ダンジョンアタック自衛隊   作:星野林(旧ゆっくり霊沙)

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ダンジョンアタック自衛隊 前編

 始まりは新潟県の板山を観光中の男性から始まった。

 

「あれ? スマホが使えないぞ? 圏外? ···いや、前に来たときは使えたよな」

 

 その男性はその事を一応電話会社に連絡し、男性以外にも複数の問い合わせがあったことで、基地局が障害を起こしたのだろうと、復旧の作業員が送られた。

 

 作業員達が板山の中で電波を測定すると確かに異常が見られた

 

「あー、やっぱり基地局がダウンしているっぽいな」

 

 ベテランの作業員がそう言うと、基地局のある場所に向かう。

 

「あれ? おかしいな。何処にも異常が見当たらない」

 

 電波障害は確かに起きている。

 

 しかし、基地局をいくら調べても異常は見当たらない。

 

「班長、これなんすか?」

 

 若い作業員が声を掛ける。

 

 班長と呼ばれたベテラン作業員は若手の言う方に向かうと···

 

「何だこれは?」

 

 左右に甲冑を着た石像が長い槍を交差させている。

 

 こんな場所に場違いな石像があることも異常であるが、地面と石像の槍が交差している空間が渦を巻いている。

 

 明らかな異常···班長は異空間に近づいて写真を撮り、歪んだ空間を避けながら裏を見たりするが、裏には何も無く、禍々しい、空間のみが異常性を現していた。

 

 渦の様なその空間に落ちていた長い木の棒で突っついて見ると、木の棒は渦に引っ張られるように吸い込まれそうになった。

 

 慌てて木の棒を引っ張ると、木の棒は折れることも無く、突っ込んだ状態を保っている。

 

 

「何だこれは? ますますわからねーな」

 

「班長、一回報告しましょう。明らかにやべー案件ですよ」

 

「あぁ、そうだな」

 

 作業員達はこの事を上に相談し、最初は信じられなかったが、異常を現す写真や、班長が木の棒を突っ込むところを若手作業員が撮っていた映像を見せられると、上司も異常性を認識し、翌日、検証員を伴って現地を視察。

 

「警察案件だなこれは」

 

 土地の所有者とも話し合いをし、警察に介入してもらうことになり、警察にも異常を現す証拠を見せると直ぐに動いた。

 

 警察は犬にカメラを取り付けて有線で異空間内部の撮影をすることにも成功したが、内部に人型かつ、ゴブゴブと喋る謎の生き物に警察犬が攻撃されるのを確認すると、犬を撤退させた。

 

 明らかにファンタジーに出てくるゴブリンそのものであるが、害獣として駆除しても良いのかとか、この異常が増えるのではないかとか、異常を放置していたら内部に居た化け物が出てくるのでは無いか等の事態を想定し、ロボットを用いた調査を続けることを決めた。

 

 この事は新潟県警内部で処理できない可能性もあるとして更に上に持ちかけられ、警視庁に応援を要請し、多角的な方法を試すことにした。

 

 ·ケース1

 

 門(仮)破壊、封鎖

 

 門を構成する石像の破壊を様々な道具(例 ドリル、ウォーターカッター、爆弾等)を用いて試みたが、傷1つ付ける事ができずに終わる。

 

 その為、板山の一部を封鎖に留めた。

 

 ·ケース2

 

 ロボットを用いた門の内部の調査

 

 無線型ロボットだと門の内部に侵入すると、無線が届かない事が判明したために有線で行うことになったが、音響探知を実施したところ、内部空間は入り組んでおり、生命反応も多数あることが判明した。

 

 緑色の肌をした子供程の大きさのゴブリン(仮名)と犬を二足歩行させているとしか思えないコボルト(仮)が内部に存在し、鋭利なナイフを使ってロボットに攻撃を加えて、数台のロボットが破壊された。

 

 そこで姿を似せたロボットを作製して投入したが、直ぐに看破され破壊されてしまう。

 

 ロボットを用いた調査も断念したものの、内部のゴブリンやコボルトの数が日に日に増えてきていることから、門から溢れる危険性があると警察は判断、警察上層部も警察だけで抱え込んで、事態収拾に失敗した場合、自分たちに責任が及ぶのを嫌い、政府に対応を依頼し、そこから自衛隊へと投げられた。

 

 自衛隊は暫定的な対応処置として門の内部の生き物が動く物に反応して攻撃するため、攻撃を加えたら爆破する電池式のロボットを投入し、数を減らす事には成功した。

 

 ただ根本的な解決ではないこと、永続的にやるには予算を圧迫するとして近くの新発田駐屯地の普通科連隊の連隊長に本案件を一任されることとなる。

 

 

 

 

 

「貧乏くじ引いたな。何でよりにもよってうちの近くにダンジョンができるかなぁ」

 

 門という名称が使われていたが、連隊長や一部の人はこれをダンジョンと呼んでいた。

 

 連隊長もサブカルに理解がある人で、アニメとかも息抜きに見たりするので、門の情報を聞けば聞くほどダンジョンという物に見えて仕方がなかった。

 

「俺はダンジョンが1つで済むとは思えないんだよなぁ。ぽこぽこたけのこのように出現しそうで怖いんだよなぁ。そうなる前に必ず『人』を送り込む必要が出てくる···上層部もなんでうちなんだよ。そういうのは特戦群(特殊作戦群 自衛隊の特殊部隊)とかに投げろよ···でも今後を見据えた動きをするか、場当たり的な対応をするか···」

 

 連隊長はここで連隊最高の練度を誇る分隊(半数がレンジャー履修済み)を投入して一気に終わらせることも考えたが、万が一ダンジョンが複数個出てくるようになれば、一般隊員を投入しなければならない。

 

 本案件は訓練した一般隊員を送った方が後々為になるのではないかと連隊長は考える。

 

「···後者でいこう。そうなるとうちで一番練度の低い部隊が適任だな···第3中隊の浜田幹部のところの小隊に成績の悪い分隊が居ると言っていたな。そこを使おう」

 

 こうして連隊長の思惑が絡み、新発田駐屯地の最弱部隊がダンジョンアタックの部隊に選ばれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新発田最弱の分隊 田中分隊

 

 そこに所属する陸士3年目の仲山陸士は部屋で靴を磨いていた。

 

「今士長、お前またロッカーぐちゃぐちゃじゃねぇか! そろそろ営内点検があるんだから整理しろって」

 

「す、すみません!」

 

「お前謝るのだけはいっちょ前だよなぁ」

 

 この部屋では分隊員の半数の4人が共同生活をしている。

 

 今俺の前で怒鳴っているのが柳田3曹で、怒られているのが今士長。

 

 今士長はかれこれ6回陸曹試験を落ちているので万年陸士と呼ばれて馬鹿にされたりしている先輩であり、柳田3曹は少し自己中な方で、こうして俺や室長かつ分隊長の田中2曹が居るのに大声で怒鳴り散らしている。

 

「あの···柳田3曹、今士長を怒るの別の場所でやってくれない? ···今ゲームで良いところなんだけど」

 

「田中2曹が今を怒らないから俺が怒ってるんすよ!」

 

 田中2曹は悪い人じゃないんだけど、気弱く、ボッチ気質···というか食堂とか仕事以外で他の陸曹と絡んでいるのを見たことが無い。

 

 土日の休みの日も連休だと一人で何処かに出かけて帰ってこない事が多々ある。

 

 俺は我関せずを貫いていたが、いつもこうなると飛び火してくる。

 

「仲山士長、お前も靴磨きにいつまでかけてるんだよ! もっとテキパキ終わらせろよ」

 

 いや、柳田3曹、あんた早く終わらせるために屋上で半長靴ライターで炙ってるの見たからな。

 

 あれやると綺麗になるけど、半長靴が傷むから禁止されてるの破ってるの知ってるんだが? 

 

「···体力錬成行ってきます」

 

「あ、はい、反射タスキ忘れないようにね」

 

「おい、仲山逃げるんじゃねぇよ! 仲山!」

 

 煩い柳田3曹から逃げるように俺は上下ジャージと反射タスキをかけて運動場にて走り込みをする。

 

 基地内では安全の観点から、夕方以降に体力錬成をする場合、反射タスキを着用しなければならない。

 

 まだ7時ということもあり、ポツポツと体力錬成をしている隊員が見受けられる。

 

 新発田駐屯地は元々城趾に設置された駐屯地なので、城の櫓がそのまま残っていたり、大きな資料館が設置されていたりする。

 

 まぁその資料館が駐屯地の敷地を圧迫して、駐屯地本体が他の駐屯地に比べて凄い小さいのだが···

 

 白塗りされた櫓を見ながら走っていると

 

「よぉ、仲山、お前も体力錬成か?」

 

 話しかけてきたこいつは鶴田士長で俺と同期かつ、同じ分隊員である。

 

 鶴田は隣の部屋で生活をしている。

 

「柳田3曹の怒鳴り声が隣まで聞こえてきたぞ。勘弁してくれよな」

 

「ほんとだよ。まぁ3〜40分走ってれば落ち着くでしょう」

 

「それもそうだな」

 

 鶴田は元々柔道で全国に行くほど運動ができるんだが、目が悪い。

 

 眼鏡をかけていて、射撃の成績が悪いが、代わりに体力検定(自衛隊内で行われる体力テスト)は特級と最上の検定結果を出していた。

 

 俺は射撃の検定や体力検定、冬にあるスキー検定等はどれも平均やや低め程度の成績だ。

 

 別に手を抜いているわけではないが、自衛隊という体力オバケ達の中だとどうしても普通の人だとこれくらいに落ち着いてしまう。

 

「もうそろそろ演習が始まるよなぁ···1週間以上山籠りだから辛いんだよなぁ···いつガス訓練入るかわからねーし」

 

「鶴田前に状況ガスの声がけが聞こえなくて、いつの間にか訓練終わってたって聞いたが、怒られなかったのか?」

 

「いや? 上に報告しなかったし、特に何も」

 

「あのマスク付けると息苦しいし、視界が悪いし、使ったら掃除がめんどくさいんだよなぁ」

 

 それもそうだなそんな事を話しながら走れる時点で自衛隊に染まっているのだが、鶴田と体力錬成を終え、時間を合わせて風呂場に行く。

 

 風呂場には大きな浴槽が2つとサウナが存在する

 

「風呂場営内から離れているのが辛いよなぁ」

 

「広い基地だと営内と風呂場が繋がっていて行けるらしいよなぁ」

 

「雨の日とか雪の日でも楽ちんじゃんそれ···羨ましいわ」

 

「でもうちの駐屯地にはサウナがあるから良いよな」

 

「小さいけど水風呂あるし···サウナ鶴田も入るか?」

 

「勿論」

 

 体を洗ってからサウナへと入ると小隊長がサウナに先客として入っていた。

 

 いつも死んだ目をしている小隊長だが、サウナに入っている時だけ活力が戻るのかキリッとしていた

 

「なあ鶴田、小隊長いつも死んだ魚の目してるのに、精気が珍しく宿ってるな」

 

「仲山、確か小隊長久しぶりに家に帰れるって愚痴ってたからそれじゃね?」

 

「あー、ありそう」

 

 風呂は幹部(陸尉以上)と陸士、陸曹は別なのだが、サウナだけは共有になっている為に幹部と一緒になれる数少ない場所でもある。

 

 そこからは無言だったが、幹部がこちらに気がついたのか、俺達の横に座り、小声で

 

「お前ら背嚢に痛み止めと非常食入れておけ、特に甘味···演習よりも辛いかもしれん」

 

 と言われた。

 

 風呂から上がると、直ぐに基地内にある売店に向かい、乾パンや溶けにくいチョコ、アメ、カロリーメイト等を買うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、中隊長に呼び出された。

 

 日常的に会う幹部の中だと中隊長が一番偉い。

 

 早朝に中隊長による号令があるからだ。

 

「田中2曹以下7名の者入ります!」

 

「入れ」

 

「失礼します!」

 

 中隊長室に入り、整列し、直立の姿勢で話を聞くと、俺達の分隊は連隊長から名指しで特殊な任務を受けることとなり、それに備えて訓練を半年間受ける···らしい。

 

 その場で遺書を書かされ、数日間は駐屯地内で幹部が作製した体力錬成、その後射撃訓練から始まる分厚い冊子に書かれた教育項目の数々に、また新隊員教育の様な地獄を覚悟することとなる。

 

 国防というよりお給料を稼ぐ為に働いている俺達はげんなり

 

 田中分隊員の中での共通認識としてサラリーマンの代わりに自衛隊員(国防意識や災害救助等に尽力というよりは金の為に自衛隊をやっている隊員)をやっているという認識であり、それ故に今回の指令は、またあの辛い教育を受けなければいけないのかと思うと士気が落ちてしまう。

 

「決定事項だ。本日1200より再教育を開始する」

 

『了解!』

 

 と返事をするのだった。

 

 

 

 

 

 訓練教官を見ると俺達はドン引きした。

 

 胸にはレンジャー徽章が俺達をあざ笑うかのようだ。

 

 輝いているようにも見える。

 

 その教官に言われるがまま、体力錬成を開始し、準備体操をしたあとに自衛隊体操5セット、規定時間以内の10キロ走、そこから着替えてハイポート5キロをした後に武装障害物走(フル装備で25キロ弱)をやらされた。

 

 ハイポートは控え銃という銃を胸前で構えた状態で駆け足をする行為であり、武装障害物走は更に装備を装着した状態で壁登り、匍匐で鉄条網の下を潜り抜け、綱登り、うんていをやらされる。

 

 それがとにかくキツイ。

 

 全員がゲロを吐きながらも訓練をこなして初日を終えるのだった。

 

 初日がキツイだけかと思いきや、それが毎日で、翌日からはこれに筋トレが加わる。

 

 座学が無いだけマシであるが、俺は辛すぎて顔面が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだし、今陸士なんかは体力錬成をサボっていたのか、産まれたての子鹿みたいになっていた。

 

 俺等みたいに二十代はまだマシであり、町田3曹みたいな中年隊員は筋肉痛が取れなくて戦闘服の下は体中湿布だらけになってしまっている。

 

 体力に自身がある鶴田士長も辛そうにしていたが、そんな訓練が2週間も続くと土日の休みは営内で皆死んだように眠ることしかできない。

 

 そして射撃訓練では立ち撃ちや近接射撃ばかりやらされる。

 

 次第に格闘訓練の比率も高まり、俺を含めて訓練の意図を図り切れずにいる中、別の駐屯地に泊まり込みで閉鎖空間での行動訓練や地図の作製訓練を受けると、いよいよ何がしたいのかわからなくなる。

 

 アニオタの真田士長なんかは大好きなアニメやゲームがやれなくてイライラが溜まっているし、柳田3曹は疲れすぎて怒る気力も無いし、新人士長の宮永陸士は常に泣いているし···

 

 レンジャー教育よりは緩いのだろうが、一般隊員としては十分にキツイし、命令だから辞められないし···

 

 自殺者が出ないのが奇跡である。

 

 訓練開始後5ヶ月が経過···そこで中隊長から本訓練が門(正式名称 調査対照【甲】)と呼ばれる未知の空間への調査を目的とした訓練であることが開示された。

 

 オタクの真田士長とそういうのが好きな田中2曹は興奮していたがそれ以外のメンバーは内部の映像を見てガチで死ぬんじゃないかと思えてしょうがない。

 

「本任務は自衛隊内部の査定に大きく影響する。陸曹は昇進が大幅に短縮されるし、士長達も陸曹以降の昇進が早まる。勿論任務中危険手当と数年間ボーナス査定がSで固定される」

 

 任務が何日続くかわからないため日当の危険手当は大した額では無いだろうが、ボーナスS判定は大きい。

 

 通常B判定のボーナス支給100%がS判定だと150%程支給されるはずだ。

 

 毎年2回のボーナスが数年S固定であれば年収が50から100万近く差が出る。

 

 それだけ危険を含むということであるが、俄然やる気が湧いてきた。

 

「本任務は極秘事項とし、3日間英気を養う為の営内休養とする。外出は禁止されるため営内にて過ごす様に···以上!」

 

『了解!』

 

 俺達田中分隊員は地獄が始まることを知らずに···英気を養うのだった。

 

 




前編、中編、後編、後日談の予定

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