「ふわぁ~、あけおめ~」
「明けましておめでとう。オレンジ、寝正月か?」
「おめでとう、オレンジ姉ちゃん。」
お正月、大あくびと共にスペシャルオレンジがパジャマ姿でリビングへと入る…そう、ここはスペシャルオレンジの実家である。いたのはコートを着ている長女のコンドルバナナと1つ下の妹であり家着姿の『グラスベリー』の2人だけ。時間は12時過ぎ…テレビのついたまったりした空間がそこにあった。
「…あれ?2人だけ?他の皆は?」
「私も今帰ったところだ…ちなみにパパとママは旅行中。メロンはそのまま学園にいるって聞いた。マンゴーはスピカの皆と、ユズはリギルの皆と初詣に来ていて、おみくじを引いているのを見たな。オリーブは担当トレーナーの実家に行ってて…グレープは知らない。」
「多分だけど…メロン姉ちゃんと一緒に学園にいるんじゃない?」
「かもね…ふわぁぁ~!私も今帰ったばかりだし寝るわ…神社のバイト疲れたし。」
「あ、うん。お休みバナナ姉。」
「お休みバナナ姉ちゃん。」
そして、スペシャルオレンジと入れ替わるようにコンドルバナナはリビングをあとにする。残ったのはスペシャルオレンジとグラスペリーの2人。
「オレンジ姉ちゃん、お雑煮食べる?」
「今はいいや…おせち食べるから。…ん?ベリー、栗きんとんだけ全部食べた?」
「…!」ぷいっ
気まずそうに目をそらすグラスペリー。ため息をつきつつ、スペシャルオレンジはかまぼこを筆頭におせちを食べ始める。その傍ら、グラスベリーへと話しかける。
「母さんから聞いたよ。ベリー、トレセン学園合格おめでとう。」
「えへへ…ありがとう。グラスワンダーさんのいるチームに入れたらいいな。」
「んー、募集があればいいけど。ちなみに私はダメだったな…」
「…そういえば、オレンジ姉ちゃんって何でユズ姉ちゃんのいるリギルを受けたの?スピカの方が良かったと思うけど?」
「リギルが1番強いチームだったから受けたのよ。特に拘りがある訳じゃなかったけど…残念、とは思ったかな。…スピカはあえて避けたけど。」
スペシャルオレンジの言葉にグラスベリーはコテン、と首を傾げた。
「なんで?マンゴー姉ちゃんがいるから?」
「ううん。スペシャルウィークさんがいたからだよ。…憧れの人だから、近くにいくのを躊躇ったというか。」
「…よく分からないや。わたしは憧れのグラスワンダーさんのいるリギルがいいなぁ。」
「ベリーはそれでいいかな。フフフ…一緒に走れる日を楽しみしてるわよ。」
「オレンジ姉ちゃんは重賞ウマ娘…わたしもならないと。ママの娘だもん!」
「張り切るのいいけど…ケガには気をつけてね。」
「オレンジ姉ちゃんもね。それで、実際にデビューしてレース場で走った感想とか…教えてほしいな…」
「分かった分かった。とりあえず、今のトレーナーに出会ったきっかけだけどユズ姉が…」
こうして、スペシャルオレンジは正月をのんびりと過ごした。
ーーー
数日後、学園へと戻ったスペシャルオレンジはミホノブルボンと共にプールでトレーニングをしていた。
「…ぷはっ!はぁ…はぁ…はぁ…」
「3000mクロール完了…お疲れ様です。では、1分で息を整え、もう1度お願いします。」
「はぁ…はぁ…1分で…ふぅ…ですか?すぅ…はぁ…」
「今のあなたの足では満足に走れない以上、回復するまでは他の部分を鍛え、補う必要があります…1分が経ちました。始め!」
「は、はい!」
ドボンッ!
ハードトレーニングが再開されたのだ。スペシャルオレンジはミホノブルボンの指示に従い、泳ぎ続ける。プールトレーニングが終わり、ヘロヘロとなったスペシャルオレンジは部屋へと帰ると同室のブエナビスタに一言かけて、泥のように眠る。そんな日々が何日も続いたのだ。
………
「…」ちーん
「オレンジちゃん、大丈夫?」
授業以外では机に突っ伏すスペシャルオレンジ。キタサンブラックが心配して声をかける。
「毎日プールプールプールプール…今ならミラ子先輩の気持ちが分かりそう…」
「そ、そうなんだ。でも、どうしてそんなトレーニングに?」
「トレーナーがしばらくは出張だから不在で…今はブルボンさんにトレーニングを一任してるからかな。距離適性を伸ばすためのスタミナトレーニングなんだけど…水が怖くなってきたかも。」
「重症じゃん!?」
「キタちゃん…しばらくはお風呂を一緒に入ってくれない?」
「え…えぇ!?」
「ダメだよオレンジちゃん!親しき仲にも礼儀あり、だよ!」
慌てて隣にいたサトノダイヤモンドが止めに入る。
「そっか分かった。…じゃあ、ダイヤちゃんが一緒に入ってくれるってことで。」
「オレンジちゃん!?何も分かってないよ!?」
「じゃあ、誰に私のお風呂を頼めばいいのよ?」
「頼むことが間違ってるよ!?……重症だね。」
「どうするダイヤちゃん?」
「うーん、これはブルボンさんに相談した方がいいのかな?」
………
キタサンブラックとサトノダイヤモンドはミホノブルボンの元へと行き、スペシャルオレンジの現状を話した。ミホノブルボンは目を丸くして、慌ててメモを取り出し詳細を記録する。
「…なるほど、その様な状態に…承知しました。トレーニング内容を見直しましょう。」
「本当ですか!」
「これでオレンジちゃんは大丈夫かな?」
ーーー
数日後のスペシャルオレンジはというと…目にクマが出来ており、本の虫になっていた。
「ケガによる歩行の乱れは…跛行っと。原因は筋肉、骨、神経…」ぶつぶつ
「キタサン、オレンジだけど…ここ最近ずっと何らかの本を読んでるよね?」
「多分、ブルボンさんの出した新しいトレーニングだと思うけど…ほら、プール中心だったから。違うのをって…」
「…それしかしてないように見えるけど。」
「別の問題になっちゃってる!?」
………
キタサンブラックは今度は自身の担当であるスピカのトレーナーへと相談していた。
「という訳なんですよトレーナーさん。」
「…話を聞くだけだと確かに効率を重視しつつも足への負担は少ないトレーニングだ。」
「え?でも、オレンジちゃん…すごくつらそうで…」
「だが効果のあることだけすればいいって話じゃねえ。しかも、長時間となればそのウマ娘のメンタルにも影響が……ん?悪いキタサン、電話だ。ちょっと待ってくれ。あぁ、俺だ…うん。ちょうどそのことでな………あぁ、俺に任せろ。うん?それは今度飯に行った時で…あぁ、じゃあな。」
「…もしかしてオレンジちゃんのトレーナーさん?」
「あぁ、とりあえず…ミホノブルボンとスペシャルオレンジを連れてきてくれ。」
「はい!」
5分後にミホノブルボンとスペシャルオレンジがスピカの部室へと入ってくる。スピカのトレーナーはキタサンブラックにスペシャルオレンジに買い出しを頼み、ミホノブルボンと話をし始めた。
ーーー
「えーと、包帯と。これでリストは全部だね!」
必要なものを買い終えたキタサンブラックとスペシャルオレンジは店をあとにする。
「早く帰ってトレーニングに戻らないと。」
「オレンジちゃん、慌てない慌てない。」
「う、うん…」
「あ!はちみーだ!オレンジちゃん、飲も飲も!」
「いや、カロリーが…というか寄り道したら…」
「大丈夫大丈夫。今日はテイオーさんの好みのを飲もうかな~…オレンジちゃんは?」
「キタちゃんと一緒で…」
「おっけー!すみませーん、『固め濃いめ多め』を2つお願いしまーす!」
「はいよ!」
2つのはちみーが渡される。スペシャルオレンジはその大きさに目を丸くする。そして、キタサンブラックに促されるままに近くのベンチへと座った。
「ん~♪美味しい~♪」ゴクゴクッ
「これがはちみーか…カロリー凄そうだけど…確かに美味しい。」ゴクッ
「オレンジちゃんは飲んだこと無かったの?」
「缶ジュースばっかりだったから…これは初めてかな。」
「そっか!じゃあ、良かった!…ねぇ、オレンジちゃん。アタシ…今週末にデビューするんだ。」
「そうなんだ。キタちゃんもついにデビューか…」
「…すぐに追い付くから。」
「ーー!」
キタサンブラックの力強い宣言にスペシャルオレンジが固まった。そして、そのまま互いに笑顔を見せる。
「キタちゃん、ありがとう。」
「…へ?」
「メイクデビュー…絶対に見に行くから。」
その後、学園へと戻ったスペシャルオレンジはミホノブルボンより黒沼トレーナーが戻るまではトレーニングは無しだと伝えられた。
ーーー
週末になり場所は東京レース場…スペシャルオレンジはミホノブルボンと共にレースを見にきていた。
「改めてオレンジさん、この度はまことに申し訳ございませんでした。」
「ブルボンさん?何回言うつもりですか?というか何回言いました?」
「私が記憶してる範囲では18回目になります。もちろん、謝罪だけで許されるとは思っておりません。…貴方という逸材を…私は壊しかけたのですから。」
「ブルボンさん…」
スペシャルオレンジが思い出すのはキタサンブラックとの買い出しから帰った後のことだ。スピカの部屋へと入る同時に、ミホノブルボンが自身へと抱きついて謝罪をしてきたのだ。普段は無表情である筈のその顔は真っ青になっており、さらに謝罪の声は震えていた。スペシャルオレンジはそんなミホノブルボンの頭を撫で続け落ち着かせ、数分後に自身のチームの部屋へと戻り、解散となった。
「…何か、希望はありませんか?私に出来ること…いえ、何でもご命令してくださいオレンジさん。」
「え、えーと…まずはキタちゃんのレースを最後まで見てもよろしいでしょうか?」
「承知しました。始まりますね。」
ファンファーレと共にキタサンブラックを含めて、各ウマ娘たちが次々とゲートに入っていく。
『東京5Rのメイクデビュー、最後にフォルタレッサがゲートに収まり…スタートしました!
おっと、パームリーフは出遅れか?』
「キタサンブラックさんは14番でしたね…控えたのか後方にいます。」
「前で走るのが得意と思っていたけど…大丈夫かな?」
「初めての公式レースです。思うような走りにならないこともよくあります…私もそうでした。」
「…え?ブルボンさんが?」
『さぁ、集団が固まりつつ…3,4コーナーに入ります。
コスモアルヘナが先頭…リコリアーノとトーセンパンサーが続く。
外の方からメドゥーサとキタサンブラックがあがってきた!
1番人気のミッキージョイはまだ中団より後ろにいます…最後の直線に入りました!!』
「はあぁぁぁ!!」
キタサンブラックが仕掛ける。
「頑張れキタちゃーん!!」
スペシャルオレンジも大声で応援をする…そして、レースはクライマックスに入る。
『先頭はコスモアルヘナとリコリアーノ!
ペブルガーデンとトーセンパンサーも並ぶ!
前に4人が並んだか…外からキタサンブラック!
大外からはミッキージョイ!
外の2人が一気に前へときた!
粘るコスモアルヘナとペブルガーデン、しかしキタサンブラックが抜け出した!
外のミッキージョイは届かない。
キタサンブラック、キタサンブラックが1着ゴールイン!!』
「やっ…やったーー!!」
レースに勝利したキタサンブラックが大喜びをして観客へと手を振った。
ーーー
キタサンブラックのウイニングライブを見た後、スペシャルオレンジとミホノブルボンは学園へと帰ろうとしていた。
「キタサンブラックさん、勝ちましたね。」
「はい、キタちゃんの力強さを見せられましたね…そういえばさっき、ブルボンさんが思うような走りが出来なかったと言ってましたよね?それってラストランになった菊花賞のことですか?」
無神経な質問だなと思いつつもスペシャルオレンジはそんな質問をする。すると、すぐにミホノブルボンが返答をした。
「違いますよ。あのレースはペースこそ崩してしまいましたが、自分のレースが出来たと思っています。」
「あれ?でもそれ以外となると…」
「私のデビュー戦です。あのレースは出遅れにより、よいポジションが取れず…後方からのレースになりました。足を使い何とか勝利こそしましたが…その後はケガにより、しばらくは思うようにトレーニングが行えませんでした。」
「何とかって…レコードタイムでの勝利でしたよね?それが納得の出来ていないレースと言うのですか?」
「はい。レースへ出張をしていく以上、納得のいかないレースは出てきます。そこに勝ち負けは関係ありません…それは自分自身にしか分からないことなのですから。」
「ブルボンさん…」
「それよりオレンジさん…何か希望はありませんか?時間は限られますがゲーセン、カラオケ、ボーリング、など遊ぶことが可能です。」
「あ!じゃあ…1ヵ所行きたいところが!」
「どこでしょうか?」
「銭湯です!」
その後、互いの背中を洗いあった。