――拝啓、観測者の皆々様方。
暑い季節で御座いますね。いえ、其方は寒いのでしょうか?観測するタイミングにもよりますが、どうぞ暑さにも寒さにも負けずに生きましょうね。でもダレカちゃんの宇宙服は暑さにも寒さにも激強だよ。
さて、です。
此方は暑い暑い夏、それもアビドス高校の教室におります。ダレカちゃんの場合は超高性能宇宙服の内部にあるクーラーのおかげで涼しいですが、クーラーの付かない教室にいるセンセ共々は汗かいてヒーコラ言っておりますね。
そんな中、ダレカちゃんはダレカちゃんは――
「――さて、どうしてダレカちゃんは縛られてんの?」
「………ねぇ?どうして私まで一緒のロープに縛られてるの?」
「えっとですねぇ……セリカちゃんを巻き込むと、ダレカちゃんが抵抗せずに捕まってくれるからです♤」
「うんうん、仕方ないね」
「ノノミ先輩!?先生も!!」
セリカさん共々、縄でぐるぐる巻きにされてます。残念ながらダレカちゃんは束縛プレイに興味が無いんだけどね?
でも合法的にセリカさんにくっ付けるから役得役得♪……は?そもそも実年齢的には無邪気に抱き着いても無罪なんだが?むしろ容姿端麗のダレカちゃんにセリカさんが抱き着いてくる筈さね。結婚しよっ♡
さて、現状ですが。
ダレカちゃんとセリカさんが簀巻きにされてて、他のメンツは椅子に座って碇司令ばりに両手を組んでます。見下ろされてるとき、こちらも見下ろされてるんやね。
「さーて、じゃあダレカちゃんの尋問を始めよ〜」
楽しそうに言いやがるぜ……こっちは奥義(笑)を使って疲れてるのにさぁ。なお、目は笑ってませんね。怖いホシノさん、ホシノさん怖い。略してコシノさん。
「ホシノさん……エ駄死っす。それはちょっとねぇ、世間は許してくrえゃすぇんよ」
「えだし?……アヤネちゃん、念の為にメモっといて。何かの隠語かもしれないからね」
「はいっ、任せてください」
任されないでください系生徒『任されないでください』定期。
「エ駄死を"淫語"にされたコハルさんに謝ってもろうて。ちな意味は七大罪の一つである色欲……それに溺れた惰弱者への厳しい人格否定と、無期懲役ないし死刑宣告をする行為の事だよ」
「ん、仰々しいね…」
「ね〜」
クククッ……うん、間違ってはない()
敢えて言うなら、死刑宣告に対して法的には何の権限も付与されていないんよな。本人が騒いでるだけだから、萌えるし愛らしいし可愛いし抱き締めたいよね。
荒縄をミシミシと鳴らしている最中、パイプ椅子に座ってるホシノさんがコップを机に置いてコンッと音を鳴らす。
「――改めて尋問するよ。最初の質問……ダレカちゃん、さっきの
「悪魔超人かよ。てかデーモンの召喚かよ。つーかカピバラに似てるよね、ホシノさん。温泉でボケーッてしてて欲しい」
「うーん、会話のドッチボールかな?」
「寧ろ無言を貫いて私を解放してよ……切実に。あっ、でもダレカちゃんの宇宙服、ヒンヤリしてて気持ちいいかも……やっぱりもう少しだけ放置しててもいいよ」
「こっちは会話のゴルフかな?挟まる暇もなく
……ホシノさんの言う
えへへ♡アレの正体は異界から来た、ダレカちゃんの中身である"彼岸キミ"が喰らって排出した生物!成れ果て!!ちな先生が護るべき生徒も沢山含まれてるぜ!!
本来なら全部が触手の化け物の見た目――詰まる所、キミ*テラーとそっくりな外見の筈だけど!彼岸キミが同じ時間軸に二人もいることでイレギュラーが起きてまして!!元の生物の形と記憶と理性の欠片を残したままだよ!!
それを殺しまくって、この後には皆殺しにするのが先生の秘書であるダレカちゃんなんだぜ!!
………………なんて言えるか?
自分で蒔いた種は自分で片付ける。生涯、決して。先生に対してダレカちゃんのことを話す事はない。絶対に。心境の変化とか説得されるだとか、そーゆーのに染まるには長い時間を過ごしすぎた。
「我儘な子猫ちゃんだぜ……ま、話してしんぜよう!」
「っ!は、話してくれるのかい…?」
「あたぼうよ先生!聞かれれば答えるし聞かれなければ一生答えないってのがダレカちゃんの信条やよ。だから言おう、セリカさん愛してるぜー!!」
「そういうのいいから」
「セリカちゃんの愛が冷たいぜ……ま、端的に言いましょう。
「「「ッ!!??」」」
「この宇宙服は……ダレカちゃんの体質上、キヴォトスの外気に触れたら発火して死ぬからだよ。だから勘弁ね?」
「え、な……なんだってぇぇぇぇ!?」
「えぇ……先生、信じるんだ……あー、アヤネちゃん?これはメモしないでもイイよ。うんうん、ホントホント」
「ホシノさんシャラップ!………シュクレイド旧・第
「そっか……そう、だったんだね…!ダレカちゃん、私に出来ることはあるかい?」
「……ん、私も協力する。私もキヴォトスを守りたい」
「や、あまり周知させたくないんだ………勘違いしないでくれよ。ダレカちゃんは孤独じゃあないんだ…皆がいる、だから戦える…ふへへ、照れ臭ぇよ」
「だ、ダレカちゃん…!!」
ダレカちゃんとセンセはヒシリと抱き合った。荒縄はちぎりました、強いんので。てか強いので。ケッ、チョロいもんだぜ!
つーか宇宙服が伏線だったのかぁ……これにはダレカちゃんの目も欺かれたわ。つまり全員が騙されたね、世紀の詐欺師やね、まさにトリックスターだね。
は?つーか自分すら騙すトリックスターとは?詐欺師って自己暗示も使えるのかな……つまり詐欺師は超能力だったのか…?詐欺師しゅごい…!だからダレカちゃんすんごい。褒め讃えたまえし。
「まさか…ダレカちゃんは宇宙出身だったんですね」
「や、やっぱり宇宙生物だったんだ……えっ、私って宇宙生物に好かれてるの?」
「後輩達が純粋無垢で嬉しいなぁ……」
「アギ、ボドルルーウェ、ゴンワン……失敬、母星語が出てしまったよ。どうにも、この星の言語は難しくてね」
「急に詰め込んで来るじゃん?え、今まで普通に話してたのに無理があるよね?だからシロコちゃん、観察日記は書かないでね。さっきのは意味の無い文字の羅列でしかないから」
…………一応言っとくけど。
この人達がバカなんじゃないよ?ちょいと飲み物に、
不思議とホシノさんには効果薄めだけど、キヴォトス基準でお強い生徒って抗体までお強いから、しゃーない。
さて。さてさてサテライト。
みなさぁん!バレなきゃ犯罪じゃないんすよォ!おーわーかりぃ!?サイレースを常飲しているダレカちゃんが言うんだからモーマンタイっす。
「んじゃ、そーゆーわけで!今日は疲れたし解散せぇへん?」
「うん?……そうだね、疲れたから…そうしようかな」
「………そーだね。それじゃあ解散解散、そしてダレカちゃんはおじさんのお家で
「ふぁ?」
ふぁ?
◆◆◆◆
「……………」
ダレカちゃんがホシノに連れて行かれて、私は一人になった。
――空いた教室。
人目が無いことを確認。淡く画面が光った端末に視線を向けて、青い教室の世界に意識を移す。時間の概念が薄い世界、アロナと私だけが存在する教室。
画面を覗くと同時、波音が鼓膜を揺らす。青く青く、深く深く。透き通るような世界が目の前に顕現していた。
『……先生、大丈夫ですか?』
立ち尽くす私を上目遣いで眺める女の子……シッテムの箱のメインOS、アロナ。ダレカちゃんを除けば私と常に一緒にいる、もう一人の相棒だ。
「うん、問題ないさ。飲み物には殆ど手を付けてない。アロナが警告してくれて助かったよ」
『いえいえ!先生を守ってサポートするのが私の役目なので!!ふっふっふっ、でもでも…頭を撫でてくれたって良いんですよ?』
「もちろん。可愛いなぁ、私の相棒は!」
ワシワシ、と髪型が崩れるのも気にせずに頭を撫で散らかす。色と形が絶えず変わり続けるヘイローからは喜びが感じられて、つい興が乗ってしまう。
――ついさっき、ダレカちゃんがホシノによって荒縄で縛られて尋問されている時。
唐突にシッテムの箱から信号が発せられ、私の視界にアロナのホログラムが映った。
その時に警告を受けた――飲み物に薬物反応がある、と。無論、毒物ではなかった。リラクゼーション効果、と言えば聞こえは良いけど。要するに思考を単調化させて判断能力を鈍くさせる類の物だった。
私にとってもリラクゼーション効果しか得られない程度のそれが、果たして私よりも身体の強いキヴォトスの住民にどれだけの効果があるのか。
アロナが断言した。ハーブティーを飲むに等しい程度の効果しかない。後は無意識な、それこそ多少気分が優れる程度の酩酊感。
薬物と言うには物々しい、だが確かな薬物であり、誰かの明確な意志を感じさせる物だ。
「……それで、アロナ。私以外であのスポーツドリンクを飲んでいない生徒は居たかな?」
『いえ、それが…
「――私を嵌めるため、だったりとか?」
『だ、断言は出来ませんよ!?その…客観的に見て、飲んでいないのが先生だけだった、という事実が……いえ!そもそも先生こそがターゲットだった可能性の方が高いですよ!!キヴォトスの生徒には効き目が薄くても、先生なら更に強い症状が出たかもですので!!』
アロナの鑑定も完全では無い。
薬を直接調べたのではなく、シロコやセリカ達の反応を観て記録を参照して……結論、判断能力が阻害されているとアロナは言っているんだ。
そもそもシッテムの箱に薬物を判定させるのは酷だと思う。明らかに用途外だ。
「……もしかしたら、ナギサがハーブティーを飲んでいる感覚に近いモノだったのかもね」
『飽くまでもリラックス効果が目当てだった誰かが用意した、と?あ、有り得ない話しではないですが……うーん?ううーん??わ、わかりません……』
「まあ、キヴォトスの常識はキヴォトスの住民の頑丈さに由来する事もあると思うし。それに、あの子たちの中に悪意を持ってる生徒は居ない。だから…今回の件については私からは何も言わないよ。……ダレカちゃんが宇宙隊員だって事も口外する気は無いからね」
『え?』
「うん?」
『え、えっと……?その、先生?もしかして本当にダレカちゃんさんが宇宙人だって信じてます…?』
「………ロマンだよ」
『え?』
「ロマンなんだよ!宇宙人はね?無限の可能性なんだ!未知の文明、異文化交流、かっこいい武器や乗り物!つまりロマン!!そうだ、帰ったらアロナにも見せてあげよう。実はキヴォトスの外だけじゃなくてキヴォトスでもUFOの目撃例があってだね、クロノス報道部から沢山の画像や映像が――」
『ひぇっ……せ、先生?目が怖いですよ…?』
喜びに震えるアロナを眼下に、現実へと戻る。早く帰ってアロナに宇宙コレクションを見せてあげよう。
――夜はまだまだこれからだ。
次回はお泊まり()です。エ駄死エ駄死。