メリークリスマス。クリスマスです、はい。今日はクリスマスなんです。
~懐古中~
「――■、てんさい。だからしってる……不良をボコすと、お金がてにはいる……むげん、に」
「………天才…!」
「ホシノちゃん!?」
三人しかいないアビドス生徒会(一人仮生徒)にて、幾度と重ねられた定例会議の一幕。
生徒会長の梔子ユメが上座に座り、焼いたパンの耳を片手に手書きで書類をまとめる。続いて左側に座る副会長小鳥遊ホシノはおもむろに携帯端末で現在指名手配中の生徒を調べ、右側でパンの耳を咥える彼岸キミは心做しか無表情ながらも胸を張っていた。
昼下がり、新たな生徒(仮)が加わったアビドス高校が日常となって久しく。今日の会議は金策についてだった。
現在、アビドスには数多の問題がある。学校の借金から始まり売買した土地の買い戻し、生徒の補填、今も続く砂漠化の解決ないし対策。
幾度と話し合い、やはりぶつかる先は同じ――お金が足りない。借金がある限りは生徒も増えない、学校の備品も古いままで、砂漠化対策にも手を回す余裕が無い。
「つまり……むげん、ざこがり。お金ウハウハ、借金パー。うへへのへ」
「あのね、キミくんちゃん…」
「……キミくんちゃん?えっ、ユメ先輩…キミのことそうやって呼んでるんですか…?」
「だって性別が分からないから…」
「キミじゃなければ失礼ですよ、普通に」
「………?」
「………話を戻すね?……キミくんちゃん、お金を理由にして暴力を振るうのは駄目だよ。一度でもそういう事を……誰かを傷付けて、泣かせて、たくさん恨まれて…それでお金を稼いだとしても、それは長くは続かないの。遺恨が残ればやっと築いた平和だって唐突に崩れちゃうかもしれないんだよ?」
「…………つまり…?」
「え、えっと……簡単に言いますと!誰も不幸にならない方法での金策をしようってこと!!ラブアンドピース、大事!」
「………ユメ、アホ……?」
「キミくんちゃんひどい!?」
「ユメ先輩はアホだよ…本当に」
「ホシノちゃんも!?も〜っ!二人揃うといっつも私をイジメるんだから!私、生徒会長なのに…」
彼女の思想は彼岸キミの過ごしてきた環境を思えば、実に嘆かわしい程までに平和ボケしているモノだった。
マダムの命令で何人も殺して、殺して、殺して。一つでも間違えば懲罰、また一つ感情を殺される。痛みに鈍感になったのはいつからだっただろうか。
最初に睡蓮スイを殺し、次に外とアリウスを繋ぐ経路の警備を怠った者を見せしめに殺し、外では姿も名前も知らない『大人』からの依頼で何人も殺し続け――
(………ころせば、ラクなのに……)
何も考えないのが楽で、最適解だった。
きっと、ユメやホシノが『借金を返済しろ』と命令してきたら。彼岸キミは容易くそれを成し得たのだろう。銀行を襲い、人を襲い、学園を襲い。
大金を稼ぐ手段は知っている。奪い、犯し、蹂躙するのみ。それが彼岸キミの見てきた景色で、実行してきた命令だ。
大金が必要ならば、そうすれば良いだけなのに。彼岸キミはチラリと視線を横に向け、桃色短髪の生徒を流し見る。自分よりも強い彼女ならば可能だろう。彼女ならば、手段を問わなければもっと自由に生きられるだろうに。
自由に生きられるのに窮屈を選ぶ。その
「………なに?」
「……なんでも、ない………ホシノ、へんなの」
「キミに言われたくない………何ですか、先輩。その変な目は…気味が悪い」
「……ふふっ、ホシノちゃんってばすっかりキミくんちゃんと仲良しだね。羨ましいなぁ〜、私も仲良くしたいなぁ〜」
「……………へい、カノジョー。ほてるできゅーけいせぇへん?えっどい、カラダやのぉ〜」
「ふぇっ!?」
「は?えっ……キミ、そんなの何処で覚えてきたの…!言って、ちょっとお話してくるから」
「???……ホシノ、持ってる……まんがで――」
「よし!この話はやめましょう!!」
決して疚しい本ではなかったが、彼岸キミとの共同生活を通して教育も任されている手前、何となくホシノは自分に不利になる会話が広げられる予感がした。
不自然に話題変換を図ったが、数秒の沈黙が生じる。心做しか生暖かい先輩からの視線は、きっと気の所為であるとホシノは自分自身に言い聞かせた。
――こうして一日が過ぎる。終わりが決まっていて、決して多くは続かない一日が無益に終わる。
◆◆◆
「うっへぇ……ホシノさんの部屋、久々だなぁ。あの時のエロ本、もうないの?」
「だから、そーゆーのじゃないってば〜!青年誌だよ、普通の健全な青年誌」
「不良にヒロインが寝取られかける青年誌なんてクソ喰らうじゃんね。でもNTRかと思ったらBSSで、不良の真の狙いが主人公だったというBLだったとは……これには黒服もニッコリ」
「えっ……黒服ってそういう趣味だったの…?」
「そーゆー世界線もあるのさ。センセが男だった世界線とか」
「……いや、先生は女の人でしょ」
「そうかなぁ…そうかも………?」
「何で疑問形?」
「ま、"センセ"は"センセ"でしかないからね。他の何者だろうと、
「?……今更だけど、何で黒服について知ってるのかも後で問い質すね?」
「あ、やべっ」
懐かしい部屋――とは、一概に言えない。彼岸キミがこの世界を繰り返す中で、幾度となくホシノの部屋に訪れた。
今回のように引き摺られて来た事もあれば、監禁、保護、初期の頃ならば単純に遊びに来た事もあっただろう。
補修されたポスター、三人が並ぶ写真、彼岸キミが彼岸キミとして過ごしていた頃の私物も時が止まったかのように置いたままだ。
「………………」
「………何も聞かないん?」
「聞くよ、これから」
短い応答を経て。ホシノはソファを顎で指し、ダレカちゃん――彼岸キミは宇宙服の頭部のみを被ったままにソファに腰を下ろす。
色の違う双眸が夕暮れに照らされ妖しく光る。爛々と、何処か狂気じみた執着を滲ませる瞳。幼子が縋るような眼。細められたソレは飾ったように薄い笑みには親しみを感じさせてはくれない。
数秒間、無言で見つめ合い。最初に口を開いたのはホシノだった。
「………ごめんね」
「急に謝るやん?」
「キミがアビドスから出ていったのは……私の、あの発言のせいだから……ごめん、本当に……ごめん、なさい……」
「……別に、お互いに幼かっただけっしょ。■は言葉を言葉のまま、裏なんてないと思ってたし。ホシノさんは一時の感情で後先を考えられなくて、
「ッ!……変わったね、変わってくれたんだね…キミは。そのクセ、根本は何も変わってない」
「ホシノさんは変わらないね。でもちゃんと変わろうとしてる、成長しようとしてる。
「…………」
「…………」
「「性格悪いなぁ…!」」
相棒、或いは悪友のように。苦々しくも偽りのない笑みが二人の口に張り付いていた。
◆◆◆
――とある日、昼下がり。
彼岸キミはアビドス高校の屋上で日向ぼっこをしていた。大きな翼も太い尾も広げ、小柄な身体には見合わぬ程の場所を占領する。
ユメを真似てみての行動だったが、やはりと言うべきか。彼岸キミには理解の及ばない行動で、いつも通り無為に時間が流れるだけだ。
数刻ほど日向ぼっこで時間を消費し、日光に刺される肌がヒリヒリと痛み出す頃。校舎へと通じるドアが勢い良く開かれた。
「キミくんちゃん、私とも遊ぼう!!」
「……えっど…デカ……むーね」
「思春期?」
「…まえ、読んだほん……で、学んだ……れいぎ、さほう……?」
「知識が偏ってるっ!?べ、勉強するのは良い事だけどね?その…教材はちゃんと選ぼう!………じゃなくて!キミくんちゃん、私とも遊ぼう?」
「??……ふで、おろ…」
「キミくんちゃん?」
「……ホシノ、が…腹切って、わびます」
「そういう知識、何処から仕入れているんだろうね……」
現状、彼岸キミの知識には偏りがある。
貧富を問わなければ自活も出来た。だが一般常識や、それこそ教科書に乗っているような勉学については全くと言っても良い程に
彼岸キミがアビドスに辿り着くまで、どのような環境で育ったのか。何故幼子が、話し掛けただけで反射的に相手を殺そうとするまで追い詰められていたのか。
服の隙間から見える傷跡だらけの肌。それなのに無垢で、機械的な赤い瞳。見詰めているだけで悲しくなり、ユメは幼子をそっと抱き締めた。
「わぷっ……」
「……キミくんちゃん」
「…ん……?」
「私、お姉ちゃんになります!」
「…………じしょう、姉……ふえた……?」
「ユメお姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」
「…
「な、なんで!?」
「なんと、なく……?」
共に育った少女を想起し、幼子の頭が鈍く痛む。
守られていた自覚はある。それでも足りず、『大人』から傷付けられていた事実がある。全てにおいて鈍感になってしまったのだ。痛みも、悪意も、好奇も、善意も、好意も――総じて騒音に他ならない。
――家族なんていらない。
其れを守れるほど、余裕なんてない。其れに守られるほど、綺麗なカラダではない。傷モノ、価値がない実験動物。搾取され続けるだけの、廃棄物にも劣る人生。
故に誰とも『関係』を築けない。どれだけ意志を薄弱になるまで調教され、
ユメには、そんな幼子の能面が酷く悲しそうに見えた。彼岸キミは耐えれる人間ではなく、耐える為に自分を殺す子供だ。だからこそ彼岸キミが最初に殺したのもまた彼岸キミだった。
抱き締める腕を緩め、ユメは真っ赤な双眸と目を合わせた。
「……
「やくそく……?」
「うん。私は――ううん、
「…………」
「今は分からなくたっていいんだよ。でも…忘れないで。今の言葉と、私の気持ち…この透き通るような青い空を。あなたの青春はこれから始まるよ。年長者として、先輩として――そして
「……むず、かしい……」
「うん、とっても難しいよ。私だって自分で言ってる事の意味を、全部理解してなんかないんだからね!」
「やっぱ、あほ……」
「酷い!?」
――ずっと傍には居られないかもしれない。
沢山の飾った言葉に隠された本音に、幼子が気が付くのはまだまだ先だ。夢に描いた足跡をなぞるだけ、そんな未来は決して有り得ない。
故に、小さな
斯くして日々は過ぎ去り――
やがて別れが訪れる。幼かった少女と、無垢な幼子。決別の日は必ず訪れてしまう。
ミツケタ?ミツケタ?………ヒントハ"3"ダヨ。辿リ着イテネ。