「今まで出走したレースで一番印象に残ったウマ娘、ですか?」
2度目の年度代表ウマ娘に選ばれた『キタサンブラック』は1人の記者からの質問に笑顔で答える。
「『スペシャルオレンジ』ちゃんです!」
「え…?その…他にも貴方が敗れたレースであれば『サトノダイヤモンド』さんや『シュヴァルグラン』さん、『サトノクラウン』さん、『ドゥラメンテ』さんなどもいたと思うのですが…」
「スペシャルオレンジちゃんです!……彼女がいて、ここまで強くなれたあたしがいますので!まずは彼女のレースを初めて現地でみた『東スポ杯ジュニアS』から…」ピコピコピコッ
耳を動かしながら自信満々に答えるキタサンブラックに記者たちは苦笑いを返しつつも最後まで彼女の話を聞いたのだ。
ーーー
トレセン学園…全国から有望とされるウマ娘たちが集まるトップクラスの育成機関。その中でも一握りだけが掴める勝利を目指し、あるウマ娘が最強されるチームの入部テストを受けていた。
「はぁ…はぁ……よしっ!!」
ダンッ
「はあぁぁぁ!!」
「なっ!アンタ…まだ伸びるのかい!?」
最終コーナーに入り…そのウマ娘は最内から力強くターフを踏み、スパートをかける。
「嘘っ!?あの娘、まだデビュー前よね…?」
「ヒシアマ姉さんが離されていく…!?」
テスト相手である『ヒシアマゾン』との差が1バ身、2バ身と広がり始めていたが…
「…ハッハッハッ、火が付いちまったよ。ちょっと本気でいかせてもらうおうかね!」
ダンッ
ヒシアマゾンも追うように仕掛け、一瞬でそのウマ娘の背後へと回り込み…
「はっ…はっ……え?」
「アタシの勝ちだよ。」
ゴール前で差しきり勝利した。直後…そのウマ娘はテスト結果をトレーナーから告げられる。
「…あなたは不合格よ。」
「そう…ですか…」
入部テストを受けた黒鹿毛のウマ娘『スペシャルオレンジ』はチームへの加入は認められなかった。落ち込みながらスペシャルオレンジはその場を後にする。
ーーーーー
「…何がダメだったのだろう?」カシュ
スペシャルオレンジは自販機で自身の好きなオレンジジュースを買って、その場で飲む。
「トレセーン!」
『ファイ!オー!ファイ!オー!』
「…」ゴクゴク
目に映るのはチームメイトらとランニングを行うウマ娘たち…朝に言われた教師の言葉を思い出す。
『あなたたちの目標はトゥインクルシリーズにデビューして活躍することです。そのためにはチームへの所属が必要になりますね。入部テストでの合格、模擬レースでの活躍などによるスカウトなど所属するための方法はいくつかあります。まずは、どのチームにするか…この後のチーム説明会を聞いて自分に合いそうなチームに挑戦してみてください。』
『今年のチーム"リギル"の募集は…1名だけするよ~!実力に自信がある娘は挑戦して欲しいな~。…ユズが心を折ってあげるから。』
『ユズ!アンタは大人しく座れって散々言ったろ!それにケガで走れない癖にバカ言ってんじゃないよ!』
ポカッ
『ヒシアマちゃん、痛~い!…まっ、ユズに勝てると思うなら来な…ちょっと!?エルちゃん!グラスちゃん!離してよ~!』
『邪魔しちゃダメデス。』
『早く戻りますよユズ先輩。』
『あ~れ~』
『…ったく。あー、学内最強と呼ばれているのは事実だ。本気で最強になりたい奴は是非来てくれ。入部テストは…アタシとタイマンだっ!』
「…はぁ、不合格か。それなり実力はあると思ったのだけどな…」
「オレンジちゃん!」
「…何だ、ユズ姉か。」
「何だとは何だ!リギルの入部試験はどうだったの?」
『ユーズトップガン』…スペシャルオレンジの姉にして、『オークス』、『有マ記念』を無敗で勝ったウマ娘。しかし、現在はケガによりレースからは離れている。
「…ダメだった。いいレースにはなったと思うけど…」
「あー、やっぱりか。」
「やっぱり?」
「オレンジちゃんの走りってクソ足りないスタミナでゴリ押そうとするところあるでしょ?ハナちゃんにはそこがチームに合わないって判断されたのだろうね~」
「そうなんだ…それじゃ。私は別のチームを探すから…」
スペシャルオレンジはその場を去ろうと立ち上がる。
「あ!待って!待って!いいチームトレーナーさんを紹介するからさ!」
「トレーナーを…紹介?」
ーーー
数時間後、スペシャルオレンジはサングラスをかけた強面の男…黒沼トレーナーの入部テストを受けることになった。
「…坂路、もう1本だ。」
「はい!」ダッ
「…あの娘すごいね。もうブルボンさんのトレーニングメニューをこなしているし…どうしてうちにきたのだろう…」
「知らないの?あの娘は『スペシャルオレンジ』…『果実姉妹』の一人だよ。」
「えぇ!?ますます何で?絶対にリギルとかスピカに入れたよね?」
「何でもリギルの試験でヒシアマ姉さんに善戦したけどトレーナーからは合格がもらえなかったからとか…」
「…すごいね。私たちも負けてられないね…」
「そこ、無駄口を叩くな。もう5本、ランニング行ってこい。」
「「はいっ!!」」
「ブルボン、
「承知しましたマスター。」
そして…合格となったのだ。
ーーー
「…」チーン
放課後になった教室…スペシャルオレンジは疲労により机へと突っ伏していた。
「だ、大丈夫?」
「…誰?」
「あたし?あたしはキタサンブラック!ほら、あなたの隣の席のダイヤちゃんの隣…私の席なんだ!」
「…そう。私は大丈夫…それじゃ。」
キタサンブラックの声により、スペシャルオレンジは顔を少し上げて…再び机へと突っ伏した。
「待って待って!もうちょっと何かお話しようよ!」
「…ごめんね。チームの練習が厳しくて…」
「もうチームに所属したんだ…あ!そうだ!これ!」
キタサンブラックから渡されたのは…串に刺さったトカゲだった。
「…何これ?」
「ゴルシ先輩がくれたんだ。焼き鳥みたいな味だよ。」
「た、食べたんだ…」
「スタミナ付くよ~、ほらほらほら!」
「ちょっ!やめ!そんなの近づけない……ぎゃー!!」
………
…
数秒後、泣きながらトカゲを食べるスペシャルオレンジの姿があった。
「うぅ…普通に美味しいよ…こんな見た目なのに…」パクパク
「でしょ♪でしょ♪そうだ!あなたの…あなたの名前は?」
「スペシャルオレンジ。」
「じゃあオレンジちゃんって呼ぶね。オレンジちゃんが入ったチームってどんなチームなの?」
「…『ミホノブルボン』さんが所属しているチームだよ。」
「えぇ!あのスパルタで有名な…」
「姉の紹介で入部テストを受けたら合格もらった………スパルタ?」
「そうなんだ…すごい!すごいよオレンジちゃん!」
「…ちなみにキタサンブラックはどんなチームに入るの?」
「"スピカ"だよ!」
「ー!?」
スペシャルオレンジの目が丸くなる。
「オレンジちゃん?もしかして知ってるチーム?」
「…うん。姉が所属してる。」
「そうなの!誰々?」
「…誰でもいいでしょ。それより、ここにいていいの?」
「あ!早くダイヤちゃんのところ行かないと…また明日ねオレンジちゃん。」
キタサンブラックはその場を去っていった。
「…キタサンブラック、か。今度何か焼きトカゲのお礼を……あ!その前にユズ姉にお礼参りしないと。」
スペシャルオレンジもロープと麻袋を片手に教室を後にする。デビュー後の自分の姿がをイメージしながら…
これは彼女が己を知るため物語である。