砂塵の吹き荒れるゲヘナ自治区第15エリア77番街。
崩壊した廃墟より瓦礫を押し上げ、咳き込みながら辺りを見渡す生徒が四名。ゲヘナには似つかわしくないトリニティ所属の少女達――補習授業部は困惑に呆気を隠せない。
昨晩よりトリニティからゲヘナに渡り、幾度と戦闘や逃走を重ねてティーパーティーの用意した試験会場に到着し、これから試験が始まるという瞬間に天井が莫大な神秘で消し飛び、ボロボロになった忍者ペロロの着ぐるみが先生にドロップキックして教卓に押し込んだ。その直後に試験会場が爆発し、現状に至る。
改めて事態を振り返り、ハナコは頭を押さえた。一つ一つは説明が着くが、後半には思考放棄をしたくなってしまった。
「……………」
「……ダレカちゃん、ですか…?」
塵で汚れ、然しそれが飾りとなってしまう純白の長髪。大きく紅い双眸は酷い隈と同様に浅黒く曇り、生者でありながら死者以上の絶望を象る色を映す。
頭部と、患者衣の下からも続く多量の包帯は顔面を除く全ての肌を覆い隠し、所々が赤く染まる様は包帯が単なる飾りではないのだと物語っていた。
そんな生徒は初等部を連想させる小柄な身体をブリキ人形のように硬く動かし、微かながらに目を見開く。
「…………チガウ、ヨ…?……へんじん、に…拉致られて……いれ、変わられた……ひがいしゃ……で、す…」
「えっと……あなたはダレカちゃんの中身ではないんですか?」
「宇宙服……なかみ、ない……で、す…」
「……ヒフミ、ヒフミ。ダレカちゃんに中身なんていない。察するにアレはアビドス砂漠に出没するメジェドやミレニアムを彷徨うと噂の鎧武者と同じだと思う。つまりダレカちゃんに中身なんてない」
「ん、そー。しらん、けど…………ん、そう……しらない、けど…」
「ふむ、ふふっ…♡中身は巨女か巨漢かと思ってましたが、小さな子供だったのですね。なるほど、なるほど……これはこれで…あらあら♡良いですね、
「た、たぎ……?」
「こはるさん、へんたい……あと、なかみ…違う、し」
「へんたい!?」
「コハルは変態だったのか」
「ち、違うから!変態じゃないし!!」
「あ、あはは……」
顔を真っ赤にして否定するコハルとは一転、表情を変えない生徒は淡々と傍らで意識を失っている先生の身体をまさぐり、出血を伴うような怪我がない事を確認する。
やがて触診を終えると万が一目が覚めても自分の姿を視界に納めないよう、ポケットから取り出した包帯で目から後頭部に至るまでを何重にも巻き隠した。
その奇行に補習授業部の面々も怪訝を表するが、それを意に介さず、純白の髪を乱雑に振り払いながら作業を終えさせる。
「………さて」
――浅くため息を一つ。
小柄な生徒は改めて振り返り、四人を見渡す。瓦礫の上に立ち尽くす生徒の片手に握られた銃は僅かに脈動し、肉質を帯びていた。
やがて銃を真上に向けると同時、肉銃の脈動は徐々に激しくなり――巨大な狙撃銃へと"変貌"する。銃に組み込まれた肉塊、その者を象徴する武器の完全模倣。
「模倣 : アイデンティティ」
「……キー…?」
「な、なに……アレ…」
異様な光景に声を震わせ、コハルは後退る。
それでも彼岸キミは小柄な身体には不似合いなスナイパーライフルを片手で軽々と構え、銃身を迷いなく四人に向ける。その動作は無機質な瞳とは異なり、限りなく敵対に近しい行為に他ならない。
あまりにも自然な所作にアズサは目の前の生徒――彼岸キミの正体を隠す演技も忘れ、つい愛称で呼び掛けてしまった。
然し濁り切った双眸はたった一言の困惑では止まらず、拙くも言葉を続ける。
「…■は、強い……ので、ここにいる全員……を、五秒で、
「「「「ッ!?」」」」
刹那――模倣されたアイデンティティに青白い神秘が収縮し、辺りの空気が震える。粟立つ肌の原因は言うまでもなく、ヘイローすら壊しかねない暴力的なまでの、莫大な神秘だ。
そんな凶器を平然と向け、彼岸キミは淡々と補習授業部へ語り掛ける。
「せんたくし……は、ふたつ。ひとつ、このまま
「っ!?そ、そんな…死んでもらう、とか…きゅ、急すぎますよ!?」
「……落ち着け、ヒフミ。き……アイツは確かに言った……『選択肢は二つ』と。だから問答無用で襲いかかったりはしない」
「……………べ、つに…ころしたくは、ない………堅実なはんだん、もとむ」
彼岸キミの言葉は単なる脅しであり、だが必要とあらば一人や二人を都合良く片付けるのも
そうするのも"仕方がない"が、それでも"殺したくない"と言っているのも事実。昔からの付き合い故に誰よりも先に察したアズサは皆の発言を『二つ目』の選択肢に誘導し、変わり果てた彼岸キミを横目にして唇を噛み切った。
「それで、二つ目の選択肢とは?」
「……とても、かんたん。いまは目をとじて、口をつぐんで、耳をふさぐ。それだけで、みんな無事。■も……手ぶらでかえって、へいわになる。やったね」
「今しがた聞いた事や見た事は全て
「……現状、私達には余裕が無い。特別試験も妨害され、ハナコも言った通り……アイツに銃を向けてまで成すべき事はないだろう。だから、私もハナコに賛成する」
ハナコとアズサは"見て見ぬふり"を選ぶ。無論、真にメリット・デメリットで語ったハナコとは違い、アズサは感情論に建前を付けている。
叶うなら、今すぐにでも駆け寄って抱き締めたい。痩せ細った身体を温め、虚しい絶望に慣れてしまった瞳に別色を与えたい。もう二度と離れたくないし、これからは隣で護り続けたい。
だが――短絡的な行動によって彼岸キミがどうなるのか、それを無視する事は出来なかった。トリニティに潜入している身として、安易に手を伸ばせば彼岸キミまで関係性を疑われる。裁かれるのであれば、それは自分一人で十分だと結論付けていた。
控え目ながら二人に流されるヒフミ、然し明らかな不満を表情に浮かべるのはコハルだった。
「………な、名前…聞いてもいい?」
「……なんで?」
「わ、私は下江コハル!トリニティ総合学園の一年生で、所属は正義実現委員会……と、補習授業部。ほら、私は言ったから!次はそっち!!」
「…なんで、なん…で……かわらない……?まえと、違うのに…敵、なのに……わからない…わからない…ッ」
「えっ?」
年下への対応なんて知らない。優しく諭すなんて自分の柄ではないと、コハルは理解しながらも、目の前で身も心もボロボロに成り果て、泣くことも出来ない幼子を放っておく事なんてコハルの
コハルにとって、
手を伸ばしたい、だから手を伸ばした。あんな目をした子供なんて認めたくない、だから不器用でも寄り添って支えなければいけない。
奇しくも――彼女の行動は彼岸キミの体験してきた『記憶』と相違ない。何度も手を伸ばされ、そのか弱い両腕で優しく包まれてきた。
不器用でどうしようもない慈悲は、銃を向けて敵対している今でも向けられていた。
「……スイ」
「す、スイ…?」
「睡蓮スイ……■の名前、だよ……この身体に刻まれた、なまえ」
「っ!そ、その名前は……」
アズサの古い記憶を刺激する名前。それだけを言い残し、其れは銃の神秘を霧散させ――瞬きの間に姿を隠した。
誰も居なくなった瓦礫の山。皆が倒れている先生に駆け寄る中でヒフミは呆然と立ち尽くし、呟く。
「あなたは……誰、なんですか…?」
爆発の刹那、廃墟に飛び込んできたのは確かに忍者ペロロの着ぐるみ――普段は宇宙服を来ている『ダレカちゃん』だった。
だが、その中身の人物は普段から見ていた『ダレカちゃん』とは別人だ。軽快に回る口先と、拙くあどけない語彙。強くて圧倒的な『ダレカちゃん』と、儚くて無機質な子供。
どれが本物なのか――そも、本当に同一人物なのだろうか。もしかしたら本人が言っていた通り、途中で入れ替わっただけの他人なのでは?
そんな疑問を込め、ヒフミは風に消える小声で呟いていた。
◆◆◆
手を取ル、なんて…ユルサナイ。そンナ資格、トっくにナくナッテル。
◆◆◆
あーーーーー。
んあーーーーー。
ンアァァァァァァアアッッ!!
やらかしたぁぁぁ!!
あ、ドーモ。メジェドです。
カンタン☆メジェドの作り方〜!いち、温泉開発部をボッコボコのボコブリンにします。すると、高確率で白い布を落とします。乱数の女神様に祈りましょう、は?乱数の女神とか邪神やん。
に、ドロップした布に二つ穴を開けて目を描きます。ちな左右がとんがってて中心部が丸みを帯びてるタイプの目が好ましいです。
そんで最後に目付き布を被ると――ジャンジャジャーン!メジェドの完成〜!
あ?んなこたァドーデモいいんだけど?
バレたよなぁ……やっぱバレたよなぁ……や、アリバイを作れば誤魔化せるんよ?今から超即急で帰って、ナギサさんに協力を頼めばどーとでもなるけどさ?
そーゆーのは心配しとらんのよ。メジェドっさんが心配してるのはね、
ま、今のメジェドっさんの中身って死にそうなクソガキやん?虐待児童から丁寧に希望と生存本能を取り払ったのがメジェドっさんの中身なワケさ。
仮にも昔馴染みなアズサさん。そんな姉じゃないのに自称姉なアズサさんが今にも死にそうなクソガキを見たってなると――最悪の場合、一人でアリウスに突っ込んで死ぬ事になります。
今回はフォローするし多少の無理は通すけど、メジェドっさんの持論ではリアルチャートを組む際に最も邪魔な要素って感情論なんだよね。
冷静な時と、興奮している時。その二パターンで状況はコロコロと変わるし、その上でメジェドっさんもだけど人間って感情を偽って薄っぺらい仮面で生きる生物やん?だから今回の"素顔チラッ☆ゲロりもあるぞ!"な邂逅は予想外の地点に着地するかもしれないし、案外なにも変わらない可能性だってあっちゃう。
あー、また倒れそう。ストレスで倒れそうだわ。クラスのみんなには内緒だよ♪(ガチで)ぱないのぅ!!(胃を)殺りますねぇ!殺りますヤります!!
「あー、サイアク……もうキヴォトスなんて滅べばいいのになぁ……世界征服でもしたらええんか?は?して良い訳がないだろうて…ダメだ、本格的に疲れてきた…」
…………ま、とりまセンセの死亡ポイントをまた一つ越えられたのは良い事だ。いつも花丸満点を目指せるほどデキた頭なんてしてねぇし、及第点なだけでも儲けモンっつー事で。
や、繰り返した回数を鑑みれば普通に落第点じゃね…?……いや、まあ…試験になぞるなら、まだ終了はしてないし?リカバリーだって効く……てか効かせるっつーの。
「…まっ、結果的には試験がダメになったんだし……ちょいと脚色して、メジェドっさんの手柄にしてナギサさんに報告するか。ほんで、アリバイ工作に勤しもう」
不本意ながらも気絶する形で寝てたし、元気39%なメジェドっさんですよ。
惰眠を貪ったぶんは働きましょー死ぬ迄な。