Fate/incident night   作:桜野 ヒロ

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※ヒロイン視点です


Prolog

 ───────幼い頃から私は、その才覚を惜しむことなく磨いた。

 私という名刀を更により良いものにするべく自身で磨きあげる、その行為は他の鈍達からすれば不快だったのかもしれない。

 その鈍の一振だった父はある日、私に決闘を申し込んだ。

 今なら勝てるかもしれないと、名刀が業物へと変わる前の今のうちにベッキリと心を折ろうとしたのだろう。

 しかし結果は悲しくも、私が勝った。

 折られたのは、鈍の方であったのだ。

 

『何故だ、何故だ、何故なのだ───────!!』

 

 目に涙を溜め込み、泣くのを堪える子供のような顔で父は家を出た。

 その数時間後、父は首を吊って死んでいたと母から知らされた。

 まるでバケモノを見るかのような母の私に対する視線に悟ってしまった。

 誰も、私の事なんて愛してくれてなかったんだって。

 

 ───────あぁ、なんて、繋がらないの。

 

 血は繋がっている。しかし心はどうだろう。

 見事に繋がってない、まるで切られた糸のよう。

 それ以来、私は家族とは会っていない。

 あんなもの、私には必要が無いから。

 一人気高く振る舞うようにするの、それがこの私の人生なのだから。

 

 …………でも。

 

 たまに、仲の良い家族を見ると何故か胸が締め付けられるのは本当に、(いや)になる───────

 

 

 

 ──────────────────────────ー

 

 

 

 ジリリリ、と目覚ましが鳴り響く。

 布団を被っていたが、その防壁すらも打ち破って響き渡るその騒音を苛立ちを込めながら止めた。

 

「───────もう、この日が来たのね」

 

 朝であることを確認した私は同時に、運命の日であると自覚する。

 聖杯戦争。

 願望器を手にする為の聖戦の儀式。

 それを迎える為の駒を用意する日。

 海外から発注してある道具が今日、届く。

 起きて直ぐに、私はベッドの隣りに設置されている学習机、その上に置かれたノートPCを開いて配送状況を確認した。

 

 通販サイトを開き、注文履歴を開く。

 そこに映っていたのは───────先月に壊してしまい買い替えた、目覚まし時計のみであった。

 

「………………………………は?」

 

 真っ先に湧いたのは疑問。その直後に湧いたのはこの通販サイトへの怒りだった。

 システムのエラー? なんで、しかもよりによってこのタイミングで? 

 私は確かに、購入ボタンを押したハズよ。

 なのに、どうして───────いや待って。

 

「しまった……そういえば私……購入ボタン押す直前に学校から電話がかかってきて……パソコンのタスク切ったんだった」

 

 ノートPCの前に項垂れながら、私はため息を吐き出す。

 ……まぁ、別に無くても問題は……多少はある。

 しかし、聖杯戦争への参加券(……)(しっか)りと残っている。

 だから問題は無い。

 ……いや、本当に問題はないと思いたいわ。

 思考を切り替えて私は制服に着替える。

 部屋を出る直前、自身へ暗示を唱えた。

 

「気丈に振る舞いなさい、美月夜空(みづきよぞら)

 

 おまじないのようなモノ。

 気分が落ちた時に、もしくは登校前にそう唱える。

 今までそうしてきて、私は皆の上に立つ役割をこなしてきた。

 家族なんていなかったから、私は今の地位に着けたと言ってもいい。

 美月家五代目当主にして、この街の女王。

 それこそが美月夜空、この私なのだ。

 気持ちを切り替えた後、私は部屋を出て一階のリビングへと移動した。

 

 

 ───────

 

 テレビの電源を入れて、ニュース番組のチャンネルへ切り替える。

 電気ケトルで沸かしたお湯を、あまり好みでは無いがインスタントのコーヒーの粉末を入れたカップに注ぐ。

 学校の日はギリギリまで寝たい為、無駄は基本省く。

 朝食も昨日のうちに作っていたサラダを適当なドレッシングを和えて、それを口に運ぶ。

 

『速報です。今朝六時半頃に和歌山県和歌山市、JR和歌山駅付近の路地裏にて体内の血液を抜かれた状態の遺体を発見しました』

 

 そんな、日常をこなしてる最中に不意に非日常的な報せを受ける。

 聖杯戦争の爪痕だろうが……少し面倒なことになった。

 内心で嫌な予感を()ぎらせながら、私はサラダを食べ終え、残りの支度をすませてから家を出て学校へと向かった───────。

 

 ────────ー

 

 …………どうやら私は今日は不幸らしい。

 なにせ、普段はこの時間に居ないハズの嫌いな奴と校門で出くわしたからだ。

 赤毛の、背は割と高い男。

 底抜けに根明かつ善人なのだと自己紹介しているかのような顔立ち。

 それを裏付けるかのような、困った人は放っておけないとかいう偽善に満ちた性格。

 その全てが癪に障る。

 私と同じ、魔術のクセになんでこうなってしまったのかが分からない人間。

 ついでに今朝の鬱憤を晴らすかのように、私は棘のある言葉をソイツに吐き出した。

 

「おはよう、朱勾君。

 相変わらず間抜けな顔ね、寝起きなのが丸わかりよ。

 情けないわ、貴方はそれでも朱勾家の跡継ぎなのかしら?」

 

「ん? 寝起きってよく分かったな。実は妹が起こしてくれてさ、起きてから遅刻ギリギリまで粘ろうかと思ったけどオヤジにケツ蹴られて仕方なく今日は早めに来たワケ。

 しかし相変わらず、元気そうだな美月」

 

 こいつ、嫌味って存在を知らないのかしら? 

 それくらい鈍いし、それくらい切れ味のある言葉(いやみ)を満面の笑みで返してくれた。

 いや、コイツは多分嫌味で返そうだなんて思考は持ってない。

 本当に、能天気だ。

 目の前にいる男、朱勾達哉(あかまがたつや)は私と同じ魔術師。

 だと言うのに、なんというかとてもじゃないけど魔術師に向いてない。

 根明という程では無い。

 どちらかと言えば、能天気という言葉が似合う。

 会話するとその底抜けな笑顔が気に食わないという感情が、反芻し続ける。

 それがこの男だ。

 これ以上は相手したくない。

 さっさと横を通り過ぎる。

 その去り際、

 

「───────貴方も早く喚ばないと、死んでしまうわよ?」

 

 それだけ。

 同業者としてのギリギリの優しさでそれだけ伝える。

 そして、私は教室へと向かいこの日の授業をを憂鬱な気分のまま終えることとなった。

 

 

 ───────

 

 

 家に着き、すぐに地下室へ赴く。

 地下の倉庫、その混凝土で出来た床には巨大な召喚陣が描かれている。

 それを目の前に、私は『ついに来た』と安堵した。

 

 この舞台に。

 我が家、否。

 魔術師全員が抱く、根源へと通じるという悲願。

 その、大きな舞台に私は踏み入って見せたのだ。

 

「残ってるサーヴァントは何騎で、あとなんのクラスが残ってるか……なんてのはどうでもいいわ」

 

 どんなサーヴァントでも考え次第。

 何せ人は、布ですら人を殺めるための手段を数多に考え出す生き物。

 たとえアサシンでも、ライダーでも。

 私は上手く扱って見せるわ。

 手を伸ばし、目を伏せる。

 同時に身体中に張り巡る多数の魔術回路を起動させて。

 

 私は、スタートダッシュの合図を出した。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返す都度に五度、ただ満たされるときを破却する」

 

 心は無に。

 ただ、詠唱に集中する。

 

「告げる。

 汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄る辺にに従い、この意この理に従うならば応えよ」

 

 ───────死への恐怖はない。

 私は一度、死んでいるから。

 幼く、明るく人懐っこかった人格はもう死なせた(ころした)

 

「誓いを此処に。

 我は常世総ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷く者」

 

 だから、博打に躍り出たわけで。

 そんな中、脳裏に一瞬。一瞬だけ、ある景色を浮かべた。

 ……そのことを黒歴史だと切り捨て、私はすぐに最後の詠唱を綴った。

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ───────!!!!」

 

 

 

 ───────瞬間、目の前が光に包まれ無風の空間に暴風が生じる。

 吹き飛ばされないように、脚に力を入れて踏ん張る。

 その間、数秒。

 その数秒が終え、光が収まる。

 私は、目を開けて目の前にいるサーヴァント───────過去の英雄の姿を見る。

 

 そこには、緑の仮面を着けた頭髪が真っ白な背丈の高い男? がいた。

 

 片手には槍をぶら下げており、クラスはランサーだろうか。

 まぁ、最優のセイバーを呼べなかったのは痛手ではあるがランサーはランサーで嬉しいものだ。

 敏捷性に長けているランサーならば、セイバーにも遅れを取ることはないだろう。

 

「───────召喚に応じて参じた、ライダーだ。

 アンタが、オレのマスターかい?」

 

 雄々しい声が木霊する。

 何処か軽薄そうなその口調ではあるが気にしないでいいだろう。

 しかし……予想とは違いライダーか。

 まぁ、別にいいだろう。

 ライダーもライダーで敏捷性に長けているし、何より宝具という切り札の手数が多い。

 戦略の練りがいがあって私としても嬉しい事だ。

 

「そうよ、私が貴方の主よ」

 

「お嬢ちゃんがか? 

 ……こんな若い子がマスターだなんて、先が思いやられ───────」

 

「不満なら私を殺して、他のマスターを探しなさい。

 私を殺さないと、貴方はきっと後悔するだろうし」

 

 手を広げ、胸を堂々と突き出す。

 何時でも刺せと言わんばかりに。

 私の行動に、目の前のサーヴァントがフッ、と笑を零したのだった。

 

「悪ぃ悪ぃ、冗談だよ。

 どんなに幼くてもオレを呼んだならアンタは何があってもマスターだよ。

 宜しくな、オレの名前は……黙っといていいかい?」

 

「戦略の練りようがないじゃない。

 なんで言わないのか、それなりの理由を話してちょうだい」

 

 怒りを堪えながら、ライダーに訊ねる。

 真名を明かさないのはそもそも、私を信用してない証明にもなる。

 この私が、他のマスター達に遅れを取るなんて思われてるならそれこそ、このサーヴァントの程度を知れる。

 その程度の、力量を見測れないサーヴァントなんて、即座に自害させる。

 そんな殺意を堂々と放ち、私は目の前のサーヴァントを睨みつけた。

 

「そう怒らねぇでくれよ。

 単に、仮にキャスターが神代の魔術師ならどんなに力量があっても思考を読まれる可能性がある。

 相手の真名が判明するまでは、対策として黙っといた方がいいと判断した迄よ。

 その方が弱点も悟られにくいしな。

 オレ、弱点が割とアッサリしてるからさ」

 

 このサーヴァントの言い分は分かった。

 つまりは、このサーヴァントも未知の相手を見越してのことである。

 ならば、それを否定するのも違うだろう。

 渋々ではあるが、ため息を吐いて私は目の前のサーヴァントの意見を呑むことにした。

 

「成程ね。いいわ、その考えは合理的ではあると判断するわ。

 とりあえず、私の名前を明かしておこうかしら。

 私は美月夜空……この土地に根付く魔術師の家系、その当主よ」

 

「いい名前だ、よろしくな嬢ちゃん!!」

 

 ライダーが返事をする。

 今宵、私とこのライダーとの共闘関係を結ぶのだった。

 この先に、どんな運命が待ち構えているのか。

 それを知っていれば、私は───────

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