フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

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断章:終極の聖女

 搾取され続ける人生だった。

 誰かから奪われ続ける人生だった。

 妹が生まれ、母の愛情を奪われ。

 弟が生まれ、父の愛情を奪われ。

 お気に入りのぬいぐるみを妹に奪われ。

 好きなゲーム機を弟に奪われ。

 見たかったアニメは見せて貰えなかった。

 学校で作る学級新聞も、褒められたのは遊んでた奴等。

 学園祭の飾り付け、いっぱい頑張ったのに、褒められたのは提案した奴等。

 押し付けられた野球部のマネージャー、必死に頑張ったのに最後には応援が足りない、声が小さいと怒鳴られて終わった。

 

 アニメが好きだったからそういう道に進みたかった。

 なのに親からは妹と弟が私立に通わせるから、と私にかける金はないと言われた。

 どうしてもと食い下がる私は足蹴にされて、さっさと働いて金を家に落とせと家から追い出された。

 悲しかった、辛かった、夢が断たれた事が酷く苦しかった。

 

 それでも……家を出たのは結果的に悪くはなかった。

 あまりお金はないけど、中古の安いパソコンを買って、アニメをいくらでも見られるサイトに登録して、仕事以外の時間は常にアニメを見て過ごした。

 小さな画面の中で、色とりどりの様々なキャラクター達が、画面いっぱいに暴れる姿は、心が踊った。

 色んなアニメを見た、かつて見たかったアニメを見た。

 新作の人気アニメを見た。

 評判の悪い、クソアニメと呼ばれるアニメを見た。

 ギャグアニメで笑って、バトルアニメで手に汗を握って、涙して、怒って、心から楽しんだ。

 

 仕事でも搾取されるのは変わらなかった。

 私の成果は先輩にも、後輩にも掠め取られ、いくら仕事を頑張っても誰も認めてくれなかった。

 もっと頑張れという言葉だけがかけられた。

 親からはもっと金を寄越せと言われて。

 会社からはもっと働けと言われて。

 それでも自由な時間だけは確保して、アニメだけは見続けた。

 それだけが、私の心の癒しだったから。

 それだけが、私の生きる意味だったから。

 それだけで、生きていけたから。

 

 きっと私にも悪かった事は沢山あった。

 要領が悪かったんだと思う。

 そして、私の周りの人間は、賢く、要領が良く、悪知恵が働いた。

 それを振り払えなかった私が悪かったんだ。

 だから、恨みはない。

 お父さんもお母さんも、お金が足りないのは本当だった。

 だから、仕方ない。

 私はお姉ちゃんなんだから、妹と弟の為に頑張るのは当然なんだ。

 ありがとうお姉ちゃんって、幼い弟妹達の笑顔が浮かぶ。

 だから、頑張った。

 頑張って、頑張って、頑張って。

 働いて、働いて、働いて。

 送金して、働いて、アニメ見て。

 働いて、アニメ見て、寝て、起きて、働いて。

 働いて働いて働いて働いて働いて働いて働いて働いて。

 

 お母さんからのメールが届く。

 

 働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け働け。

 

 お父さんから電話がくる。

 

 送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ送金しろ。

 

 そうして、頑張って、何連勤かわからないくらい、働いたある日。

 

 目を覚ました私の体は動かなかった。

 

 意識ははっきりしてるのに、体は震えるばかりで。

 四肢には力が入らなくて、ビクともしなかった。

 薄い布団の上で寝ながら、オススメアニメを連続再生してるパソコンから賑やかなBGMだけが流れてて。

 画面端に見える時刻は既に始業時刻を過ぎていて、ガラケーがけたたましく音を鳴らす。

 それでも私の体は動かなかった。

 声さえ出れば、アパートの薄い壁の向こうに届いたかもしれないけど、掠れて言葉にならなかった。

 どうにもならない、何も出来ない、諦観が私の心を染めた。

 

 ただ、アニメだけが流れる部屋で、私はどうしてこうなったのが、自分の人生を振り返っていた。

 妹が生まれるまでは、きっと幸せだった。

 両親の愛情を一身に受けて、幸せだった。

 

 それだけ。

 私にとって幸せな記憶はそれだけだった。

 

 友達は皆私を体よく利用するだけで、本当の友情なんて感じた事はなかった。

 先生は私が仕事を押し付けられてるのを見ないふりをした。

 同僚は私の成果をどう横取りするかしか考えてなかった。

 上司は私の事を何も見ないでストレス発散の為に怒鳴った。

 

 何にもない、私に残ったものはなんにもない。

 今も好きでもない仕事をただこなして、家族に金を送るだけの日々で……。

 

 ああ、でも、そうだ一つだけ。

 気の迷いで登録した出会い系サイト……一度だけ会った男の人……。

 結局親にバレて直ぐに退会させられたけど……。

 あの人もアニメ好きで、話してて凄く、楽しかった。

 あんな人と一緒になれたら、こんな事にならなかったのかな?

 こんな私でも幸せになれたのかな?

 

 目から雫が溢れた。

 このまま、私は死ぬのだと確信してしまった。

 絶望が私の心を支配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけ時間が経ったのかわからない。

 お腹が空いて、喉が渇いて、身体中が痒くて、痛かった。

 とても臭くて、何処から湧いたのか、羽虫が私に集っていた。

 携帯電話は充電が切れたのか、いつの間にか鳴る事はなくなっていた。

 それでもアニメだけは流れ続けていた。

 美味しそうなご飯を食べたり、のんびりと農業をしていたり、色んな、遠い世界のお話が流れ続けていた。

 異世界転生もの、最近の流行り……。

 

 転生、記憶を保持したまま異世界で、チート能力を得て無双して……。

 そんな贅沢な事は言わない。

 というか、こんな記憶もいらない。

 チート能力もいらない。

 ただただ、お腹いっぱいになって明日を迎えたい。

 明日のご飯に困らないでいたい。

 農業なんかしてのんびり過ごして、平穏に生きたい。

 農家、いいね、のんびり……いや、大変なのはわかるけど。

 ゆったりと、生きていきたい……。

 そんな妄想をしながら、少しずつ意識が薄れていく……。

 

ガチャ

 

ガチャガチャガチャン

 

キィイイイ

 

 朦朧とする意識の中、部屋の扉が開く音がした。

 

「うっ、臭っ!」

 

 そんな声が聞こえて、ドカドカと部屋に誰かが入ってくる音がした。

 

 その声に覚えがあって……私は視線だけをそちらに向けると……そこにはお母さんが顔をしかめて立っていた。

 口が、ふるふると震える。

 助かった、そう思った。

 助けてお母さんって、そう口にしようと思った。

 

「……なんだい、死んでるのかい」

 

 そう、呆れたように呟くお母さんに、私は愕然とした。

 でも、言葉は出なくて、体も動かなくて、私から視線をきるお母さんを止められなかった。

 

 生きてる、生きてるよ、助けて、助けてお母さん!

 

「連絡返さないからわざわざ来てやったってのに。

 ろくに金も寄越さないし、まったく親不孝な娘だよ!

 ったく……さて、金目のもんだけでも持っていくかね」

 

 そう言って、お母さんが最初に手を掛けたのは、未だにアニメを流すパソコンだった。

 

「ふん、アニメって奴かい。気持ち悪い。こんなの見てるからダメなんだよ」

 

 そして、パソコンに手を伸ばすお母さんに、私は、残った力を振り絞って言葉を、紡いだ。

 

「やめ…………て……」

 

 その言葉が、届いたのだろう、お母さんは驚いたように振り向いて、表情に恐怖を浮かべて。

 

「ひっ!バケモンっ!」

 

 その手はパソコンのモニターを掴み、そのまま持ち上げて。

 

 私の顔に、それは落ちてきた。

 

『葬送のフリーr』ブツッ

 

グチャ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふふ」

 

 褐色肌の、ドレスのような服をきた魔族、『終極の聖女トート』は唐突に小さく笑った。

 何かが起きた事を感じて、微睡みから目を覚ましていた。

 

「……誰かが起きたわね」

 

 一筋の光すらないその場所で、トートは謳うように呟く。

 

「ふふふふ……クヴァくんが目覚めたのね……。

 そして……アーちゃんとマハくんは……まだ無事……と。

 良かった。あの二人がこのまま生きてるなら……」

 

 笑う、嗤う。

 聖女はわらう。

 

「そろそろ、南の勇者との約束の時になるわね……。ふふ、待ち遠しいなぁ」

 

 うっとりと、頬に手を添えて、トートはわらう。

 ペロリ、赤い舌が唇を舐めた。

 

「アーちゃん、頑張ってね」

 

 そう呟いた彼女の瞳に、感情は何一つ浮かんでいなかった。

 トートはゆっくりとその瞳を閉じ、再度微睡みに身を任せる。

 いつか、自分の望んだ世界になる日を心待ちにして。

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