連日投稿が久々すぎて自転車がパンクしました()
コツコツ、と複数の足音が重なる。
そこは牢屋と呼ぶには些か豪奢の過ぎる場所。囚われる罪人はパテル分派の首長にして、生徒会であるティーパーティーのメンバー、聖園ミカ。
トリニティにおいて彼女は様々な解釈がされている。トリニティの裏切り者、魔女のミカ。真の黒幕ウソーノ・ウラギールに操られた被害者、道化のミカ。
子供のような理想に夢中だった生徒、或いは聖女のように夢を追い過ぎた哀れな少女。
そんな彼女の牢獄へ訪れる少女が複数名。血走った瞳に荒い鼻息、野望に付き動かれて、多人数での意志を正義であると捉える者。
ティーパーティー傘下の制服を纏う彼女たちは欲望に歪んだ笑みを貼り付けて牢屋の前に並ぶ。
「ミカ様、こちらへ」
「ミカ様!」
「お待たせしました、もう自由です!!」
解錠し、ミカを自由にする少女たち。パテル派の制服であり、ミカの記憶には薄いが上っ面の態度を見るにやはりパテル派の生徒なのだろう。
冷静を努めながらも隠しきれない野心を、ミカは内心で見下ろす。相応の格も度胸もないのに、誰かを盾にして上に上がろうとする愚者なのだと心中で断言。
そんな愚者の前で踊るほど、今のミカは心穏やかでもない。
「ふーん……なるほどね?うん、大体状況は分かったよ。つまり……みんな、私のファンってところかな?やー、仕方ないなぁ。サインでもしてあげよっか?」
「い、いえ……そうではなく。ご覧になったかと思いますが、現在トリニティは――」
「だーかーらー、分かってるって。で、ここのみんなはなに?まさかと思うけど……今、ゲヘナに宣戦布告しようとか考えてたり?」
「はい、その通りです!今こそゲヘナの奴らを消し去るチャンスかと!!」
「貴女様の望んでいた通り、ゲヘナとの全面抗争を……!!」
やはり、と再度ミカの口から溜め息がこぼれる。
ゲヘナに過剰な嫌悪感を抱き、その敵愾心を隠そうともしない者は以前より存在した。ミカだってその一人だ。アリウス分校をトリニティに取り込み一致団結出来たのであれば、その衝動に任せて戦争をしていた可能性だってある。
しかし、この場においてミカは誰よりも冷静だ。格下の愚者に囲まれ、冷静にならざるを得ない。
そも、ミカが以前までゲヘナとの抗争の策を練っていたのは所謂"勝ち目"がトリニティに傾いていたからだ。アリウスの兵力、それが今のトリニティにあれば人材の量も質もトリニティが勝る。
――故に、
そのトリニティがアリウスによって混乱していて、統率する者で健在なのがミカだけであり。殆どの生徒が疲弊している今、幼子でも解る程の悪手を眼前の生徒たちは打とうとしているのだ。
「さあ、今すぐトリニティ全域に戦闘命令を!!」
「………………あはっ」
あまりにも愚かしくて、滑稽で。
嘲笑うように喉奥から嫌悪が溢れる。まるで以前までの幼い自分を鏡で見せ付けられているようで、この醜い欲望から目を逸らしたくなる。
ウソーノ・ウラギールには自分がこう見えていたのだろうか。きっとそうなのだろうと溜息を吐く。
やはり彼岸キミの無関心こそが異常だったのだ。だが今の自分が目の前の少女達に向けている感情とそれが同じなのだとしたら――と考え、やはりミカは辟易と無関心に浸りたくなった。
「みんな記憶力良いね。うん、私はゲヘナが大っ嫌いだよ。それで?だから………何?どうしてそんな命令、欲しがってきたワケ?」
「………はい?」
「他の派閥を抑えたんでしょ?フィリウスもサンクトゥスも……ま、首長が居ないんだから烏合の衆ってカンジだろうけど。でもさ、だったら実際のところ。もう宣戦布告なんて
「み、ミカ様!?何を……!」
――ミカの言いたい事はシンプルだ。
「帰ってくれないかなー?私、今はそーゆー気分じゃないかなって」
「き、気分……?」
「今がどれほど重要なタイミングなのか、分かっていらっしゃるのですか?それを、たかが気分の問題で――」
「……『たかが』?何言ってるの、それが一番大事なコトでしょ?私は私の気分とか気持ちの問題で、ゲヘナが嫌いなの。その事の何が悪いのさ。別に、その裏に隠れた理由とか目的はないんだよ?」
この場の何人が、正当な理由を持ってゲヘナを恨んでいるのか。粗悪なゲヘナが嫌い、その程度の
そも、心の底からゲヘナを恨んでいる者は既にゲヘナに対して攻撃を仕掛けている。今でなくても、以前からずっとだ。
それこそが長い歴史、トリニティとゲヘナの敵対だ。条約を結ぶまで銃を向けあっていた現状なのだ。ミカの気持ちもこの場の皆の気持ちも、トリニティに生まれたからその習慣を、気持ちを、感情を取り込んだに過ぎない。
決してトリニティだけが被害者なのではない。歴史がそれを物語るのだ。
「こんな状況で宣戦布告なんて、別に要らないって分かってるよね?なのに自分たちの代わりに恨んでくれ、憎んでくれだなんて、変なこと言って……もう帰ってくれないかな?今はそういう気分じゃないし、そろそろ面倒になってきちゃったから」
「何だと……?」
「……ッ!〜〜ッッ!!」
「わっからないかなぁ?耳掃除でもしてあげようか?………命令されなきゃ憎むこともできないの、って言ってるの。滑稽だよ、あなた達」
「このっ…言わせておけば!!」
「………っ」
先頭に立っていた少女が不躾に歩み出て、マスケット銃の底を振り上げてミカの頬を殴る。
そのまま尻もちをついたミカに銃口を向け、複数人が発砲。容赦のない銃弾がミカの柔肌を撃つ。無論この程度では傷の一つも付かない。
それなのに――否、それ故に少女達は止まらない。まるで頑丈なサンドバッグでも相手にしているかのように、撃ち続けて罵倒を続ける。
「世間知らずのお嬢様が!わざわざ牢屋から出してあげようってのに、調子に乗って……!!」
反撃するだけなら簡単だった。素手だろうと、集団でしかものを言えない連中を倒すのは容易い。
だが――
確かにトリニティは綺麗なだけではない。汚い本心、穢れた歴史。上に立ち、見たくなくても見続けてきたモノがある。
――きっと、その穢れたモノの一つが自分なのだろう。
「あー、もう……」
痛くはない。怪我もない。それなのに、胸が――
「……痛いなぁ……」
その嘆きは誰にも届かない。諦観でも憤怒でもなく、ただ無気力だった。ミカはただ、放っておいて欲しい。
「自分の立場を理解しろ!もうティーパーティーから解任直前の身で!!」
「わざわざ来てあげたというのに、それを……!!」
押し付けがましい本音。醜いそれに感化され、また一人、また一人と同様の言葉を吐く。引き金を引く。それは一体、誰の憎みなのか。背負っているそれは、誰の感情なのか。
きっと誰にも分からないのだろう。ミカは敏い故に理解している、自分の気持ちもゲヘナへの
だから理性が働く。ナギサやセイアほど言語化に長けてはいないが、理解はしている。
だが彼女たちは違う。この暴動、この混乱の中で目的だけが先走っているのだろう。自分が正しい、共に進む同士がいるのだから正義だ。故に『気分』程度でその気持ちを蔑ろにし、見下す聖園ミカは敵だ。思い通りにならないのであれば、敵だ。
言外に告げているそれを感じ取り、ミカは思う事しかしない。この暴動の終着点は何か――ミカが服従することか、或いはミカの死か。また或いは、ミカが全員を――
「な、何してんのっ!?」
弱々しく、然しよく響く声だった。
皆が振り返れば、そこには小柄な生徒が立っていた。黒い制服に黒い四つの翼。髪と同色の桃色の瞳は、怯えと怒りが混在している。
正義実現委員会、そして補習授業部の下江コハルだ。普通であればこの場にはいない生徒だが、正義実現委員会の仕事であれば話は別だ。何かを言いつけられ、その際に現状を発見してしまったのだろう。
「……なんだお前は…!」
「い、イジメはダメっ!どうして……こんなに大勢で寄ってたかって……!こんなの!私が許さないんだから!!」
「………!」
ミカは顔を上げた。
そこに居る少女は、何故ミカを庇うのか。ミカには分からなかった。彼女にはミカに恨みがある筈だ。ゲヘナへの曖昧な憎しみではなく、実害を伴った恨み。
ミカのせいで裏切り者扱いで学園から追放されそうになった。補習授業部とミカが戦闘した際にも、痛い思いをした筈だ。
それなのに――
「とにかくダメなの!銃を下ろして!!」
駆け寄り、コハルはミカを庇う。意味の無い行為、少しも怪我を負っていないミカを、銃弾一発で怪我をしかねないコハルが庇っている。
何処までも非合理的で――
だが、何故だろうか。否、答えは分かりきっている。
今はただ純粋に、目の前の慈愛に満ちた小さな背中を傷付けさせたくない
「どきなさい!状況が分からないの!?」
「緊急の事態なのよ!!」
「で、でも……私は…!!」
ヒステリックな怒号に怯み、それでもコハルは下がらない。
「どけ!!」
「い、嫌!!」
ただ両手を広げてミカの前に立つ。あまりにも弱々しく背中なのに、ミカの心臓は高く脈打つ。力もないのに決して信念を曲げない少女に無関心が融解する。
「私は馬鹿だから、何がどうなっているのか全然分からないけど………でも、これは違う!こんなのは絶対にダメ!!」
「…………聞かない奴だ、それなら……」
銃口が再び上がる。怯えるコハルに向けられ――
「ま、待って。この子、どこかで……」
「よく見ると、何だか見覚えが……」
「誰の女に手ェ出してくれてンだァ……木っ端」
刹那、空間が青く染まり、灰の閃光が女子生徒の持つ銃を
驚愕に振り返る瞬間にも銃声は鳴り続け、一つ一つ丁寧に少女達の持つ愛銃を無慈悲に破壊し続ける。
生徒には一切の傷を付けず尽くの無力化。その担い手と、瞬間的な戦闘指揮で状況を覆した二人の人物。
「――コハルは補習授業部の、私の生徒だよ」
「先生!ダレカちゃんも…!!」
「先生、と……その銃は………もしかして…!ダレカちゃんはキミ、だった……?は、え…?しかも私ってキミのモノだったっけ……?」
「ミカさん。ミカさんのコトじゃなくてコハルさんだが?てかコハルさんが今のダレカちゃん的トレンドなんだが?」
「そっか……ふふっ、あはっ。そうだね、私がキミの物になる選択肢もあったんだ……逆転の発想ってヤツ?」
「話聞いて?ダレカちゃんの恋人はコハルさんなんだから」
「こ、恋人じゃないんだけど…!?」
「は?嘘やろ……センセ、話が違う!?木っ端共を傷付けずに無力化してコハルさんを救ったら、コハルさんがベタ惚れで一緒にウェディングロードをハーレーで突っ走れるって話だったじゃん!?」
「拡大解釈が過ぎない?私はただ、コハルにカッコイイところを見せようって言っただけだよ」
――キヴォトスには一つの噂がある。
生徒の足は舐めるが完璧な戦闘指揮で戦場を支配する大人と、奇行奇声セクハラはするが純粋に最強な謎の生徒。その二人が揃えば――
「変態二人、但し最強………って特集をこの前クロノスの下乳が放送しようとしてたから、(
「宇宙服恐怖症になってたね」
――キヴォトスにおいて、この二人が揃うということは勝利に等しい。故に、天秤は完全に傾いた。
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