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感謝です!
「…………なに、アレ……」
辛うじてホシノが漏らした言葉には、眼前に広がる光景への恐怖が色濃く含まれる。
幾度と見てきた砂漠。嘗ては先輩と後輩を連れて散策した事もあり、カイザーや借金を巡る事柄で先生や今の後輩達と駆けていたのは記憶に新しい。
それなのに――
地面が脈動する。見ているだけで精神を汚染されるような感覚。内に秘めた破壊衝動や負の面が曝け出される気がして、やはり少女は吐き気すら覚えてしまう。
「大丈夫ッスかい?」
「……問題ないかな。で?アレはなんなの?」
隣に立つ後輩に精一杯の強がりを見せ、ホシノは冷静を装う。そうでもしなければ、今すぐにでも逃げ出したくなるのだ。
「…んー、なんと言うべきか。領域、或いは巣。家でもええよー?キモイから早く燃やしたいねぇ」
「燃えるの?」
「ルーツ的にはね」
「……なにそれ」
「ジャンル違いのハナシですよ。あんま理解しない方が良いぜ?」
「…ふぅん」
ソレは淡々と説明する。理解を及ぼし、然し曖昧な解釈を押し付けるように。埒外の事象を自分のみに当て嵌める様はホシノの知る過去から何も変わっていない。
態々、差し伸べる手に理由を欲する。差し伸べられる手に理屈をぶつける。酷く不愉快で、それこそ目の前の光景に引けを取らないほどの悪感情が湧き上がる。
巻き込んだ。それなのに共に歩こうとしない。そんな後輩にホシノは呆れを吐露した。
「――よし。装備の最終確認をしないとね」
「そやね……に、しても。
「整備はちゃんとしてるから、安心してね」
ボディアーマーで身を固め。愛銃とは別に、胸元のホルスターにベレッタ92A1を収めている。
一束に纏めた長髪は覚悟の発露であり、その眼光は暁のホルスの異名に紛いない。その瞳をヘルメット越しに眺め、幼子は過去を思い出す。
「キミだって準備万端じゃん。カッコイイよ〜?」
「もしかして告白された?ごめんなさい別に嫌いじゃないしダレカちゃんに着いてきてくれるのはホシノさんくらいだとは思うけど今は色々とやる事があって忙しいので無理ですごめんなさい。来年くらいにしてくれたら受け入れるぜ?」
「あっはっはー」
「目が笑ってねぇよ……」
装備の点検をするホシノの横に立ち、彼岸キミも同様に最終確認をする。
半刻前に河駒風ラブから奪った黒いヘルメットで目元を隠し、小柄で華奢な身体には不釣合いなライダースーツに機能性を重視したボディアーマーを重ね着る。
戸久銘ムメイとして活動してる際に使用している刀、名剣ナナシと形容し難いバールのようなものを背負い。両腕には
両腰には愛銃である
相手は異界の自分自身。故に彼岸キミも久しく出していない
時間をかけて拙い安全マージンを取る。
「……じゃあ行こっか」
「ほいさっさ。蹂躙してやろーぜ、相棒」
「柄じゃないかなぁ、そーゆーのは」
「けっ、ノリが悪いぞ――んじゃ、始めようか!!」
軽口を叩き合い、肉質を帯びる灰色の地面へと踏み出す。全てを知る幼子と、これから戦う相手の正体も知らない少女。決着は遠くない。
◆◆◆◆◆◆◆
――酷く、身体が重い。
散乱する瓦礫を押し退け、痛む全身に呻きを上げながら大人――先生は立ち上がる。先程までは調印式に備えて生徒達と打ち合わせをしていた筈なのに、刹那的に発生した轟音と眩い光の後から一瞬だけ気を失っていた。
「うっ……な、何が……!」
シッテムの箱の画面が起動している。アロナが世界の事象の一遍を書き換えるように、先生を守る障壁を展開したのだろう。
心の中で感謝を告げ、大人は動揺して煩く鳴る心臓を抑える。少しでも冷静に、そして合理的に。起こってしまった
「…………襲撃か。みんなは……」
粉塵で安定した視界が確保できない。故にシッテムの箱に意識を落とし、近場に居る生徒を探る。
自分が吹き飛んだのか、或いはシッテムの箱で守られた自分だけがこの場に残ったのか。少なくとも、先程までは手が届く距離に居たはずの生徒は居なくなっている。
キヴォトスの住民である彼女達が致命傷を負っている可能性は限りなく低い。だが気絶くらいはしていても可笑しくはない。
普段から宇宙服を着ている秘書ならば無傷なのだろうが、この場には居ないのだから考えても仕方がないだろう。
また頼りそうになる自分を内心で叱咤し、現実逃避を辞める。意識を取り戻したばかりで曖昧な頭。しかし爆発が起こる前まで話していた相手くらいは分かる。
「……アロナ。近くに正義実現委員の子は居るかな…………そっか、あっちだね。ありがとう」
シッテムの箱のメインOSを名乗る少女に導かれ、粉塵の中を進む。そうして見えてくるのは、怪我を負った二人の生徒だった。
華奢で猫背の目立つ少女と、長身の少女。正義実現委員のツートップとも言える二人、剣先ツルギと羽川ハスミだ。
まだ言う事を聞かない身体を引き摺るように近付くと、それに気が付いた二人が目を見開く。
「せ、先生!ご無事ですか!?」
「なんとか、ね……二人は無事かい?いや、怪我をしているね…」
「私たちはいいんです。それよりも……先生も怪我をしています。適切な処置をするには、この場所は些か危険かと…」
「大した怪我じゃないさ。それよりも、何が起こったのか分かるかい?」
「……それについて、ツルギと話していた所です」
無惨にも瓦礫に変えられた古聖堂。生徒の呻きと、連鎖的に何かが爆ぜる音。それが単なる事故でないのは誰もが承知の上だ。
トリニティとゲヘナ。歴史を辿っても争いの絶えない二つの学園。その二つが不可侵条約を結ぶ事で
抗争により武器や物資が売れれば、企業が得をする。繰り広げられる争いを免罪符に、もしくは隠れ蓑にでもすれば
現状にて、"誰"が"何のために"と考えるのは不毛なのかもしれない。この場を収めるのに、それは不要な情報とは割り切れないが必ずしも必要とは言えない。
「……十中八九、何者かの襲撃なのでしょう。ツルギ、辺りに犯人はいますか?」
「………………
「ッ!敵襲ですか!?」
動揺するハスミ。先生も弾かれるようにシッテムの箱に視線を落とし、訝しむ。
微かな望みを込めて戦闘指揮可能範囲内に某秘書が居ないかと探るが、無論、そんな都合の良い話は無い。只管に現実は不可思議で、いつだって非情だ。だからこそ、嘆く事も無く。存在しない記憶の果て、
「――生徒じゃないね。二人とも、私が指揮する。だから、まだ意識のある正義実現委員会の子も集めてもらっていいかな」
「お、おおおお任せください!!」
「うん。ありがとう、ツルギ。それじゃあ――始めようか!!」
奇しくも同時刻。彼、或いは彼女と同じ言葉で自身を鼓舞する。遠くない未来、その運命を共にする事を示唆するように。
◆◆◆
「カルペ・ディエム」
灰の極光が地面を抉る。砂漠に寄生する灰触手を焼き焦がし、一本の道を造るように。砂漠を覆う触腕は痛みに悶えて二人に襲い掛かるが、ホシノの盾で薙ぎ払われ、幼子の持つ
「うへぇ、キリがないねぇ…!」
「敵陣地を突っ切ってたらそーなるわな。ちなニンニクの花言葉は『勇気』『力』だぜドヤァ!!」
「じゃあその頭の中に咲いた花の花言葉は?」
「果てなき美貌」
「楽観の間違いでしょう?えいっ、後ろ危ないよー?」
「知ってるよ―― 一ノ太刀・花結いの煌めき」
身の丈に合わない刀で乱雑に
胴を一太刀、脚も首も、もう『ダレカちゃん』を名乗る生徒に遠慮はない。
照り付ける太陽もいつの間にか
ふにっ、妙な肉質を帯びる地面を蹴り走り続け。シールドの裏に付けていた手榴弾を前方に投げて道を作る。何も理解しないまま、だが後輩を助ける為に盲目的であり続ける。
――空も地面も、来た道も。全てが蠢く『灰』に覆われている。
自分と後輩を包む領域に微かな恐怖を覚え、然しそれでも
「――――はは」
乾いた笑いが零れる。
きっとヘルメットの奥では怪訝そうな顔をする後輩に向けて、ホシノは走る足を止めないままに語り掛けた。
「私ね、きっとダメな先輩なんだと思う」
「自虐?」
「事実。先輩が……いなくなって、最初にキミを疑った。そしてキミが去ってから理解して、探して、でも最後まで見つける事が出来なかった。見つけることを諦める、そんな理由を探していた」
あの日――梔子ユメの亡骸を見付け、絶望した日。
ホシノはアビドスから追い出した後輩を見つける事が出来なかった――否、
自分には資格がない。自信も、余裕すらもない。だから、謝りたいのに会いたくなかった。もしホシノがアビドスを離れて彼岸キミを捜索していたら、見つける事は出来たのだろう。
それなのに、様々なモノを天秤に乗せ。都合の良い言い訳と意味の無い理由を重ねて、再会を拒んだ。
「でもね、今……この瞬間。私はキミの隣にいる。それが嬉しくて、恥ずかしくて、だからこそ
「やーい!ちーび!!胸と背中が見分けつかないでやんのぉ!!アビドスユメモドキピンクゴリラぁぁ〜!!」
「死のっか♡」
「ひぎゃ!?」
躊躇いのない零距離射撃を屈んで避ける。無論、ホシノの目は笑っていなかった。
「殺す気かゴラァ!?」
「泣かせようかなって。大丈夫、気絶したって私が守ってあげるから。感謝しなよ〜?」
「マッチポンプえぐない?え、もしかしてダレカちゃんのこと嫌い?抱き締められて過ごしたあの夜は嘘だったの?」
「嘘じゃないし大好きだよ?」
「………………」
「………………」
「「にへへへ」」
「ウゴルォォォォォォォッッ!!」
「「邪魔」」
二つの銃口が灰に飲まれたゴリアテに風穴を空ける。続けざまに崩れる体躯をホシノがシールドで弾き、幼子の形容し難いバールのようなもので殴り飛ばす。
「喰らえ、ヴァニタス」
《――――♪》
小さな拳銃。脈動する肉で構成されたソレは一瞬で巨大な
同じく彼岸キミの細胞を持つ
遥か前方。灰の地面より湧き出るのは数百、数千はくだらない異形の群れ。小柄な二人には過剰な軍勢。
「………うへ……敵さんも本気出してきたカンジ?アレを切り抜けるのは…うん、おじさんもちょっとばかし大変かなぁ」
「でしたら簡単!ホシノさんには最強無敵な美人で天才で儚くも気高き精神は世界樹のようであると巷でも話題な不審者系後輩がおりますぜ?」
「……そのこころは?」
「殲滅あるのみ――ヴァニタス、模倣」
《模倣、セイントプレデター》
「《最初から分かってたのに。塵は塵にかえるもの――『虚しい世界』》」
赤黒い銃身が脈動し、膨張。咀嚼するような異音を響かせて変形するのはFIM-92スティンガー、セイントプレデター。
とある生徒の愛用するロケットランチャーを構え、幼子は空高くに打ち上げる。
「vanitas vanitatum, et omnia vanitas――さっさと出てこいよ、彼岸キミ」
空を劈く光の弾。発射後、一定の高度に達すると複数の子爆弾が放出され、広範囲に爆発を巻き起こす。
煌めく絨毯爆撃は灰の領域を照らし、轟音と呻き声すら覆い隠した。
――前哨戦はまだ終わらない。
再び現れる異形の軍勢を眼前にして、ホシノは憂鬱げなため息をこぼした。
◆◆◆オマケ◆◆◆
《灰の領域》
・異界の彼岸キミの巣。或いは寄生先。アビドス砂漠の一端を灰の触手で覆っており、近付くと触手に寄生される。本来は寄生されたら彼岸キミと同一個体に成り果てるのだが、世界に二人の彼岸キミが存在する事によってバグり、現状では某バイオハザード的なアレになっている。領域内では
領域は物理的に破壊可能。爆発が有効。然し本体は地下にいるので絨毯爆撃だけでは領域は再展開される。
《成れ果て》
・生徒やオートマタ、電車の残骸や建物に至るまで。無機物でも苗床にされてしまう。細切れにしても再生するが、五箇山豆腐くらいの強度なので爆発が最適解。夢現だが意識はある。
待ってル……早ク、来い……