シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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望むは『期待』、証明するは『期待以上』

 

「………ッ!」

 

最初に()()を察知したのはウソーノ・ウラギールだった。

 

目視は叶わない()()。酷く曖昧に、だがそれでも確かに――シッテムの箱が顕現する領域(せかい)が青く染まり、水に落とした絵の具のように広がる。

 

乱戦中、異様な程に澄んだ『青』の中心に立つ大人は静かに目を閉じ、端末型のオーパーツと向き合う。

重なり、混ざる雰囲気。ミレニアムにて先生が初めて『ダレカちゃん』を指揮した時と酷似しており、然し()()あの感覚には至っていないとウソーノ・ウラギールは無機質な瞳を向けた。

 

先生の有する大人のカード(反則)とは異なる、正当な権限。故に何処までも『先生』は『生徒』が居なければ成り立たないのだろう。

 

「《――みんな、私に着いてきてくれるかい?》」

 

「はいっ!何処まで出来るのかは分かりませんが……が、頑張ります…!!」

 

「……了解した。きっと、それが最善だ」

 

「べ、別に先生に着いていくんじゃないから!先輩たちの代わりに戦うだけ!!」

 

「…ええ、微力ながら。暴れん坊さん達にはお仕置が必要ですからね♡」

 

青春の日々をまだまだ続ける為に。広がる『青』に心を委ねて、四人の少女は万能感にも近い熱に突き動かされる。

先生の指揮への信頼と、例え失敗したとしても最強な友人が控えている。ならば――この程度の逆境、屈する理由はない。

 

只々、信頼出来る友人を想って三人は銃を握った。

 

◆◆◆

 

憂鬱の糸(メランコリー)、網」

 

長い袖の内側、闇に溶ける黒糸は薄く紡がれて空間を巣食う。

 

蜘蛛のように広がるワイヤーには、やはり蜘蛛の罠のように複数人が絡まる。伸縮性を含むソレは少女達の肌を傷付ける事もなく、だがそれ故に対処が困難だ。

ウソーノ・ウラギールの拘束を逃れたアリウス生徒と補習授業部が銃撃戦を広げる光景を眺めながら、壁のように束ねて広げた鉄糸で流れ弾を受け止める。

 

「………せめて、スクワッドが居れば多少は歯応えもあるのだがな」

 

「クソッ……!こんな巫山戯た野郎に!!」

 

「木っ端が粋がるモノじゃあないさ。この舞台は、人が散るにはあまりにも綺麗が過ぎるだろう?ならば精々、気安くやろうじゃないか」

 

「くっ…!」

 

縛られ吊るされる少女の頬を撫で、指に巻き付いた糸を引く。小さな仕草、然れども仕掛けが起こるには十分だった。

 

全ての糸が解かれ、高所に吊るされていたアリウスの生徒は体育館の床へと落とされる。同時に床が爆発し、大部隊の半数に及ぶ数のアリウス生徒が手足の自由を封じられたままに意識を失った。

 

やがて目の前の()()()を終えた黒衣の子供は、緩慢に振り向き少女と立ち合う。

 

「――さて、ではお姫様?休憩は終わったかな」

 

「別にぃ?休んでたんじゃなくて、色々と考えたんだけどなー」

 

「言葉は一丁前なのだな。答えを出さないのに、よくやるモノだと感心するよ。本質は道化でもあるまいに」

 

「何も知らないクセにそーゆーの止めてくれる?」

 

「全てを識っているのだがね」

 

「あははっ、嘘ばっかり」

 

苛立ちを込めた銃弾がウソーノ・ウラギールに迫り、それを()()()()。有り得ない光景にミカは目を見開くが、ウソーノ・ウラギールの黒い革手袋の上にワイヤーが巻かれていることに気が付く。

 

きっと、目の前の子供は自分よりも強いのだろう。幾度と撃ち、殴られ、既に身に染みて察している。

恐らく、力と技術は超越している。だが()()()()()()()()()。無論、飛び抜けたステータスの中では比較的、という話でもあるのだが。防御に関しては被弾しなければ良いというスタンスなのかもしれない。

 

おおよそを理解し、その上で矢張り聖園ミカはウソーノ・ウラギールへの勝ち筋は限りなく薄いと感じていた。

 

「………まっ、なるようになるよね」

 

「さて、な……ククッ」

 

ミカの出来る事は変わらない。撃ち、只々撃ち、時折隕石を落とす。殆どの生徒はそれでも倒せるが、ウソーノ・ウラギールが素直に受ける道理もない。

 

空中に張り巡らせたワイヤーを利用し、軌道の読めない動きで空間を跳躍し続ける。その全てを押し潰す隕石は手元の肉銃で撃ち砕き、まるで時間稼ぎにでも徹するように飛び回る。

当然、()()()()()()という感覚はミカにもある。怒りは浮かぶが、それ以上に焦りが手元を狂わせる。

 

「……なんのつもりかな?」

 

「はて。具体性に欠ける質問だな」

 

「アナタなら、すぐに終わらせられるでしょって話。補習授業部の子達も、私とアリウスの生徒たちも。手を抜く理由が分からないなぁって」

 

「……ふむ、一つ()()()してるな」

 

「勘違い?」

 

「我を野蛮な木っ端と同一視してくれるなよ。今宵の舞台では、迅速な対応が最善なワケがないだろう。何事も()()を知らなければ真のエンディングには辿り着けないものだ。特に――聖園ミカ、貴様はあまりにも無知が過ぎる」

 

「馬鹿にしてる……ってコトでもないよね。アナタが色々と知っていて、私が知らない事もある。それは分かったけど……なら、教えてよ。私が知るべき真実ってやつを。それがアナタの言う最善なんでしょう?」

 

「――否、我が何故に貴様と戯れ、時間を稼いでいたと思う?貴様に真実を突き付ける者共……補習授業部がアリウスの木っ端を片付けるまでの余興さ、全ては」

 

「………あっそ。言う気がないなら、もう用はないかな。あっちに行ってもいいよね」

 

「勿論だとも。だが、戯れに付き合わせた礼はしないとな………ヒントだ。聖園ミカ、『敵を騙すには味方から』――偽りの友好、友の生死。聞かされた全てが真実だとは限らん」

 

「……あはは、意味わかんないね」

 

「だから識れ、明日の朝日を」

 

斯くして、聖園ミカは負ける理由を――負けても良い理由を得る。

 

◆◆◆

 

嘗て、彼女は絵空事に尽力するお姫様だった。迫害されていたアリウスの過去を知り、融和の橋渡しを担うつもりだった。

そんな彼女がアリウス自治区に辿り着いたのは単なる偶然であり、だがお姫様には運命に思えた。行動を起こすのに葛藤は無かった。

 

然しティーパーティーの彼女であろうとも独断が過ぎたのだろう。自らを平和の使者と謳っていた彼女にとって、それを否定するナギサとセイアは堅物の邪魔者に見えていた。

 

故に想い描く『平和』が完成するまで、ティーパーティー代表の二人は手を出せない場所にでも監禁するつもりだった。全てが上手くいって、そしたら仲良くなったアリウスの子と一緒に謝れば良い。

 

使命感に燃えていた。皆で楽しくお茶会を開く光景を想像し、大義を成すのだと自分に言い聞かせた――そんな作戦を利用され、後戻りが出来なくなるとは一切考えずに。

 

最初にセイアを狙ったのは、少しばかりの意地悪と、彼女の予知を厄介に思ったから。ついでに、()()()が彼女にばかり懐くからだった。

小難しい言葉でミカを翻弄する彼女。自分の感情論に対して何処までも理性的に、そして飾ってややこしい理論的な物言いで返してくる友人。

 

今は大人しくしてもらって、後になってからいつも通りの小言を聞く。それがミカの日常で、紡ぐ『平和』の先にもきっと変わらずに在り続けるモノだと思っていた。

 

――だが、セイアは死んだ。

 

ミカの立てた作戦からは外れ、死んでしまった。事故だったのか、それとも予想よりもずっと身体が弱かったのか。

色々と考え、色々と聞かされた。然し今一つとして情報が頭には残らず、只々、自分のせいで友達が死んでしまったという事実のみが突き刺さった。

 

そして――ミカは暴走する。

 

止まれなくなってしまったのだ。ここで手を止めたら、セイアの死が無駄になる。自分は何も成さず、友を殺しただけの魔女になってしまう。

穢れを知らないお姫様にとって、それは耐え難い事実だった。だからこそ、その事実が周知となる前に大義を成す。許される訳もないが、いつの間にか使命感は贖罪に置き変わっていた。

 

進まなければ、いけない。止まることなんて出来ない。間違っているのは分かってる、人を傷付けてでも得るモノは想い描いていた『平和』なんかではない。

 

傷付く子供が――彼岸キミのような子供が生まれない為の、『楽園』には成り得ないと、理解していた。

 

 

だから―――

 

 

「――ミカ、君は誰も殺してなんかいないよ」

 

ずっと、その一言が欲しかった。

 

ナギサでも良い、全てを見透かしたウソーノ・ウラギールでも良かった。自分の行いを暴いて、でも友達の死を否定してくれる言葉が欲しかった。

 

我儘なお姫様は自分では止まれない。ウソーノ・ウラギールにヒントを与えられ、浦和ハナコに紐解かれ、先生から悪夢を否定され。

 

 

 

嗚呼、やっと……止まれる。罪を償って、謝れるんだ……。

 

 

――斯くして、聖園ミカは補習授業部に負けた。自ら降伏する理由を与えられたのだった。

 

◆◆◆

 

「……終わったか」

 

補習授業部とミカを見下ろし、鉄糸で空中に巣食う黒衣の子供は呟く。

 

ミカは降伏し、戦意も挫かれた。アリウスの生徒も半数は先生と補習授業部が鎮圧し、もう半数はウソーノ・ウラギールがワイヤーで拘束している。

本来ならば、これで一旦は解決となっている。予定よりも早い決着ではあるが、この後にシスターフッドが到着して、先生は後を任せる――それが在るべき()()であり、滞りのない最適解。

 

然し、それではウソーノ・ウラギールが横槍を入れた意味がない。

 

「……ウソーノ・ウラギール。君はどうするんだい?」

 

見上げ、先生は問う。去ってくれるなら止める理由もないが、単なる野次馬にしては場を掻き乱し過ぎている。

何か目的があるのは大前提として、それが見えてこないのだから先生も警戒する。聖園ミカは傍らで、もう関わるつもりは無いと無言を決め込んでいた。

 

「――さて、シャーレの先生よ。結構なお手前、感激だよ。主人公に相応しいじゃないか」

 

「……あまり、感激しているような声色ではありませんね。まだ何か、私たちに望んでいるのでは?」

 

「囀るなよ、浦和ハナコ。我が望むは()()のみ――解るか?我にとって、貴様らがアリウスと聖園ミカを下すのは()()の事柄でしかない。故に、()()望むのではない。()()()望むのだ」

 

「えっと、つまり……き、期待したいから頑張れって事…ですか?」

 

「………端的に換言したら、そうなるだろうな」

 

ヒフミの言葉に対して、少しばかり不満気が滲む。

 

ウソーノ・ウラギールは飾った言い回しを好む。そう己を設定し、準じている。その上で無垢なヒフミの言い回しはあまりにも飾り気がなく、だが内容としては否定出来ない。

要点は捉えているからこそ、ウソーノ・ウラギールも肯定しているのだろう。

 

「ど、どういうこと…?」

 

「簡単だ。戦って、勝てば良い。アイツの『期待』が何を指すのかは分からないが……きっと、勝てば納得する。先生、指揮を頼む」

 

「………そうだね。ウソーノ・ウラギール、君が誰で何者なのかは分からない。だけど――私の秘書の言葉を借りるよ。Power is justice……力こそパワーだ!」

 

「…先生がバカになった……」

 

嘆かわしく、コハルは残念な大人を見詰めた。

 

だが先生は気にもとめず、シッテムの箱を起動させる。潜んだ『青』が再度展開され、青い不可視の領域が体育館を満たす。

先生の瞳に、生徒の瞳とヘイローに――『青』が宿る。軋む脳に眉へ皺を寄せ、だが平然と先生は言い放つ。

 

「――期待以上を魅せてあげるよ」

 

「クハッ……アハハハ!ならば証明せよ!我はウソーノ・ウラギール、一人の超越者にして運命への反逆者……真名も在り方も塗り潰した木っ端と同一視してくれるなよ?」

 

「……私は『先生』、生徒の味方さ。キミに寄り添う在り方が()()なのだとしたら、示すよ。()()で示してあげるよ」

 

 

――灰色の神秘と青色の領域が空間を満たす。

 

 

ウソーノ・ウラギールは手元で遊ばせていた糸を全て袖口に収納し、代わりに胸元から出すのは一丁の銃――脈動する肉銃だ。

 

絶えず鼓動を感じさせるソレはクルクルと回り、その銃口を先生へと向ける。

合間を遮るようにヒフミとアズサが先生の前に立つ。瞳には変わらず不可視の領域と同様に青い光を帯び、シッテムの箱のサポートを満遍なく受けていた。

 

「《――往くよ》」

 

「――――ッ!!」

 

四人からの返事は無く、だが意思がオーパーツを通じて先生に流れ込む。平穏を望み、明日から迎える仲間との青春を想い描く風景。

きっと、ハナコと宇宙服の生徒がコハルを揶揄い、激昂させ、ヒフミは苦笑いする。そんな様子をアズサは真に受けて、先生は無垢な彼女の誤解を解く。

補習授業部が作られてから初めて生まれ、今日に至るまでに幾度と繰り返されてきた日常。例え補習授業部が無事に解散したとしても、また彼女達は集まって同じ青春を紡ぎ続ける。

 

――それが『思い出』となるまで、先生は支え続けると決めていた。

 

初め、ウソーノ・ウラギールの凶弾がヒフミを狙って放たれる。視界にコンマ一秒前より弾道予測の『線』が見えていたヒフミは転がって近くの障害物に身を隠し、銃弾が通過した刹那の隙に向けてアズサが先生の補助を受けた一撃を放つも、避ける仕草もなく軽く仮面の額部で受けられる。

 

アズサに続いて三人もそれぞれ狙いを定めて射撃。だがやはりウソーノ・ウラギールは銃口の向きと指に掛かったトリガーが引かれる瞬間を視界に収め、平然と避ける。

何処か踊っているような動きには余裕があり、挑発のようでもあった。

 

「この程度か?補習授業部」

 

「ッ…!あ、当たらない!?」

 

「…落ち着いてください、コハルちゃん。最初にアズサちゃんが撃った一撃は仮面に当たりました。きっと仮面に当たっても()()()()()()()から敢えて避けなかった……つまり、避けている身体なら当たれば多少なりともダメージがあるんです」

 

「無敵ではない、ということか。スペックの差はあれども対処は可能」

 

「デコイを設置します!あ、あまり時間は稼げないので……先生!次はどうしますか!!」

 

「《…コハル、『セイなる手榴弾』をマーキングポイントに》」

 

「……ま、待って先生!あそこだと、範囲が…!」

 

「《大丈夫、届くよ。届かせるさ》」

 

「………信じる、から…!!」

 

ヒフミが展開したペロロ人形がウソーノ・ウラギールの素手で引き裂かれると同時――コハルの手榴弾がウソーノ・ウラギールと補習授業部のちょうど間に投げ込まれる。

 

――味方を癒し、敵を傷付ける手榴弾。

 

使い手に左右されずに有能なそれだが、先生の指示した場所では誰も爆発範囲に入っていない。目眩しにしかならない筈だったが――『セイなる手榴弾』に『青』が付与される。

生徒を飛躍的に強化し、神秘を解放する先生の権能。それはコハルの手榴弾すらも含まれていた。

 

本来以上の範囲の爆発がウソーノ・ウラギールの身体を微かに灼き、補習授業部を癒す。

 

「……ほう」

 

「っ!回復、ありがとうございます!!」

 

「――面白い。では、次は接近戦と往こうか」

 

「《アズサ!構えて!!皆は連射で、あの子の移動範囲を絞って!接近まで三、二、一……!!》」

 

三人からの集中砲火を左右へのステップで避け、然し先生の指示によって弾幕を張ることにシフトをチェンジした刹那、ウソーノ・ウラギールは口元に笑みを浮かべて先生の思惑に乗る事を決める。

 

正面を弾幕で潰されたウソーノ・ウラギールが取れる進路方向は三つ。

先生以外が認識出来ない程のスピードで左右のどちらかに避けつつ突っ込むか、跳躍して空中から向かうか。一秒にも満たない思考の末、最短距離を選ぶことにした。

 

「《上から来るよ!気を付けて!!》」

 

「……そのセリフをまともに使ってるところ、初めて見たなぁ……」

 

誰にも届かない呟きを残し、ウソーノ・ウラギールは弾幕を越えた高所から肉銃で直接殴り掛かる。標的にされたアズサは愛銃のEt Omnia Vanitasを斜めに構え、衝撃を逸らしつつ同時に接近して硬直状態を作り上げた。

 

ぶつかる程までに顔を近付け、アズサは目の前の子供にしか聞こえないように小声で話しかける。

 

「ぐっ…!懐かしいな、き……ウソーノ・ウラギール。あの頃は確か…互角だったよ。いや、ギリギリ私が勝ち越してた。うん、お姉ちゃんだから」

 

「……ククッ、人違いじゃないか?初めましてだろう、白州アズサ」

 

「ああ、そうに違いない。でも……今回は勝つよ、()()が望むなら」

 

「是非もない――きて、アズ」

 

数センチに迫った顔を離し、僅かな距離を置く。ウソーノ・ウラギールの銃が音を立てて脈動し、アズサの『Et Omnia Vanitas』をコピーする。

準備が整うと同時に互いの銃先を交差させ、型にはまった模範的な近距離戦の構えをした。身長の差によって多少は異なるが、しかし同様の構えである事には違いない。

 

先生のサポートによってアズサの目の『青』がより強くなる。他の介入を許さない二人だけの空間、その中で青く、青く、青く――強大な灰色に立ち向かう『青』はアズサに全てを託すように強く光る。

 

――同じ銃、同じ構え。

 

片や先生からの全力のサポートを受け、片や他の追随を許さない莫大な経験と神秘を携えて――始まった。

 

「ハッ!!」

 

「……フッ」

 

初動はアズサだった。

 

銃の側面に手を当て、左手を軸に中心を捉えた突きを放つ。だがウソーノ・ウラギールは()()()を潰す為に銃先で僅かにアズサの銃身を弾いて逸らし、中心から逸れた突きはウソーノ・ウラギールの脇を通過する。

 

崩れた体勢、すかさず脇腹へ膝蹴りを入れるが、アズサが敢えて横に倒れることで威力を軽減させる。派手に転がり稼いだ距離、立て直しと同時に威嚇を込めた数発を放ちながら再度突撃した。

再び交差する銃、然し次はアズサが地面スレスレに身を低くして脚で相手の銃を空中へ蹴り上げる。

 

僅かにウソーノ・ウラギールの重心が後方へと傾く。それを好機と捉え、押し倒そうと腰に飛び付こうと構え――

 

「隙、あり……ッ!!」

 

「残念、()()()だよ」

 

「なっ……ガハッ…!」

 

蹴り飛ばされた銃――完全に飛ぶ刹那、悠々と負い紐を左手で掴み、遠心力の勢いに任せてウソーノ・ウラギールはアズサへ銃を叩き付ける。

 

ミシリ、と肩にのしかかる痛み。顔を顰めるが、多少の傷は最初から覚悟していた。

 

きっと、単なる強がりでもあったのだろう。自称でも姉なのだから、格好悪い姿なんて見せられない。

もう死んだと思っていた大切な人に、また逢えた。そんな相手が自分たちに何を求めているのかは分からない――が、たった一つ。今この場において、()()()()事を望んでいる。

 

「だったら……負け、られない…!!」

 

「っ!」

 

両腕を伸ばしてウソーノ・ウラギールの襟を掴み――

 

「ハァァァァァァッッ!!」

 

「な…ッ!?ぐっ……うっ」

 

「ッッ〜〜!!」

 

――ゴォンッッッ!!、と。

 

黒い能面に向けての()()()

 

体育館の空気が揺れる程の頭突きは、内に響いてウソーノ・ウラギールへと直接的なダメージを与えた。互いにフラつき、やむなく距離が出来る。

 

一筋の血がアズサの額から流れ、白黒に点滅する視界を片手で覆う。それでも相手から視線を逸らすまいと空いた片目で睨み付け――僅かに、黒い能面に罅が入っていることを確認する。

 

「《アズサ!コハル、回復を!!》」

 

「う、うん…!!」

 

先生の指示に合わせてコハルが手榴弾を投げ、アズサに癒しを齎す。血は止まらないが心做しか痛みは薄くなる。

対してコハルの手榴弾の範囲に入っていたウソーノ・ウラギールはその場から動かず、顎を――否、仮面の下から滴る流血を指で拭う。

 

「…なるほど……」

 

「…コハル、ありがとう……ウソーノ・ウラギール。続きを――」

 

「いや、いい。もう大体は把握したさ。今宵は此方の負けだ……いやはや、見事に想像を超えてくれたと思うよ。この世界(ここ)に来て初めて、先生――貴女に期待できそうだ」

 

「……私だけの力じゃないよ」

 

「当然だとも。もし貴方一人で、それこそ大人のカード(反則)を使おうものなら……いや、止めておこう。結果が全てだろう?是非、これからも精進してくれ」

 

仰々しく、だがそう振る舞うだけの実力を見せても尚底が見えない生徒。もう戦う様子もないらしく、平然と背を向けて歩いているのは余裕でもあり信頼も含まれているのだろう。

 

僅かに空気が弛緩する。

 

「……あ」

 

立ち去る仕草をしていたウソーノ・ウラギールは思い出したかのように小さく声を上げる。そして相変わらず背は向けたままにステージ上へ腕ごと人差し指を向けた。

 

「最後に、見事に勝利した先生へプレゼントだ」

 

「プレゼント…?」

 

「ステージの上、演説台にカメラがある。事の顛末を全て映したカメラ……上手く使うと良い」

 

「……そうさせてもらうよ」

 

斯くしてククッ、と薄気味悪い笑いを残したウソーノ・ウラギールは夜の闇に紛れる事はなく、朝日に照らされながら悠々と体育館を後にした。

 

やがてシスターフッドが駆け付けて聖園ミカとアリウスの生徒を捕縛するのに、そう時間は掛からなかった。

 






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