シャーレ所属のダレカちゃん   作:ブラウンドック

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ifルートです。嘗ては存在して、もう存在しない世界です。分岐点は先生がサオリに撃たれる所。条件は、一定以上のダメージを負う事。





怒られたらごめんなさい。そんな内容。本当にマジです。



IFルート~貴方と冷めるまで~

 

――数刻でしょう……残された時間は。

 

その言葉を聞いて、私は逃げ出した。大切な人に残された時間は、あまりにも少なくて。その時間すらも必死な延命の末で、きっと意識が戻ることはない。

 

私が守れなかったから。頼られていたのに、応えられなかったから。だから先生は死ぬ。もう戻らない。

 

逃げ出して初めて自覚した。私は弱い。先生を傷付けたアリウスに復讐する事なんて……そんな気力なんて、残されてはいない。

その力はある筈なのに。先生の秘書をしている"あの子"だって、頼まなくても協力してくれる筈なのに。それでも私は戦えない。先生の死から逃げる私は、銃も誇りも置いてきたのだから。

 

 

煩く鳴り響く携帯端末は捨てた。ただひたすら、誰も居ない場所を目指して、彷徨う。人の居ない場所、街も何もない場所。呆然とする頭の片隅は嫌に冷静で、幾つかの目星は付いていた。

 

アビドスの砂漠。ミレニアムで未開発の樹林。何処かの形骸化した学園跡地でもいい。候補を上げながら、でも自然と私の足はある場所を目指していた。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

――少女は海を眺めていた。

 

太陽が乱反射して煌めく波。吐いた息もキラキラと光り、全てを忘れてノスタルジックに浸りたくなる。そんな幻想的な空間で、少女――空崎ヒナは膝を抱いて海を眺めていた。

 

レッドウィンター自治区、只人の辿り着けないような銀景色の果て。

 

辿り着くまでに凍えて倒れていれば、と願いながら歩き続け。果てに到着する頃でもヒナの身体は無事だった。恩師を守れなくとも身体だけは無駄に頑丈だ、と卑下するが。この景色を目の前にして、不思議とヒナは自傷すらする気にはなれなかった。

 

心の何処かで思ってしまったのだ。

 

最期に観る景色がこれで良かった、と。

 

ヒナの身体はヘイローを持つ生徒の中でも異常な程頑丈だ。然し無敵ではない。故に、今は無事でも暫く身体を動かさずに座り続けたら凍死してしまうだろう。

だから、ここを選んだ。最期まで誰にも見つからず、いつかは空崎ヒナの小さな身体を雪が隠してくれるレッドウィンターを選んだ。

 

本当は冷たい海に入るのが手っ取り早いのだが、太陽の乱反射する海は、ヒナには眩しすぎた。この景色を汚したくなくて、結局、降り積もる雪に身を任せることにしたのだ。

 

風と波の音が心地好い。静かに鳴る心臓すら、目の前の壮大な銀世界の前ではうるさく思えて煩わしい。心臓の拍動に抗うように目を閉じ、波の音に耳を傾けると――別種の音が鼓膜を揺らした。

 

――ザッ、ザッ、ザッ、と硬い雪の上に積もる柔らかい雪を踏み締める音。聞こえる筈のない()()

 

 

緩慢な動作で振り返ると、小柄な子供が居た。

 

 

銀世界に溶けるような白髪と、反して存在を主張する深紅の瞳。形状の異なる左右の獣耳に鬼と悪魔の角。大きな純白の翼と、同様に大きな蝙蝠のような翼。目と同色の巨大な龍尾。

 

見慣れても尚、異様な姿の子供がリュックサックを背負って立っていた。

 

「………」

 

「………」

 

互いに言葉はなかった。その瞳が、深紅と紫根の瞳が絶望でくすんでいる。故に心中を察するのは容易かった。

 

ヒナは逃げるように視線を逸らし、再び海を眺める。広大な海原はヒナを否定も肯定もしない。故に音もなく隣に下ろされた腰にも、心がざわつく事はなかった。

 

空崎ヒナと彼岸キミ。互いに背負っていたものがあった。小さな身体的には不釣合いな重責を抱えていた。然し逃げてしまっては、もう何もかもが終わりだ。ヒナは二度とゲヘナに帰ることはなく、彼岸キミもまた、この世界が続く限りで先生と再会することはない。二人共、先生の死に際に立ち会うだけの勇気はなかった。

 

「………どうして、ここに…?」

 

掠れた声だった。風紀委員長としての威厳もない、気弱な声。年下の子供――傷だらけなのに泣けない子供の前では冷静に努めて、頼れる先輩であろうとしたのに。その強がりすら演じれなくて、情けなく、尚更喉が震えた。

一瞬だけ海原から目を離して隣りに紫根の瞳を向けると、同様にヒナを横目に見る彼岸キミと目が合った。

 

深紅(ルベライト)の瞳。其れは酷く曇っていて、然しその奥を見詰めると一瞬だけ黄金の何かが煌めき、だが瞬きをすると消えてなくなった。

 

「…………?」

 

彼岸キミは軽く溜息を零し、膝に顔を埋めて話し出す。

 

「……にげたく、なった」

 

「………そう」

 

「もう、わからない………センセは、しぬ。なにをしても、しんだ。たくさん、たすけた……たくさん、かばった…なのに、しぬ。だれかのためにいきて、だれかのためにしぬ。なんかいも、なんじゅっかいも、なんびゃくかいも……………つかれ、た…」

 

語る内容の大半は理解出来なかった。だが痛いほど伝わった。ヒナの前で蹲る子供は、ヒナよりも何倍、何百倍も苦しみ、絶えて歩き続けてきた。限界なんてとっくの昔に通り過ぎて、壊れながら歩き続けたのだろう。

 

―――ひび割れていた器から水が漏れた。

 

ただ、それだけの事。

 

この子供は、もう壊れている。出会った瞬間から今に至るまで、ヒナが接していたのは壊れた子供だったのだ。

 

「………キミ。一緒に、遠くに行かない…?在るのかは分からないけど……楽園(エデン)よりもずっと遠く、もう二度と誰にも合わない様な場所に…」

 

決して逃避行などではない。隣りに居るだけだ。銀世界の果て、煌めく波の音に身を任せて。ずっと、ずっと、世界が終わるまで隣りに座っているだけ。

おぞましい誘いは楽園(エデン)への切符ではなく、だが今も身体を灼き焦がす地獄から逃れる為の、唯一の道標。

 

ヒナは思う。別に断られても、それはそれで構わないと。もうヒナは戻れないが、彼岸キミならば先生が居なくとも光のある世界に戻れる。大人の居なくなったキヴォトスは連邦生徒会長が行方を眩ませた時以上に混乱するだろうが、きっとどうにか出来ると確信はある。

 

ただ唯一、ヒナが寂しいだけ。そんな感情すら先生を守れなかった罰と思えるのだ。ヒナもまた、心の大事な部分が壊れていた。

 

暫しの沈黙。待ち時間なんて幾らでもあるのだから、銀世界に侵食された海をボーッと眺めて待つ。永遠には続かない時間が、然し何よりも長く感じる。だが嫌な感覚ではなかった。

 

この場所で交わした言葉はあまりにも少なかった。それでも遍く可能性の()()()を決めるには充分だったのだろう。

 

「……いいもの、ある」

 

「いいもの?」

 

「ん」

 

彼岸キミは傍らのリュックサックに手を突っ込み、乱雑に物を取っては放り出す。愛銃、額に0と記された目隠し帽、猫缶、マタタビの瓶詰め、猫用ブラシ、18禁成人向けアダルトゲーム、血だらけの眼球、光学迷彩ふんどし、ピカピカの泥団子、サイレース――

 

その全てを後方に投げ捨て、やっと目的の物を取り出す。

 

複数の魔法瓶。

 

そして、丸みを帯びたガラス瓶。中には当然、液体が入れられている。三分の二程度の琥珀色の液体――見慣れない其れだが、豪奢で高級感のあるラベルを読み、ヒナは理解した。

 

「……これ…ブランデー?」

 

「ひつよう、かなって………まほーびんのなか、は……ぜんぶ、ぬるま湯………使()()?」

 

「ッ!」

 

淡々とあどけない声で続けるのに、最後の問いだけはやけにハッキリと発音する。これで何も察しないほど、ヒナも鈍感ではない。寧ろ先に提案したのはヒナなのだから。

 

「つかうなら、いっしょに。いく、んでしょ…?いっしょに、とおくに」

 

「………………」

 

不思議と、抵抗感はなかった。

 

初めて彼岸キミという生徒に会った時、彼女は思った。本能的に察してしまった。

 

――この子は長生きしない、と。

 

既に死んでいるようにも思えた。ヒナはほんの軽くではあるが、彼岸キミを知っていた。梔子ユメが亡くなるまでアビドスで暮らしていた事も、その後に災厄の狐と行動していた事も。

 

人柄は知らなかったが、活発的な印象はあった。彼岸キミの捕まえた指名手配犯の数がそれを物語っていたのだ。

然し初めて彼岸キミを見たのは、連邦捜査部シャーレの大人の横。生気を感じさせない瞳とボロボロの身体を包帯で覆った小さな子供だった。

 

故に、誰に殺されるでもなく。病気の野良猫のように、自然に死んでしまいそうに思えたのだ。

 

そんな子供が取り出したのは、優しくて寂しい死に方の提示。違和感はない。違和感がなかったから、酷く冷静に受け入れられた。

 

「……いいね。最期だから、()()()()()()。悪くない、かも」

 

「不良、だ。ふうきいいん、なのに……」

 

「ふふっ……知らなかった?私、結構不真面目だよ。他の風紀委員の子と違ってね」

 

少しだけ柔らかく、普段よりも子供っぽく。明日にはもう消えている儚い微笑みで、悪戯に囁く。誰も居ないのに、隠すように耳元で囁く。

 

こそばゆくて首をすくめ、彼岸キミはたった一言だけ――しってる、と返した。それが可笑しくて、ヒナはまた少しだけ笑ってしまう。

極限の状態に気分が高揚する。何処か深夜テンションに近く、さながらほんの少しだけ未来を想像して、元気の前借りをしているようだった。

 

 

 

海を見て、拙くも少しだけ会話した。

 

好きな物や、実は苦手な食べ物。趣味、普段から何をしているのか。何を遺してしたか。

 

何でも良かった。ただ、短い旅路を共にする相棒の事を最期に知っておきたかった。そんな世界の果てが、ヒナにはあまりにも眩しくて、美しくて、まるで中心であるかのように錯覚してしまいそうだ。

 

互いに好き勝手に話し、時に笑い。やがて自然に会話が途切れた頃――

 

「……………」

 

「……やる…?」

 

「うん。教えて?あまり、詳しくないから」

 

まず初めに、二人は厚い衣服を脱ぎ捨てた。制服は勿論、ヒナは下着も外して肌着だけになる。あまりにも薄い肌着はこの状況下でもヒナに羞恥心を思い出させ、つい無意識に胸元を腕で覆ってしまう。普段は何も考えていないが、薄く白い生地があまりにも頼りなくて。透けさせてしまいそうで、この時ばかりは無駄に大きくなくて良かった、と安堵した。

彼岸キミも同様にシャーレの白と青の制服を脱ぎ、黒いシャツと、寒気がする程に手術痕のある両腕を寒空の下に晒す。誰にも見せなかったそれにヒナは息を飲むが、敢えて声は掛けなかった。

 

「つぎ。これ」

 

「タオル………羽織ればいいの?」

 

「うん。濡らして、はおって、はだに密着させる」

 

「だから魔法瓶がこんなに沢山……」

 

比較的大容量と言える魔法瓶が複数本。中身はぬるま湯だったが、極寒の地においては風呂の湯のように暖かく感じる。

桶などがあれば受け皿にしてタオルを満遍なく塗らせるのだが、無論ないので羽織ったタオルに直接かける。丁寧に、肌着にも染みるように。上がる湯気が宙に消えるのを勿体なく思いながら、然し憂いがないように全てのぬるま湯を使い切った。

 

最初は暖かかったが、それも時間の問題だ。濡らされたタオルと下着が寒風に晒され、徐々に冷えていき。急激に体温も奪われる。ヒナの心臓が、これは危険だと訴えて激しく鳴る。だが構わず、続けた。

 

「で、ブランデーを飲むのね」

 

アルコールは低体温症のリスクを高める。意識を揺らし、動けなくしてしまう。聞き齧りの知識だが、この際、ヒナにとってはどちらでも良かった。効果的でも、その逆でも。衣服を脱ぎ肌着と羽織るタオルを濡らした時点で既に結末は決まっていたのだから。

 

微かに震える手でブランデーのキャップを外し、一瞬、彼岸キミの手が止まる。ある意味では初歩的なミスに気付いてしまう。

 

「……あ、こっぷ…ない……」

 

「…………キミ、目を閉じて?」

 

「……?ん、わかっ―――んぐ…っ!」

 

「んっ……んちゅ、んっ……んくっ……ケホッ、ケホッ……変な味。初めてなのに」

 

「………んっ、ふぅ…えっち」

 

「コップがないんだから仕方がない。でしょう?」

 

「…なら、しゃーなし」

 

先にヒナが口に含み、幼子と()()()()。貪るような舌で不慣れなアルコールを泳がせ、互いの唾液と共に嚥下する。

青白い肌が薄ピンクに染まるが、二人で仕方がなかった、アルコールのせいだ、と言い合ってから二度、三度、ヒナが上となり薄い身体を密着させて同様の行為を繰り返す。

 

瓶の中身が半分を切った頃、最初は感じていた喉の熱さも慣れてしまい。あるのは唇の奥を許し、静かに艶めかしく鳴る水音のみ。やはり不思議と、この熱だけは極寒の果てに溶けてしまうのが勿体なく感じた。

 

――この先に言葉なんて、殆どなかった。

 

かつてない酩酊感。酔っている事を自覚しながら、徐々に行動不能となる身体。それが酔いのせいか、或いは危険な程の低体温症故か、既に判断するほどの理性は残っていない。ただ目の前の愛おしい、共に旅路を歩き切る相棒だけを見ていたかった。その手で、その唇の奥を、ずっとずっと感じていたかった。

 

 

 

やがて酩酊感の淵、フワフワとして意識が完全にシャットダウンされる刹那――冷たくて感覚のない身体の中で唯一、硬く絡ませた両手だけが暖かくて、安心出来た。

 

一つの安心感だけを頼りに、ヒナは微笑みながら眠りについた―――もう覚めない、楽園を夢見て。

 

「おやす、み……きみ…」

 

「ん……いっしょ、だから………」

 

ここに、一つの旅路が終わりを告げたのだった。

 





先生
・実は奇跡的に生き残っていた大人。でも彼岸キミが死んだので、無事死亡。ついでに隠してあったブランデーとアダルトゲームを盗まれていた。

彼岸キミ
・凍死した瞬間、目を開けると次の世界。無事に自室ことシャーレ第二休眠室を爆発させた。

空崎ヒナ
・未成年飲酒。スヤァ…()

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