『先頭に立ったのはクルーガー!
後ろからはベルーフとシュヴァルグランが追い込んで来ているが…ベルーフだ!
ベルーフ、内から凄い伸び!
ベルーフだ!
ベルーフがクルーガーを差しきって1着ゴールイン!』
「…くっ!もっと…もっと速くならないと!」
ーーー
場所は中山レース場、そこは今日、11万人を越える観客が集まっていた。
「冬のグランプリ『有マ記念』。芝2500は小回りでコーナーを6回も通るトリッキーな形態、コースへの適性が非常に重要と言っていいレースだ。」
「どうした急に。」
「上位人気であるゴールドシップ、ジャスタウェイ、『エピファネイア』は過去レース結果で中山への適性を証明している。しかし、初めて中山で走ることとなるジェンティルドンナ、ヴィルシーナ、『サトノノブレス』にとっては…未知の領域だ。力が発揮出来るかどうか…」
「ノブレスさんなら大丈夫です!初めてとか関係ありません!今度こそ…G1を勝ってくれます!」
「你講係啱嘅。サトノのジンクスはここで終わりよ!」
「「ご、ごめん…」」
メガネの男性とパーカーの男性がサトノダイヤモンドとサトノクラウンへと謝った。隣ではキタサンブラックが大声でチームメイトの応援をする。
「ゴルシさん!ジャスタさん!頑張ってくださーーい!!」
「オレンジ、足の方は…」
「大丈夫だよシュヴァルちゃん。ヴィルシーナさんの応援しよ…ラストランでしょ?」
「…うん。」
さらにその隣ではスペシャルオレンジとシュヴァルグランがレースを見ていた。そして…ついにレースが始まった。
ーーー
『最後のコーナーを曲がり…ヴィルシーナに代わり、先頭に立ったのはエピファネイア!
エピファネイアだ!
それをジェンティルドンナとラキシスが捉えにかかる。
ここでゴールドシップ!
後ろからはジャスタウェイの追い込み!
役者が揃ったぞ!』
「お退きなさい!!」
レースの終盤、ここでジェンティルドンナが力強くターフを踏み込み…先頭へと立ったのだ。
「…ちっ!おらおらおら!!」
外からはゴールドシップがそれを猛追する。さらに…
「はあぁぁぁぁ!!」
大外からはジャスタウェイが凄まじい末脚を発揮し、前にいるウマ娘たちをまとめてかわして先頭へと迫ってきた。結果…
『勝ったのはジェンティルドンナーー!!
"こんにちわ"と"さようなら"を同時にやってのけたー!!』
「うおおぉぉぉジェンティルドンナー!!」
「おめでとう!!」
「…」
ジェンティルドンナが勝利する。改めて掲示板へと目を向けるジェンティルドンナ…そのそばに何かがドシンと落ちてきた。
「は?」
「え?」
「んん!?」
落下物を気にせず、ウイニングランへ行こうとするジェンティルドンナだったが…周りの困惑した反応を感じとり…音のした方へと顔を向ける。
「痛て……ジャーニーちゃんめ。オルフェちゃんに抱きついただけなのに…思いっきり投げやがって…」
「…あら。」
その正体はキングマンゴーだった。すぐに立ち上がり、自身が投げられた原因であろう場所を睨む。そこには中指を立てるドリームジャーニー、怯えるオルフェーヴル、それを宥めるトーセンジョーダン、頭を抑えるナカヤマフェスタ、目を丸くしたエイシンフラッシュの姿があったのだ。
「…あ!ごめんねジェンティル、せっかくの君の晴れ舞台が…すぐに戻るから。」
「…ちょうどいいわ。」ダキッ
「へ?ちょ…ジェンティル!?」
ジェンティルドンナはキングマンゴーをお姫さまだっこで捕らえると…そのままウイニングランを行ったのだ。1周して観客席の近くまで来るとキングマンゴーを下ろす。キングマンゴーは顔を真っ赤にしつつジェンティルドンナへと手を振り、足早に観客席へと戻っていった。
「キングマンゴーだ!久々に生で見たよ。」
「このレースを見に来ていたのね…」
「あぁ。早くドリームトロフィーでの彼女の走りがみたいわ…」
前代未聞のウイニングランだったが…周りの観客は好意的な反応だ。
「…マンゴー姉。何をしてるのよ…」
スペシャルオレンジを除いては。その後、無事にウイニングライブも行われた。
ーーー
「それじゃあ、始めよっか…あたしたちのクリスマスを!」
「もう過ぎてるから忘年会って感じがするけどね。」
寮の食堂…そこにはサンタ姿のスペシャルオレンジ、ツリー風の被り物を付けたキタサンブラック、サトノダイヤモンド、トナカイの角を付けたシュヴァルグラン、サトノクラウン、と5人の姿があった。さらにテーブルには豪華そうなオードブル、各々の手にはビール…っぽい見た目のジュースが入ったジョッキがあり、キタサンブラックが高々と上に持ち上げる。
「みんな今年は色々とお疲れ様。杯を乾かすと書いて…」
『乾杯!』
カランッ
5つの音が重なり、全員がジョッキを傾けてゴクゴクと飲む。
「ぷはっ…!」
「キタちゃん、ヒゲヒゲ…何かツリーの綿みたいになってるよ。」
「そう言うオレンジちゃんは本物のサンタさんみたいなヒゲだけどね。」
「もう!そんなこと言ってもプレゼントは…あ!あるにはあるわ!」
「あるの!?」
スペシャルオレンジとキタサンブラックが互いの口に付いた泡を指摘し合うと、スペシャルオレンジが自身の鞄からあるものを取り出した。
「じゃじゃーん!クリスマス仕様だよ♪」
それはサンタとクリスマスツリーがデザインされている缶ジュースだった。スペシャルオレンジはそれを全員に渡す。
「ありがとうオレンジちゃん!」
「この味は…オレンジジュースか。オレンジらしい…」ゴクゴク
「謝謝オレンジ。早速飲んでみても?」
「もちろん!私も飲むよ♪」カシュ
ジョッキに続いて缶ジュースを飲み始める4人…そんな中、サトノダイヤモンドだけがマジマジと缶ジュースを眺めていた。
「これが缶ジュース…」
「ダイヤちゃん缶で飲むのは初めて?このプルタブを持ち上げて…」
「こう?」カシュ
スペシャルオレンジの指示に従い、サトノダイヤモンドは缶ジュースのプルタブを開ける。
「そうそう!後は引いて…こうやって直接飲む。口を付けずにコップに移して飲むのもありだよ。」ゴクゴク
「なるほど…あ!美味しい…」ゴクゴク
サトノダイヤモンドも缶に口をつけてそのまま飲みきったのだ。そして、シュヴァルグランを筆頭に全員がオードブルの方も食べ始めた。
………
「ねえねえ!みんなの来年の目標について教えてよ!!クラウンちゃんからどうぞ!」
テンションが上がったキタサンブラックがにんじんスティックを1本取り、サトノクラウンへマイクのように向ける。
「そうね…まずは再検査の突破ね。」ずーん
「再検査?」
暗い顔で俯くサトノクラウンにスペシャルオレンジは首を傾げた。
「オレンジちゃんとクラちゃんが出走してた重賞だけど…発走前のクラちゃん、凄い気合いだったでしょ?実はね、ゲートインの時でもそれが出てきてしまって…それでゲートの再検査を受けなきゃいけなくなったの。」
「そうなの!?あれってそんなに大事になってたの!?」
「うぅ…やめてオレンジ。そんな目で私を見ないで…初重賞でちょっとテンションが上がっただけなの…」
顔を赤くして下を向くサトノクラウン…キタサンブラックは慌ててシュヴァルグランへにんじんスティックを向けた。
「シュ…シュヴァルちゃんは?」
「僕は…皐月賞に向けて前哨戦を勝つこと、かな。昨日のレースは3着に負けちゃったけど…クラシックでしか挑戦出来ない大舞台。絶対に出走したい。」
「おぉ!」
「…ハーツクライみたいな偉大なウマ娘になりたいからね。」
「いいね♪いいね♪じゃあ次は…私たちの中で唯一重賞ウマ娘のオレンジちゃん!」
キタサンブラックはスペシャルオレンジへと話をふる。スペシャルオレンジは自身の足を擦りながら答えた。
「私はこのまま桜花賞に直行するわ。その後は皐月賞へ連闘するつもりよ。」
『えっ!?』
スペシャルオレンジを除く4人の声が重なる。直後にスペシャルオレンジの目が鋭くなった。
「私は本気よ…これからの回復力を見せてトレーナーを納得させるわ。母さんが出れなかった桜花賞、憧れのスペシャルウィークさんが出走した皐月賞…どっちも勝つわよ!」
スペシャルオレンジの力強い宣言に4人は開いた口が塞がらなくなった。空気を変えるべく、スペシャルオレンジはコップに入っているにんじんスティックを1本抜いてキタサンブラックへと向ける。キタサンブラックはそれを一口で自身の口へと呑み込んだ。
「え?あ、あーん…?」パクッ
「いやいやいや。キタちゃんの目標を言ってよ…」
「んぐんぐ…ごくん。ごめんごめん、あたしの目標?あたしは…テイオーさんみたいに無敗の2冠ウマ娘…ううん!無敗の3冠ウマ娘になるんだ!」
「ふーん…なら私に皐月賞を勝たないといけないわね?」
「あら、オレンジだけじゃないわよ。私も皐月賞を勝ってサトノの初G1勝利を取るつもりよ。」
「僕だって…!」
目をバチバチとさせる4人。取り残されたサトノダイヤモンドがオロオロと身体を揺らしていた。
「わ、私だってマックイーンさんみたいなウマ娘になるんだから!」
「もちろん、一緒に走れる日を待ってるわよダイヤ。」
「『ベリー』かヴィブロスちゃんと同期になったりして…」
「ま、まだ入学は決まってないよ。」
「来年のメイクデビューが楽しみだね!」
「その前にキタサンはデビュー出来るかしら?」
「もちろん!じゃあ、来年のあたしたちに向けて…かんぱーい!」
『また!?』
同期たちによるクリスマスパーティーは夜遅くまで続いた。そして年が明け…スペシャルオレンジたちはジュニア期からクラシック期へと入る。