まずは起立するデカイ灰色のタコを想像しましょう。目は要りません、無貌なので。
それに灰色の天使と悪魔の翼を付けて、片方だけのエルフ耳を装備しまして。ついでに頭(灰色のハゲ)には犬のような垂れ耳と猫のような立ち耳が生えて、鬼とか悪魔のツノがそれぞれついてまして、これまたついでにデカイ灰色の龍尾も生えてまして。
キミ*テラーの完成です。冒涜的ですね。テクスチャが剥がれたので、クトゥルフ基準のSAN値ピンチな外見です。混ざり物についてはご愛嬌。ベアおばのせいです。
純白のメメント・モリと、腕と一体化したMemento Moriの射線が交差し――発砲音と呼ぶにはあまりにも轟音の過ぎる音が鳴り響く。
「――カルペ・ディエム」
『――Carpe Diem』
開戦の合図は灰と灰の衝突だった。
膨大な神秘に包まれた弾丸はその形以上に凶悪に、純然たる殺意によってコーティングされて弾ける。
威力だけならば無貌の巨人の方が優れているのだろう。だが技術は幾度と、幾度と幾度と幾度と――無貌の巨人よりも膨大な回数を費やし失敗してきた彼岸キミの方が上だ。
有無を言わせぬ弾丸の斜め側面にぶつかり、互いに逸れる。
その様子を予期したように無貌の巨人の二種の片翼が羽撃く。蠢き3M程まで縮み、然し尚も巨大な体躯を二翼で宙に浮かせる。
灰肉の広がる空間、空すら幻視させる開放的な閉鎖空間の高度を支配する巨人は先程と同様に銃と同化した腕を彼岸キミへと定める。
同時、ホシノが動く。
「栗松!三歩先ぃ!!」
「栗松って誰かな…!!」
灰の触腕から放たれる凶弾が、ホシノの盾で逸らされる。本来ならば全てを穿つ其れ。然し巧みに衝撃を殺され、斜めに受け流す技術により殆ど無傷だ。
『……やっぱ…ホシノ、は……かたい』
「見なよ……オレのホシノさんを……」
「キミのじゃないけどね」
「え?」『え?』
また数度、上より無貌の巨人は触腕から生成した凶弾をホシノと彼岸キミに降り注がせる。
その射線から逃れるように小柄な二人は駆け出し、その軌跡が灰の光線で焼き焦げる。一度でも生身で受ければ致命的だと理解し、それを唯一受けれるのはこの場においてホシノの盾だけだ。
故に彼岸キミは断じていたのだ。ホシノが居なければ勝率は著しく下がる、と。
「キミ、さっきのアレ!出来ないの!?」
「どれっすか?」
「nemoとかDogmaとか!」
「んー、nemoは切り札だけど貯め時間が必要だから今は無理。ひが……あの化け物を殺すための技だから、どっかでタイミングは作らんとだけど。Dogmaは……広範囲雑魚狩り特化っす。中途半端な威力だし、それはそれで体力の無駄使いになるね」
「私が盾になって時間を稼ぐのは?」
「アレを殺すには五分くらいの貯めが必要だけど………ホシノさん、自信ある?ダレカちゃんは多分無理よ、誰かを庇いながらアレを足止めするのは」
「うへぇ……おじさん、ちょっと絶望しそうかなぁ……」
「はいはいガンバ!カルペ・ディエム!カルペ・ディエム!!そして手榴弾!!」
キヴォトスにおいて無二の破壊力を誇る
距離がある限り、無貌の巨人の有利は決して揺るがない。
故に――
「まずは墜ちろや……タコ!!」
彼岸キミは
『ワイヤー……?』
「正っ解っ!!適当命名!雷切斬鉄!!」
『ぐっ……!!つぎ、は……刀…!!』
兜割りの要領で振り下ろされる刀。背中より抜かれ振るわれる凶刃は抵抗も虚しく無貌の巨人の半身を斬り裂く。
「ホシノさん!パス!!」
「オーライ!!」
『ッ!?』
反撃に、腕と同化した銃を向けようとし――無貌の巨人は己が
絡むワイヤーは二種片翼の羽撃きを許さず、勢いを付けて地面に叩き付けられ――刹那、爆炎がその巨体を呑み込む。
「もう――暴れん坊な後輩だなぁ…!」
墜ちる無貌の巨人、その落下地点を予測していたホシノは爆弾を設置していた。元より其れの弱点が炎を伴う爆発であるのは聞いていたので、ホシノの装備も必然的に爆発物が多い。
本来ならば密閉空間での爆発は御法度なのだろうが、手段を選べば先に殺されるのは二人だ。
爆炎から盾で身を守り、ホシノは様子を伺う。倒せたとは思わないが、無傷ではないだろう。
「やったか!!」
「………まあ、逆フラグってのもあるよね」
「ダレカちゃんね、帰ったら結婚するんだ。セリカさんとの子供も出来てさ……ホシノさんには結婚式のスピーチでポケモン川柳を詠んでほしいなって……」
「キミの戯言も度が過ぎると面白いよね」
「なんか語彙が強くない?え、もしかしてダレカちゃんに実家でも燃やされた?」
軽口を叩き合い――閃光が煌めく。
地面から生える無数の触手。
振るわれた刀がホシノに襲い掛かる灰の触腕を切り捨てる。遅れて彼岸キミの心臓を狙う弾丸はホシノの盾で弾かれ、爆炎の中から焼け爛れた無貌の巨人が歩み出て来た。
「不意打ちって酷いよね」
「キミの得意分野のクセに」
「得意分野は蛮族スタイルなのだわドヤァ!!」
「何で自慢げなの?」
『…………ちっ』
肉の焼ける異臭にホシノが眉尻を歪める。世界観を逸脱した光景はグロテスクだが、それよりも。重度の火傷すら意に介さず敵意を緩めない相手に対して、抑えていた恐怖心が膨らむ。
そんな少女を察してか、幼子が声を上げて突撃する。
「ヒャッハァ!敵は瀕死だぜ!!ぶち殺インファイトで行こうぜ!!」
「悪役なの?」
『…なんでも、いい……』
形容し難いバールのような物で野蛮に殴り掛かる彼岸キミ。地面から生える触手を粉砕し、距離を詰める。
横薙ぎに振るわれる龍尾を、身を屈めて躱し。同時に刀を抜く。
「二刀流十六連撃――星破裂連続!!ユニークスキルはダレカちゃんのモノだぜ!!」
『Carpe Diem』
「みやぁ!?ゼロ距離射撃は反則だとご存知ない!?」
『はつみみ』
「ダレカちゃんもだぜ!でもセリカさんにはされたい!!だいしゅきだから!!」
『わかりみ、ふかい……』
身を抉り、切り裂き、粉砕する――その端から再生する。
彼岸キミの身体もまた生傷が刻まれ続ける。頭部を守るヘルメットは砕け、純白の頭髪とルベライトの瞳が除く。
純粋なスペックと、最高峰の技術のぶつかり合い。軍杯が上がるのは再生能力のある無貌の巨人だ。
「ドラァ!ゴラァ!何でキヴォトスでインファイトやってんだごらァ!!銃使えやごみぃ!!」
『それ、な……』
「だから使うぜ、ホシノさんが!!」
『っ!』
「ホント、先輩使いが荒いよ…!!」
後方からの奇襲。再生前提での強度のない触腕はホシノのショットガンで複数本まとめて吹き飛ぶ。
――生じる僅か隙。
「ヴァニタス、メメント・モリ――二秒チャージ、nemo!!」
無色透明の衝撃波が異形の身体に刺さる。
幾度と斬られ、それでも再生していた肉体が固まる。再生しない体に違和感を感じ、無貌の巨人は二種片翼と龍尾で二人を弾き飛ばし距離を取った。
『……再生、しない…?』
「
『…………しらない、神秘……』
「千貌の神なのでね、羨望しないでね?
『不快』
同じ『彼岸キミ』、然し異なる側面。
渾沌の神は忌々しく、存在しない瞳で千貌の神を睨む。嘗て、自分もそうであったのに。罅割れて顕現したナイアーラトテップとしての、彼岸キミとは異なる在り方こそが無貌の巨人だった。
正当に『彼岸キミ』を極めたのが割れたヘルメットを被る幼子であり、その在り方を捨て混沌に溺れ渾沌に生も死も乱すのが無貌の巨人。
酷く、酷く、酷く、酷く酷く酷く酷く酷く酷く酷く酷く酷く酷く――不快だった。
『――かいほう、する』
「っ!ホシノさん!!」
「分かってる!!」
「ヴァニタス、模倣しろ!」
《模倣、セイントプレデター》
「《最初から分かってたのに。塵は塵にかえるもの――『虚しい世界』》」
声質の変化と共に拳銃型の肉銃は脈動し、膨張。咀嚼するような異音を響かせて変形するのはFIM-92スティンガー、セイントプレデター。
ホシノも合わせてバックパックの爆発物を投擲するが――
『むだ』
脈動する灰色の地面が隆起。
顕現するのは灰の触手。ただただ、巨大なだけの触腕。明確な時間稼ぎは、然し渾沌の神にとっては充分が過ぎる。
『這い寄れ、渾沌の化身。顕現、そして呑み込め――"
顕現されるは渾沌の奴隷。何十、何百もの、喰らい触手に寄生されて眷属に堕ちた生命体。目や鼻から赤黒い液体を流し、苦痛に喘ぐ元生徒。広い空間に召喚された車両や、アビドス砂漠で朽ちていたオートマタやドローン、ゴリアテ。
この場に辿り着くまでに幾度と斃してきた其れら。明確に、そして根深く侵略された身体の主導権は無貌の巨人にあり、その危険度は今までのモノとは一線を画すのだろう。
道化の行進は圧倒的な物量を誇る。
馬鹿正直にやり合えば轢き殺されるのは容易に想像出来る。だからこそ――彼岸キミは切り札の一つを切る。
蠢くリュックサックを開き、雑に前に投げた。
「――貪れ、パンちゃん。そして喰らい尽くせ!」
『〜〜〜!〜〜〜〜♪』
「うわキモっ」
『っ!?』
「ホシノさん……パンちゃんが落ち込むでしょうが!!」
「えぇ……なんか、ごめんね?」
「じゃあ抱き締めてあげて?」
「絶対に嫌だけど?」
『…………ピエン』
「え、いまピエンって鳴いた?このバケモ……パン、喋るの?」
「は?喋らんが?何言ってんの、疲れてんの?てか疲れてんの?」
「………気の所為……?いや、でも……えぇ…?」
紫の触手が生えたパン。今朝、牛牧ジュリが作った物を彼岸キミが攫ってきたのだ。垂れる緑の粘液は灰の地面を溶かし、元の砂に還す。
30cmにも満たない大きさ。
それを彼岸キミが蹴り上げ、渾沌の眷属の先頭に居たオートマタの顔面に当たり――
――バキッ、ボギッ、ジュウゥ――
異音が響く。溶かし、咀嚼し、喰らう。小さな身体で頬張る。
「「きもっ……」」
思わず彼岸キミと小鳥遊ホシノは声を揃えて呟く。敵も味方も冒涜的な外見であり、目に毒だった。
「……あれ?あの化け物、なんか大きくなってない?」
「ついに化け物って言いやがったな……ま、そーゆー個体やし。厳選、大変だったぞ〜?」
「ホント、どこで拾ってきたのかな?」
パンちゃんは徐々に大きくなり、捕食量も増え続ける。然し眷属も無抵抗ではない。意思のない操り人形は命令されるがままに銃をパンちゃんに向け、撃ち削る。
「さぁ、第二フェーズだ。編成はそのままだぜ――Dogma」
ヴァニタスから放たれる黒の閃光。暴力の奔流が等しく敵対者へとダメージを与えるが、渾沌の行進は止まらない。止まることを許されない。
「………ちょっと、あれは骨が折れるね」
慄くホシノ。無貌の巨人を初めて視界に映してから現在に至るまで、ずっと逃げたかった。心の底から恐怖していて――それでも盾で後輩を守り続けている。
多勢に無勢、と言うだけならば容易い。だが自分だけの命ではなく、この化け物が顕現した地もこの場にはいない後輩が暮らすアビドスだ。ならば、アビドスを継いだホシノが諦められる道理もない。
生唾を飲み込み、突撃する――刹那。
「でーすーがー!ここでRTAの必須テクをご紹介しましょう!!」
「は?」
「皆さんもご存知の通り、このボス戦第二フェーズの突破方法は"
「もしかして頭打った?ヘルメットも壊れてるし」
「まずパンちゃんは見捨てます。殲滅力は必須級ですが、実は倒されても任務失敗とはなりません。ただの時間稼ぎ要員ですね。回復キャラは要りませんので、ダレカちゃん以外はタンクとバッファーだけでも問題ありません。レベルや装備が足りない場合は自己回復が可能なタンクが欲しいところですね」
「あー、ダメだこりゃ。この後、どこか病院とか開いてたっけ?予約予約……あ、ここ電波ないの?」
「手順は簡単!ダレカちゃんでnemoを使うだけです。溜め時間は三分程度です。その間、ボスの特殊行動として溜めている最中のダレカちゃんが狙い撃ちされるので、タンクキャラで護り通しましょう。それで勝ちが確定です。これによってRTA最速記録よりも40秒も早く第三フェーズに移れます――つーことで、三分。死ぬ気で守って♡」
「はぁ………しょうがないなぁ。三分だけだよ?それ以上は厳しいかなって」
「イけるイける!ガンバっ!」
右手にはアリウス生徒の血肉で構成されたヴァニタス。左手にあの日、初めて『外』を知った日に睡蓮スイから貰ったメメント・モリ。
どちらも彼岸キミを象徴するモノだ。楽しかった日々も、地獄のような苦痛も、そして全てが擦れて無感情に逃げた時間も。
二つの銃。腕を交差するように構え、力を溜める。まだ彼岸キミの旅は終わらない。スタートラインに立つ為に――邪魔者は消す。辿る道のりが同じであったとしても、自分の足で総てを背負うと決めたのだから。
「っふぅ………!」
深く、深く、深く。
灰色の神秘が同色別物の
澄んだ青と深い灰が混ざり、空間を染める。その『色』を、無貌の神と千貌の神だけが見えていた。
――灰青。
永い夜を越え、新しい朝が来る。曇り、陰り、それでも太陽だけは空を灰青に染める。灰の空間が僅かに明るくなる。
『……やら、せ……ない…!』
揺れる領域。自分の命を刈り取る刃を研ぐ光景を眼前に、無貌の巨人が見ているだけの道理もない。
顕現させた眷属と同時に駆け出し、数十もの触腕を槍のように鋭く硬化させる。そのまま殺意と共に穿つ――
『……しね』
「ヤダヨ!いけ、ホシノさんバリア!!」
「わっ、返す刀でキミシールド」
「うぎゃ!?危ねぇ!?こ、殺す気かァ!?」
構えた銃はそのままに、足で操作したワイヤーで無貌の眷属を身代わりにする。無惨な姿に引き裂かれた元オートマタに背を冷やし、彼岸キミは声を荒らげる。
「あ、ホントにごめん。つい反射的に……まっ、キミなら自分でどーにかするでしょう?」
「熱い信頼に心が冷えるぜ!!」
「でも定期的に化け物の群れを私に向けて投げ捨ててるんだから、キミも悪いと思うんだよね」
「まあ、過ぎたことはいいよ」
「そっかぁ。あ、バケモノさん。私の後輩にちょっかい掛けるのはやめてくれるかなぁ…!!」
『じゃ、ま……!』
口で手榴弾のピンを荒々しく抜き、眼前の空中に投げ置き――足元がヒビ割れる程強く踏み締める。
無貌の巨人に押し当てるように。手榴弾を挟んでのシールドバッシュ。
「場所――変えよっか!!」
『ガッ……!?』
盾の外で起こる爆発とアビドス最強を誇るホシノのシールドバッシュは無貌の巨人を吹き飛ばし、ホシノもまた後に続く。
たった三分。しかしこの世界で最も長く重い三分。テラー化した相手に対して何の補助も受けていない生徒が一人で挑むのは無謀に等しい。
だが――関係ない。
「無理でもやらなきゃね………あの子の先輩なんだから」
ヘイローが煌めく。二度とあの後悔を繰り返さないために――異形へと銃口を突き付ける。
一度、二度、三度。触腕が振るわれ、その度にショットガンが発砲される。グロテスクなまでに生々しい水音が爆ぜ、その傷口が泡立ち再生する。
先程の再生阻害も既に殆ど意味を成していない。
「弱点部位とないのかな……!!」
地面から生える触手を前進することで躱し、龍尾の薙ぎを盾で逸らす。そのまま巨体の各部に対して鉛玉を撃つが、弾けてまた再生するのみ。
『どいて……じゃま、だから……』
「邪魔になってるなら、何よりだよ。もう少しだけ遊んでいってよね!」
『…………けんげん、せよ……渾沌の――』
「それはさせないよ」
『ッ!また、ワイヤー……!』
「少しだけ気に入っちゃったんだよね!」
彼岸キミから借り受けた鉄糸で無貌の巨人を縛り――柔らかい身体を細切れにする。収縮したワイヤーは手元に戻り、その僅かな時間で切断面から何万もの触手が生え、肉片の一つ一つが癒合する。
「……これでもダメか……」
『Carpe Diem』
「わっ!?」
『Carpe Diem……Carpe Diem…Carpe Diem…』
「ぐっ…!ちょっ、即死ジャブは反則じゃない!?」
灰の神秘砲が尽くを破壊する。
でも、対角線上に後輩が居る。
もはや無傷で時間いっぱいを耐えるのは無理だと察する――察してしまったから、捨て身しか方法がない。
一秒にも満たない時間、全神経を注いでワイヤーを無貌の巨人の銃と同化した腕に巻き付ける。
そのまま一気に引き、また腕を両断する。再生までは数秒と掛からないだろう。しかし、その時間があれば充分だった。
「一旦、やめようか…!!」
『………すぐ、さいせいする…』
「構わないよ――こっちもすぐに終わるから」
背負っていたバックパックを下ろし、その中身を地面に落とす。ぶつかる金属音、様々なそれらは鼻腔を刺激した。火薬の臭いは、十数の其れが総じて爆弾であるのを察しさせる。それだけで、無貌の巨人は後退ってしまう。
「これ、嫌いなんでしょう?」
『……っ!正気……?』
「――BANG」
『ッッ!!??』
爆発物の内、一つだけを拾ってピンを抜く。
弧を描く口元。
――刹那、轟音と熱風が全てを蹂躙した。
無論、その矛先は少女にも襲い掛かる。爆風で吹き飛び彼岸キミの横、灰色に染まった壁に衝突。
盾で直接的な爆風は防いだが、それだけでノーダメージとはならない。戦闘継続は不可能だった。
「ホシノ!」
「あと、は……おねが、い……」
「……ありがとう」
意識を落とす刹那、最後の抵抗。
先輩からの献身に感謝を言い――赤い瞳を敵対者へと向ける。
きっかり三分。ギチギチと二つの銃から異音が鳴り――高まる悪寒に無貌の巨人は固まる。その恐怖心は魂の根源、魔王に対する勇者の剣のように。致命的なまでに自分のナニカを抉るのだと理解してしまう。
理解して――それでも
『――殺す』
弾丸速よりも速く。
灰の閃光となり。
純粋な身体スペックで。
鈍化する意識と。
加速する思考で。
強靭な脚で宙を駆け。
二種片翼の翼を羽撃き。
空気の層を突き破り。
破裂音にも等しい加速の果て――
『間に合――』
「ってねぇよ。吹き飛べ―――nemo!!」
『ッ!?』
その巨体を穿つように。小柄な彼岸キミから放たれる無色透明の神秘は天井に向けられ、無貌の巨人を飲み込み領域を破壊した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
曇った空の下。
『ま、だ……』
アビドス砂漠。地下から追い出された異形は尚も身体を捩り、抗戦の意志を崩さない。
其れを見下ろす影。砕けたヘルメットの奥、ルベライトの瞳。無貌の巨人――彼岸キミの知る彼岸キミの瞳。酷く見慣れた其れ――
ルベライトの奥に巣食う黄金。
『…………ッ!ま、さか……おまえ!彼岸キミじゃ……ない…!」
「ネタバレはダメやぞ――
『黄衣のお―――ガッ!?』
力を振り絞り立ち上がる巨人。
――刹那。
一筋の『焔』が無貌の巨人の胸を穿つ。
「………さすがアルさん。最高の仕事だよ」
『仕事は完璧に。これからもどうぞご贔屓に、とウソーノ・ウラギールさんにも伝えてちょうだい』
「そんじゃ、あざした!後始末はこっちでヤッとくんで、後は帰ってもいいっすよ〜。んじゃー」
通話を切る。契約と仕事にはポリシーを定めてる人だと知り、帰れと言えば殆ど確実に帰るとも確信している。
――全てが片付いた。
徐々に灰となる無貌の巨人。その最期は酷く呆気なく、この世界の先生にも知られること無く死ぬ。無貌の巨人の知る『先生』とは顔も名前も異なる『先生』、だが確かに生徒を導く存在。
『クトゥグア……の、焔……?』
燃える無貌の巨人が呟く。
「オーパーツの加工……一人の神秘が杖になって、一つの銃弾になる。ゴミみたいな末路だよね」
『……さい、あく…』
「そんじゃ。そろそろ寝んねの時間だ」
『………く、そ……』
「安心して……ちゃんと、救う。
『………………』
広がる焔。胸から全てを覆い、魂ごと殺す――
「させないよ」
「は?………ぐッ、カハッ…!!」
其れは
「んー、クトゥグアの焔ね。こんな遺物、どこで見つけて来たのか……ま、どーせマダムか。こーゆーのはスイちゃんの趣味じゃないぜ」
濡羽色の長髪を乱雑に結んだ少女。金色の双眸が不快そうに歪み、軽くクトゥグアの焔を払い除ける。
意識を失った無貌の巨人を小柄な体躯で支え、引き摺りながらも肩に担ぐ。
突然現れた少女――その姿に、彼岸キミは酷く既視感を覚える。決して忘れられなくて、この世界に存在しないはずの少女。
――鈍く、心臓が鳴る。
「えっ、は……?す、スイ……?」
「スイちゃんって呼んで欲しいぜ?キョーダイ………感動の再会だけど、ここじゃあ味気ないよな。またいずれ、決戦は虚妄のサンクトゥムでね」
嘗て彼岸キミが喰らい、殺した少女。共にアリウスで育ち、時々自治区から脱走して『外』に遊びに行った友人。
「んじゃー、また今度ゆっくり話そーね〜」
「まっ、待って!スイ!!」
「待ってるのはこっちだぜ?昔からね」
黄金の瞳と同色の
詳しくは47、48話のカコバナで。