「宝塚記念を現地で見たいのか?」
「はい!…春のグランプリですので!」
「…元々その日にトレーニングは無い。疲れでトレーニングに影響しないなら好きにしろ…新幹線のチケットだ。」
「ありがとうございます!よしっ!」
スペシャルオレンジは黒沼トレーナーに阪神レース場へ行くことを伝えた。するとあっさり許可とチケットが貰えたので右手を上げて喜んだ。
「…オレンジさん。」
「ブルボンさん!どうされました?」
『ミホノブルボン』…トゥインクルシリーズで皐月賞と東京優駿を勝った二冠ウマ娘。現在はケガにより黒沼トレーナーが担当しているチームメンバーの補佐をしている。
「直接現地に向かわれるということは…誰かの応援でしょうか?『果実姉妹』の出走は『キングマンゴー』さんが去年と4年前の2回だと記憶しております。」
「ヴィルシーナさんの走りを見に行きたくて…」
「ヴィルシーナさん、ですか。…ティアラ路線を目標にしているのでしょうか?」ボソッ
「ブルボンさん?」
「いや、何でもありません。ではまた次のトレーニングでお会いしましょう。」
「はい!お疲れ様でした!」
スペシャルオレンジは缶ジュースを片手にそのまま寮へと歩きだした。
………
「お帰りオレンジちゃん!」
「ただいま『ブエナビスタ』さん。」
『ブエナビスタ』…スペシャルオレンジとは同室の黒鹿毛のウマ娘。トゥインクルシリーズにてG1レースを6勝、2着が5回というとんでもない成績を叩き出した猛者である。キングマンゴーとは同期で宝塚記念と有マ記念で2回対決しており、いずれもキングマンゴーが先着している。
部屋に戻ると同時に荷物をまとめ始めたスペシャルオレンジにブエナビスタは質問を投げる。
「何々、もう合宿の準備?」
「いえ、友達と宝塚記念を見に…」
「宝塚記念か…懐かしいわね…あぁ。『ナカヤマフェスタ』と『アーネストリー』ががが…」
「…」コトン
トラウマが蘇って悶えて始めたブエナビスタの隣に無言で缶ジュースを置き、スペシャルオレンジはそのまま準備を進めた。
ーーー
阪神レース場、スペシャルオレンジとシュヴァルグランは宝塚記念を見にきていた。
「ここが阪神レース場か…現地に来たのは初めてだよ。」
「そうなんだ。僕も入るのは初めてなんだ…やっぱりG1だから人は多いな…」
「とりあえずカレーでも食べる?」
「うん。…その後にオレンジも家族席に入れるか聞いてみる。」
「今さらこんなこと聞くのもあれだけど…本当にいいの?」
「いいよ。だって、その…静かなところで君と一緒に……見たいから…」ボソボソ
「シュヴァルちゃん?」
「…何でもない。カレー食べよ。」
スペシャルオレンジはエビカツを、シュヴァルグランはビーフとヒレカツのカレー食べた。ついでにエビカツとあーんと口を開けて顔で待つシュヴァルグランの写真がスペシャルオレンジにより撮られた。昼食が終わった2人は家族席へと入る。
「本当に入れちゃったよ。走らないのに緊張してきたな…」
「父さんたちには予め言っておいたから…僕と君の2人きり、だね。」
「そうだね。でもメインの宝塚記念まではまだ時間が…あ!オレンジジュース飲む?」カシュ
「ありがと……ん?」カシュ
「よし!ここでお姉ちゃんのレースを見……え?シュヴァち!?」
缶ジュースを飲もうとしていた2人の前に青毛のウマ娘が1人現れた。シュヴァルグランは目を丸くしてそのウマ娘の名前を言った。
「『ヴィブロス』!?」
ーーー
「へー、来年にトレセン学園受けるんだ。姉妹揃って凄いね。」
「いやいやいや!『果実姉妹』のオレンジさんに言われると何かこう…キュッ、ってなっちゃう~!」
数分後、すっかり打ち解けたスペシャルオレンジとヴィブロスは話に花を咲かせていた。
「うん。…だから、正直プレッシャーが重くてね。そんな私をシュヴァルちゃんが結構助けてくれてね…」
「へ~、あのシュヴァちが…ねぇ?」
「…何だよ、その目は?」むすっ
「コラコラ、妹の前でそんな顔しないの!」
「アハハ~!オレンジさんてば、お姉ちゃんみたい~!オレンジお姉ちゃん♡」ダキッ
「私の妹もこれくらい普通に甘えてきたらいいのだけどね…」なでなで
「…」むすっ
スペシャルオレンジに抱きつき、頭を撫でられるヴィブロスを見て、さらに不機嫌なオーラが出てきたシュヴァルグラン。
「あれれ~?もしかしてシュヴァち~?嫉妬~?」
「フフフ…ヴィブロスちゃんが羨ましいみたいだね。ヴィルシーナさんじゃないけどお姉ちゃんをやってみようかな……おいで、シュヴァル。」
「ー!…遠慮はしないよ。」ダキッ
「わっ!…まぁ、私も姉にたまに甘えたくなるからねぇ…」なでなで
シュヴァルグランもヴィブロスを見習い、帽子を外して…スペシャルオレンジへと抱きついた。結果スペシャルオレンジは、シュヴァルグランに左膝を、ヴィブロスに右膝を枕にされて、2人の頭を撫でる。その途中でシュヴァルグランの両親も入ってきて今度はスペシャルオレンジがアタフタすることになった。
ーーー
「…ふぅ、緊張した…シュヴァルちゃん、何度も聞いて悪いけど…私ここにいて良かったの?」
「僕が誘ったんだから当たり前だよ。」
「時々1人でお姉ちゃんのレースを見に来てたのは知ってたけど…まさかシュヴァちが~、こういうことするとは~、思ってなかったな~!」
「知っていたのか!?」
「当たり前じゃん~、ここからシュヴァち見つけるの簡単だし~♡」
「この大勢の観客から…僕を見つけたの?」
「だってシュヴァち、いつも端っこの方にいるじゃん~、分かるよ~♡」
「…」
「へー、私の知り合いも誰……か!?」
「…オレンジ?」
「ナンデモナイヨ!入場シテキタヨ!」
広い関係者席から阪神レース場を見下ろす3人。スペシャルオレンジの変化に疑問を持ちつつも本バ場入場が始まった。一番最初に芦毛のウマ娘が現れる。
「あれ?『ゴールドシップ』だけ先に入ってきた?最内だったかな?」
「違うよ、あれは発走に影響を出さないための配慮。彼女はその…色々と破天荒だから。」
ゴールドシップを皮切りに次々と出走ウマ娘たちが入ってきた。早速、青毛のウマ娘…ヴィルシーナの姿が見えた。
「ヴィルシーナさんだ…やっぱり綺麗だね…」
「…」
「お姉ちゃん、ちょー気合い入ってるねー!」
「因縁のある『ジェンティルドンナ』との勝負だから…それに前走のヴィクトリアマイルを勝っているの大きいかな。」
その話に合わせるように…鹿毛の3冠ウマ娘が現れる。
「ジェンティルドンナさん…ここからでも力強さがヒシヒシと伝わってくるよ…」
「前回はドバイで勝ってるんだよね?いいなー、私もドバイ行きたいな~!」
続いては赤毛で赤い勝負服のウマ娘が現れる。
「『ウインバリアシオン』…彼女も姉さんと同じ…」
「『オルフェーヴル』の存在か…」
「ファン投票2位の実力…しっかりと見ておかないとね!」
次のウマ娘が現れ…スペシャルオレンジの目が丸くなる。
「『トーセンジョーダン』…っ!」
「天皇賞(秋)をレコード…君のお姉さんである『キングマンゴー』に勝てた数少ないウマ娘、だったね。」
「『キングキラー』の1人だね!はぁ…今年も凄いメンバーだぁ。」
本バ場入場が終わり、出走ウマ娘たちがゲートへと向かっていった。
ーーー
『3コーナーから4コーナーへと入っていく…先頭は依然としてヴィルシーナ!
ここでゴールドシップが仕掛けきたっ!』
レースはヴィルシーナが最初から先頭に立ったまま、最後の直線へと入った。
『2番手のフェイムゲームが捉えたか!
いや、再びヴィルシーナが盛り返す!
ここでゴールドシップ!
外からゴールドシップ!
まとめてかわして先頭に立った!
間からカレンミロティックが追い込んできたが、ヴィルシーナが粘る!
ゴールドシップ、先頭のままゴールイン!
有マ以来となる…4度目のG1勝利です!!』
ゴールドシップの1着…ヴィルシーナは3着という結果だった。
ーーー
レースが終わり…スペシャルオレンジは改めてお礼を言った。
「今日は本当にありがとうございました。」
「いいのよ…これからもシュヴァルと仲良くしてあげてね?」
「母さんっ!恥ずかしいから!」
「はい、こちらこそ!…あ、ヴィブロスちゃん!」
「何何~?」
「私の妹もトレセン学園受けるから…入学したら紹介するね。大人しいけどノリはいい妹だから。」
「本当!?まだ会ったこと無いけど超楽しみになってきた~☆じゃあ、お姉ちゃんと合流して一緒にパパの車で帰ろう♪」
「あー、ごめんね。新幹線のチケット、チームトレーナーから貰ってるからちゃんと使わないといけなくて…」
「僕はオレンジと一緒に帰りたい。」
「そっか…お姉ちゃんには私が言っておくね。オレンジさん、シュヴァちをよろしく…それじゃ~☆」
ヴィブロスはそう言うと両親のところへと走っていった。スペシャルオレンジはシュヴァルグランへと顔を向けて、微笑みながら言った。
「私たちも帰ろうか。」
「うん。」
「あれ?オレンジちゃんとシュヴァルちゃん?」
「「ー!」」
声がした方へと振り向く。そこにはキタサンブラックの姿があったのだ。
「「キタちゃん?/キタサン!?」」
「やっぱり!見にきてたんだ!」
「…姉さんが出走してたからね。」
「私もそれに付いてきたの!…まさか、そのままシュヴァルちゃんの家族席から見れるとは思ってなかったけど。」
「家族席から見てたの!?私はチームメイトのゴルシ先輩が出てたからスピカのみんなで見にきてたんだ!」
「ゴルシって…まさか、今日勝った不沈艦『ゴールドシップ』!?スピカのメンバーだったんだ…」
「マックイーンさんが全員乗せてきてくれて…あ!2人も良かったら一緒に帰らない?」
「ありがとう。でも、私は担当トレーナーから貰った新幹線のチケット使わな…きゃっ!?」
当然スペシャルオレンジの体勢が崩れ…そのままシュヴァルグランに受け止められる。
「僕もオレンジと一緒に帰るから。」
「そっか…それじゃあ、また教室で!」
「キタサン、そろそろ行くわよ…あら?知り合い?」
「はい!クラスメイトのオレンジちゃんとシュヴァルちゃんです!紹介するね、こちらダイワ…」
「『ダイワメジャー』!?」
出てきた栗毛のウマ娘にスペシャルオレンジは格闘ゲームのキャラの如くファイティングポーズを構える。
「…『ダイワスカーレット』よ。ダイワメジャーはアタシの姉…メジャー姉と何かあったの?」
「…失礼しました。その…私は『コンドルバナナ』の妹でして…『キングカメハメハ』のダービーに出走していたウマ娘にはちょっと過敏になっていまして…」
「コンドルバナナさんの妹…ってことはアンタ『果実姉妹』!?アタシもユズと『メロンスカイ』とは走ったことあるわ。後はその…『キングマンゴー』にも…えーと…」
「…あー、やっぱりここに来ていたのですね…見間違いじゃなかったか。そういえば、スカーレットさんもキタちゃんと同じスピカでしたよね?マンゴー姉が迷惑かけています…」
「キングマンゴー!?スカーレットさん、スピカいるあと1人って彼女だったのですか!?」
出てきた名前にキタサンブラックの目が丸くなる。
「ちょっと今はチームを離れているけど去年までずっとね…というか、一緒の車にいたわよ。アンタはテイオーとのお喋りにずっと夢中だったみたいだけど。」
「えぇ!?」
「キングマンゴーが迷惑?…どういうこと?」
シュヴァルグランの質問にスペシャルオレンジが目を反らし…顔を手で覆う。そして、そのままの状態で返事をした。
「うん…その…マンゴー姉って栗毛のウマ娘が大好きで…うん。家族だろうと見境無しにめっちゃ口説きにかかるんだ…ユズ姉や妹…母さんにも…」
「顔もイケメン寄りで…結構紳士的でこっちの要望とか聞いてくれるから…その、アンタ…アンタはえーと…」
「シュヴァルグランです。」
「シュヴァルグランも気をつけなさい…寝る前に頭から離れなくなるから…」
「そこまで行ってしまいましたか…」
「スズカ先輩も…いや、たまに逃げ切れてるからスピカの中ではアタシが一番の被害者だわ。」
「…本当にご迷惑をかけます。」
「スピカの中では?」
「1番の被害者はオルフェーヴルかな…姉の『ドリームジャーニー』がいなかったら今頃…うん。何というか…すごくすごいことになったというか…」
遠い目になるダイワスカーレット…その横でキタサンブラックがスペシャルオレンジの前まで迫る。
「ねぇねぇ!前にオレンジちゃんが言ってた姉ってキングマンゴーさんのことだったの?」
「う、うん…」
「あたし…そんなチームに入ることが出来たんだ!ますますやる気が沸いてきた!」
「…キタサンは凄いね。」
「本当にね。私は未デビューなのに既にプレッシャーでお腹が痛いよ…」
「気持ちは分かるわ。メジャー姉って…本当に凄かったから。」
「でもダイワスカーレットさんはそれに負けない戦績じゃないですか。ですので僕も…負けていられないです。」
「そうね、頑張りなさいシュヴァルグラン…じゃなかったわ!キタサン!早く行くわよ!」
「そうだった!今度こそじゃあね!」
キタサンブラックとダイワスカーレットは急ぎ足でその場を去った。
「僕たちも帰ろうか。」
「うん…ところでシュヴァルちゃん。さっきは何で急に私の手を引っ張ったの?」
「…別に。駅へ向かうよ。」
「あっ!待ってよシュヴァルちゃん!」
スペシャルオレンジとシュヴァルグランも阪神レース場を後にした。
ーーー
数分前のとある控え室…ゴールドシップがレースもウイニングライブを終えて、上機嫌のまま戻ってくると、2人の鹿毛のウマ娘がいたのだ。
「お疲れ様ですシップ。」
「ジャス…」
『ジャスタウェイ』…ゴールドシップの同室兼親友。ドバイDFにてレコードタイムを叩き出し、数週間前にあった安田記念を勝利した猛者。天皇賞(秋)での猛追によりキングマンゴーの後継とも呼ばれるウマ娘。
「まとも走れば本当に強いよねゴルシ…」
「それでも前回はお前には届かなかったんだが…嫌味かマンゴー?」
『キングマンゴー』…『果実姉妹』にして、去年までトゥインクルレースを走っていたウマ娘。7人目の三冠ウマ娘であり日本、海外と活躍し、勝ったG1レースは合計17勝と歴史的に見ても最強と呼んでも過言じゃないウマ娘。
「まぁ、まぁ…本当に素晴らしい末脚でしたよ。」
「いつもの出遅れからまさか前の方につくなんて…いいポジションが取れた感じかな。」
「そういう気分だったからな~♪あー、今年もお前がいたらゴルシちゃんが4人目の『キングキラー』になれたかもしれなかったな~♪」
「レースにもしもは禁句はですよシップ。その理論なら私のドバイDFと安田記念で………ドバイDFでなら勝てたかもしれないですし。」
「何で安田記念を外したの?」
「そりゃ…な?」
「えぇ…」
「「5バ身差のレコードタイムで『ロードカナロア』の心折るとか
口を揃えて言った2人にキングマンゴーは目をパチパチさせた。
「いや、カナちゃんは名スプリンターだから…」
「でも2着だろ。お前がいなきゃ名マイラーにもなってただろな~」
「安田記念の後からスプリンターズSでの復帰までずっとカレンさんが心配になるくらい泣いてましたからね……羨ましいです。」
「…」
ジャスタウェイは恍惚な顔になり、ゴールドシップがそれを睨む。キングマンゴーは気まずそうに目をそらし別の話題へと変えた。
「…で、次はどこを走る予定?天皇賞(秋)とか?」
「それなのですが…」
「私たち…」
「「凱旋門賞に行って
「えぇ!本当!現地で応援するよ!とくにジャスタウェイ!」
「マンゴー…ありがとうございます。」
「おい!ゴルシちゃんもしっかり応援しろよ!抜けたとはいえ元チームメイトだろ!」
「うっ…!その…抜けてないというか……いつかはちゃんと戻るから!心の整理が終わったら戻るから!終わらなくても時々、スカーレットちゃんとスズカちゃんに顔見せにいくから!」
「シップ…彼女にも彼女なりの事情がありますから、あまり突き詰めないであげてください。」
「…悪い。」
「…いいのよ、ありがとうジャスタウェイ。とりあえず、この後どこかでゴルシのお祝いを…」
「いや、マックイーンの車で帰るんだろうが。お前、乗らないつもりか?」
「…乗ります。ただ…ジェンティルドンナに呼ばれてるからちょっと待って欲しいかな。」
「分かりました…では、また後で!」
「…アイツに食われんなよ?」
「何を言っているのゴルシ?」
「大丈夫ですよシップ。彼女も流石にそこまで非常識な貴婦人ではありませんよ……多分。」
その後、キングマンゴーは戻ってこれず…スピカとは別々に帰ることになった。