装甲列車、異世界へ ―陸上自衛隊〝建設隊〟 異界の軌道を行く旅路― 作:えぴっくにごつ
6-1:「アジャラカモクレン マルチプルタイタンパー テケレッツのパー」
帰還を果たした第三王女ミューヘルマと、そして参上した自衛隊の手によって。
帝国の支配の手からついに解放された王都エーティルフィに、ミュロンクフォングの地。
現在はさらに到着した自衛隊の後方、支援部隊を主として。
少なくない数々の傷を負った国に民に対しての救護、支援他が、持ち込める限りの力に物資をもって行われている。
他。数々の処理事項、調整他が膨大な数に上っていたが。
会生等の第701編成隊は一度、王都エーティルフィを離れ。帯びていた〝本来の任務〟を完遂すべく動いていた。
――王都より少し離れた地域に、深い森が広がっている。
その内の最奥に、編成隊が目的地として目指していた〝施設〟が。〝凛音の聖堂〟と名付けられた場所が存在しているとの事なのだ。
その聖堂は、ミューヘルマたち王族からの話によれば。
古代文明の――。
今となってはその歴史を紐の端すら見失われ。それを紐解き辿ることすら叶わなくなった、遥か古代の文明より残った施設と言い伝えられているそうだ。
そしてそれは、わずかに残された言い伝えと言いつけによって、ミュロンクフォング王室によって静かに護られて来たのだという。
そして、建設隊 第701編成隊の先遣偵察隊がその森に到着した際に。また驚くべき〝ある物〟を見つけるに至った。
最早お約束のように。本線よりの分岐から聖堂のあるこの森まで伸びていた、白衣と科学者の人物が用意した異質な線路軌道だが。
ここに来てその線路軌道は、森を境に別の〝路線〟へと接続していたのだ。
それは大変に古びた。朽ち果てずに原形を保っていた事が奇跡なまでの状態の、別の線路軌道であった。
引き続き編成隊に同行していたミューヘルマの話によれば。それはまた古代文明の聖堂と一緒に、遥か昔より、この国の人々が知る限りより存在していたらしい。
編成隊の保線小隊が調査すれば、その規格はこの異世界にここまで用意されていた線路軌道と同一。すなわち、日本の鉄道規格と同一のものであった。
ここに来て驚くべき事実がまた発覚し、そして同時にこの異世界の謎はさらに深まったが。今はそれを探る手段も時間も乏しく。
編成隊は聖堂を目指すべく、その古代文明の線路を頼りに行く事となった。
その古代文明の線路軌道は、推測される経過年数に反して、驚くべきまでの良好な状態を維持していたが。しかしそれでもいくらかの劣化変形は見受けられ。
自衛隊は万全の進行のため、後方よりバックアップのために後続していた〝別の編成隊〟を呼び寄せて合流した。
――第771編成隊。
呼び寄せられたその編成は、第701編成隊と同じく第7建設群に編成される隊であり。より大掛かりな保線作業を行うための、保線作業専門の編成だ。
マルチプルタイタンパー――線路の歪みを修繕する保線用機械車両を筆頭に、いくつかの作業車両を組み込み編成される。
以下、進行方向順に編成を記載する。
・マルチプルタイタンパー
・DD14形ディーゼル機関車(重連運用、1号車)
・DD14形ディーゼル機関車(重連運用、2号車)
・客車(隊員用)
・有蓋車
・有蓋車
・ソ80形貨車(操重車(クレーン))
・控車
・車輛積載車(軽装甲機動車×1)(警戒班)
・長物車(銃座兼雑貨車)
当編成が、会生等の第701編成隊に合流。連結接続から編成を合同のより長大なものとし。
確実な調査、保線作業を行いながら。
深く静かに護られていた森を。しかし発動の音と鉄の鳴る音を騒がしく立てて、掻き分け進んでいた。
「――クリア」
「ナシ」
保線作業を行いながら、古代の線路を進み森を掻き分けて行く列車編成。
それに先行する形で、会生率いる観測遊撃隊は進路上の偵察、クリアリングに当たっていた。
「了解」
散会展開する各員からの報告を受けながら、自身はいつもの様子で堂々歩み進む会生の姿が見える。
「……何か、不思議な森だな。深く、そこはかとない闇に包まれているのに。不気味さは無く、何か神秘的に護られている感じだ……」
ここまでに進み見て来た、この森の雰囲気を言葉にしながら、そんな感想の言葉を零したのは百甘。
「ハッ、変わりがあるかよッ。薄気味悪いだけだ」
しかしその百甘の言葉に直後には、調映が白けた顔でそんな吐き捨てる言葉を寄越す。
「まったく、君は……」
その調映の揺るがぬ姿勢に、顔を渋くする百甘。
「お経でも唱えたらどうだ、お前の十八番だろう?怪異が出ても追っ払えるんじゃないか?」
そんな調映に、静かで端的な色の言葉で促し向けたのは、対戦車火器射手の櫛理。
「思い違いをするな。お経は故人を極楽浄土へ導くためのものだ、邪や霊を払う物とはまた別物だ」
しかし櫛理からの提案に、調映は真底呆れた色でそんな回答の言葉を返した。
「何だ、違う物なのか。良く聞いたんだが、ええと――あれだ」
それを聞いた櫛理は「はーん」と言うように返し、それから続けて何かを思い起こす様子を見せ。
「――アジャラカモクレン、テケレッツのパー」
それからそんな言葉を紡いで見せた。
「それは違う」
「落語だろう、それは……?」
それに、しかし調映はまた端的に違いを指摘する声を向け。
合わせて百甘がいささか渋い顔を作って、一種のツッコミを入れる言葉を紡いだ。
そのおまじないが効力を発したかは怪しい所だが。
編成隊は敵対勢力、及び怪異他に遭遇する事は幸いなく。順調に森を掻き分け進んでいった。
「……」
保線作業を地道に行いながら進んでいく編成隊。
その様子を、今も同行しているミューヘルマにクユリフやエンペラルは。今となっては手伝えることも無く、端から手持無沙汰に眺めていた。
「あらゆるを自分等の手でこなしてしまう。驚くべき人々だ」
そんなミューヘルマの横で声を零すは、美麗なダークエルフの美女――に見まがう程の美男子。
ミュロンクフォングの第一王子にてミューヘルマの兄、ハーリェ王子であった。
帝国に捕らわれた身より解かれた彼は、今は王国からの代表同行者としてミューヘルマと共に、編成隊に同行していた。
「はい。不思議で、強大な力を持つ方々です。それに私は、そして王国は救われました」
「彼等はそれに対価を何も求めないと言う……無礼だが、ある種ご無体なまでだな」
ここまでの自衛隊との様々な事柄を思い返し。少しの思う所をそれぞれ顔に見せながら、言葉を交わす兄妹。
(くふふ……ハーリェ様。悩ましい顔がまた私の加虐欲をそそりますわ……♡)
そんな美男子ダークエルフのハーリェを。馬人娘のエンペラルはと言えば――美男子が大好物の彼女はと言えば。
また相棒――エンペラル自身は所有物と宣う――青年クユリフを侍らせて。彼のその華奢な尻に太腿を、己が馬尻尾で撫でまわすセクハラで愉しみながらも。
強欲にもハーリェにも欲情し狙う眼を向けている。
「……」
「……」
ハーリェにあってはそれに気づいていないが。
クユリフは相棒のそれに呆れ困った目を向け。
ミューヘルマに至っては、エンペラルの兄を狙う下劣なそれには、大変に白いジト目を向けていたが。
《――たいたんぱっ》
そんな、少しトンチキな光景を伴いつつも、保線作業を見守っていたミューヘルマ達であったが。
その背後より、異質な色での〝声〟が掛かったのはその時であった。
「ひゃぁっ!」
「!」
唐突なそれに、思わず驚き飛び上がるミューヘルマたち。
「王子殿下、王女殿下に皆さん。すみません、お下がりをっ」
そこへ続け、促しと詫びる声が掛かり来る。
ミューヘルマが振り向けば、まず駆け寄って来て退避を促す祀の姿が見える。
そしてその後ろより、線路軌道を徐行速度で走って来る物々しい編成隊の車輛編成が見えた。
「あぁ、すまん。驚かせたな」
その編成の先頭車両の、車上キャビン部分より。身を乗り出して詫びる声を掛けて来たのは、第771編成隊の保線要員幹部。
そしてその先頭に位置する物々しい車両こそ、保線用機械の筆頭たるマルチプルタイタンパーであった。
「マツリさま……っ。いえ、お邪魔を」
自身も自分たちが作業の邪魔をしてしまったと気づき、詫びつつも少し軌道より離れるミューヘルマたち。
《まるちぷる》
その、今にも聞こえた異質な音質での音声が、再び聞こえたのは直後。
その発生源こそ、そのマルチプルタイタンパーの搭載スピーカーからであった。
「あぁ、「ゴメンね」だってよ――たぶん」
そのマルチプルタイタンパーの発した言葉?、音声を翻訳するように告げ。しかし最後に、それが予想であることを沿える保線幹部。
「え?は、はい……あ、あの、この鋼鉄のカラクリにはひょっとして意志が……?」
「ゴーレムの類なのか……?」
そんな保線幹部から告げられた、意表を突かれる言葉に。
しかしそこから推察し、マルチプルタイタンパーに〝意志〟がある可能性を察して、質問を向けるミューヘルマにハーリェ。
「あぁ、正確には人口知能――つってもピンとこないか。類似したモンかもな」
それに保線幹部が返したのは、漠然とした肯定寄りの言葉だ。
明かせば、これも件の作業服と白衣の人物からの贈り物の一つ。
地球日本と異世界が接続するに伴い。
自衛隊、建設隊の保有する一部の車両機械に、気付けば高度な人工知能が搭載実装されていたのだ。
これもまた、異世界に赴く自衛隊への手助けとするものらしかった。
《たいたんぱ》
その保線幹部の肯定にまるで同調するように、マルチプルタイタンパーはまたそんな〝声〟を発し向ける。
「まぁ、それはいいけど……なぜそういう喋り方……?」
しかしそこで疑問の声を向けたのは、隊員である祀。
マルチプルタイタンパーはその名称の通りのように。音声による意思表示を全て「まるちぷるたいたんぱー」と発声することで表現しているのだ。
「まぁ、昔からマルチプルタイタンパーと言えばこいつの事だしな」
これにあっては、マルチプルタイタンパーに人工知能の実装が確認された当初よりそうであり。隊員各位からも大変に珍妙に受け取られていたものの。
ある種、このマルチプルタイタンパー機の特性他から宿った〝個性〟ということで納得されており。
それを含めてしかし、そんな説明になっているのか怪しい回答を保線幹部は返した。
(それは知らない……)
それに祀は、内心で突っ込みを入れるが。
《まるちぷる》
次にはそれをよそに、マルチプルタイタンパーがまた声を発したかと思えば。誰に操縦されるでも無く、〝彼の意志〟で動き出したのは直後。
「あっ、おいおい」
それに気づき、車上の保線幹部が少し困った声をあげるが。構わずマルチプルチタンパーは線路軌道上を徐行速度で向こうへ走って行き。
《たいたんぱー》
「じぇろにもーッ!!」
その先の軌道上で、保線作業に当たっていた一人の建設隊陸士を――明かせば、マルチプルタイタンパーのお気に入りであるらしい隊員を追いかけ出し始めた。
《たいたんぱー!》
「じぇろにもーーッッ!!」
楽しそうに音声を上げて追いかけるマルチプルタイタンパーに。
対して、驚きと混乱からか。珍妙な張り上げ声を上げて線路軌道上を逃げる姿を見せるその陸士。
そんな、奇妙奇天烈な光景が向こうで繰り広げられる。
「……本当に、不思議な人々だな」
「……あの光景に関しては、不思議の種類も色々違う気がしますが……」
そんな光景を向こうに。ハーリェとミューヘルマは、言葉にし難い困惑を交わし。
その場の各々は、珍妙な光景に後頭部に困り汗を浮かべるのであった。
マルチプルタイタンパーのネタが分かる人は申し出て頂けると、俺等の仲間入り。