってます。
今頃はセリカさんを拉致してるカタカタヘルメット団の車両が砂漠を走ってる最中かな。今回の件で進む事態もあるから、先んじて助けて阻止するのは愚策でした(四敗)
結局のところ、よく分からんけどダレカちゃんはセンセの進むべき道をどーにかするのは無理なんだね。HAHAHA!連邦生徒会長も同じやーん♡
どうせあの人の事だし、どっかで『あなたの方が正しかった』とか言ってそう。だって嘗てのダレカちゃんも言ったもん。
「……あれ、こっちだっけ?」
それは砂漠!圧倒的砂漠!!
どこを見ても砂しかない。つまりどこを見ても砂漠しかない。
迷路よりも悪質です。センセのシッテムの箱とか、シャーレの超法的権限で連邦生徒会のセントラルネットワークにアクセスするとか……何か一つでも他を圧倒する切り札があれば、ダレカちゃんがセンセや皆を死なせる回数も減っていただろうけど。
ダレカちゃんが持っているのはそこそこ優秀な頭と、めっちゃくちゃ優れてる身体性能。後は実にクソッタレなループを通しての経験だけ。
足りません。全然、足りませんとも。力があるからって全てを救えるなんて、質の低いライトノベルの読み過ぎだ。
もしも指ひとつでヒノム火山を消し飛ばせるくらいの力があれば話も違ってくるんですが……現実的じゃない話なんてしても、センセがまたコロコロと死ぬだけ。良い事なんてありませんとも。そーゆー妄想に溺れるくらいなら、ゲヘナ風紀委員の行政官の
「……走りづらい…視界も悪い…息もしづらい…………くっそ、やってられっかよ…ッ!」
邪魔くさい!この宇宙服、あまりにも邪魔くさい!!
普通の宇宙服ですら100kgから120kgはあるのに、これはその倍以上。エンジニア部め、詰め込みすぎだろ!
よく分からんが踏み込みとかで掛かる重みは軽減されて床を壊す心配はないらしい…ま、中身の人には全ての重みが掛かってるんやけどね。
――よって、
こんなんなければマッハですわ、マッハ!
連邦生徒会長に選ばれて、キヴォトスの中枢を担うセンセの懐刀であるダレカちゃんの本気。敵に回した事を後悔しろよ?ヘルメット馬鹿どもめ。
◆◆◆
「……な、何が…!?」
黒見セリカは慄きに声も洩らす。
「ヒィッ…!や、やめ――ぐふぉッ!!」
「と、捉えられない!なんで銃が当たんないの!?」
「このッ…クソ猫がァァ!!」
「なんだよ!お前…誰なんだよ!?」
目は先程覚めたばかりだ。記憶を遡るも、セリカが覚えているのもカタカタヘルメット団に襲われ、数の暴力に負けたところまでだ。
その後は縛られ、現状、車両のコンテナに閉じ込められている。圏外故に連絡も取れず、そも、手足を荒く縛られているのだから携帯端末を扱える筈もないのだが。
「………ッ」
――外から聴こえる喧騒。
悲鳴、と言っても過言ではない。怒声と表現するには些か恐怖の色が滲み、上擦っている。それでも暴力組織に属している故か、大声で威嚇する性質は恐怖で変わるものでも無い。
だが、然し――カタカタヘルメット団に敵対している
セリカが最初に思いついたのは、アビドス高校の仲間が助けに来てくれた可能性だ。今が何処にいて、どれだけ時間が過ぎたのかも分からない。
それでも、なんとなく気に食わない大人――先生がついているのだから、可能性を感じてしまう。
なのだが、セリカの稚拙な推理では、自分で思い付いて支持したい"可能性"が低いと断言出来てしまう。
仲間ならば、小鳥遊ホシノであれば――敵の殲滅よりも先に、自分の救助を最優先にする。非効率的だったとしても、そうするのがあの先輩で、それを可能とするのが先生の戦術指揮だ。それに――
――このッ…クソ猫がァァ!!――
「……猫…?」
今さっき聞こえたばかりの声だ。
キヴォトスには様々な身体的特性を持つ者が居るが、アビドスにて『猫』と言われるだけの身体的特性を持つのはセリカだけだ。
喧騒は数分か、十数分か、もっと掛かった可能性もある。たった一つだけセリカに言えるのは、車両の外では圧倒的な力を持つ何かがヘルメット団を容易く殲滅した、という結果だけだ。
最初こそ恐怖心がセリカを支配していた。次は自分の番で、息を飲んだ瞬間にはコンテナが開かれて、化け物が自分を襲ってくる――そんな想像が頭に過ぎた。
然れども嵐の前の静けさ、と言うべき恐怖。
セリカに接触することもなく、居る気配も去る気配もない。どんな存在が何をしていたのか、答えてくれる者はいない。
(……先輩……先生、ダレカちゃん…!)
先輩達だったら、笑顔で自分の無事を喜ぶと思う。先生だったら、柔らかくも無事を確信していた澄まし笑みで頭でも撫でるのだろうか。
そして、あの宇宙服の変人だったら――きっと、全てを満遍なく片付けた後に淡々としたいつも通りの声質で揶揄って、安心させてくれるのだろう。
(…バカみたい。あんなにも、信用しないって決めたのに……先生に悪態をついて、ダレカちゃんは怖い存在だって決めつけてたのに…)
いざ自分がピンチになってみれば、二人が当然のように味方であると思っている。こんな浅ましい心の内なんて、明かせる筈がない。
受け入れてくれるのは判っているのに、甘えて、盲目的になりたくない。何とも我儘で、嫌に自分らしい。
どうしてか、暗い荷車で独りになれば後悔と自己嫌悪に苛まれる。脳天気なポジティブで在ろうとは思わないが、恐怖の中での現実逃避で自己嫌悪とは、セリカ自身も予想外だった。
ポロリと涙が零れた刹那。
――バンッッ、と乱暴にドアが開かれる
「っ!?」
「あ、こっちに泣いてるセリカを発見。無事っぽい」
「し、シロコ先輩…?それにみんなも……な、泣いてなんかないわよ!!」
「おぉ〜、元気そうでなによりだね。うんうん、ダレカちゃんの情報通り」
開かれたドアの先からは、朝方の日光が差す。一晩中捕らえられていたのだろう。逆光で素顔は見えづらいが、何よりも安心できて、信頼出来る仲間達が迎えに来てくれたのは明白だ。
泣いてない、と強がってみたものの。安堵からか涙が止まらない。それを見られたくなくて顔を背けるが、ノノミに優しく抱き締められてまた涙が込み上げてくる。
「よしよし、もう大丈夫ですからね」
「うぅ……」
「ごめんね、セリカ。遅くなっちゃった」
「…謝んないでよ、先生……悪いのは先生じゃないし」
――こうして、セリカは何も理解出来ないまま救出された。
「………シロコちゃん、周りに気配は?」
「…ううん、多分…倒れてるヘルメット団以外、誰もいない。立ち去ってから時間が経ってるかも」
「だよね。シロコちゃんがそう断言するなら、やっぱそーだよね。ホント、何があったんだろうね」
――異様な光景だった。
不良生徒達は再起不能とまではいかないが、暫くは動けない程度にはダメージを負っている。丁寧に腕や足の関節は外され、もし意識を取り戻したとしても戦うのは無理だろう。
そして何よりも異様なのが、セリカの囚われていた車両以外の戦車やトラック、ドローンに至るまでが徹底的に破壊されている。
拳で殴った跡、砕かれたヘルメット、
銃痕と呼ぶにはあまりにも異常で、込められた神秘はホシノを持ってしても軽くは飲み込めない。不良生徒は素手で鎮圧して、大型車両やドローンは銃で撃ち落としたのだろう。
―― 一つの事件は幕を閉じたが、然しついぞセリカを助けた者の正体だけは解らなかった。