シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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蛇と触手と粉バナナ

 

《――指定範囲に攻撃がくる。ポイント、可視化させるよ》

 

アビドス砂漠。

 

落ち着いた声がヘイローを通じて少女達へ届く。瞬間、一人の大人が展開する青い世界にて、敵意と悪意を具現化させたような"赤"が、明確な範囲をもって可視化された。

それは岩すら溶かす程の光線であり、敵対者を薙ぎ払う暴力の奔流、その予想範囲だ。

 

シッテムの箱の権能はアビドス砂漠に巣食う巨大な怪物――鉄蛇に酷似した其れの予備動作を演算して高度な予測を立てる。提示された情報の嵐を先生は頭で整理し、最適解を導き、背の低い一人の少女を強化する。

 

《ホシノ、お願い》

 

「はいは〜い、じゃあ皆集合〜!おじさんが盾になるね」

 

「ダレカちゃんの後ろも空いてるぜ?」

 

「ん、任せた」

 

桃色の長髪を靡かせ、オッドアイの少女が盾を展開する。同時に指揮外にある宇宙服の生徒は自己判断により先生と生徒の前に立ち塞がり、落ちていた鉄板を前に掲げる。

 

刹那、鉄の蛇――預言者と呼ばれる個体の一人であるビナーから光が瞬く。

 

――一秒、二秒、三秒。

 

砂を抉り蜃気楼の如く空気を歪ませる熱はホシノと宇宙服の生徒を襲い続ける。

 

「熱っついわボケぇ!誰を撃ってる!粉バナナァ!!」

 

「……先生、ダレカちゃんが何か言ってるけど」

 

《セリカ、ダレカちゃんはきっと君に言ってるんだよ。構ってあげてね》

 

「疲れるからイヤ。前なんか屋上で強制拘束お昼寝をさせられたし……」

 

「わぁ☆モテモテですねぇ、セリカちゃん♪」

 

「………うへぇ、みんな緊張感持とうねー?おじさんはもうヘトヘトだよぉ……ふあぁ、眠いよぉ……帰りたいよぉ……」

 

《ホシノ先輩もですっ!……先生、攻撃の出力が徐々に収まっています。次はどうしますか?》

 

――遙か頭上、ビナーの攻撃の余波が届かない位置にあるヘリコプターよりアヤネは戦況を俯瞰する。

 

指示があれば物資を投下する。先生の目が届かない場所にもドローンを飛ばし、先生の視点を広げる。アヤネの本分は仲間のサポートであり、戦略的指揮を担う先生の選択肢を広げる事だ。

 

彼女の視点を借り、先生は改めてシッテムの箱に意識を向ける。

深く、深く、深く――空よりも澄んだ青い世界が存在する空間、先生のもう一人の相棒が勇ましく頷く。それを皮切りに先生はより一層、シッテムの箱とのリンクを意識する。

 

何が最善か。果たして、何をするべきなのか。一秒にも満たない思考の末、やはり視線を向けてしまうのは一番信頼している宇宙服の生徒だった。

 

《――っ、ふぅ……ダレカちゃん、二秒……いけるよね》

 

「舐めんな、余裕だっつーの。センセこそぶっ倒れんなよ?」

 

《問題ないさ、きっと。………ホシノ、任せても良いかい?》

 

「人使いが荒いなぁ、二人とも。でも、仕方ないから任されてあげよ〜!」

 

「《――じゃあ、始めようか!!》」

 

ホシノが盾を薙ぎ、弱まった光線を弾く。

 

同時、シロコとセリカが左右に別れて執拗にビナーの眼部を狙い撃ち、正面からはノノミが全弾を消費する勢いでミニガンの乱れ撃ちを始める。

巨体を旋回して局所へのダメージは遮られるが、名目上の時間稼ぎは成功していると言えるだろう。

 

「《………………》」

 

桃色の少女に守られる先生と宇宙服の生徒は目を閉じ、青い世界に灰色が混ざる。二色の共存は敵にも味方にも可視が叶わない神秘的な世界だ。

 

ドクン、ドクン、と鳴る二つの鼓動。

 

やがて鼓動の感覚が短くなり――()()()

 

"――――ッ!………――――"

 

鉄の蛇は硬い身体で何かを察知する。其れは埒外のナニカ、顕現するように、或いは誕生したように。

自分の存在を脅かすナニカであった。排除することは可能なのだろう、だが()()不可能。アビドス砂漠の地下に巣食い勢力を増加させ続ける異界の異形と同様の存在だ。

 

故に――()退()を選んだ。

 

無論、過剰なまでに演算を繰り返して擬似的な未来視に似た芸当を可能とさせたオーパーツは、それすら()()していた。

 

《ただで逃がすとでも――やって、ダレカちゃん》

 

「最大チャージ、出力全開――《カルぺ・ディエム》!!」

 

"――――ッ!?――、――――――!!"

 

全てを滅ぼす灰の極光は、砂嵐を巻き起こして地面に潜る鉄蛇の身体を大きく抉り消す。

 

小さな銃口から放たれる神秘は巨大な機械の抵抗すら無駄に帰した。並ぶ者すら許さない一撃は進行方向の砂竜巻すら消滅させ――空に小さな穴を開けた。

確かな手応えと同時、宇宙服の生徒は敵対者が自分の一部を犠牲にしてまで姿を消した事実に気が付き、白けたように首を鳴らした。

 

「あらら……ふふっ、逃げちゃいましたね♤」

 

《………目標、逃亡………指揮を終了するよ》

 

「センセ、コンマ一秒遅い。だから逃げられたんだよ粉バナナァ!!」

 

「だって仕方ないじゃん!?砂がめちゃくちゃ目に入るし、そもそも宝探しに来たらアレに遭遇するなんて予想外もいい所だよ!?」

 

「言い訳ですかぁ!?大人がァ!生徒にィ!!言い訳なんですかァ!?ムフフなフォルダに『発電について』なんて名前を付ける大人は言うことが違うぜなァ!!」

 

「か、勝手に人のパソコンを漁らないでって言ってるよね!?」

 

「……発電?先生、何かの隠語?」

 

「そだよ、シロコさん。淫語だね」

 

「うへぇ…若者は元気だね。私はもうヘトヘトかなぁ……セリカちゃん、おんぶして〜!」

 

「え、嫌だけど」

 

「じゃあダレカちゃんの抱き枕になって?」

 

「暑苦しいから嫌」

 

「「ぴえん」」

 

《……ホシノ先輩、あとダレカちゃんも……ぴえんって古いですよ…?》

 

「……ふぁ?」

 

「………えっ?ま、まじ卍…?」

 

「先輩、まじ卍も死語だよ」

 

「…………世界は回ってるんだね、おじさんとダレカちゃんを置いて……」

 

「しれっと巻き込まれた件について」

 

風音が砂を擦り、少女達の声が静まってすぐの砂漠に吸い込まれる。

やっと慣れてきた集中指揮の疲労に溜息をこぼし、大人は現状について振り返った。

 

◆◆◆

 

事の始まりは昨日、やっとトリニティでの出来事が落ち着いた頃だった。

 

退院し、業務に復帰した先生はトリニティ各派閥の生徒と話し合い、今後の方針をまとめ。先生個人でもナギサやミカとも話した。

誰もが想いを秘め――秘め続けていたから起きた、悲しいすれ違い。導く者が居なくて発展してしまった事件に心を痛め、今後の再発を防ぐ為にも先生に出来ることは多い。

 

その始まりが、きっとエデン条約なのだ。

 

だが調印式までは日が空いている。空いているのであれば、他の仕事をするしかない――筈、だったのだが。

 

「………終わってる…?」

 

久々にシャーレビルのオフィスに立ち入り、溜まっていた筈の業務が殆どが片付いている現状。

寝ている間に妖精さんがやってくれた、なんて事は無い。ならば必然、他にやってくれる生徒を先生は知っていた。

 

「ダレカちゃんがやったのかい?」

 

「もち。グへへ、優秀ダレカちゃんですまんねぇ。褒めて褒めて?具体的には非の打ち所のない優秀な頭脳と他人には到底再現する叶わない超完璧秘書としてのスマートな仕事っぷりを褒めちぎって?」

 

「………私、いらない子だった…?」

 

「くひっ♡」

 

「否定して!?泣きながら縋ってとは言わないけど、せめて米粒程度に小さいフォローをしてくれでいいよね!?」

 

「うっせぇ声がデケェ!!ぶち殺すぞ!陸八魔アルを!!」

 

「えぇ…アルが君に何をしたのさ……」

 

「可愛すぎて罪」

 

「ならしょうがないかぁ……」

 

ラジカセで謎の軽快な、それでいて聞き慣れたBGMを流すダレカちゃんを横目に、先生は久方振りな自分の椅子に腰を下ろした。

 

パソコンを起動させるが、特に理由もない。メール自体はタブレット端末であるシッテムの箱にも届くので入院中にも確認している。

予定も、数日後の休日にレッドウィンターに出来たと噂の温泉に赴く程度で、事実を陳列するのであれば今日明日は暇なのだ。

 

「……み、見回りにでも行こうかな?」

 

「昼間っからお散歩とは良いご身分で」

 

「ひ、久々にシャーレの大掃除でも――」

 

「昨日、アカネさんが来てめっちゃ掃除して行ったよ。みてみて、ダレカちゃんの宇宙服!ヘルメット部分がめっちゃ磨かれたんよな。ピカピカ☆ダレカちゃんでちゅ、略してピカチュ――」

 

「それ以上はいけない。……て言うかキミまで綺麗にされてるじゃないか……じゃあいっそ、今日を休養日にするのはどうだろう?」

 

「別にダレカちゃん的には構わないけど、暇ならひつまぶしを提供しましょか?」

 

「ひつまぶし?」

 

「あ、かみまみた。暇潰しね」

 

覆われたように幅のある人差し指を立て、宇宙服の生徒は相も変わらずボイスチェンジャーを介した無機質で淡々とした声で告げる。

 

()()()()()()()()()()、セン公」

 

◆◆◆

 

「――それで宝探しに来たわけだけど……まさかビナーが出てくるとはね」

 

スーツの白い袖で額の汗を拭う。

 

――ダレカちゃんの、()()()()()()()()。以前の十秒間よりも疲労は軽く、同時に先生の成長でもあるのだろう。まだ動ける。そしてもし、また十秒の指揮をしたとしても先生は倒れないだろう。

 

「んー、ここはハズレかな〜」

 

先生の胸内を知らずか、形骸化した建物を後にしてホシノは呟いた。過去のアビドスの遺産、繁栄していた頃の公民館だ。

元は他の建物と同様に砂に埋もれていたが、ビナーとの戦闘によって掘り出されたのだ。

 

そも、アビドス砂漠と呼ばれる土地には元を辿れば住宅街や校舎等があった場所も含まれており、海底に沈む過去の都市のように、形骸化しようとも形だけは砂に呑まれながらも残っていた。

 

――寂れた公民館。

 

せめて売りに出せる骨董品か金庫でもあれば良かったのだが、既に持ち出された後だった。過去のアビドス住民が持ち去ったのか、屯い、荒らしに来た不良が盗んで行ったのか。

 

理由なんて考えるだけ無駄なのだろう。高価な物は残されていない、それだけが重要なのだ。

 

「うーん、この辺はあまり探索したこと無かったんだけどね」

 

「……ホシノ先輩も宝探しした事があるの?」

 

「うへへ、そりゃあシロコちゃん。おじさんだって昔は若かったから、あっちこっちを走り回ったモノだよ。先輩とスクール水着で砂漠を掘り進めたり、チビな後輩と廃墟探索ツアー的な宝探しをしたモンだよ」

 

「へぇー。……………えっ、何で砂漠でスクール水着なの!?」

 

「若さ、だったのかな」

 

懐かしむ様に、或いは戻れない後悔を懐古するように。切ない微笑みはホシノをいつも以上に幼く見せ、然しその意味を理解しているのは本人を含まずとも二人だけなのだろう。

 

先輩の珍しい表情に疑問符が生じたのか、アヤネは控えめに手を挙げた。

 

「……あの…ホシノ先輩、少し気になったのですが…」

 

「うん?どしたのアヤネちゃん?」

 

「さっき言っていた()()ってシロコ先輩かノノミ先輩ですか?」

 

――()()()()()、とホシノは言った。

 

その物言いに違和感を抱いたのはアヤネだけではないだろう。普段から口調が柔らかく、もし後輩の誰かがホシノよりも低身長であったとしても、彼女は敢えて『チビ』と言うことはないだろう。

今の小鳥遊ホシノとは違う、少し幼い表情の彼女。そんな彼女が言葉にしたからこそ、アヤネはホシノと『後輩』の昔話に興味が湧いたのだ。

 

「ッ……」

 

指摘されたホシノは双眸の奥を僅かに開き、察せられない程度に宇宙服の生徒へ一瞬だけ視線を向けた。そして――首を横に振る。

 

「………ううん、違うよ。今は遠くで暮らしてる、昔の後輩。私の青春の半分を占めるちびっ子だよ」

 

「…先輩、それってさ……その後輩もアビドスを捨てて他の学園に行ったってこと?……いや、別に責めたりしてるワケじゃないけどさ…」

 

「うへぇ…セリカちゃんってば地元愛がすんごいんだねぇ〜。可愛いなぁ。…でも、違う……私がね、あの子をアビドスから追いだ――」

 

「皆々様ぁ〜!そんな事より!!地下室見つけたぜこんにゃろぉぉーー!!褒めろやこんにゃろーー!!具体的には寂れた公民館から地下室を見つけ出す神がかった観察力とついでに宇宙服に秘められたキヴォトス一番のビジュアルを褒め散らかせやこんにゃろーーッッ!!」

 

「うぎゃあ!?み、耳元で叫ばないで!?」

 

「ふっ…無自覚でセンセを倒してしまったか……明日も明後日も雑魚いよね☆セン太郎!」

 

「へけっ!!………って何言わせるの!」

 

ホシノの言葉を掻き消した張本人が指す先には()()()()があった。

 

公民館の入口付近、ソファをズラした場所に隠された階段。()()()()()()という事実にセリカとシロコは心を踊らせる。

ゲームなどで定番である宝の隠し場所だ。借金返済の為に『宝探し』をしているのは、遊びではない。過去に栄えていたアビドス、キヴォトスでも随一の規模を誇っていたアビドス高校。

 

今は廃れていても過去に栄えていた実績があるのだから、手付かずで砂に埋もれていた場所には相応の価値がある何かが眠っていてもおかしくない。

 

宇宙服の生徒が見つけた地下にはそれだけの期待が向けられていた。

 

◆◆◆

 

「薄暗い……みんな、足元には気を付けてね」

 

足音をライトで照らし、先生は目を凝らした。

 

地下なのに砂が入り込んでいる。入口こそ建物内だったが、規模が建物以上に広い。そも、建物とは別方向に広がる空間は、地下室などではなくて地下洞窟なのだろう。

 

砂があるということは、幾つも外へ繋がった穴がある証拠だ。

 

「うーん、これって……秘密経路かな?砂とか日光を避けて何かを運んだりとか、今はブラックマーケットで扱ってるモノとか……そーゆーモノを運ぶ経路っぽいね。うひゃー、闇に葬られた暗い歴史だね〜」

 

「確かに……悲しいですが、過去のアビドスにはそのような面もあったのでしょうね……」

 

簡素なケーブルランプや雑に整備された地面は、工事現場を思わせる。表立って公開していた経路ではないのだろう。

 

懐中電灯を持ったシロコと宇宙服の面部分を光らせる生徒を先頭に探索を進めるが、想像していた宝や価値のありそうな鉱石もない。

先程のビナーとの戦闘でも崩れていないのだから、かなり頑丈ではあるらしいが。

 

 

 

 

 

半刻が経ち、唐突に先頭を歩いていたシロコが止まる。

 

「……ん、止まって。()()()()

 

耳をピクリと震わせる。身体的特徴にそぐわぬ聴覚で、シロコは異常を察知した。

 

ぬちゃり、ぬちゃり。粘性を帯びる何かが引き摺られる音に呻き声。生物的でありながらも冒涜的、精神に根付く恐怖心を刺激される。

 

 

「ァ……ヤ、ダ……タスケ……」

 

 

「なっ…!」

 

「……………」

 

其れは人型のナニカだった。

 

虚ろに彷徨い、先生へ手を伸ばす異形。

 

紺色のスカートに、破れて血の滲む黒いジャージ。後頭部は赤いフルフェイスヘルメットで覆われており――目を守るべきシールドの部分からは()()()()()()()が貫通している。

灰色の其れは蠢き、宿主を締め付ける。微かな腐臭に顔を歪め、だが先生には目の前の其れが『生徒』に見えて。伸ばされる右腕に応じようとして――

 

「――カルぺ・ディエム」

 

「っ!?だ、ダレカちゃん!?みんなも……ッ!?」

 

「下がってください!先生!!」

 

「違う……先生、アレは…あんなのは『生徒』じゃない……!!」

 

横から零れる灰色の極光が『生徒』に酷似した其れを飲み込み、消滅させた。

 

気が付けば目の前には脂汗を滲ませるホシノが盾を構えて先生を護り、両腕はシロコとアヤネに堅く掴まれている。

セリカとノノミもダレカちゃんと同様に戦闘態勢を保ち続けており、やはり表情には耐え難い恐怖と困惑が在った。

 

灰光に残された二つの脚は無抵抗に倒れ――脈動する。宿主を探して立ち上がろうとした刹那、再び放たれた死の光に完全に呑み込まれた。

 

「………チッ、予想外だな……ホシノさん、みんなを連れて先に脱出してくれる?ちょいと害虫駆除のお仕事が生えて来まして」

 

「…キミは残るつもりなの?」

 

「当然ッスわ。だって………ゴキブリを一匹見つけたら、後はわかるでしょうに」

 

「まだ何体も居る、ということですか…?」

 

震える声でアヤネが問うが、答えは帰ってこない。ただただ耳を犯す、触腕の擦れる粘着質な音。それが先程の化け物の置き土産なのか、それともこの空間にはまだまだ其れが存在しているのか。

 

急かす様に、宇宙服の生徒は呆然とする先生の背中を蹴る。

 

「何ボーッとしてんの?()()。早く地上に戻れ、センセ」

 

「っ!」

 

「……行こう、先生。私たちは足でまとい……居るべき、じゃない……」

 

珍しくも弱気なシロコに手を引かれ、先生はやっと状況の異常性と危険性を理解する。しかし依然、全てを把握したとは言い難い。

この場で、ダレカちゃんに背中を預けて地上に戻るのが最善なのだろう。それでも正体不明の相手に対してダレカちゃんが優位であるとは断言できない。

 

信用と依存は違う。先生は宇宙服の生徒を信頼しているが、盲目視をして全てを任せようとは思わないのだ。

 

「ま、待って!さっきの何なの!?し、死んだんじゃないの!?なんでダレカちゃんだけが残るって話になってるワケ!?」

 

「セリカさん……帰ったら、結婚しよう」

 

「こんな時に死亡フラグ立てるなぁぁー!!」

 

「あ、セリカさんの肩にさっきの肉片が――」

 

「きゃあああぁぁ!?」

 

「嘘だけど――ちょっ、撃たないで?粉バナナァ!!」

 

「……ダレカちゃん。私たちは……足でまといですか?」

 

「ごめんだけど、そやね。別にノノミさん達が弱いってワケじゃなくてね?アレだね、()()()()()()()()()とか……そーゆータイプのハナシ」

 

「えっと…?」

 

「あー、()()()の話っす。ま、簡単に言っちまえば……出来の悪いクロスオーバーは無粋だから、手早く素早くお片付けしましょってコト。つーか、セン公。いつまで呆けてんだよ鬱陶しい……態々デスクに置いてる、表紙を偽的似非六法全書と入れ替えた褐色年下サキュバスのエロ本を無視してやってんだ。はよ片付けないとリンさんに報告するぞ」

 

「な…な、なんでバレてるの!?」

 

「ダレカちゃん的に、あまり全身を舐めるタイプのえっ本は趣味じゃないなぁ……猫耳ちゃんとイチャイチャが嗜好、ツンデレなら神、だが乳は盛るな!お椀型のCが最強だって五輪書にも書いてたもん」

 

「………こんな時に言うのもアレだけど、先生もダレカちゃんもさ。そろそろ怒られた方がいいんじやないかな〜?」

 

「なんで私まで…………えっ?アロナ…?………また、何かが近付いて来てる…!」

 

一瞬、先生の持つシッテムの箱の画面から光が漏れる。

 

先生へ危機を伝え、言葉にし――同時に宇宙服の生徒の持つグロック26(メメント・モリ)から発砲された。

暗闇の先で何かが被弾、それ以上の何かが群れを成して前方から襲い来る。最初に悲鳴を上げたのは誰だったのか、もう聞き分けが叶わない程までに、精神を狂わせる異形の群れは先生と対策委員会に恐怖を与えていた。

 

「――行け、センセ!」

 

「でも……ッ!〜〜〜ッ!!……必ず、無事に帰ってきなさい」

 

「当然。ちな牛蒡の花言葉は『人格者』だぜ!まるでダレカちゃんなのだぜ!!ドヤァ!!」

 

「変なギャグ、言ってる場合じゃない……!」

 

「え、ギャグ…?シロコさん、シロコさん……真顔で急に刺してくるやん?いや、マジで別にふざけてたワケじゃないんやけど……ぴえん五式・花鳥風月《(あらため)》」

 

しくしくと泣きながら灰光を連発する生徒を置いて、先生とアビドス生徒は走り出した。今この場では足でまといでも、先生は遠距離での指揮が可能だ。

 

ならば、対策委員会の役目は異形の手が届かない地上まで先生を送り届ける事だ。力の及ばない事に拳を握り、只々振り向かずに走った――()()()()()()

 

「…………さーて、手早くやっちゃおう!」

 

「や、なに普通に残ってんの?ホシノさん」

 

「うん?いやー、後輩を守るのがおじさんの役目かなってね。足腰痛いけど、頑張っちゃうよ〜!」

 

「耄碌おじさん、後輩ならさっき走り去ったぜ?はよ追い掛けて守ってあげて、やくめでしょ」

 

「あの子たちなら大丈夫。強いもん……それに、キミが……()()()()()が怖くて泣かないかなって不安だからさ」

 

「っ!…………性格悪い、昔からずっと」

 

「うへ、同感だよ」

 

「……………」

 

「……………」

 

「………着いて来れなかったら、おいていく」

 

「そっちこそ。安心してよ、()()()()()()からさ」

 

「上等……!」

 

変わっても、変わらないものがあった。

 

頬を綻ばせる。宇宙服を脱ぎ捨てる生徒もまた同様に、その無表情を見慣れている者にしか分からない程度に頬を緩ませた。

互いに拳をぶつけ、小さなふたつの影が()()()。二体の異形を蹴飛ばすのを皮切りに――

 

 

――()()が始まった。

 





ちなみに牛蒡(ごぼう)の花言葉には色々とあります。だからこそ、ダレカちゃんにはピッタリですね。
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