フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

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グラナト伯爵領

――勇者ヒンメルの死から、28年後……。

 

 『腐敗の賢老クヴァール』に逃げられ、苦い思いを抱きつつも、『魂の眠る地(オレオール)』を目的地として旅を続けていたフリーレンとフェルン。

 道中で前衛として、戦士アイゼンの弟子だというシュタルクという青年を仲間に加え、穏やかな旅を続けていた。

 ……とはいえこの先は北側諸国。

 魔族が多く潜む地であり、日夜魔族との戦いに明け暮れている者達もまた多い。

 そんなグラナト伯爵領へと、フリーレン一行は足を踏み入れた。

 

 かつての旅、その時の事を朧気に思いだしながら、フリーレンは街中を歩く。

 確かその時は、七崩賢の一人と戦って、周囲の被害を気にせず滅茶苦茶にしたから、後から怒られたっけ……。

 

 そんな懐かしい思い出に浸りながら、街を三人で見て回っていた時だった。

 

「お!このお野菜うちのお野菜じゃないですか?

 ほへー、ここにも出回ってるんで……えぇ?値段が……」

 

「?どしたの?」

 

「リーちゃん、これ見てください。

 これ、うちの野菜ですが、私達が受け取ってる金額の10倍くらいの値段です……」

 

「へぇ」

 

「…………!」

 

 八百屋の前で、二人の女が野菜を品定めしている、珍しくもない光景。

 ぼんやりとした態度で、野菜を見る日に焼けた小麦色の肌の女性と、それより頭一つ小さな少女。

 傍目には姉妹にでも見えそうな、何処にでもありそうな光景だった。

 

 だが、その頭には魔族の証である立派な角が生えていて、それを確認したフリーレンはカバンを側に落として足を止める。

 その手には杖が現れ、無言で視線の先の魔族へと向けた。

 

「フリーレン様、街中ですよ」

 

 それに気付いたフェルンが、自分の師匠の突然の奇行を、肩に手を乗せて咎めた。

 

「魔族だ」

 

「え」

 

 フリーレンのその言葉に、フェルンが杖を向けている先を見れば、そこには角の生えた女性が二人……。

 片方は完全に背中を向けて無警戒だ。

 だが、もう一人、背の低い方はチラリと此方を見返していた。

 気付いているような反応を見せる少女の魔族に、フリーレンは少しだけ警戒度を引き上げた。

 

「気付かれたか……構わない、さっさと処理を――」

 

 だが、今ならあの()()を纏めて処分出来る、と魔法を放とうとした時だ。

 

「レーベ、危ない」

 

「ほへ?」

 

 少女の魔族がそう声をかけ、その体をフリーレンのほうに向き直り、身構えた。

 そしてフリーレンは、その聞こえてきた言葉に体の動きを止めた。

 攻撃の予兆に気付かれたのは、問題ではない。

 その言葉に、その名前に聞き覚えがあったからだ。

 

 レーベ、そう呼ばれた女魔族は、気の抜けた言葉を発しながらゆっくりと振り返った。

 そして、その視線がフリーレンと交差する。

 きょとんとした顔で見返してくるその女魔族。

 傍目にはまるで無害そうに見えるが……。

 

「……レーベ……?確か、クヴァールが口にしていた……」

 

 フェルンが小さく呟いた。

 そう、その一点で、警戒度が跳ね上がる。

 フリーレンは、そんな危険かもしれない魔族が街中で平然と存在している事に少し思巡する。

 何故こんな所にいるのか、

 そして、即座に答えは出た。

 

「……関係ないか。やってしまおう」

 

 すなわち、そのまま魔法を放ち処理する。

 

 フリーレンの魔力が高まり、少女の魔族が体を強張らせ、女魔族は首を傾げた。

 

「やめろ!何をしている!」

 

 だがその瞬間、フリーレンの体を衝撃が襲った。

 

ドスンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーレンは鎧を着込んだ兵士に、うつ伏せに倒され、拘束されてしまっていた。

 街中で魔法を放とうとしたのだから当たり前ではある。

 だが、街中に魔族がいたのだから、フリーレンの対応もそこまで間違ってはいない。

 ただ一つ、前提が違っていた。

 

「……どういう事ですか、グラナト伯爵。貴方の差し金ですか?」

 

「リュグナー殿。

 儂は確かにお前達魔族を殺したい程に憎んでいる。

 だが、街中で堂々と和睦の使者を手に掛ける程、馬鹿ではないわ。

 大方、事情も知らぬ冒険者といったところだろう」

 

 二人の男魔族と、壮年の男、グラナト伯爵が兵士を連れて、その場にやってきていた。

 そうしてそのうちの二人の会話に、フェルンが小首を傾げる。

 

「和睦の使者……?」

 

 その魔族をグラナト伯爵自身が迎え入れた、和睦の使者だという。

 

 魔族と、和睦。

 なんと縁遠い言葉の組み合わせだろうか、とフリーレンは思った。

 

「レーベ、リーニエ。大丈夫だったか?」

 

「大丈夫です、何もされてません!」

 

「大丈夫……でも、あと少しそこの衛兵さん遅かったら、危なかったかも」

 

「そうか……そこの君、ありがとう。おかげで妻達には傷一つないようだ」

 

 男魔族は、フリーレンを押さえ込む衛兵に対してほんの少し顎を引いた。

 その衛兵はその不意の行動に狼狽えるも、即座に気を取り直し、小さく首を左右に振った。

 街中で狼藉を働こうとした愚か者を咎めただけ、当然の事だと。

 それを見て男魔族は表情を緩め、強く頷いた。

 

「良い部下をお持ちですね、グラナト伯爵。

 彼に免じて、今回の件は水に流す事にしましょう」

 

「感謝しよう」

 

 笑みを浮かべる男魔族にはまったく視線を向けず、グラナト伯爵は静かに返した。

 もう一人の、まだ少年と言える男魔族はその間に女魔族二人の方へと近付き、言葉を交わしているようだった。

 心配そうに顔を歪め、安心させるように笑顔を浮かべ……。

 

 まるで人間のように振る舞う様子に、フリーレンはただただ冷めた視線を送っていた。

 傍目には仲の良い……まるで家族のように見える、そんな魔族のじゃれあいを、芝居めいたやりとりだ、と内心で吐き捨てていた。

 

 そんなフリーレンの内心を知ってか知らずか、リュグナーと呼ばれた男魔族は、衛兵に押さえ込まれたままのフリーレンの元へと歩み寄る。

 リュグナーはそのまま、フリーレンの顔を覗き込むように片膝をついた。

 

「……冷たい目だ。我々魔族に恨みのあるここの住人でさえ、そこまで冷たい目はしていない。

 まるで、猛獣でも見ているような目だ」

 

「実際にそうでしょ?お前達魔族は家族なんて繋がりすら作らない。

 人の言葉を真似するだけの、言葉の通じない猛獣だ」

 

 そのフリーレンの言葉に、リュグナーは二の句が繋げられず、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 それを見て話が終わったと判断したグラナト伯爵は、フリーレンを押さえる衛兵に対して口を開いた。

 

「屋敷の地下牢に入れておけ」

 

「はっ」

 

 衛兵はフリーレンをひょいと小脇に抱え、そのまま動き始めた。

 

「あっ、おい」

 

 シュタルクが思わず声を上げ、手を伸ばすも、フリーレンを抱えた衛兵はそのまま小走りで走り去ってしまった。

 

「……行っちゃった」

 

 情けない声をあげるシュタルクは、助けを求めるようにフェルンへと視線を向ける。

 だが、フェルンもそれに答える事は出来ず、眉をハの字にして首を振るのだった。

 

「……どーすんだよ」

 

 シュタルクの途方にくれた声が、小さく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……」

 

「?どうした?頭を抱えて」

 

「あ、ドラくん。えっとですね、なんかさっきのやり取り、

 何処かで見たような覚えがあるんですよ……。

 なんだったかなぁ、何処だったかなぁ、って思って」

 

「アウラ様より長く生きてるんだ。

 似たような事なんて、いくらあっても不思議じゃないだろ」

 

「そーいうもんですかねぇ……うーん」

 

「そんな事より、絶対に個人で動くんじゃないぞ?

 街中で和睦の使者を襲うような野蛮な輩なぞ早々いないと思いたかったが……現にいたんだ。

 お前を失うなんて事は、あってはならないからな」

 

「はぁい。ショッピングとか、品揃えの確認とかしたかったけど、仕方ないですねぇ……。

 まぁ、パッと見た感じ、うちの野菜より品質の良い作物なんて無さそうでしたけどね」

 

「……いや、それでも参考になる事はあるかもしれない。

 後で時間が出来たら確認してこよう」

 

「そうですねぇ。あ、でもうちの野菜もありましたよ。

 私達が受け取ってる金額の10倍くらいの値がついてましたが……」

 

「それだけ美味しいと評価されてるという事だろう。

 人間達の評価がどれだけ正しいのかは知らんが。

 ただ、俺もレーベの野菜が食えるなら10倍くらいの金は出すと思うぞ」

 

「私も」

 

「そう言って貰えると嬉しいですけど、皆がしっかり手伝ってくれるからですよぉ。

 今までは100年単位でしか改良出来ませんでしたが、今は十数年で格段に美味しくなりましたもの!

 帰ったら、また新しく品種改良に取り組みますよぉ!」

 

「ああ、俺も力になるぞ。任せてくれ」

 

「私も!」

 

「ふふふ、心強いですねぇ……」

 

「その為には……まずはこの交渉を必ず成功させないと、な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はて、何か忘れているような……。

 それと……なんでしょうか、この胸騒ぎは……」

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