シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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ダレカちゃんはトリニティゴリラ園説を信じます

 

――夜です。

 

ダレカちゃん的に、夜です。センセは夜だって言いやがりますけど、やっぱダレカちゃん的には夜なワケでして。

 

「――夜遊びをしましょう」

 

と、宿舎前で不良を深淵宜しく深い深い穴に埋めていたダレカちゃんを誘ったのは、水道に繋がれたホースを持ったハナコさんだった。

うん、にへへ。分かるぜ相棒!……今しがた穴に埋めた不良にかけるんよな、水を。手足は縛ってるし、どーやって藻掻くのかを楽しむんだね。うーん、貴族の遊び☆

 

とりまヘルメットを被った盗人不良は宇宙服と水着の恐怖症を発症させてから正義実現委員会に引渡しました。

 

「んで、なんだっけ?デートのお誘い?」

 

「あらあら、ふふっ♡それも良いのですが、今日は皆さんでどうでしょう?」

 

「うん?ゴリラのピンクは義務かって?」

 

「ええ、そうですね」

 

「そりゃあ半分はゴリラなんだろうけどさ、じゃあもう半分はゴリラかってハナシわな。ゴリゴリゴーリゴリ、ゴリゴリゴーリゴリ、ゴリゴリゴーリゴリ」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「………ゆーあーごーりらぁ?」

 

「ふふっ、そうですね」

 

「マジかよ、おい……トリニティにはピンクゴリラが二匹もいるのか……ッ!古書館とか正実にもゴリラがいるし、騎士団の空飛ぶ盾ゴリラも……オイオイ、こりゃあトリニティがジャングルってな噂も――」

 

 

「ふふっ、そうですね」

 

 

「やっぱりハナコさんもそう思う!?いやー、現役トリニティ生徒が肯定するなら大マジやん!ひゃっほう!!」

 

「…………わざとです?」

 

あ、やっと違う反応した。『ぶぶ漬けでもどうどす?』的なBOTになったと思ったでゲス。や、トリニティ生徒はそーゆータイプが多いし、トリニティの申し子なハナコさんだから案外間違いではないのかな?

 

まー、ハナコさんの言ってる『わざと』ってのは一つの確信を持ってして、でも敢えて質問の形を取ってだけのモノだろうけど。

うんうん、こりゃあ謙虚な女の子だね。ウケるウケる、鼻で笑ってあげる♡その後に抱きしめる、疾く抱きしめるます。

 

「……どー思う?空気を読ませる、ってのは案外ムズいんだろうけどさ。恥もプライドも投げ捨てるんだったら、空気を読まないってのは息をするよりも楽なんだぜ?」

 

「深いようで浅いお話ですね……で、敢えてそうする意味はあるのですか?」

 

「ダレカちゃんはね、ハナコさんが大好きなのさ。月が綺麗ですね、アイラブユー。だから()()()()()()なコミュニケーションをやってみてるんだよね。()()()()()()でしょ、空気を読まない人」

 

「……乙女の心を勝手に読む人は、嫌ですよ?」

 

「おっと優秀すぎてすまんね。でもでも、ハナコさんの事はホントーに好きだよ?」

 

「私もダレカちゃん、好きです。ですので教えて頂けます?」

 

……ほら、やっぱり。この人はトリニティの生徒だよ、トリニティの生徒の中でも最優秀賞モノな最高傑作だよ。

 

この目、この言葉。既視感の残る雰囲気。

 

まっ、端的に言えばナギサさんに似てるんだよね……決定的な『底』を覗き見る瞳。喉奥にゾワっとした何かを擦り付けられた感覚。

ハナコさん、やっぱり危険だな。アズサさんの夜間行動を知ってたりナギサさんの隠れ家(セーフティハウス)を調べ上げたりしてるし、マジで侮れないね。

 

「―― 一体、何を企んでいるのですか?」

 

「おん?むむっ、奥ゆかしいなぁ……もっと端的に、飾らず。でも最低限の肉付けはしてくれる?勘違いで変なことを喋ったら恥ずかしいじゃん」

 

「ではご要望通りに。ダレカちゃん、あなたには何処まで見えているのですか……その瞳には。まるで()()()()()()()()みたいですよね」

 

「一応言っとくけど、ダレカちゃんはセイアさんじゃないよ?」

 

「……可能性の一つが潰されちゃいました」

 

そー思うよな、普通は。や、普通はここまで気付かんけど。

 

体調不良でお休み中、てな表向きの理由で人前に姿を現さないセイアさん。んで、ダレカちゃんは前もって補習授業部の面々と個人的な交流を持っていたり、それ以外にも細かなところで事態の先読み、先回りをしている。

 

つまるはなし、ハナコさんはこう思ってるワケだ。ダレカちゃんを名乗る不審者は()()()()()()()()、そして未来視は『預言の大天使』の専売特許。

イコールで、ダレカちゃんは預言の大天使こと百合園セイアだってハナシになる。まー、ダレカちゃん的には未来視ってよりも過去体験なんだけどね☆

 

「良かったッスね。大事な場面で『ですよねっ、百合園セイアさん♪』的なコトを言っちゃわなくて」

 

「ええ、そうですね。大恥をかかなくて済みました」

 

「あっ、言うつもりではあったんすね」

 

「格好を付けたいお年頃なので。では改めてまして、次の質問をしても?」

 

「質問大会はしてないんだが?や、構わんけどさ」

 

ハナコさんはセンセみたいな頭突っ込みちゃんじゃないし、ある程度は察せられても良いかなとは思ってるんよね。

ホシノさんと違って、過去に交流があったりもしないから正体バレして直ぐセンセに飛び火!なーんてコトもないし。自己完結型の人間ってイイネ。

 

「…………私は特段、あなたの計画や正体を暴きたいわけではありません。たった一つ、それこそ最初から()()()()聞く気はありませんでした」

 

「えっ、さっきのはダレカちゃんが勝手に答えた感じ?恥ずかしっ…!」

 

「そうなりますね、ふふふっ♪意外と純粋な方なんですね」

 

「おいバカ止めろ、ダレカちゃんの変人指数が下がるだろ!……やるなら言葉汚く罵倒しろ。『頭空っぽなん?言葉の裏だけじゃなくて表も読めやマヌケ』くらいは言ってください、マジで」

 

「それは置いときまして」

 

「置いとかれましてと」

 

「――ダレカちゃん、貴方は()()()()()()()?」

 

「ん、ちゃうよ?」

 

ギャグかな?笑うべきかな?

 

……てか普通に救う予定だもの、それがセンセの生存に必要なんだし。もしハナコさんがセンセの敵で、気持ちが傾く可能性もなくてマダムとかテラー生徒みたいなスタンスだったら『敵』として銃口を向けるけど、少なくともハナコさんは違う。

 

そんでハナコさんの言う『私達』がセンセを含めた補習授業部なんだろーし、そりゃあ絶対に敵にはならないってなモン。むしろダレカちゃんはハナコさん達の味方だし、今は。

 

「でしたら他に言う事もありません!では話を戻しまして、夜遊びをしましょう。夜の街に繰り出しましょう♪」

 

「………ま、ええか。行きましょっす」

 

ハナコさんの『敵じゃないなら()()良し』って感じ、めっちゃ共感できる。

 

ま、どーでも良いや。とりま今日はナギサさんとの密会日じゃないし、楽しく夜遊びしよう。そして美食バカ共をぶっ潰そう♡

 

◆◆◆

 

「さて、みんな揃ったかな?」

 

玄関ホール、いつも通りの青白スーツを着たセンセがツアーガイド宜しくちっさい旗をフリフリしてた。何それ手作り?

 

ぐるりと見渡すと、補習授業部の四人は短パン長袖の体育着で並んでる。意外と統率が取れてるっつーか、一人(ペロロ狂人)除いてみんな根はマトモだから変に逆らったりはしないんだよね。

あとは、普通にセンセの謎スキルだね。パーフェクトコミュニケーション的な?それで慕われてるんだから、やー、怖い怖い。前情報が無くてもその人に合わせた対応をするんだから、怖いっつーの。

 

「点呼〜、ざっちょん」

 

「ごるられ」

 

「あふるれーとる♡」

 

「「…………え?」」

 

おん?アズサさんとハナコさんに続くと思っていた点呼が止まったぞい?反抗期かよ。

 

おっかしぃなぁ……後は『のんごりりー』と『はんちぇと』だったよな。や、『れんとーる』と『しななにけーん』だっけ?

てか多分、正解はないな。それぞれが思ったことを言うタイプの点呼だし、統一性がないから誰かに変装した奴が紛れてても『え?』と言うに違いない。

 

え、じゃあヒフミさんとコハルさんは偽物なん?

 

「…アズサさん、ハナコさん。警戒を」

 

「………外見は同一、雰囲気も…だな。パターンCか?」

 

「あらあら、点呼を忘れたって感じでしょうか?」

 

「て、点呼ってなに!?それ聞いてないんだけど!!」

 

「すみません、私も……その、勉強不足ですみません…」

 

「……………もう一度、点呼するか。れんがれろ」

 

「そろろるろる」

 

「といとい♡」

 

「「さっきと違う!?」」

 

「センセ、指揮!!この二人は偽物だぞ!?」

 

「…………私も分からないよ、その謎点呼」

 

「むっ、実は私も分からない」

 

「あら、奇遇ですね。私もです」

 

「ダレカちゃんもサッパリ分からんぞ………さて、これは本当に()()なのか?まるで誰かに仕組まれたような……そう、違和感だ。決められた点呼、でも誰も分からない――おかしくないか?」

 

「おかしいのはアンタの頭でしょ!てかどうして三人とも、自分でも分からない点呼を出来てるのよ!!」

 

え、ぴえん。アタオカって言われた、パオン。でもダレカちゃんは愛してるぜ、コハルさん!結婚したいくらい愛してる、てかセリカさんとも結婚したい。

重婚ってダメなの?や、別にいいよな。ダメだったら連邦生徒会長に成り代わって法律を変えよう。

 

まずはカイチョーに帰ってきてもろうて。てかあの人、何処行ったん?どーにも、ダレカちゃんのループとは別のルールで動いてる……てか進んでる感じだからね。

 

「………満足した?ダレカちゃん」

 

「???」

 

「宇宙猫の画像のプリントを出さないで?キミが始めた物語でしょう?」

 

「や、ちな言い出しっぺはハナコさんだぞ」

 

「は、ハナコ…?」

 

「ですが点呼の案はアズサちゃんですよ?」

 

「アズサ!?」

 

「でも点呼内容を決めたのはダレカちゃんだ」

 

「やっぱり君か!!」

 

「む?むむん?むむんがむん?……や、しかし考えてみて欲しい。どんだけセンセが正論を用いたとしてもダレカちゃんは決して非を認めないし、寧ろセンセが全て悪いまである。てかセンセが悪い。つまり謝って?センセが謝り尽くして?誤りだとしても謝って?」

 

「り、理不尽……ッ!だったら私だって謝らないさ、ダレカちゃんが謝るまで謝らない。決して、絶対に、例え殴られようとも謝らない!!」

 

「あ、じゃあ先に謝るっす。すんません…別にセンセと喧嘩したいんじゃなくて、みんなと仲を深めたくて……」

 

「なんで謝るの!?ちょっ、私が意固地になって生徒に謝らせたみたいじゃないか!いや、事実そうなんだけど…その、ね?相手がダレカちゃんだから、私もそうしたと言うか…」

 

「……………で?」

 

「誠にごめんなさい……………………あれ?私、なんで謝らせられたの?被害者でも加害者でもないんだけど…」

 

悪くないのに謝る、時には子供にだって謝ることになる――それが大人です。ヤダね、大人に成りたくないね。でも残念、大人とは至るモノじゃなくて成るモノなのさ!

これテストに出ます。哲学的なアレで出まくります。あ、ちょいアズサさん。二割は嘘だからメモせんといてや。

 

とりまアズサさん以外からの視線が痛いので、センセを陥れてゲラゲラ笑う呪いの王ごっこはやめよっとな。

 

◆◆◆

 

「……不愉快ですね」

 

――寂れ、月光のみに照らされた窓辺。

 

長身の異形は花弁、もしくは羽根が幾重にも合わさった頭部より無数の瞳を細める。怒りとは程遠い、耳元を飛び回る蝿に対する煩わしさ。

女性――ベアトリーチェの視線は一枚の写真へと向けられていた。

 

アリウスの自地区、ベアトリーチェの支配領域。そこへ這い寄るかのように、察知の届かぬ手法を用いての侵入があった。

カタコンベの監視兵を突破して自地区の内部まで入り込んだのだ。脅威とは思わないが、やはり煩わしくはある。

正体も目的も不明なのだから、多少は警戒もする。近頃は過去に処分した筈の失敗作がキヴォトスを闊歩しているとの情報もあり、意志のない人形の報復を恐れはしないが気掛かりではあった。

 

「……マリオネット、ですか……言い得て妙ですね」

 

写真の中、広い壁。そこには深紅の塗料で書かれた()()

 

 

――マダム、お前はマリオネットに過ぎない――

 

 

ただの戯言。言葉の羅列。だが名指しではなく敢えて『マダム』と指し示すあたり、侵入者はアリウスの事情に明るい可能性もある。

トリニティ自地区にて情報収集や『彼岸キミ』の捜索に出ているアリウス生徒がウソーノ・ウラギールと名乗る不審者に襲撃され続けている現状。

 

徐々に壁が構築されている感覚。

 

マリオネット――操り人形。言い得て妙、とベアトリーチェは自身の現状を当て嵌めて憂いを孕む物思いに溜息をこぼす。

 

ベアトリーチェにとって、マリオネットとは操り人形であると同時に糸に絡まる人間だ。

そこに意志の有無は関係がなく、細く一本一本は意味を成さない糸が幾重にも絡まった、まさに煩わしい状況。

 

黒幕(フィクサー)を自称するウソーノ・ウラギール。自地区への謎の侵入者。失敗作、欠陥品の彼岸キミ。

 

それぞれは気に留めるまでもない。育てた兵の対処で事足りる筈だが、然し未知数の相手が複数となっては無視も出来ない。

 

黒幕(フィクサー)と侵入者は引き続き子供達に探らせましょう。()()は……く、ふふっ……アハハハッ!そう…そうですか、生きていますか。それに預言の大天使を模倣していると」

 

ゲマトリアにて"黒服"から公開された情報――彼岸キミの生存と、神秘の模倣。其れは嘗て、ベアトリーチェが崇高へと至る道筋の一つとして手掛け、然し失敗に終えた実験だ。

今となっては惜しいとも思わないが、だが生き残って、オマケに()()()()()のであれば話は別だ。

 

上位存在となり頂点へ至る為の計画は、既にあと一歩の所まで及んでいる。それでも変貌し、尚且つ自分の命令に決して逆らわない道具は手元に置いておきたい。

 

彼岸キミはベアトリーチェに逆らわない道具だ。妙な生徒の影響を受けて『外』に興味を持っていた時期もあったが、それでも根本は変わらない。

意志薄弱、それでいて飼い主の言葉には逆らえないように調教されている。それがたかが数年で変わるほど、甘い()はしていない。

 

「嗚呼……なんと、なんとなんとなんと!なんと僥倖!!準備は滞り無く整い、捨てたモルモットも完成して返ってくる――まさに僥倖…………ですが、気掛かりは残りますね」

 

無論、ウソーノ・ウラギールや件の侵入者ではない。子供を搾取する『大人』が真に警戒するのは同じ『大人』――先生だ。

 

一度は黒服に打ち勝ち、今もゲマトリアの興味を一身に受ける存在。大人でありながら子供の盾となり、不可思議な権能を有しながらも支配せず、生徒の成長を見届け守り通す大人。

根本がベアトリーチェとは異なる。思想が真逆と言っても良い、近い将来の敵対者だ。

 

「……始末するしかありませんね」

 

ゲマトリアに引き入れるなど論外、と言葉で切り捨てる。いずれにしろ敵対者は皆同様に始末する算段だ。

幾ら優れた権能を有していようとも、使わなければ持ち腐れも良いところ。肉体的にはたかが銃弾の一発、殴打ですら打ち所が悪ければ死に至るか弱い存在だ。強力な反面、弱点があまりにも致命的だった。

 

故に『大人』であるが為に警戒はするが、傲慢な思想からの見下しは変わらない。

 

 

生徒を護るのであれば、その生徒に殺されれば良い。そう吐き捨てた後、ベアトリーチェはある分隊を呼び付け、任務を与えた。

それは無論――エデン条約調印式日、騒動に紛れての『先生』の始末だった。

 






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