春のグランプリが終わり、出走レースによる都合はあるものの多くの生徒が期末テストを控えたトレセン学園。赤点による補習でのトレーニング時間削減を避けるため、勉強に力を入れるウマ娘たちも多い中…スペシャルオレンジたちも勉学に精を出していた。
「クラウンちゃん…何でこの英文って間違ってるの?」
「『He』とか『She』とか単数三人称なら動詞に『s』を付けないといけないからよ。部分点かもしれないけど何個あるとダメージは大きいわよ。」
「タンス三人ショー?3人が箪笥の中でショーをするの?」
「…オレンジ。あなたの中間テストの点数、五教科全て教えてもらってもいいかしら?」
「国語が52、数学が100、社会が56、理科が96、英語が20、だったよ。」
「へー、オレンジちゃんって理系が得意なんだ。満点だなんて凄いね!」
「えへへ…」
「笑ってる場合じゃないわよ!?オレンジ…その…うん…」ポンッ
「?」
顔を青くしながらサトノクラウンはスペシャルオレンジの肩に手をおいた。
「英語は諦めましょ。満点取らないと補習は確定だし…ね?国語と社会だけでも回避しましょ?」
文武両道をモットーとするトレセン学園の赤点は中間+期末を平均した60点以上である。つまり、スペシャルオレンジの英語20点とは…絶望的なのである。
「そういえばオレンジって担当トレーナーに成績のことは言っているの?」
「うん、数学だけ!やるな、って誉めてくれたよ♪」
「…全教科報告してきなさい。今すぐに!」
「う、うん?分かった…」
サトノクラウンに強く言われ、スペシャルオレンジは急いで黒沼トレーナーの元へと向かった。そして……
「う、うぅ…怖かったよ~」ダキッ
「よしよし…大丈夫だよ。」なでなで
「「…」」むすぅ
「トレーナー…いつも通り無言で無表情だったけど…急にオーラが凄くなって…背後に龍が見えて…」
「うん…何となく想像できるよ。落ち着くまであたしの胸を貸すから…」なでなで
「キタちゃん…好き…」ぱふっ
「「ー!」」ぎりっ
「はいはい!そこまで!はぁ…」パンパンッ
数分後、涙目で帰ってきたスペシャルオレンジ。そのままキタサンブラックへと抱きつき、頭を撫でられる。その様子にサトノダイヤモンドとシュヴァルグランが顔をしかめた。それらを見ながらサトノクラウンが溜め息を出しながら手を叩く。
「それで、トレーナーには結局何か言われたの?」
「英語…満点取れって。ブルボンさんも協力してくれるから…」
「分かった、私も英語重視で教えるから…」
「じゃあ私は数学と理科を…」
『いいからオレンジ(ちゃん)は自分のことだけに集中して!』
「…はい。」
ーーー
数日後、スペシャルオレンジは職員室に訪れていた。そのまま英語教師の元へと直行する。
「スペシャルオレンジさん、どこか分からないところが?」
「はい…この単語が辞書に載ってなくて…そこ以外は出来ました。」
「一度見せていただけますか?」
「お願いします…」
課題のプリントを提出する。これは黒沼トレーナーと共に頭を下げて、テスト前ではあるものの特別に出してもらえた課題である。それを早めに終わらせようとして…今、質問をしにきたのだ。
「…これは全部、自分の力で解いたのですか?」
「はい!これらは全部1人でしました!」
「では1つ質問を。大問2の問3のここ、『She buys many UMAPYOI BOOKS.』の『buys』を『buies』と書かなかったのは何故?」
「えーと、『y』の前が『a,i,u,e,o』だとそのまま付ければいいからです!他にもボインボインがどうのこうのと聞いたような…」
「…はい。あなたが一生懸命に勉強していることが伝わりました。トレーニングとの平行は難しいでしょうが…このまま頑張ってくださいね。テスト、楽しみにしています。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「後、分からない単語の件ですが…もう一度、辞書を見直してください。普通に載っていると思いますよ。」
「…はい。終わったらまた来ます。」
スペシャルオレンジはそのまま職員室を後にした。そして、その場で辞書を開く。
「…本当に載ってたよ。何で見つけれなかったのだろ……ん?」
「ねぇ、聞いた?『果実姉妹』が模擬レースをするらしいわよ。」
「マジで!?試験勉強してる場合じゃなくね?てか、誰がいるの?」
「『グレープスカイ』さんと『キングマンゴー』さん…らしいわね。」
「短距離特化のグレープさんとマイル以上のマンゴーさんだと…適性距離、被ってなくね?」
「グレープ姉とマンゴー姉が…模擬レース?」
話を聞いたスペシャルオレンジは急いでトレーニング場へと向かった。
ーーー
「まだ来ないの~?今日は予定無い筈なのに~」
「来ないな…やっぱり、試験が終わってからの方が…」
「ダ・メ!このままだとアタシ、勉強に集中できない!」
「と言ってもな…ん?」
スペシャルオレンジが着くと、そこにはすでにたくさんのウマ娘とトレーナーが集まっており、中央には芦毛と鹿毛のウマ娘がいた。スペシャルオレンジの姉たちである。グレープスカイはジャージに着替えているが…キングマンゴーは制服のままだ。遠くから見守っていたスペシャルオレンジだったが…1人のウマ娘が2人の元まで来た。
「あの娘って…」
「『ロードカナロア』さん?彼女が2人と走るのかな?」
「いや、制服じゃん。走りそうなのグレープスカイさんぐらいじゃないかな…」
『ロードカナロア』…短距離を得意とする鹿毛のウマ娘。その実力は国内、海外と大活躍で歴代最強スプリンターと呼ばれる『サクラバクシンオー』と並ぶほど高い。グレープスカイとは5回トゥインクルシリーズで戦ったが…何れのレースもロードカナロアが先着している。
「カナ?」
「息を切らして…大丈夫?」
「はぁ…はぁ…、これはマンゴーさんがいるから覚悟を決めてただけだよ。…それより、オリーブさんから伝言が…『グレープごめん、今日は予定が出来たから別の日にして』…とのこと。LANEにも送ったけど見てた?」
「見てなかった…ありがとうカナ。それにしてもマジか…」
「ほらグレープ、こういうことだから…「カナ、着替えてきて。」今日は諦め……え?」
「え?」
グレープスカイの突然の発言にキングマンゴーとロードカナロアが固まった。
「グレープ、急に言ったらダメだろ。カナが困って…「…1600ならいいよ。」…えぇ!?」
「………分かった。マンゴー姉、アタシたちのレース…見ていて。」
「10秒で準備するから。」
「いや、待って!その条件は…」
ロードカナロアはその場で着替え、軽く屈伸をした。そして、グレープスカイとロードカナロアはスタート位置へと移動した。
「ロードカナロアとグレープスカイのスプリント対決か…まさか、また見れるなんてね…」
「…待って!あのスタート位置って…」
「1600mの位置…マイルじゃん!?」
パンッ
キングマンゴーが手を叩いたの同時に2人がスタートする。先頭になったのはグレープスカイ…それに2バ身差をキープしたままロードカナロアが後ろについた。
「はっ…はっ…」
「…」
最終コーナーを曲がる…ここで2人とも仕掛けるものの…
「ーーッ!」
「…ふっ!」ダッ
ロードカナロアがグレープスカイをあっさりとかわし、その後グレープスカイが垂れたのもあってか…6バ身差で圧勝した。
ーーー
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「…私の勝ち。知っていたけどね。」
「グレープ…」
「キングマンゴー、あんたの復帰を待つ。それまでは…誰にも負けないから…バイバイ。」
「カナ…」
ロードカナロアは再び制服へと着替え、その場を後にした。キングマンゴーが慌ててグレープスカイのそばへといくと…そこにはスペシャルオレンジがいて、持っていた下敷きを団扇のように使い、グレープスカイを仰いでいた。
「グレープ姉…大丈夫?」
「はぁ…はぁ…ん!大丈夫だよ…やっぱり、アタシ…マイルはダメね…」
「うん、みんな知ってる。でも、何でロードカナロアとマイルで模擬レースを?」
「…私のためだよ。」
「マンゴー姉…のため?どういうこと?」
「オレンジ、マンゴー姉の現状って知ってる?」
思い出すのは宝塚記念での会話。
「えーと、今はチームを離れているっていうのはダイワスカーレットさんから聞いたけど…」
「スカーレットちゃんに会ったんだ…あの娘、可愛いよね…えへへへ。見た目は勿論だけど、真面目で素直で…とってもいい娘なの。この前、ユズ姉とマーちゃんとウォッカちゃんと一緒に遊園地行ってきてね…」
栗毛好きが爆発し、だらしない顔をしながら1人の世界へと入るキングマンゴー。グレープスカイはそれを無視する。
「…うん、正解。ちなみに何で離れたかは分かる?」
「そこまでは知らない。」
「ドリームに移籍したのはいいものの…走れなくなったらしい。」
「えぇ!?」
「…」
グレープスカイの発言に驚くスペシャルオレンジ…それに対してキングマンゴーは急に無言になり顔を下へと向ける。
「マンゴー姉、どうして…」
「…香港でのトゥインクルラストラン後のトレーニングでちょっとね…。トレーナーやマックイーンちゃんの主治医さんに調べてもらったら身体には問題は無かった。ただ…走ろうと意識しても数メートル後には歩いてしまってて…原因が分からないの。」
「…」
「だから、アタシとオリーブ姉が模擬レースをして少しでも刺激になったらいいなと思った訳。まぁ、今日は忙しかったみたいだけど…」
「…ごめんなさい。」
「「ん?」」
突然にスペシャルオレンジが謝った。2人が混乱する。
「何でオレンジが謝るの?」
「マンゴー姉がそんな状態ってこと知らなくて。この後…オリーブ姉に勉強見てもらうから…そのせいで…」
「いやいやいや!全然、気にしなくていいからね!お陰でアタシ、カナとまた走ることが出来たからからね!」
「勉強?オレンジ、成績悪いのか?満点取ったって聞いたけど…」
「数学はね。…英語は20点。」
「グレープ、私らも行くぞ。ユズ姉とメロン姉も呼べ。」
「アメリカにいたメロン姉はともかく…何でユズ姉も?」
「膝に乗せたいからに決まってるだろ?」
「…邪魔になるだけだから呼ばないよ。今回はオレンジにだけ集中して。」
「…チッ。…オレンジ、腹をくくれ。」
「ひ、ひぃ~!!」
『果実姉妹』たちによる地獄の勉強タイムも追加された。そして、テスト本番まで
ーーー
数日後…国語、数学、社会、理科、と赤点を回避したスペシャルオレンジは最後の教科…英語の答案用紙を受け取った。
「オレンジちゃん!テストは…」
「…」ずーん
「…97点か。いや、立派な点数だよ…僕より高いし…」
「そうだよ。今回の問題、結構難しかったし!」
「と言いつつダイヤちゃんは100点か。」
「そう言うキタちゃんは…赤点ギリギリじゃない!ちゃんと自分の勉強はしたの!?」
「うん…その筈なのにオレンジちゃんは満点近いの取っちゃってて…シュヴァルちゃんにも負けてるし…」ずーん
「キタちゃん…」
「いや、ダイヤの言う通り今回はかなり難しかったから…僕も低いし…」ずーん
「…」ずーん
「…」ずーん
「…」ずーん
「みんな!しっかりしてよ!」
スペシャルオレンジの答案用紙に書かれた点数は97点…選択問題を1つ間違えたのだ。それにより机へと突っ伏していた。キタサンブラックとシュヴァルグランも同じく突っ伏した。この状況はサトノクラウンが来るまで続いたのだ。
ーーー
暗い表情のまま、チーム部屋へと入ったスペシャルオレンジ…中には黒沼トレーナーだけがいた。
「お疲れ様ですトレーナー…すみません、英語ですけど…満点取れませんでした…これ、答案です。」
「…80以上は取れたようだな。」
「ですが…満点じゃないので補習が…」
「…ん?何を言っている?」
「中間テストと期末テストの合計が120点以上は取らないと夏休みに補習がある…だから満点取れって言ったのでしょ?」
「…確かに言ったのは事実だ。だが…点数ってのは定期試験だけで決まるものじゃねぇぞ。」
「はい?」
「俺もそこまで詳しい訳ではないが…お前、遅刻したり授業をサボったりはしてないだろ?」
「…1回、寮の門限を過ぎてしまったことがありますね。」
「それくらいなら問題ない。通知表を見れば分かる…不安なら俺にも見せてみろ。後は……翌週から合宿が始まる。準備をしておけ。」
黒沼トレーナーの発言にスペシャルオレンジは首をかしげた。
「…あれ?参加出来るのはクラシック級からじゃありませんでしたか?」
「他チームのウマ娘との合同トレーニングはな。チームトレーニングはまた別の話だ…そこら辺はブルボンにでも聞いてくれ。ついでにその答案も見せてやれ。」
「分かりました!」
その後、スペシャルオレンジはミホノブルボンにも英語の答案を見せ…頭を撫でられた。また、姉たちにも答案を見せると褒められた一方で何故呼ばれなかったとユーズトップガンがぶち切れた。
さらに数日後、スペシャルオレンジは渡された通知表を見てみると…英語の欄は評価は『3』であったため何とか補習は免れたのだ。そして…夏の合宿が始まる。
ストックはここまで。