フリ魔転生!~穏やかに暮らしたい~   作:如月SQ

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魔族という猛獣

「グラナト伯爵は我々に恨みがあるようだが、人情にお厚いお方のようだ……。

 上手く取り入れれば、和睦と称して防護結界を緩ませる事も可能な筈……。

 レーベのおかげで、彼の態度も軟化しているように見受けられる。

 結界の中に入り込む所まできたのだ、焦らず地道に行こう」

 

「えー……早く帰りたい。さっさとアウラ様に滅ぼして貰おうよ……」

 

「……作戦を聞いていなかったのか?」

 

 リーニエは不服そうに眉を歪め、その手に持つリンゴを齧った。

 

しゃりっ

 

 良い音をたてるが、そのリンゴは酸味も甘味も少ない。

 食感だけは及第点だが、農場で作っているジャム用のリンゴにすら劣る味だった。

 更に表情をしかめたリーニエは、テーブルにその齧ったリンゴを適当に放る。

 そうして、ソファーでゆったりと寛いでいる様子のレーベへと、その体を寄せた。

 

「レーベも早く帰りたいでしょ?」

 

「それはそうですが……お仕事ですからねぇ。

 アーちゃんに怒られるのは、嫌でしょう?」

 

「むう、リュグナー様もアウラ様も怒ると怖い……」

 

「ね?もう少し我慢しましょ」

 

 よしよし、とリーニエの頭を優しく撫でるレーベは、微笑みを浮かべていた。

 そんな様子をリュグナーは苦笑を浮かべて見ていて……少し遅れてもう一人、ドラートの姿がない事に気付いた。

 

「ところで、ドラートの姿が見えないようだが……」

 

「ん……邪魔者を消しに行くってさ」

 

「先走ったな……若い奴は血の気が多くて困る。

 気持ちはわからないでもないが……狙いはあの少女か?

 庇うにしても限界がある。下手な事をしていないと――」

 

 顎に手を当て、思案を始めるリュグナーだったが、それは中断される事となる。

 

「あっ、ああああああああああああ!」

 

 目を見開いたレーベが、突然叫びだしたのだ。

 口元を押さえる手は酷く震え、その瞳からはポロポロと涙を溢す。

 その突然の変化にリュグナーは思わず立ち上がり、レーベの元へと駆け寄る。

 

「なっ……突然どうした?何が起きた?」

 

 レーベはリュグナーの問いに答えず、ただ震えて息を荒げるだけ……。

 その問いに答えたのは、すぐ側にいたリーニエだった。

 震えるレーベの肩に手を置きながら、一度視線を床に反らし、リュグナーを見つめて口を開いた。

 

「リュグナー様……ドラートの魔力が、途切れた……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……ドラート殿は……!」

 

 塵となった魔族と、白い煙と化した魔族……それを顔を歪めて見つめていたフリーレン。

 そこにガチャガチャと音を立て、鎧姿の兵士が現れて驚愕の声を漏らした。

 

「殺されそうになったから返り討ちににしたよ。

 ……和睦の使者が聞いて呆れるね、魔族なんて信じるからだよ。

 解放しろとは言わないけど、囚われた状態で襲われたんだから、少しは配慮して欲しいな」

 

「…………私からは、何も言えません。伯爵の判断を仰ぎます。

 貴女はまた、牢屋の中で大人しくしてて下さい」

 

 その兵士の言葉に、フリーレンは肩を竦め、息を吐いた。

 

「仕方ないね……また大人しくしてるから、どうせなら伯爵とも一度話を……」

 

 そこでフリーレンは、ピクリと肩を揺すり、言葉を止めた。

 何かを感じ取ったのか上を見上げ、その目を鋭くさせた。

 

「……?どうかしましたか?」

 

「悪いけど、用事が出来た」

 

 兵士の問い掛けにフリーレンはそう答え、身を翻した。

 するりと兵士の横を抜け、地下牢の扉へと駆けていった。

 

「あっ!止まれ!」

 

「明日には必ず戻るよ。伯爵によろしく」

 

 フリーレンはそう言い捨て、そのまま地下牢を抜け出してしまった。

 兵士は手を伸ばすも……止める事は出来ないと本能で感じてしまい、それを追う事は出来なかった。

 その手を下げ、力なく息を吐いた。

 仕方ない、と兵士は即座に切り替え、まずは伯爵に報告するべきだと地下牢を出る事にした。

 

ピシッ

 

「……?」

 

 その時、地下牢の中で、何かが軋むような音が鳴った。

 咄嗟に振り返るも何もなく、動くものもない。

 暫し辺りを見渡しても変化はなかった為に、木軋んだだけだろうと思い直し、踵を返し、そのまま地下牢から出ていった。

 その足元に、ドラートだった塵がふわりと舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼する。リュグナー殿、急ぎ耳に入れたい事が出来た」

 

「……どうしました?」

 

「牢屋番から、ドラート殿が無理に地下牢へ押し入り、捕らえていた魔法使いを襲い……返り討ちにあった、と……。

 その魔法使いはそのまま脱獄……今は所在不明だ」

 

「……それは……部下が勝手な真似をして申し訳ありません。

 ですが、脱獄、ですか。穏やかではありませんね。

 そうだ、リーニエをお使い下さい、この子は魔力探知が得意で……」

 

「不要だ。今、そちらの力を借りる訳にはいかない。

 ……あの魔法使いは確かに我々の法でも、咎められる者だ。

 それに貴方方は命を狙われた立場だ、地下牢に閉じ込めるだけでは不満に思うのも理解出来る。

 だが、儂の許可なく屋敷で狼藉を働こうとした事を、見逃す事は出来ん」

 

「では、どうすると」

 

「聞くが、リュグナー殿は彼の行動を知らなかったのか?」

 

「ええ……初耳です」

 

「そうか、だが部下の行動の責任はとって貰う。

 今回の和睦の話は、白紙に戻す。今すぐ出ていけとは言わんがな」

 

「それは……あまりにも一方的ではありませんか?

 私達にだけ痛みを強いておいて帰れと?私は妻を殺されかけた挙げ句、部下を喪ったのですよ?」

 

「悪いがこれは決定だ。和睦の使者の一人が結果はどうあれ、儂の屋敷で人を殺そうとした事は事実。

 その時点で和睦交渉という前提は破綻している」

 

「…………」

 

「明日にはこの街からも出ていってくれ。

 それまでは滞在を許そう。何かあれば使用人に――」

 

「はぁ……もういい」

 

「……何?」

 

「まだるっこしい真似は止めだ。力付くでいく」

 

ガリッ

 

「ふん……本性を表しおったか、獣め」

 

「獣、そうだな。所詮我らはあの少女の言う通り……言葉を真似るだけの猛獣。

 だが……飼い慣らされた獣とて、同胞を無為に殺されれば牙を剥く。猛獣なら、尚更だ」

 

「息子の無念、ここで晴らさせて貰おうか」

 

ガキンッ

 

「……まったく、こんな暴力に頼るクソッタレな事態にならぬよう立ち回っていたというのに……。

 にも関わらず、この現状を、私は堪らなく楽しいと思っている。魔族の本質が獣なのだと改めて感じるよ」

 

キンッ

 

「くっ……!」

 

「安心するといい。殺しはしない。

 お前には、街の防護結界の解除を手伝って貰おう」

 

ドッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に脱獄を果たしたフリーレンは、街中で仲間のフェルンとシュタルクと合流していた。

 そして事情を話し終えたフリーレンは、ややこしい事になるかもしれないから、そのまま街を出ると言い放ったのだった。

 魔族の謀を放置してはおけないと、事前にフェルンとシュタルクは話し合い、そう結論付けていた。

 その為にどうにか、フリーレンという最大戦力を解放して貰おうと考えていたのだか、その本人がやる気がないようだった。

 それにはフェルンも苦言を呈し、シュタルクも情けない声をあげながら頭を下げたが、フリーレンの意見は変わる事はなかった。

 

 結局二人は、グラナト伯爵の屋敷へと向かう事にする。

 フリーレンには頼れない……そんな状態で強大な魔族と戦う事なるかもしれない。

 それでも二人は覚悟を決め、グラナト伯爵の屋敷に足を踏み入れたのだった。

 一応の策を用意して。

 

 一方でフリーレンも、ただ街から出た訳ではない。

 街から離れた場所ではあるが、凄まじい魔力を感知していた。

 その対処は自分しか出来ないと、フリーレンは判断した。

 故に、街にいる魔族の対処は、二人に任せたのだ。

 街から出るフリーレンの目には、二人への信頼が宿っていた。

 

 ただ、懸念すべき事がある。

 魔力の感じなかった、あのレーベという魔族。

 地下牢で倒したのは白い煙となって消えた。

 あれは、クヴァールが消えた時と似たような現象だった。

 まず間違いなく倒せてはいない。

 

 魔力は感じず、態度はまるで人間のようで危険度は低く見える。

 だがその一方でその名はまったく知られておらず、その魔法は分身だと見抜けない程に精巧で、クヴァールが忠告する存在……。

 そのチグハグさが、危険だと感じていた。

 

 フリーレンは二人を、まだまだ魔族との戦いに馴れていない二人を思う。

 どうか、惑わされず、事を終えるようにと願った。

 外の事は、必ず私が終わらせてみせる。

 そう胸に刻み込み、街の郊外へと向かう。

 その先にいるだろう、敵の首魁を討ち滅ぼす為に。

 

「任せたよ、二人とも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街の外れの森の中。

 その木々の上、太い枝に座り、グラナト伯爵領で起きるだろう出来事を観測する存在がいた。

 漆黒の外套を身に纏う、小柄な姿、傍目には子供にも見える、そんな存在だった。

 その身には強大な魔力が秘められているにも関わらず、魔力探知に優れたリーニエにもフリーレンにもまったく気取られる事はなく、そこで静かに佇んでいた。

 

「……やっぱ、運命ってのは簡単には変わんねぇもんだな」

 

 その声色は幼く、声変わりすらしていない少年のようだった。

 

「にしても、折角忠告してやったのにフリーレンの奴……なんも気にしねーでやんの」

 

 その少年は白い髪に山羊のような角を生やし、ギザギザの歯でニヤリと笑った。

 

「さて……あいつはどう動くか。

 もうここから始まっちまうのか?ここが、分水嶺だな」

 

 静かに呟き、少年は手を頭の後ろで組み、木に身を任せた。

 

「お前はどう思うソリテール嬢ちゃん」

 

「わからないわ。

 貴方がわからないものを、私がわかる訳ない。

 そうでしょう?クヴァール師匠」

 

 その言葉に少年は……クヴァールは、より笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わざわざ人間の少年の姿をしてるのもわからないわ」

 

「……ほっとけ。レーベがこの姿好きだったんだよ」




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