とある貴族令嬢の人生 作:こんな感じの書いてください
これを読める人はいるでしょうか? きっといないでしょう。でも……もしこれを読めた人がいるならば私という人間がいた事を憶えていただけると嬉しいです。
私の前世は男でした。ええ……貴方ないし貴女と同じ転生者というやつですね。いえ、もしかしたら読んでいる貴方ないし貴女(ややこしいのでこれからは貴方とします)貴方は転移者かもしれません。もしかしたら神などという存在にも出会っているのかも……そう思うと何だか胸が踊りますね。
話が逸れました。私はとある貴族の御息女として生まれ変わりました。最初の頃はとても楽しかったのを覚えています。前世の死因が過労だったこともあり時間に縛られない幼少期というのは私にとって最も幸せな時だったと言えるでしょう。
見るもの全てが新鮮で……輝いて見えて……不便なことも多々ありましたがそれでも異世界というのは日々が未知との遭遇でした。貴族に産まれたこともあるのかもしれません。
あのころは楽しかった……なんのしがらみがなくて自分の好き放題暴れ回ることが出来ましたから。私の昔話をしても息子達が全く信じないほどの暴れっぷりでしたからね。
屋敷のあらゆる部屋を走り回りメイド達と良く追いかけっこ(もっとも彼女達の顔は青ざめてましたが)をしたものです。
私の人生が狂いはじめたのは5歳の誕生日をむかえた時のことでした。なんと私に婚約者ができたと言って私の父が嬉しそうに報告してきたのです。
ある程度覚悟を決めていたとはいえ元男の身からすると元同性である人物と婚約するというのはやはりそれなりのショックを受けました。けれども前世で流行ったメス堕ち? というのでしょうか。身体の性に精神が引っ張られいずれは女の子として納得出来る日が来る。そう信じていました。
私が6歳になった頃、婚約者である王族の御子息とついに対面する日が来ました。ええ……実は私の家はそれなりに栄えていましたから王族との婚約する事になっていたのです。
この頃の私は不安と期待が入り交じった感情で胸がいっぱいでした。まだ自分の女性としての自覚はなくもし、婚約者である人に出会うことが出来ればきっと自覚は芽生えると思ったからです。
そう信じて待っていた私は表れた人物に一瞬にして魅了されてしまいました。今思うとあれが初恋小賢しいことはやめましょう。この後に及んで私はまだ自分の本音を隠そうとしてしまいました。
とっくにわかっていました。出会った時に恋に落ちた自覚はありました。けれども決して認める訳にはいかなかったのです。男としての私は死に女として生まれ変わった筈なのですから
そろそろ焦らすのは止めましょう。私はあの時恋に落ちたのです。王子ではなく後ろにいる彼女に
婚約者である王子……エドは幼いながらに整った顔をしており金髪のよく似合った少年でした。みんなが思い浮かべるような王子様に成長するのだろうなぁ、と何となくですが理解出来てしまうほどです。
彼は幼いながらに転生者である私とちゃんと会話を交わせるほどに優れていました。容姿がよく優秀な婚約者として最適な人物だとその日のうちに分かりました。もし私が転生してなかったら好きになっていたかもしれません。ありえない仮定は無意味ですね。
正直どんな事を話したのかは憶えていません。私の頭の中には視界の片隅に映る彼女……リリーの姿が焼き付いて離れなかったものですから。
私があまりにリリーの事を見ているものですからエドは気を使って私とエドとの会話にリリーを参加させました。
王子としては褒められた行動では無いのかもしれませんがエドはそんな事を気にした素振りは見せんでした。
最初のうちは遠慮がちに断っていたリリーも最後の方には折れて会話に参加してくれました。
彼女の声はリリーライトという名に恥じないほど鈴のような心地の良い美しい声でした。私は今まで観たどんな吟遊詩人や芸者よりも彼女の声が一番耳に残っています。
今思うと彼女からしたら一言無礼を働いたら物理的に首が飛ぶかもしれない環境で生きた心地がしなかったかもしれませんがあの時の私は全く気付かずにどんどんリリーに話しかけました。ひょっとしたらエドよりリリーと話した時間の方が長かったかもしれない……そう思う程です。
結局その日の対面は成功といった形で幕を閉じました。王子であるエドは私の事を気に入ったらしく婚約者が変わることはどちらかが死ぬぐらいの事が起きない限り起きないと両親から告げられました。
私は全力で笑顔を作りました。やったー! うれしー! などという思ってもないことを口にし普段は決してしないような大袈裟な動作で両親を不安にさせないように喜びました。あの時の私は両親だけでなく自分すらも騙そうとしていたのかもしれませんね
これが私の人生の序章……最も私が幸せだった時の話です。